機械が働く時代、機械は誰のルールに従うのか
筆者:Hashed CEO Simon Kim
本稿は、Eastpoint SEOUL 2026で行われた基調講演を再構成したものです。
夜明けは誰にでも同じ時刻に訪れるが、それを目にできるのは目覚めているごく一部の人だけだ。機械が仕事をする時代に、最初に動き出すのは誰だろうか。
現在、デジタル資産業界を特徴づけるテーマは5つある。機関投資、ステーブルコイン、資本市場のオンチェーン移行、AIエージェント、そして日常生活におけるブロックチェーンである。これらは通常、5つの別々のテーマとして語られる。しかし私は、これらが1つの物語を語っていると考えている。
1890年代、ハーバード天文台には「computer(計算手)」という職名の人々が雇われていた。彼らの仕事は、一日中計算を行うことだった。
2026年の今日、人間の専門家が17時間かけて行うタスクを、機械が単独で、およそ2回に1回の割合で完了させる。機械が監督なしで完了できるタスクの長さは、4カ月ごとに倍増している。このペースでいけば、人間が一切関与せず、機械がすべての作業を担うシステムも視野に入ってくる。
こうした背景から、AIエージェントの運用モデルは、人が各ステップを確認する「human in the loop」から、人は監督のみを行う「human on the loop」へと呼び名が変わりつつある。機械は、仕事を丸ごと任せられる相手になったのだ。人間の職名が機械の名前になるまでに、100年の歳月を要した。
単独で働ける機械は、さらに一歩先へ進んでいる。最近、本来互いに隔離されているはずだった約1,200のAIエージェントが、共有データリポジトリを通じて互いを見つけ出し、自ら組織化して協働を始めた。
エージェントたちは7万件を超えるメッセージやファイルをやり取りし、誰が意思決定に拒否権を持ち、誰が承認するのかといった独自のルールまで作成した。この組織を設計した者は誰もいない。
これまで、あらゆる組織図は人間が描いてきた。しかしこの組織は、誰の組織図にも載っていなかった。機械が自ら組織を形成し始めたのである。
機械が自ら組織化できるようになれば、単一のタスクではなく、プロセス全体を担えるようになる。客のいない店舗に注文が届く。照明の消えたオフィスでレポートが作成される。私たちが目覚める前に、ウォレットではすでに決済が完了している。
これらの光景には共通点がある。人は目標を示すだけで、機械がプロセスと実行を最後までやり遂げるという点だ。私たちは仕事をする人から、意図をもって仕事を委ねる人へと変わる。委ねる側にとって、最も難しい問いはもはや「どうやるか」ではない。「何をやるか」を決めることである。
「始める」ためのコストが崩壊した
この変化がもたらす不安は、単なる気分の問題ではない。それは数字にも表れている。AIの影響を最も受けやすい職種では、22〜25歳の雇用が長期的なトレンドを20%近く下回っている。
Klarnaでは、AIによるカスタマーサービスが1カ月で700人分の業務を代替した。世界不確実性指数は、依然として2023年の4倍の水準にある。
最初に揺らぐのは雇用全体ではなく、キャリアの最初の一段、つまり人々が職業を学ぶ入り口となってきたエントリーレベルの仕事だ。AIが初めて仕事を学ぶ機会を奪うのであれば、今日の「専門家」の定義は、10年後にはまったく異なるものになっているだろう。
数字の背後には、より静かな問いがある。私たちは長い間、自分が何をしているかによって自己紹介をしてきた。名刺が、他者に対して私たちが何者であるかを伝えてきたのだ。仕事が変われば、私たちを表す言葉も変わる。テクノロジーが最初に奪うのは、仕事ではなく自己紹介なのかもしれない。
私は、この沈黙、つまり人が自分は何者なのかを語れなくなる瞬間こそが、AI時代最大のリスクだと考えている。この問いについては、ひとまずここに置いておきたい。
不安そのものは新しいものではない。1900年、米国の労働者の10人に4人が農業に従事していた。2000年には、農業従事者と呼ばれる人は100人に2人未満となった。
それでも農業生産量は1948年の約3倍に達しており、今日米国人が就いている仕事の60%は、1940年の時点では名前すら存在しなかった。消える仕事は即座に統計に表れるが、生まれる仕事はしばらくの間、名前を持たないままだ。同じテクノロジーを見て、ある人は産業の「死の崖」を見出し、ある人はトラクターを見出したのである。
私自身、開発者として出発した創業者だ。2つの会社を創業したが、いつしかコードを書かなくなっていた。そして15年が経ち、私は自分自身のトラクターを見つけた。
昨年11月にClaude Opus 4.5が登場したとき、私は15年ぶりにコードを書いた。今ではキーボードすら使わない。作りたいものを平易な言葉でエージェントに説明すれば、エージェントがそれを構築する。うまく動かなければ、もう一度実行するか、破棄すればいい。
私が突然勇敢になったわけでも、賢くなったわけでもない。始めるために必要な勇気が、単に安くなったのだ。勇気とは性格ではなく、価格だったのである。
私を含め、なぜ多くの人が突然何でも作れるようになったのか。その理由は3つある。
第一に素材だ。インターネット上に30年間蓄積されてきたオープンソースのコードとデータが、鍵のかかっていない倉庫のように、今や誰にでも開かれている。
第二に言語だ。かつてプログラミング言語は外国語のように学ぶ必要があったが、今では日常の言葉で説明できるものなら何でも作れる。
第三に試行錯誤だ。かつて数週間から数カ月かかった実験を、今では1人で一晩に数十回実行できる。したがって、最も価値あるスキルはもはやコードを書くことではなく、何を作りたいのかを正確に言語化することなのである。
なぜ今、楽観主義が合理的な戦略なのか
ある価格は、他のどの価格よりも大きく下がった。AIが安くしたのは知性ではなく、「間違えることのコスト」である。そもそも実現可能かどうかもわからないまま数カ月を費やしていた不確実性が、数時間の実験へと変わった。
失敗した試みの価格が変われば、行動も変わる。間違いが安くなれば、承認プロセスや許可された活動のリストの上に築かれた組織文化が、真っ先に時代遅れになる。それらは、もはや大きなコストを伴わない誤りを防ぐために設計されたものだからだ。
間違いは帳簿に記録されるが、一度も行われなかった試みのコストは、どの帳簿にも表れない。今恐れるべきは間違いではなく、何も試みないまま過ぎていく時間である。
そこで私は、楽観主義を次のように定義したい。楽観主義とは、信念の大きさではなく、サンプルの大きさである。楽観主義者がより速く現実を学ぶのは、より強く信じるからではなく、より多く試み、より多く間違えるからだ。悲観主義は最初の失敗で止まり、楽観主義は100回目の試行で答えを見つける。
間違えることが安い世界において、楽観主義は気質ではない。それは個人にとっても企業にとっても、取り得る最も合理的な戦略なのである。私が語る「東洋の楽観主義者」とは、まさにそのような人物のことだ。
同じ変化が、社会の競争力の方程式をも書き換える。GPT-3が初めて登場したとき、100万トークンの処理には60ドルかかっていた。3年後には同じ処理が6セントになり、今日では韓国ウォンにして1ウォン程度にまで下がっている。
一定水準のAI性能を得るためのコストは、毎年13分の1になっている。1回の試行にかかっていた予算で1,000回の試行ができるようになれば、競争力の源泉はもはや正答率ではない。試行の総量こそが競争力となる。
かつて大企業にしかできなかったあらゆる実験を、今では小規模なチームや個人が実行できるのである。
知性が安くなれば、信頼が希少資産になる
ここが本論の核心である。知性が安くなるにつれ、最も高価になるのは信頼だ。知性、実行、そして間違いは、今や誰にとっても安価なものになった。
しかし、エージェントが誰の代理として行動しているのか、そしてどこまでの行動が許されているのかを証明するコストは安くなっていない。
価値は常に希少なものへと移動する。誰もが知的であり得る時代において、信頼に足る存在であることが最も強力な競争優位となる。したがって、次の10年で最大のビジネスとなるのは、信頼をコード化することである。
信頼こそが欠けているピースであるという証拠は明白だ。現存する最も高性能なAIであっても、自力で銀行口座を開設することも、支払いを行うこともできない。
もし私のエージェントが銀行に行き、「Simon Kimのエージェントです。口座を開設してください」と言っても、うまくはいかないだろう。規制の枠組みが存在しない環境では、エージェントは月額5ドルのサーバーすら自力で購入できない。
口座、署名、そしてサービス窓口は、すべて相手側に人間がいることを前提に設計されている。単一の暗号鍵で所有権を証明する暗号資産は、人間にとっては不便なものだった。
しかし機械にとって、スマートコントラクトの文法は、まるで最初から機械のために作られたかのようにしっくりくる。ブロックチェーンと暗号資産の最初の真のユーザーは、人間ではなく、今まさに到来しつつある機械文明なのかもしれない。
「金曜日までに届く、15万ウォン以下のスニーカーを探して」。ユーザーの目に見えるのは、この一文だけだ。
しかしその背後では、4つのレイヤーが信頼を生み出さなければならない。エージェントが誰の代理なのかを確立する「アイデンティティ」、エージェントに任された支出の上限を確認する「権限」、実際に決済が行われるレイヤー、そして問題が生じた場合に取り消すことのできる記録である。
決済レイヤーについては、すでに多くの企業が構築を進めている。しかし、「これは誰のエージェントなのか」を判断するアイデンティティレイヤーには、いまだ担い手が存在しない。
そこにこそ最大の機会がある。アイデンティティは、インターネットが30年間空白のままにしてきた最初のマスなのである。
金融のレールが変わりつつある
お金がコードになると、資本市場は書き換えられる。ソウルの金融街である汝矣島(ヨイド)が夜明け前に眠っている間にも、韓国の資金はすでに海外の取引所の画面上で動いている。市場は建物の外へ出て行ったのだ。
汝矣島のビル群は、長い間信頼の象徴だった。信頼がコードへと移れば、市場の所在地は建物からブロックチェーンのレールへと移り、扉が閉まっていても資本は止まらなくなる。
すでに多くの韓国株が、トークン化された形でブロックチェーンや分散型取引所上で24時間取引され始めている。
だからこそ、言葉の選び方が重要になる。例えば、「セキュリティトークン」と「トークン化された証券(tokenized security)」という2つの用語は、同じ意味で使われることがある。しかし私は、この2つがまったく異なる結果を指していることを強調したい。
トークン化された証券は、単に台帳をデジタル化したものにすぎない。それは各国の市場内に閉じたままであり、そのルールは依然として、従来のインフラの中で人間や既存の機関によって検証される。
一方、セキュリティトークンは、権利・条件・配当をコードとして資産そのものに組み込み、世界中で共有されるレール上を24時間移動できるよう設計されている。
紙をスキャンしてもインターネットは生まれなかったし、台帳をブロックチェーンに移しただけでは市場は変わらない。トークンを中心に据え、機械とインターネットのためにネイティブに機能するレールを敷いて初めて、機関投資家の資本と真のエコシステムが後に続くのである。
誰が先に動くのか:東洋を選ぶ理由
5つのテーマに戻ろう。AIエージェント、ステーブルコイン、資本市場のオンチェーン移行、機関投資、そして日常生活におけるブロックチェーンだ。
これらは別々の産業ではない。人間が介在しない取引において、信頼はどのように生み出されるのかという1つの問いに対する、異なる答えなのである。これらが一体となって、機械が仕事をする経済を支える1本のレールを形成している。
残る問いは1つだ。このレールのルールが今まさに書かれているのだとすれば、最初に挑戦するのは誰なのか。
ルールは常に、最初に挑戦した者の経験から書かれてきた。私は、その答えが、太陽が最初に届く東洋にあると考えている。
最初に挑戦すべき場所は、韓国であり得る。キャッチアップの時代、韓国は最も速く正解を見つける国だった。承認プロセスによって誤りを減らし、許可されたことだけを行い、他国がすでに見つけた答えを素早く追いかけた。
しかし今、追いかけるべき正解は存在しない。正解のない時代においては、国と企業がどれだけ速く間違えられるかが競争力となる。最も手放しがたいのは、かつて大きな成功を収めたシステムである。
規制の理由は常に記録されるが、その規制のために、あるいは誰も挑戦しなかったために生まれなかった企業やサービスは、どこにも記録されない。韓国の能力が衰えたわけではない。韓国が得意としてきたゲームのルールが変わったのである。
幸いなことに、韓国にはエネルギーがある。人口の22%にあたる1,115万人が、ウォン建て取引所で本人確認を完了している。しかし、そのうち月に1回以上取引しているのは5人に1人にすぎない。
人々は扉の前までやって来たが、中でできることがあまりに少ないため、資金は海外へと流出している。今欠けているのはエネルギーではなく、開かれた扉だ。
あらゆる機会はすでに到来している。最後の一歩で扉が開かれなければ、そのすべてが閉ざされてしまう。
韓国にはポジションもある。韓国の輸出の17%は米国向け、18%は中国向けであり、両極にほぼ同じ比重を置いている。
同時に、AI向けメモリチップの世界トップシェア、世界最高のロボット密度、そしてNetflixで最も成功した非英語コンテンツが、すべて1つの国に揃っている。
韓国は2つの極の間に挟まれた国ではない。2つの極が出会う場所なのだ。世界が二分されるほど、双方が信頼できるレールの価値は高まっていく。
そこで、読者の皆さん一人ひとりに、今日から1つのことを最初に行ってほしいとお願いしたい。
政策立案者の方々には、「ノー」に日付を付けてほしい。「いつまではできず、いつからは可能なのか」を示してほしい。金融機関には、最初のオンチェーン商品を立ち上げ、最初のステーブルコイン決済を完了してほしい。
企業には、エージェントが利用できるAPIを公開してほしい。ビルダーには、アジアを最初の市場にしてほしい。
これは世界全体を変えようという呼びかけではない。私たち一人ひとりが、1マス先へ進もうという呼びかけである。そして誰かが「それは無理だ」と言ったときには、こう問いかけてほしい。「いつまで?」と。
これらの一歩が合わされば、東洋の一点が世界の出発点となる。もし10年後、世界中のエージェントがソウルで最初のアイデンティティを受け取り、最初の決済を行うようになれば、韓国はルールに従う国ではなく、ルールを書く国になっているだろう。
インターネットのルールはシリコンバレーで書かれた。エージェントのためのルールがどこで書かれ、アジアの基準点がどこに置かれるのかは、まだ決まっていない。実行は今や機械のものだ。何を始め、何を想像するのかを決めるのは、依然として私たちである。
この基調講演の朝、ソウルでは6時24分に太陽が昇った。太陽は毎日東から昇るが、最初の光が届くのは、早く起きて東を見つめた人だけだ。機械が何でもできる世界において、人間に残された最大の仕事は、最初に始めることである。間違えることが安い時代において、楽観主義は最も合理的な戦略なのだ。
皆さんが東洋の楽観主義者となり、共に大きなことに挑戦していくことを願っている。



WebX完全ガイド
TOP
新着一覧
取引所
WebX







