- Sui×INSPAY、ステーブルコイン決済で協業
- WebX 2026の自販機実演で470件を決済
スイ(Sui)ブロックチェーンのオリジナル・コントリビューターである米Mysten Labsと、自動販売機や店舗向けに決済端末と加盟店システムを提供するINSPAYは2026年7月、戦略的協業を発表した。スイ上のステーブルコインを、INSPAYのリテール決済ネットワークに統合する内容だ。
INSPAYの発表によると、同月の「WebX 2026」では、会場の自動販売機などを使った実演で、2日間に計470件のステーブルコイン決済を記録した。
CoinPostは10月2日、INSPAYが東京・大手町のFINOLABで開催した決済イベント「Payment 3.0」に合わせて、Mysten Labs Chief of Staffのバウアー・ワン氏と、INSPAY CEOの王越氏にインタビューした。両氏が語ったのは、ステーブルコインを「使える」から「毎日使う」ものにするため、少額・高頻度の支払いから始めるという構想だ。
Payment 3.0が目指すのは、ステーブルコインを保有・送金するだけでなく、ウォレットの残高を実際の商品やサービスの購入に使える日常へとつなげることだ。
以下、発言はバウアー・ワン氏を「バウアー」、王越氏を「王越」と表記する。
決済は「メッセージを送るように」
決済は、スイのミッションの一部です。スイが目指しているのは、あらゆるビジネスを支える、最もスケーラブルな汎用ブロックチェーンです。そのうえで、Web3の決済はテキストメッセージを送るのと同じくらい簡単であるべきだと考え、技術スタックを設計してきました。
私たちの役割はインフラの提供です。どんな企業でも参加して実際に構築できる、成熟したエコシステムをつくることを目指しています。今日のイベントで紹介したPOS(販売時点情報管理)のほかに、AI決済にも力を入れています。AIの世界では規模もスピードも頻度も桁違いになるので、プログラム可能で高速に動くお金が欠かせません。
10年のQR決済からスイへ
私たちのチームは10年以上QRコード決済に取り組んできており、以前からブロックチェーンで決済を実現する方法を研究していました。決済には、速いこと、安いこと、高負荷時にも安定して処理できることが求められます。
しかし当時、この条件を満たす技術はほとんどありませんでした。加えて、USDTを含むステーブルコインが規制に準拠する前は、「価格が安定しないお金で誰が買い物をするのか」という問題もありました。
転機は昨年です。ステーブルコインの社会実装が進み、各国で関連政策が整ったことで、暗号資産が現実世界へ踏み出す節目を越えたと確信しました。ステーブルコインは世界の決済の構図を変えるインフラだと考え、いまはこの分野にオールインしています。
私たちが重視しているのは、少額・高頻度の市場です。人々がステーブルコインを「使えると知っている」段階から、毎日欠かせないものとして使う段階へ移るのは、この領域からだと考えています。自動販売機のように端末でその場で支払う決済は、既存の顧客にとっても大きな商機になります。日本に続き、東南アジアでもスイとの協業を深めていきます。
スイは技術的な特徴が他のチェーンと大きく異なり、とくに処理速度は私たちにとって決定的に重要です。スイ自身もステーブルコインのガスレス送金を打ち出すなど、決済分野に布石を打っており、追い風を感じています。
自動販売機やエージェント型決済では、1件あたりの金額は小さくても、取引が高頻度で発生します。高速で、手数料も決済時間もごくわずかなステーブルコインは、こうした決済で非常に強い。
スイには、Move言語(スマートコントラクト用のプログラミング言語)、独自のコンセンサス、インフラからアプリ層までの技術スタックがあります。高いスケーラビリティ、低コスト、ステーブルコイン送金のガス代ゼロに加え、プログラマビリティやクリプト・アジリティ(暗号方式を柔軟に切り替えられる性質)も備えています。
INSPAYは決済分野で10年以上の経験を持つ、非常に強い技術チームです。業界の本当の課題を理解しているからこそ、私たちを見つけてくれたのだと思います。POS端末を持っていることも重要です。
ステーブルコイン決済はときに抽象的に感じられますが、私たちの目標は、ユーザーにそれを意識させないことです。自動販売機とPOS端末がいたるところにある日本は、その最良の場です。
支払いの手順
体験は、いまのスマホ決済とほとんど同じです。INSPAYの端末に表示されたQRコードをウォレット「Slush」で読み取り、保有するステーブルコインで支払います。
WebXで分かれた二つの反応
来場者ははっきり二つに分かれました。ステーブルコインをよく知らない人は、それと意識しないまま支払いを終えていました。これは非常に重要な点です。一方で業界関係者は、飲み物が落ちてきた瞬間に仕組みを理解していました。それほど速かったからです。
私は中国で、WeChat PayやAlipayがQRコード決済を広げていく過程を経験しました。誰も使っていなかった初期は、ちょうど今と同じように本当に大変でした。それでも、方向が正しければ仲間は必ず現れます。世界を変えるのは一社ではなく、スイやINSPAY、そして多くのパートナーです。展示会で実感したのは、普及までの距離が紙一枚ほどしかないということでした。その紙を破れば、数年のうちに景色は一変するかもしれません。
私たちは少し早いのかもしれません。でも、普及は必ず起きます。今年だけでも、アジア、欧州、北米で、ステーブルコインの発行と利用に関するルールがはるかに明確になりました。
普及の鍵は「認識」
認識です。最近話をした銀行やクレジットカード会社、インターネット企業の多くは、ステーブルコインを金融資産としてしか見ておらず、決済の基盤インフラになりうることに気づいていません。私自身もかつてはそうでした。
しかし今は、ステーブルコインはインフラそのものだと考えています。税務や各種の管理がスムーズになり、コストも極めて低い。古いシステムが抱える技術的負債からも解放されます。
金商法改正の決済業界への影響
日本では法制度が先に立つので、影響は非常に大きいです。ステーブルコイン決済はまだごく一部ですが、立法関係者も大手銀行も強い関心を持って見ています。いまは皆が、この技術で何ができるのかを探っている段階です。私たちが踏み出す一歩一歩は、世界の先頭の一歩かもしれません。
中国のQR普及との比較
政策と大企業の動きです。政策が少しでも開かれれば、試す動きが出てきます。そのとき鍵を握るのは、数千万から1億人規模の顧客基盤を持つインターネット企業です。
Web3ウォレットの普及を目指すパートナーと連携し、実際の消費の場へつなげていくことが重要です。INSPAYは、QRコード決済で培った経験を生かし、その実装をともに進めていきたいと考えています。
WeChatがメッセージアプリからウォレット事業を派生させたように、こうした企業はQRコード決済の時代を逃していても、この技術を使えば一気に有力なウォレット企業になれます。その差も障子紙一枚ほどです。
地域ごとのパートナー戦略
国ごとに、消費者や企業の行動、ステーブルコインの受け入れ度合い、規制はまったく異なります。L1(レイヤー1)である私たちの役割は、自ら各地域に精通することではありません。INSPAYのように、その地域や業界の専門家であるビルダーと組むことです。
北米ではStripeやBridgeと緊密に連携し、決済向けの米ドル建てステーブルコインUSDsuiの発行に至りました。欧州ではxMoneyなどと組んでいます。ナイジェリアでは、ステーブルコインによる貯蓄と送金でPagaと協業しています。
金融インフラが比較的弱い国ほど、ブロックチェーンを含めて決済の基盤全体を再構築しようとしています。企業が発行して政府が監督するステーブルコインと、国家が発行するデジタル法定通貨の差は、もうわずかしかありません。このインフラを整えれば、各国は大きなコストをかけずに新しい決済の時代に入れます。
成熟市場との最大の違いは、新しいものに対する認知です。基盤がない状態のほうが、新しい技術は受け入れやすい。何層もの中間形態が残る日本では、勢いをつけるのが難しいのです。
それでも、日本と東南アジアの両方に取り組むことは矛盾しません。日本の少額・高頻度の決済にオールインしつつ、海外での経験を生かして日本市場の進化も速めたいと考えています。
規制とプライバシーを両立する設計
私たちの役割は、必要なソリューションがエコシステムにそろっている状態をつくることです。規制に準拠したステーブルコインがあり、透明性を担保するデータ分析やオラクルのプロバイダーも多数います。保有者や利用者を制限するカスタムポリシーを組み込めるトークン規格にも対応しています。
一方でプライバシーの扱いも柔軟で、完全にオープンな形から、参加者の間だけで情報を共有する形まで選べます。何が必要かを一番よく知っているのは事業者自身なので、私たちは中立の立場を貫きます。
日本市場のビジョン
速さとコストです。イベントでは「決済に10秒以上かかるようでは話にならない」という声が共通して出ていました。しかし皆さんに体験していただいたとおり、スイなら1〜2秒で、普通のQRコード決済と同じように支払いが完了します。日本は保守的な国ですが、一度見極めれば動きは速い。いまはまさに、皆が急速に学んでいる過程にあると思います。
スイはゲーム分野で大きな実績があり、素晴らしいIP(知的財産)を持つ日本には常に強い愛着を持ってきました。そして日本には、強力な自動販売機産業があります。自動販売機は、Web3技術を摩擦なく実生活で体験してもらうための素晴らしい入り口です。
いまはまさに種をまいている時期で、そろそろ芽が出始める頃だと思います。消費者にとってはお金の流通速度が上がり、企業にとっては決済の迅速化と手数料の低下が実現し、政府は公開台帳と国境のない決済を手にします。普及が本格化したとき必要になるのは、スケーラビリティとスループットに理論上の上限がないL1です。将来の勝算には自信を持っています。
今回の対話と実演は、ステーブルコインが日常の支払いへと踏み出す一歩を示した。次に求められるのは、Web3ウォレットの普及を目指すパートナーとともに、少額・高頻度の消費を通じて、一度の体験を継続的な利用へつなげることだ。
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