ブロックチェーンのコンソーシアム運営で大切なことと、金融サービスの再構築

こんにちは。ストラテジーグループの川浪(@KawanamiSo)です。

今回はJPX(日本取引所グループ)の実証実験環境で我々が行ってきたDLT約定照合プロジェクトについて書かせていただきたいと思います。

我々が得た経験が社会のお役に立てばと思い、コンソーシアム運営で大切なことと我々のビジョンについて書かせていただきます。

関連記事はこちら
現在、毎日のようにニュースで取りざたされている仮想通貨リブラ。発行においてはマネロンなどの懸念材料があり、多くの仮想通貨も同様にその対策が急務とされています。前回のコラムではその規制基準となるKYCと反チェックの違いについて取り上げました。今後の仮想通貨業界の進展にとって必要不可欠な要素となりますので、ぜひ読んでいただきたいコラムです。 KYCと反社チェックって別物?マネロン対策における位置づけについて

やってきたこと

プロジェクトの中身をざっくり言うと、機関投資家(ヘッジファンドとか○○投信とか)向けの取引後の照合作業をDLTを使って上手いこと省力化しよう、ついでにスタンダード規格も作ろうというものです。詳しくはワーキングペーパー(フェーズ1フェーズ2)をご覧ください。

この約定照合プロジェクトのスタートは2年以上前、私が大和証券のトレーディングフロアに籍を置いていた2017年9月までさかのぼります。

ありがたいことにPhase1では証券会社を中心に20社、Phase2では証券会社、運用会社、信託銀行、サービスプロバイダー(ITサービス提供会社)の30社(大和証券グループ含む)に参加いただきました。2週間に一度のペースで会議・討論を毎回40人以上の参加者で行ってきました。本来、競争相手である業界関係者を集めて、1.5時間、4グループくらいに分けて討論。結論ありきでなぁなぁに話すわけではありません。実務担当者を集めて、各社の事情をヒアリングし、課題を明らかにするところからスタートです。

コンソーシアム運営で大切なこと

ここからは我々大和証券グループプロジェクトチームが気を付けたこと、経験して学んだことを紹介します。あくまでも自分たちはこうしたという話ですが、今後コンソーシアム運営に携わる方々にとって少しでも学びがあると幸いです。

■コンソーシアム運営のポイント
  • 実務的で具体的で実現可能そうなイメージを持たせる
  • 実現に対して悲観的な人にも根気よく、できる道筋を説明する
  • 全体の雰囲気を明るくする
  • 共感してくれる味方を見つける(どんな状況でも必ずいます)
  • プロジェクトの道筋・資料準備は入念に
  • 運営チームにはダイバーシティが大切
  • 最大のポイントは『実務的で具体的で実現可能そうなイメージを持たせる』ことです。 ブロックチェーン・DLT技術を使って既存金融システムをより効率的にするというビジョンは一般的なものだと思います。そして、その抽象的なイメージを業界に押し付ける類のものが多いです。しかし、そこには金融というライセンスに縛られたサービスならではの、多くの法規制と業界慣習があるので、実際に業務を担当している人たちが”いいな!できるかも!”と思えるものは極々一部です。そして、金融業界の人は実利主義なので、実現できそうもないものには見向きもしてくれません。ですので、実務的で、具体的なリターンが想像しやすいものを題目として選ぶことが非常に大切だと思います。

    約定照合というニッチなところを選んだのは、私が業務経験から

  • 法規制がない
  • システム的なコストと人的コストが高い
  • 各証券会社が同じ課題を持つ
  • ということが推測できたからです。現行の約定照合業務は、単価・売買代金や手数料などの計算方式、通知方式、各種コードなどの規格が統一されていません。A投信だと約定単価の小数点以下第5位以下は切り捨て、Bアセットマネジメントだと小数点以下第5位は四捨五入とか色んなことがあります。こういうことが溜まりに溜まって高コストなのです。

    良い題目をうまく選択できたからと言って、もちろんそれで万事解決ではありません。既存で動いているシステムをDLTで置き換えしようという試みなので、システムのスイッチングコストやら特殊な個別の仕様やら、ケアしなければいけないポイントは多々あります。そして、参加者の知識レベル・モチベーションにも差があります。ブロックチェーン・DLTに批判的な人ももちろんいます。実現に対して悲観的な人にも根気よく、できる道筋を説明する必要があります。コンソーシアムなので運営側だけが納得しててはダメなのです。ここは一つの会社を運営することと大きく異なるので注意が必要な点です。また、全体の雰囲気を明るくすることに対しても最大限配慮したつもりです。チームメンバーが前向きであれば、批判的な意見も大事な議論の肥やしになります。また、最初から全面的に支援してくれる人はいないと思いますが、なんやかんや明るくやっていると、共感してくれる味方が現れます。絶対に大切にしなければいけない味方なので、そういう人とは沢山コミニケーションを取りましょう!こういう人は今後の方向性に対してヒントを沢山くれます。

    Phase1・2とも結論に成功したと思っていますが、毎回中盤で方向性が見えない時期がでます。その時には我々大和証券グループチームの中からも弱気なコメントがでます(プロジェクト発案者としては本当心苦しい…)。こういう時に大切なのはカラ元気(笑)準備です。ディスカッションベースの運営をしていくと、プロジェクトが全体像を忘れ、同じ議論を繰り返すことがあります。これは貴重な時間とエネルギーを浪費することになり、引いてはプロジェクトの停滞を招きます。これを回避するためには大まかなスケジュールを切る、そしてそれに向けて一つ一つコンセンサスを積み上げることが大切になってきます。そのための説明資料の準備も当然必要です。泥臭い準備作業・まとめ作業をやってくれる人たちがチームにいてくれないと進まなかったと思います。

    幸いにも大和総研の枝廣(経営コンサル)と弊社の相原が名ファシリテーターなので、なんとか会議を回し、全体コンセンサスを作れていたと思います。おそらく、単に金融知識・IT知識が豊富というだけでは難しかったでしょう。ちなみに大和証券グループ運営チームメンバーの中にもブロックチェーン・DLTに愛がないどころか、IT音痴っぽい人もいます!それでもそういう人は違うところに強みがあると何度か実感しました。コンソーシアム運営を行う上で、運営チームのダイバーシティはかなり重要です。

    私たちがDLT約定照合PJを通じて実現したい世界

    現状、コンソーシアム運営を通じて我々に儲けがあったりはしません。さらに、新しい取り組みなので、当然厳しい意見も頂戴します。堅牢性・安定性が重要な金融分野において、保守的な意見というものは非常に大切ですし、それが主流です(愚痴を言っているわけではありません笑)。

    こんな感じで、外から見ると苦労を買って出ているようなものだと見られがちなのですが、我々はDLT約定照合プロジェクトを苦労だとは思っていません。それは実現したいビジョンがあるからです。

    先に書きますが、このビジョンというのは我々大和証券グループ担当チームのビジョンです。コンソーシアムに参加したみなさんにこれらを完全に浸透できているかというと、まだそこまでに至ることはできていません。

    ■やりたいこと・実現したいこと(最終的なゴール)

  • 非競争領域の拡大と共通化 by DLT
  • 金融サービスのモジュール化
  • コミュニティーによる金融サービスの再構築
  • 金融業の末端に籍を置かせてもらった者として、これまで業界の非効率性に対して少なからず疑問・不満を抱いてきました。端的に言うと、各社で重複して行っている作業が多すぎるのです。非効率性は当然、最終消費者に手数料という形で転嫁されています。現代金融サービスというものは究極的に言うと、データの保存・加工・連携に集約されます。そのうちの情報連携にかかる事務コストが高い。1社内のコストも高いし、複数社によるコストはさらに高い(例:銀行振り込みを他銀行にやると追加で手数料取られる)。現状はこの高コストな仕組みに自社で参加できる組織だけが、金融サービスを提供できるのです。

    我々はDLT基盤を適用することにより、情報連携の効率化によるコスト削減、適用範囲の拡大による更なる利便性の向上、さらには非競争領域の共通化による顧客サービスの向上・ダイバーシティの付与ができると考えています。そのロードマップをものすごく簡単に説明するとこのようなイメージです。

    ① 限られた分野でいいから、重複して行っているデータ加工・連携業務をDLTとスマートコントラクトで効率化する

    ② ①で作ったシステムに他のデータを足せるので適用範囲は拡大・参加者も拡大

    ③ ②を続けていくとデータの保存・連携の仕組みが一般的な社会インフラ(DLT基盤)となる(非競争領域の拡大と共通化

    ③を実現できると、”高コストな仕組みに自社で参加できる組織だけが、金融サービスを提供できる状態”から、”高コストな仕組みはDLTシステムに一任して、各社が付加価値の高い競争領域に経営資源を集中できる状態”になると考えています。つまり、従業員が何万人いる組織でなくても、創業間もないスタートアップでもこの金融エコシステムに参戦できる状態が、私たちがDLT約定照合プロジェクトを通じて実現したい社会です(=金融システムのオープン化)。

    少し進んで金融サービスのモジュール化とは

    ブロックチェーン業界が昔から言っているところで、Interoperabilityということがあります。日本語でいうと相互運用ですね。

    この考え方を、現状の金融の世界(各社が1から10までやっていてそれぞれ小さなサイロに分割された世界)に持ち込むだけで大きな変化があると思います。それに加えて我々が考えていることはより洗練され、細分化しモジュール化した世界感です。

    この世界では、一つの最終的なサービスは、複数の組織が作った各モジュール化されたサービス群の集合体として提供されます。ブロックチェーン・DLTだけでなく、API等も含めて高度に連携した世界こそが摩擦の少ない、効率的で格差の少ない、安定したサービスを作り上げていくと考えています。例として、適切かは疑問もありますが、InstaDappがMakerDAOやCompound等をまとめて使っています。オープンソースな世界から少し進んでオープンモジュールな世界であれば、それぞれが社会的な資源を無駄遣いすることなく、有効に使え、柔軟なサービスが産まれる、さらに新しい信用創造となることは至極当然だと思います。

    非競争領域の拡大と金融サービスのモジュール化で何が起こるかイメージしにくい方は、アップルがアプリダウンロード機能(サービスの配信を非競争領域化(ここに関しては議論の余地あるとおもいますが))というものを世に出してから、ユーザーがどれだけ新しいサービス(アプリ)を活用できたかをイメージするといいかもしれません。これまで考えられなかったサービスがグローバルに展開され、社会がより良くなると想像しています。

    コミュニティーによる金融サービスの再構築

    ここまで書いてきた、非競争領域の拡大、そして金融サービスのモジュール化にどうしても必要な土台になると考えていることがコミュニティーです。

    JPXのDLT実証実験環境が設立されるに当たって、JPXの担当の方が話していたことで素晴らしい言葉がありました。

    ”みんなが全体のことを考えると世界は変わる”

    本当にこの通りだと思います。そして社会全体のことを考え、私利私欲を追求しない、むしろ全体のことを考えることで自らの最大の利益につながるポイントを見つける場がコミュニティーというものなのだと思います。

    DLT約定照合プロジェクトは証券会社・運用会社だけでなく、サービスプロバイダー、情報プロバイダー、信託銀行、公的機関も参加してもらい運営してきました。多種多様な参加機関がそれぞれの立場を考えて、全体のことを考える。一足飛びには進みませんが、参加していただいた皆さんにはその可能性を感じてもらえていると思います。

    これまでは、会議室や枠組みの制限もあり、参加していただいた企業は金融中心でしたが、コミュニティーは金融業者だけが集ってクローズドな状況で運営されるべきものではありません。続けるにあたって、より多くの方に参加してもらいたいと考えています。

    最後に

    このプロジェクトを続けるにあたって様々な説明を社内外に対して行っています。金融機関からの反応の典型のひとつは”上手くいってみんな使うなら参加します”というものです。金融業界の基本は勝ち馬に乗るっていう考え方なので、普通の反応はそんなものです(笑)。自らが望む目的地へと進みたいみなさんは、いちいち気にしないほうがいいでしょう。

    我々は、社会をより良くしたい馬の一頭(笑)としてこれからも頑張りたいと思います。応援してくれている皆さん、今後とも頑張りましょう!

    (以下、つぶやき)

    足掛け約3年にわたる当プロジェクト(現在も進行中)ですが、実は内部検討も含めると2016年の10月からやってます。

    結局まだPOCレベルでしょって言われるかもしれませんが、プロダクションまであと一歩まできてると思います。近々いい発表できたらいいんですけど。。。

    Fintertechの取り組み
    当社の取り組み、得意とする分野の情報を随時公式ブログで発信しています。他の記事を読まれたい方は以下のリンクからご覧ください。 Fintertech公式ブログ
    お問い合わせ 広告掲載はこちら