Pendleはイールド内蔵型トークン(Yield bearing token)利回り部分をトークン化し、その部分をトレード可能にして投資家に柔軟性と資産最適化の選択肢を提供する革新的なDeFi(分散型金融)プロトコルである。「変動する利回りを自分でコントロールしたい」というDeFiユーザーの需要を満たしている。
Pendleは、わずか1年間でTVL(総価値ロック量)が20倍に急増。TVLは45億ドルに達し、累計取引量は440億ドルを超えた。
2021年半ばに正式にローンチしたPendleはDeFiの世界に利回りのデリバティブ市場を持ち込むという目標を持ち、2022年12月にPendle V2を発表、大幅な機能強化を実現して現在までエコシステムを急速に拡大している。
Pendleの独自機能:イールドトークン化と分割(PT/YT)
Pendleのシステムは、債券、特にストリッピング債(ゼロクーポン債)の考え方に近い。債券の場合、通常の債券は「元本(額面)」と「定期的な利払い(クーポン)」で構成されている。
これに対し、ストリッピング債は、この債券から利払い部分を「切り離し(ストリップ)」して、それぞれを別々の商品として取引できるようにしたもの。Pendleは、この伝統的な金融の概念をDeFiに応用している。
利回りを生み出す仮想通貨(stETHなど)を元本部分(PT)と利回り部分(YT)に分離してそれぞれを独立して取引可能にしているためだ。
大きな違いは、伝統的な債券が固定金利であることが多いのに対し、Pendleが扱うのは変動する利回り(ステーキング報酬など)だという点。それにブロックチェーン技術を活用、スマートコントラクトを通じてこれらの分離と取引を自動的に実行可能である。
Pendleの核となる機能は、元本と利回り部分を分割してトークン化し売買や運用を可能にすることだ。
PTとYTを合わせることで、元の資産の価値が再現される(PT + YT = 原資産)。たとえば、年利5%の場合は1PTの価値が0.95、1YTの価値が0.05となり、その合計で100%の原資産価値となる。
トークンの種類
PT(Principal Token)
元本トークン。
満期時に元本を100%回収できる「ゼロクーポン債」に似た性質を持つ。よりわかりやすくいえば、特定のトークンを割引価格で購入をしているとも説明ができる。割引で買ったトークンが徐々に割引前の価格に戻ることによって固定利回りをリアライズ(受け取る)することができる。
PTを利用した固定利回りの獲得方法
PTはPendleプラットフォームで簡単に購入できる。例えばEthenaのsUSDeを例に取れば、固定8%程度の年利が得られる。
ここでは、実際のPendle取引画面を使って、固定利回り投資の仕組みを具体的に説明する。誰でも親しみやすいEthenaのsUSDeを例に、画面上の重要な要素を順に解説し、実際の投資プロセスから収益計算までをわかりやすく見ていく。
A:支払い通貨選択
PTを購入するための通貨(USDT、ETH、USDCなど)を選択する欄。
B:満期日
この投資の期間(通常3〜6ヶ月)を示す。「マーケットの満期」または「Maturity」と呼ばれる。満期前でも市場価格で売却可能だが、満期まで持てば確定利回りが保証される。満期日は一般的に、Pendleチームと該当するプロジェクトチームの協議のもとで設定される。(同じ資産でも満期日が異なることもある)
C:購入トークン数表示
投資額に対して取得できるPTトークンの数を表示。例えば1万ドル投資で10,257枚のPT-sUSDeが購入でき、満期時には10,257ドル(257ドルの利益)になる。この例では117日で257ドルの利益、年率換算で約8%の利回りとなる。
購入手順は以下のとおり。
- Pendleサイトにアクセス
- 希望するマーケット(例:Ethena sUSDe)を選択
- 支払いトークンを選択し、必要に応じて承認手続き(「Approve」ボタン)
- 承認完了後、トークンを入金
- 満期まで保有するか、必要に応じて途中で市場価格で売却
- 満期時はPortfolioで通知を確認し、PTを元トークンに引き換え(Redeem)
- 受け取ったトークンはPendleSwapや他取引所で希望の通貨に交換可能
Pendle公式のNotionからさらに詳しい解説を確認できる。
YT(Yield Token)
Yield Tokenとは、投資資産が生み出す利回り(イールド&ポイント)のみの権利を表すトークンである。このYTを保有するだけで継続的にイールドが発生するが、満期を迎えると以降の収益を生まなくなるため、価値はゼロになる。
投資の成否は明確である。獲得した利回りがYTの購入コストを上回れば利益となり、下回れば損失となる。
YTの魅力は、原資産の元本部分を除いた利息部分のみを独立して取引・管理できる柔軟性にある。これにより、流動性の向上やリスク管理の効率化が期待できる。また、元本部分を差し引いた利回り部分のみに投資するため、資本効率が高く、特定のトークンのイールド部分に特化したポジションを取ることができる。
高い資本効率と柔軟な投資戦略
Pendleを使って以下のような投資戦略が可能となる。
- 固定利回りの獲得:
PTを安く購入し満期まで保有。例:10%ディスカウントで特定のトークンのPTを購入すれば、実質年率10%の固定利回りを確保できる。 - イールドへの投資:
金利上昇を予想する場合、YTを購入。例:ETH利回りが4%から6%に上昇すると予想する場合、YT-stETHを購入することで効率的に上昇分を獲得できる。 - 流動性提供による報酬:
Pendleでイールド市場に対して LP(流動性提供)を行い、スワップ手数料や$Pendleインセンティブ、LPのうちのPTのイールド分が自動的に付与される。LPトークンを保有しているだけで報酬が得られ、別途ステーキングなどの操作は不要。満期になるとこれ以上の利回りを産むことがないので、取り出す必要がある。
将来の金利動向に合わせて、PTとYTを戦略的に売買できる。 YTやPTは満期前に売却すれば、上昇や下降した利回り分の利益を先取りでき(PTとYTのドルバリューはPendle市場の動向によって上げ下げをするため)資産形成の時間効率も向上する。
Pendle AMM(Pendleの自動マーケットメーカー)
PendleのAMMは「時間価値を考慮した動的イールドカーブ調整」という独自技術を採用している。 これにより、時間経過で価値が変化する資産も適切に価格設定される。
具体的には、満期に近づくにつれてPTの価格範囲を自動調整し、効率的な取引を実現する。 資産の価値が明確になり流動性も向上するため、ユーザーはより柔軟な取引戦略が可能になる。
さらに、単一のプールでPTとYTの両方の取引を可能にする「フラッシュスワップ機能」も搭載している。
Pendleの主要プロダクトとテクノロジー
広範なDeFi統合
Pendleは60以上のプロトコルから250以上のプールをサポートしており、ステーブルコイン、ETHなど幅広い資産をカバーしている。 具体的には、以下のような多様なDeFiプロトコルとの連携を実現している。
- リキッドステーキングプロトコル
- レンディングプロトコル
- イールドアグリゲーター
- レイヤー2ネットワーク
- 現実資産(RWA)トークン化
- Ethena
これらの多様な統合により、Pendleはイールド取引ハブとしての機能を果たしている。 固定利回り(PT)、利回り取引(YT)、LP機会など多彩なサービスを提供し、ユーザーの投資戦略の多様化を支援している。
Ethenaは比較的新しい暗号資産プロジェクトで、USDe(イーサバックドステーブルコイン)を発行する合成ドル・プロトコル。ETHとは全く異なるプロジェクトであり、独自のトークン「ENA」を持つ。
Ethenaはイーサリアム上に構築されているプロジェクトの一つであるが、イーサリアム(ETH)とは別のプロトコルという点で明確に区別される。
USDe(イーサバックドステーブルコイン)はEthenaプロトコルが発行するドルペッグのステーブルコインであり、USDeはドルと1:1の価値を維持するよう設計されているが、伝統的なステーブルコインとは異なる仕組みを持っている。
USDeは、従来のドル準備金に頼らない革新的な設計を採用している。ETHを担保としながら、先物市場でショートポジションを組み合わせる「デルタニュートラル戦略」により、ETH価格変動リスクをヘッジしている。この構造により、USDe保有者は先物市場のベーシス(現物と先物の価格差)から生まれる利回りを享受できる。
一方、Pendleは分離型イールド(利回り)プロトコルとして、USDe上の将来利回りを取引可能にしている。USDe保有者はPendleプラットフォーム上で、自身の資産を元本部分(USDe-PT)と利回り部分(USDe-YT)に分離できる。これにより、保有者は将来の変動する利回りを放棄し、その代わりに安定して、保証された利回りを手に入れることができる(=PT)、逆に将来の利回りだけを元本抜きで購入して投資したりする(=YT)など、あるいは上述のPTとYTのトレーダーに対して流動性を提供する事など、より柔軟な金融戦略を実行することが可能になる。
マルチチェーン対応
2025年4月4日時点でPendleは主に以下のブロックチェーンに対応している。
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Ethereum、BNB Chain、Arbitrum、Berachain、Sonic、OP Mainnet、Mantle Network、Base |
さらに「Citadels」構想として、Solana、TON、そしてHYPEなどの非EVMチェーンへの拡張も計画中。
Pendleの目標は「どこに利回りがあっても、そこにPendleがある」というビジョンの実現。 より多くのブロックチェーンをサポートすることで、ユーザーにとっての利便性と選択肢を拡大している。
経営陣とチーム
Pendle(Pendle Finance)は、TN LeeとVu Gaba Vinebによって共同設立された。2025年4月4日時点でCEOはTN Lee氏が務めている。
資金調達実績と主要パートナー
2021年4月に370万ドルを調達。 Mechanism Capitalが主導し、Crypto.comやHashKey Capitalなどが参加した。
2023年8月にはバイナンスラボが戦略的投資を実施。 バイナンスラボは「Pendleの固定利回り提供が機関投資家のヘッジ基盤となる」と評価している。
セキュリティ面では、ChainSecurityなどによる監査を受けている。 第三者による安全性検証を実施し、ユーザーの安心感を向上させている。
PENDLEトークンの役割
$PENDLEトークンをロックすると、以下の役割を持つユーティリティトークンである。ロック期間は数週間〜最大2年で自由に選ぶことができる。
- ガバナンス
- インセンティブと報酬の受け取り
- プロトコル収益の分配
- 流動性提供に対するインセンティブ
- Pendleトークンでご自身のLPポジションのイールドを最大2.5倍までブーストすることも可能
PENDLEトークンの価値はユーザー数の増加に伴い上昇している。 DeFiプロジェクト間で「Pendle Wars」が繰り広げられており、$vePENDLE(ロックされたPendle)保有による影響力の争奪戦が起きている。
このPendle/$vePendle のモデルは複雑で、より理解を深めたい方はPendleの公式ページでより詳しい情報を閲覧できる。
2025年のロードマップ
2025年は「Zenith(頂点)」と題した3つの柱で展開予定。
- Pendle V2の改善
- Citadels(要塞)の構築
- Boros(ボロス)のローンチ
これらは取り扱いプロジェクトの拡張やEVM以外のエコシステム対応を目指している。 特に注目すべきは、新プラットフォーム「Boros」である。
Borosはファンディングレート(先物取引の資金調達率)など、未開拓の利回り市場に対応する。 「あなたの利回り体験への入り口」をコンセプトに、多彩な取引を可能にするサービスを提供予定だ。
Pendleの将来性
Pendleの2024年の成長
- TVLが年で20倍に増加
- 1日あたり取引額が約100倍に急増
2025年も新市場への進出や新プラットフォーム導入を計画中。 DeFiエコシステム内のイールドレイヤー分野での存在感をさらに高めていく見込みだ。