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Ledgertech -Corda事例紹介- ブロックチェーンをベースとした保険フレームワーク

今回の記事は、「SBI R3 Japan」が公開しているMediumから転載したものです。

より様々な内容の記事に興味のある方は、是非こちらにも訪れてみてください。

⇒ SBI R3 Japan公式 Medium

1. はじめに

本エントリーは保険金請求プロセスの効率化を目的としたLedgertechというフレームワークを紹介します。Cordaをベースに開発されており、保険業務の様々なアプリケーションをこのフレームワーク上に実装することが可能です。イスラエルのLedgertech社が開発しており、日本市場への展開も予定しています。直近では日本経済新聞と金融庁が2020年8月に開催したブロックチェーンイベントにCEOのEran氏が登壇しました。その様子は以下の動画からご覧頂けます(25:00~)。

CEOのEran氏とCTOのOmer氏はアプリケーションの視覚化ツールを手がけるEZSourceという会社を2003年に共同創業しており、2016年にIBMに売却した実績を持っております。

2. ブロックチェーン技術の活用

Ledgertechを使用することにより、保険金請求プロセスの簡素化及び自動化が実現します。それは事業者のコスト削減だけではなく、保険加入者の満足度の向上にも繋がります。Ledgertechの新規性はブロックチェーンを用いていることです。ブロックチェーンは組織間の情報共有を効率化します。ここの解説については以下の記事でまとめられております。

それでは具体的にどのような業務改善が図れるのでしょうか?Ledgertech社は主に3つのユースケースを提示しております。

  1. 医療保険の保険金自動請求
  2. 自動車保険の保険金自動請求
  3. パラメトリック保険

3. 医療保険の保険金自動請求

まず従来の保険金請求はどのような手続きでしょうか?最初に保険契約者は治療費を病院に支払う必要があります。その後、病院から入手した治療データを証拠として保険会社に提出します。保険会社は提出された治療データの確認を行い、保険金を保険契約者に支払います。

Ledgertechは病院と保険会社を接続することによって、このプロセスの効率化を図ります。従来の方法では保険契約者が病院と保険会社の間に立って治療データを連携する役割を担っておりますが、効率が悪いだけでなく顧客体験を著しく損ねます。さらに、保険契約者が治療データを改ざんして保険会社に対して架空請求を行うリスクもあります。

病院と保険会社が直接つながれば、治療データを病院から保険会社に直接提出することが可能になり、保険金を保険会社から病院に直接支払うことが可能になります。これによって、業務効率化、顧客満足度の向上、架空請求リスクの排除が実現します。

Photo by National Cancer Institute on Unsplash

4. 自動車保険の保険金自動請求

自動車保険は保険会社と病院だけでなく、警察署、運輸局、修理会社との情報連携が必要になります。従来の手続きでは保険契約者もしくは事故被害者が提出する情報に依存しておりましたが、Ledgertechで組織同士を接続することによって保険金の自動請求が実現します。

実はこのユースケースにおいてLedgertechは既に実績を有しております。インドにおける自動車保険の請求プロセスは、マニュアル作業(ペーパーワーク、電話、メール)が中心でしたが、Bharti AXA(BhartiとAXAの合弁会社)はLedgertechを導入したことによって、保険金請求にかかるコストを15–20%削減しました。現時点では保険契約者から保険会社への情報提出プロセスの電子化に留まっておりますが、月20,000件以上の請求処理の効率化に成功しました。段階的に機能拡張を進めていき、適用範囲を広げる計画となっております。

Bharti AXAへの導入例の詳しい内容はCordaを開発しているR3社が出しているユースケース資料(英語)が参考になります。

5. パラメトリック保険

パラメトリック保険は何かしらの条件を満たした際に保険金が自動的に保険会社から保険契約者に支払われるものです。第三者が公表するデータを参照する必要があるため、相性が良い技術としてブロックチェーンの適用が進んでおります。また、契約を自動的に実行する機能としてブロックチェーン上に実装されるスマートコントラクトが使用されます。スマートコントラクトとは、契約内容をプログラムで表現して、ある条件を満たした時に自動的に実行される機能を指します。

Ledgertech社では新型コロナ及び大規模災害などのシーンにおいて、このパラメトリック保険の実装を目指しております。サービスの流れを簡単に説明すると、まず保険契約者はスマホアプリ上で商品選択し、保険料を支払います。そして、保険金の入金先をあらかじめ登録しておきます。日本在住者が新型コロナの保険に加入した場合の例で説明すると、例えば政府が緊急事態宣言を発令した時に、保険金の支払いがスマートコントラクトによって自動的に実行されます。これにより、保険の加入から支払いまでをオンラインで行うことが可能になり、マニュアル作業を最小限に抑えた保険商品の提供が可能となります。

従来の保険商品では請求件数が急激に増加すると保険金の支払いが遅延する可能性が高まりますが、何かしらの条件を満たした際に保険金が自動的に支払われる仕組みであれば、そのリスクを排除することができます。また、当然ながら業務効率化にも繋がります。

6. その他のユースケースについて

冒頭で説明した通り、Ledgertechというフレームワーク上に様々なアプリケーションを実装することが可能です。保険業務に必要な要件がもともと備わっており、それをベースにユースケースを構築します。つまり、紹介した3つのユースケース以外にもニーズ次第でアプリケーションを開発することができます。Ledgertech社は優秀なメンバーで構成されているスタートアップ企業ですので、検討中のユースケースがありましたら、ぜひ相談してみてはいかがでしょうか?

7. 保険領域でCordaが選ばれる理由

既に保険領域でCordaは豊富な採用実績を有しております。グローバルでは再保険取引におけるデータ交換・書類事務の効率化を目的としたB3iと、米国保険業界全体の効率化を目的としたRiskStreamが有名です。

実は日本でもCordaを採用したプロジェクトが立ち上げまたは検討されております。例えば、Ledgertechの1つ目のユースケースに似ていますが、住友生命保険は給付金自動請求プロジェクトに取り組んでいます。日本経済新聞と金融庁が2020年8月に開催したブロックチェーンイベントでも紹介されております(13:57~)。

ではどうして保険領域ではCordaが選ばれるのでしょうか?それはCordaはプライバシーに強い基盤であると知られているからです。一般的なブロックチェーン基盤と異なり、Cordaは取引当事者間しか情報が共有されないという特徴を持っております。つまり、第三者に情報を覗かれる心配がありません。保険会社は個人情報を扱うため、そこの業務要件を満たす基盤がCordaというわけです。Cordaのプライバシー確保に関する説明は以下の記事でまとめられております。

8. 終わりに

本エントリーではLegertechを紹介しましたが、なぜ保険領域でブロックチェーンの適用が期待されているかお伝えできたかと思います。保険金請求には様々な関係者が登場するので、効率良く情報を連携する仕組みが期待されています。それは業務コストの低減を図れるだけでなく、顧客満足度の向上にも繋げることができます。また、ブロックチェーン上で実装されるスマートコントラクトの機能を活用すれば、パラメトリック保険のような新しい保険商品の開発も可能となります。そして、Cordaはプライバシーに強いので、個人情報を扱う保険業務において最も信頼されている基盤であることも示すことができたかと思います。

効率化は生産性を高めることにつながりますが、その意味でブロックチェーンは間違いなく付加価値を提供するものだと考えています。保険領域では既にニーズが明確なので取り組みやすいのではないでしょうか。


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(記事作成:SBI R3 Japan/Takeshi Yagishita )

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