中国で増えるブロックチェーン活用事例まとめ

目次
  1. はじめに
  2. 中国のブロックチェーン概況
  3. 2.1ブロックチェーンが国家戦略技術として位置づけられる

    2.2中央銀行デジタル通貨

  4. ユースケース・プロジェクト紹介
  5. 3.1WeBank

    3.2中国建設銀行(CCB:China Construction Bank)

    3.3Ant Financial(Alibabaグループ)

      3.3.1サプライチェーンファイナンス

      3.3.2オンライン互助サービス

  6. まとめ:ブロックチェーンは協業を促進するテクノロジーであり、中国の事例は要注目

はじめに

中国におけるパーミッション型ブロックチェーンの活用事例が急速に増えています。既に実用化されている事例も多く、中国政府もブロックチェーンを重要な技術として位置づけています。

エンタープライズ領域でのブロックチェーン活用は向こう数年、中国でより先進的な事例が登場する可能性が高く、同国でのユースケースは大いに参考になるでしょう。そこで本記事では、中国のブロックチェーン事情をまとめていきます。

中国のブロックチェーン概況

まずは、中国のブロックチェーン事情について概観していきましょう。工業情報化省傘下のシンクタンクである「中国電子情報産業発展」(CCID)の調査によると、2019年12月時点で、中国国内には33,000社以上のブロックチェーン企業が存在するとされています。

参考:China Has Over 33,000 Blockchain-Related Companies Registered

中国では規制当局によって、通貨としての暗号通貨の利用やICOが禁止されており、さらにブロックチェーン事業者は、政府に登録しなければなりません。事業者はユーザーの本名やアイデンティティの収集が義務付けられており、場合によっては当局への報告などを行う必要があるのです。

ブロックチェーンが国家戦略技術として位置づけられる

パブリックチェーンや暗号通貨には厳しい姿勢を見せる中国ですが、ブロックチェーン(分散型台帳技術)の研究開発に対しては積極的な姿勢を見せています。

2016年に採択された「第13次5カ年計画」(対象期間:2016年〜2020年)で、既にブロックチェーンについて言及されており、2019年10月25日には習近平国家主席が、産業改革における重要技術として、ブロックチェーンの活用を積極的に推進する趣旨の発言をしています。

以前から中国ではブロックチェーンが活発に利用されていましたが、今後はさらにユースケースが増えていくでしょう。また、2020年1月1日からは「暗号法」が施行され、国内でブロックチェーンをはじめとした暗号技術に関する体系的な法規制が初めて整備されました。

参考:【全訳掲載】中国「暗号法」=習近平政権下で成立した全44条

中央銀行デジタル通貨

「中国人民銀行」は、2016年から中央銀行デジタル通貨の研究を進めています。デジタル人民元は「DCEP」(Digital Currency Electric Payments)と呼ばれており、DECPは現金流通を置き換えるものとして位置づけられる予定です。

参考:央行数字货币解析:一种币,两个库,三个中心

ユースケース・プロジェクト紹介

ここからは、中国企業の取り組みをいくつか紹介していきましょう。

WeBank

「WeBank」は、Tencentなどが共同設立した中国初の民営銀行&インターネットバンクです。HuaweiやTencent、YIBI Technologyなどと連携し、オープンソースのパーミッション型ブロックチェーンプラットフォーム「FISCO BCOS」を公開しています。

FISCO BCOSのユースケースとしては、異なる機関同士のリコンサイル(残高照合)やサプライチェーンファイナンス、司法サービスなどが挙げられます。改ざん耐性のあるデータを異なる機関で共有するというブロックチェーンの利点が、企業間のコラボレーションを促進していると言えるでしょう。

参考:FISCO BCOS- Featured Cases –

例えば、WeBankは2019年10月、複数社と協同で自動車のデータベースを構築すると発表しました。各自動車にIDを割り振ってブロックチェーン上で管理、自動車のデータ共有を合理化し、検証可能な監査証跡システムを構築することで、保険サービスなどへの応用が期待されています。

参考:Tencent’s WeBank to launch blockchain car database

また、FISCO BCOSの他にもWeBnakは、以下のようなブロックチェーンソリューションを提供しています。

  • WeIdentity:ブロックチェーンベースのID管理システム
  • WeBASE:ブロックチェーンとアプリケーションをつなぐミドルウェア。IDEや管理ツール、REST APIの直感的なWebインターフェイスを提供
  • WeEvent:ブロックチェーンベースの分散型のイベント駆動型アーキテクチャ
  • WeDPR:エンタープライズ向けのプライバシー保護ソリューション

いずれもモジュールとして提供されており、WeDPR以外はオープンソースです。

参考:WeBank

なお、WeBankは、Hyperledgerプロジェクトを主導する「Linux Foundation」に加入しています。

中国建設銀行(CCB:China Construction Bank)

「中国建設銀行」は中国最大の銀行であり、国有企業でもあります。同社は、貿易金融向けのブロックチェーンプラットフォーム「BCTrade2.0 Blockchain Trade Finance Platform」を開発・提供しており、2019年10月時点で50を超える支店と40以上の外部企業が参画しています。

国際ファクタリング(請求書の現金化)やフォーフェイティング(買戻請求権を放棄した信用状の現金化)などの取引が行われており、2018年4月にローンチされて以降、約510億ドル(3600億元)以上の金額が取引されています。

参考:建设银行发布“BCTrade2.0区块链贸易金融平台”China Construction Bank launches trade finance blockchain platform

Ant Financial(Alibabaグループ)

「Alibaba」のグループ企業であり、オンライン決済プラットフォーム「Alipay」や信用スコアリングシステム「芝麻信用」などを提供する「Ant Financial」もまた、ブロックチェーン事業を展開しています。

「Ant Blockchain BaaS」といったクラウドサービス(BaaS)やサプライチェーンファイナンス、(農産物や著作権、知財などといった商品の)デジタル資産形成ソリューションなど、エンタープライズ向けの製品を複数提供しています。

サプライチェーンファイナンス

Ant Financialの子会社「Ant Duo-Chain」は、主に大企業を顧客に持つ中小零細企業(SME)向けのファクタリングサービスを提供しています。従来の金融サービスでは資金調達までの時間が長く、SMEの15%しかサプライチェーンファイナンスを利用していませんでした。

しかし、ブロックチェーンによって、データの正しさを担保した上で、SME・大企業・金融機関の三者間で請求書データなどを迅速に共有できるようになり、資金調達にかかる時間が大幅に短縮可能です。Ant Financialによれば、ブロックチェーンによってSMEの85%がサプライチェーンファイナンスを利用するようになると見込んでいます。

参考:Ant Blockchain in Finance: Helping Small Businesses Obtain Funds through MicrofinanceAlipay’s parent applies blockchain to supply chain finance

オンライン互助サービス

Ant Financialの提供するオンライン互助サービス「相互保」でも、ブロックチェーンが活用されています。相互保は、がんや悪性腫瘍を含む100種類の重大疾病に対して、給付金が支払われるサービスです。

給付を受けるためには、必要な証拠書類をAlipayアプリを介して提出する必要があります。このとき、ブロックチェーンによるIDトラッキングが行われており、公証人役場と電子認証センターとも接続されているため、提出した書類は改ざん耐性と法的拘束力を持つことになります。したがって、不正を防止した上で完全オンラインの互助サービスを享受できるのです。

参考:How Ant Financial is disrupting insurance

その他にも、寄付の証明やECにおけるトレーサビリティ、国際送金システムなどにAnt Financialのブロックチェーンが活用されています。

参考:蚂蚁区块链 BaaS应用场景(ドキュメントより)

まとめ:ブロックチェーンは協業を促進するテクノロジーであり、中国の事例は要注目

本記事で紹介した事例はほんの一部であり、エンタープライズ領域でのブロックチェーンの活用は中国が世界トップレベルで進んでいます。ブロックチェーンは、異なる企業間のデータ共有に優れており、企業間のコラボレーションを促進させるのです。

より中央集権的な政治システムであることも相まって、コンソーシアムやアライアンスを組みながら、ブロックチェーンの普及は進んでいくでしょう。エンタープライズ領域での優れたブロックチェーンビジネスモデルは、中国から出てくるのかもしれません。

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