本レポートは、2022 年 7 月から 2023 年 6 月までの一年間における NFT 業界の動向を振り返り、NFT 業界の最新動向とカオスマップを概観する。
1. 一年間のハイライト
◼ マーケット動向
暗号資産市況が冷え込んでいたのと同様、NFT 業界も厳しい市況の一年間であった。
NFT 月間取引高は、2022 年 7 月の 20 億ドル弱から一度は 25 億ドル超まで回復したものの、2023年 6 月には再び 10 億ドル付近まで落ち込んだ。ピーク時の 2022 年 1 月の 150 億ドル超から、15分の 1 まで落ち込んだことになる。
NFT 市況の「落ち込み」を象徴するデータを、主要 NFT プロジェクトの「最低取引価格」から見てみよう。「最低取引価格」とは、「NFT プロジェクト」を構成する個々の「NFT」の取引価格のうち「最低価格」での取引された金額を指す。
「NFT プロジェクト」は、複数の NFT が一つシリーズとして発行されることが多いが、「NFT プロジェクト」価値指標や業界の傾向として、この「最低取引価格」が用いられる。最も注目を浴びている NFT シリーズのひとつである Bored Ape Yacht Club(BAYC)は、最低取引価格が 22 年 7 月初頭に約 86 ETH(約 9 万 2 千ドル)ほどだったのに対し、23 年 6 月末には 34 ETH ほど(約 6 万 4 千ドル)まで低下しているのである。
◼ インフラ整備動向
NFT を発行/管理/取引する「インフラ」で注目を浴びたもののひとつとして、Bitcoin 上でのOrdinals がある。Ordinals は、Bitcoin オンチェーンで記録される「NFT」である。
22 年 1 月にローンチされ、一ヶ月後には Yuga Labs 社も利用している。Ordinals は、Ethereum の NFT とは仕組みが異なっており、Bitcoin の最小単位である 1satoshi に NFT 情報を刻印し、1satoshi を NFTと見立てて取引する。
そのため、厳密に「NFT」と呼ぶべきか業界内では議論はあるが、「NFT」として価値が認められ取引されているので「NFT」と捉えてもよいだろう。暗号資産流通量 1 位のBitcoin 上で NFT が発行されたことから、一時爆発的に取引高が増え手数料が高騰するなど話題となった。
なお、Yuga Labs 社は、「最古」の NFT シリーズ「Cryptopunks」を、Ordinals で発行し「Ordinal Punks」を 23 年 2 月にローンチした。 Cryptopunks の 192×192 ピクセル画像がBitcoin ブロックチェーン上に「NFT」として記録され取引されている。
同社は「TwelveFold」と呼ばれる別の Ordinals も 2023 年 3 月に公開し、そのオークションでは 1,650 万ドル相当の収益を上げている。
NFT 取引の大半を占める Ethereum においては、NFT 規格である ERC-721 や ERC-1155 を拡張する規格がいくつか標準化され、ユースケースが拡充された。ERC-4337 においては、秘密鍵を紛失した際の回復手段が用意され、自動取引機能などが提供されている。
ERC-6561 においては、既存 NFT 自体が Ethereum アカウントに連携し挙動する「Token-bound Accounts(TBA)」が提供された。NFT 自体が、スマートコントラクト実行する対象元/対象先となることができる。
ERC4907 は NFT のレンタルに対応する規格であり、レンタルの有効期限を設定することができる。NFTレンタルマーケットプレイスの DoubleProtocol が提案と開発を行った。
ERC721C/ERC1155C のマイナーチェンジも話題となった。すなわち、NFT 取引におけるロイヤリティの支払いをトークン規格のレベルで強制することができるようになったのだ。
本機能は、「DigiDaigaku」などを製作する Limit Break が 23 年 5 月に実装した。
◼ 業界トレンド
「NFT プロジェクトの利用目的」「NFT プロジェクトの進め方」「作成ツールの充実」「ロイヤリティ論争」「NFT-Fi の発展」の観点で紹介する。
<NFT プロジェクトの利用目的>
いわゆる「NFT 業界」外からの、著名ブランドの NFT 利用が進んでいる。 Porsche 911 や Gucci等の高級ブランドが NFT を発行し、高値が付いた。
ブランドのマーケティング材料として NFT が活用されているのだ。Nike や Starbucks も参入している。
国内では、カルビーのポテトチップスにおまけとして「NFT チップス」を配信するキャンペーンが 23 年 4 月に展開された。
日本特有の NFT 活用事例として、地方創生への活用が注目される。 コミュニティ育成の他、ふるさと納税の返礼品やクラウドファンディングの道具としても、NFT が活用されているのだ。
<NFT プロジェクトの進め方>
フリーミントが流行した。 フリーミントとは、NFT を少額の手数料のみで発行/入手する手法を指す。
すなわち、プロジェクトは「ほぼ無料」で NFT を配布するのである。特徴的な成功事例を紹介する。
goblintown.wtf は、計画/マーケティングさらにはコミュニティスペースさえも一切無いままに、フリーミントからプロジェクトを始動させた。ほとんどの一般的な NFT プロジェクトは計画/マーケティングを行い NFT 価値や取引を活性化させるのだが、本プロジェクトは「一般的な」プロジェクトの進め方から逸脱したフリーミントでの「奇抜な」な「バラマキ」からスタートした。
その「奇抜さ」が話題を呼び、大成功をおさめた。なんとフリーミントされた NFT10,000 点は、2ETH の最低取引価格を記録したのである。
この成功から、フリーミントの NFT プロジェクトは続出した。新たなプロジェクトの進め方として、フリーミントが定着したといえるだろう。
失敗事例も多々あった。著名 NFT プロジェクトのひとつである Azuki は、6 月にリリースした「Azuki Elements」が「炎上」した。その見た目が従来のものと大差なく、コミュニティを失望させたのである。
Azuki エコシステム全体にまで影響し、最低取引価格が急落した。
NFT プロジェクトの進め方のベストプラクティスは、確立しておらず、この一年間でも様々な模索が続いている。
<作成ツールの充実>
NFT 作成ツールは、プログラミング知識がなくても作成できる「ノーコード」が多く登場した。また、ウォレット、秘密鍵など、初見者にとって不慣れな NFT 特有の要素をできるだけ排除した取り組みやサービスもいくつか見られた。
NFT マスアダプションに向けた取り組みが進んでいるといえよう。
<ロイヤリティ論争>
NFT マーケットプレイスとして参入した Blur は、一時的ながら NFT ロイヤリティの支払いを任意(無料にもできる)とする手段を提供した。 ロイヤリティは、NFT が取引される度にクリエイターへ支払われるもので、NFT の長所の一つとして説明されることが多い。
Blur の手段は、論争を呼んだ。特に業界最大手でロイヤリティを重視する OpenSea との間で、お互いのマーケットプレイスにおける取引をブロックするように NFT クリエイターに促す等、激しい応酬が繰り広げられた。
その結果、2023 年 2 月から 6 月の業界全体のロイヤリティは低下し続けた。あまりの応酬の激しさから、OpenSea のロイヤリティが Blur におけるロイヤリティを下回ることすらあった。
<NFT-Fi>
暗号資産と比べ、NFT は流動性が低い。NFT Fi により NFT の分割所有が実現され、レンディング(貸借)、後払い、そしてデリバティブといった NFT の流動化/金融商品化が進んだ。
2. カオスマップ説明
◼ 昨年版からの変更点
昨年版に対し、分類と掲載プロジェクトを更新した。
分類について説明する。
NFT 自体を支えるものを「インフラ」とし、「ブロックチェーン」と「ツール」を含めた。また、NFT についての情報提供/分析するプロジェクトなどを「データ」として含めた。
NFT の「流通」においては、マーケットプレイスが大きな役割を持つ。「一般型」と「特化型」、そして「集約型(まとめ買い)」に分類した。
そして、NFT の流動性を高める「NFT-Fi」がある。
NFT の「発行」としては、様々なユースケースを中心に整理した。
国内外で話題となったものを中心に、プロジェクトを掲載している。
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