米国税庁IRSの仮想通貨取引所への取引記録請求は妥当=司法判断
ビットコイン取引の税務調査訴訟で司法判断
米ワシントン州西部連邦地方裁判所は、個人の仮想通貨税務調査における訴訟で、内国歳入庁(IRS)が仮想通貨取引所に対し、申立人の取引データ請求を行ったことは妥当であるとの判断を下す一方で、申告年度に関連した取引データに限定して請求の修正を行うよう、IRSに求めた。
申立人であるWilliam Zietzke氏は、公認会計士からの指摘で、2016年の確定申告でビットコイン取引から得られた利益を過大評価していたことがわかり、IRSに修正申告を提出したところ、税務調査が開始された。
その過程において、Zietzke氏が報告していた二つの仮想通貨ウォレット以外に、仮想通貨取引所Bitstampのウォレットを介した取引があったことが判明したため、IRSはBitstampに対し、Zietzke氏のビットコイン保有に関するデータの提供を求めた。
請求されたデータには、Zietzke氏のブロックチェーンアドレスおよび公開鍵の情報が含まれるが、秘密鍵は含まれていない。Zietzke氏はIRSによる取引データに関する情報請求を不服として、棄却を求める訴訟を起こしていた。
11月25日付の判決書によると、Zietzke氏は棄却請求の根拠として次の6つをあげている。
- IRSは不誠実な意図を持って召喚状を発行した
- IRSは申立人の2016年修正申告の監査とは無関係な情報を求めている
- IRSはBitstampに請求している情報を既に所有している
- IRSは、召喚状の発行と送達において米国法が義務付ける行政手順に従わなかった
- 召喚状はBitstampのデータに関し、申立人のプライバシーに対する当然の期待を侵害している
- (米国)政府はBitstampから受け取るデータのセキュリティ保護を保証できない
裁判所は上記の2番を除く全ての根拠に関しては、IRSの召喚状は法的先例を満たしているため有効であり、IRSは仮想通貨取引の税務上の影響を行使する機関としての役割を果たしているに過ぎないとして、すべての申立てを却下した。またデータセキュリティに関する懸念は、憲法上の権限を持つ連邦議会ならびに行政府に訴えるべきだと述べている。
ただし、データの関連性という点では、裁判所は申立人の主張を認めた。
IRSが申立人の「(オンチェーンおよびオフチェーンの)すべてのトランザクションに関するアカウント履歴」を請求しているのは「過度の広範囲性」を持っていると裁判所は判断し、2016年の取引から発生する税務上の影響の判断に関わるデータのみに限定した請求に修正するよう、IRSに求めている。
米国の複雑な仮想通貨税制
IRSは先月、5年ぶりとなる仮想通貨税に対するガイダンスを発表した。
その中では、ハードフォークによって生じる税、収入として仮想通貨を受け取った際の評価方法、また仮想通貨を売却した際の課税対象利益の計算方法について述べられている。
売却の際の利益計算では、コスト基準の算定のため次の情報を提供することが義務付けられている。
- 各ユニットが取得された日時
- 取得時の各ユニットの基準および公正市場価値
- 各ユニットが販売、交換、またはその他の方法で処理された日時
- 販売、交換、または処理されたときの各ユニットの公正市場価値、および各ユニットに対して受け取った金額または資産の価値
また、「仮想通貨は資産として扱われる」という点では、2014年発表のガイダンスからの変更はなく、特定のしきい値以下の商品やサービスの購入に対する免除も設けられていない。つまり、コーヒーの購入のような些細な日常品の購入に仮想通貨を使った場合でされ、「キャピタルゲインとキャピタルロスが発生」することになる。
このルールは仮想通貨が日常的な取引に使われるようになるには大きな障害となる。税から逃れることはできないが、仮想通貨投資のハードルを下げ、日常的に利用できるようにするためには、明確かつシンプルな税制が必要なことは明白だろう。
訴訟王国とも呼ばれる米国で、仮想通貨関連の確定申告に頭を悩ますユーザーのためにも、いち早く明確で合理的な税法が確立されることを願いたい。
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「仮想通貨」とは「暗号資産」のことを指します