暗号資産(仮想通貨)の損益は、「総平均法」か「移動平均法」で1単位あたりの取得価額を求めて計算します。個人は届出をしなければ総平均法で計算し、移動平均法を使うには税務署への届出が必要です。どちらの方法でも保有期間全体の所得金額の合計は同じですが、年ごとの所得金額は変わります。本記事では、2つの方法の計算式と計算例、選ぶときの考え方、届出・変更の手続き、2028年からの適用が見込まれる申告分離課税で変わること・変わらないことを解説します。
総平均法・移動平均法とは?計算式で確認
暗号資産を売却したときの所得金額は、次の式で求めます。
所得金額 = 売却価額 -(1単位あたりの取得価額 × 売却数量)
このうち「1単位あたりの取得価額」の求め方が、総平均法と移動平均法で異なります。
総平均法の計算式
総平均法は、暗号資産の種類ごとに、年初に保有していた暗号資産の取得価額の合計と、その年中に取得した同じ種類の暗号資産の取得価額の合計を基に、年間の平均取得単価を算出する方法です。その年の取引が確定する年末に、1回の計算で求めます。
1単位あたりの取得価額(平均取得単価)
=(年初に保有していた暗号資産の取得価額の合計(前年末の評価額) + その年に取得した暗号資産の取得価額の総額)÷(年初の保有数量 + その年の取得数量)
前年から繰り越した暗号資産については、前年末の評価額(取得原価に基づく金額)を引き継ぎます。年初の市場価格で評価し直すものではありません。
移動平均法の計算式
移動平均法は、暗号資産を取得するたびに、それまでの保有分と合わせて平均取得単価を計算し直す方法です。
1単位あたりの取得価額
=(取得直前に保有していた暗号資産の取得価額の合計 + 今回の取得価額)÷(取得直前の保有数量 + 今回の取得数量)
売却したときは、その時点の平均取得単価を使って所得金額を計算します。評価方法は暗号資産の種類(銘柄)ごとに選びます。
評価方法の届出と変更の手続き
届出をしなければ総平均法で計算する
個人の場合、評価方法を届け出なかったときは、法定評価方法である総平均法で計算します。移動平均法を使いたい場合は、所轄の税務署長へ「所得税の暗号資産の評価方法の届出書」を提出します。
届出の期限は、暗号資産を初めて取得した年分、または、すでに持っている暗号資産と種類の異なる暗号資産を取得した年分の確定申告期限(原則として翌年3月15日)です。たとえば、ある年に初めて暗号資産を購入した方は、その年分の確定申告期限(原則として翌年3月15日)までに届け出ます。届出書はe-Taxでも、書面の持参・郵送でも提出できます。
なお、法人の場合は法定評価方法が移動平均法になるなど取り扱いが異なります。本記事は個人を前提に説明します。
評価方法を変えるには「変更承認申請書」が必要
一度選んだ評価方法を変更するときは、届出書ではなく「所得税の暗号資産の評価方法の変更承認申請書」を、変更しようとする年の3月15日までに提出し、税務署長の承認を受けます。たとえば、ある年の分から移動平均法に変えたい場合は、その年の3月15日までに申請します。
申請した年の12月31日までに承認または却下の通知がなければ、その日に承認されたものとみなされます。ただし、現在の評価方法を採用してから相当期間(原則3年)を経過していない場合などは、申請が却下されることがあります。
届出をせずに総平均法で計算してきた方が、あとから移動平均法に切り替える場合も、届出書ではなくこの変更承認申請書の提出が必要です。
| 手続き | 書類 | 期限 |
|---|---|---|
| 移動平均法を選ぶ | 所得税の暗号資産の評価方法の届出書 | 初めて取得した年分(または種類の異なる暗号資産を取得した年分)の確定申告期限 |
| 評価方法を変える(届出をせず総平均法で計算してきた場合を含む) | 所得税の暗号資産の評価方法の変更承認申請書 | 変更しようとする年の3月15日 |
| 何もしない | ― | 総平均法で計算 |
2028年からの適用が見込まれる申告分離課税で変わること・変わらないこと
令和8年度税制改正では、金融商品取引法等の改正を前提として、一定の特定暗号資産の譲渡等による所得について申告分離課税を適用する制度が設けられました。税率は所得税15%、住民税5%の合計20%で、復興特別所得税を含めると20.315%となります。適用開始日は、改正金融商品取引法の施行日の属する年の翌年1月1日とされており、2028年1月1日からの適用が見込まれていますが、実際の施行日に注意が必要です。また、一定の要件を満たす特定暗号資産の譲渡損失については、翌年以後3年間の繰越控除が認められます。なお、総平均法・移動平均法による取得価額の計算や評価方法の届出については、今後の政省令、国税庁の公表資料等も確認する必要があります。
改正後は、分離課税の対象になる取引と対象外の取引を分けて集計する必要が出てきます。これらの改正で戸惑わないよう、銘柄ごとの評価方法と取引履歴をいまのうちから整理しておくことが、将来の申告の準備にもなります。
税金計算ツール「クリプタクト」の詳細はこちら総平均法・移動平均法の計算例(上昇相場・下落相場)
ここからは、具体的な数字で2つの方法を比べます。以下はいずれも仮の数値を用いた計算例で、個人が1年間(1月1日〜12月31日)にビットコイン(BTC)を売買したケースを想定し、手数料は考慮していません。なお、その年の購入が1回だけの場合は、どちらの方法でも取得単価が同じになるため、結果は変わりません。過年度から保有しているビットコインはないものとします。
購入と売却を繰り返すケース
1BTCを100万円で購入(①)、1BTCを150万円で購入(②)、1BTCを200万円で売却(③)、1BTCを275万円で購入(④)の順に取引した場合を考えます。
移動平均法では、購入のたびに平均取得単価を計算し直します。売却しても平均取得単価は変わりません。
| 取引 | 保有数量 | 取得価額の合計 | 平均取得単価(移動平均法) |
|---|---|---|---|
| ① 1BTCを時価100万円で購入 | 1BTC | 100万円 | 100万円 |
| ② 1BTCを時価150万円で購入 | 2BTC | 250万円 | 125万円 |
| ③ 1BTCを時価200万円で売却 | 1BTC | 125万円 | 125万円 |
| ④ 1BTCを時価275万円で購入 | 2BTC | 400万円 | 200万円 |
総平均法では、1年間の購入金額の合計525万円(100万円+150万円+275万円)を購入数量の合計3BTCで割った175万円が、1年を通じた平均取得単価になります。取引のたびに平均取得単価を計算し直す必要がなく、年末に1度の計算で済む簡便さが総平均法のメリットです。
総平均法と移動平均法での損益と取得価額の比較
| 項目 | 総平均法 | 移動平均法 |
|---|---|---|
| 売却した1BTCの取得価額 | 175万円 | 125万円 |
| 所得金額(③200万円で売却) | 25万円 | 75万円 |
| 年末に残る2BTCの取得価額 | 350万円(175万円×2) | 400万円 |
ポイントは、総平均法では後から行った④の取得によって③の売却の損益が変わる点です。所得金額の50万円の差は取得価額に反映されているため、最終的にすべて売却した際の保有期間全体を通した損益はどちらの計算方法でも変わらないことがわかります。
購入が2回以上ある場合(上昇相場の例)
1月に1BTCを500万円で購入し、6月にその1BTCを800万円で売却、9月に改めて1BTCを700万円で購入した場合を考えます。
総平均法では、1年間の購入金額の合計1,200万円を購入数量の合計2BTCで割った600万円が取得単価になります。移動平均法では、売却時点の取得単価は、その時点までに購入した1月分の500万円です。
| 項目 | 総平均法 | 移動平均法 |
|---|---|---|
| 売却時の1BTCあたりの平均取得単価 | 600万円(1,200万円÷2BTC) | 500万円 |
| 所得金額(800万円で売却) | 200万円 | 300万円 |
| 年末に残る1BTCの平均取得単価 | 600万円 | 700万円 |
同じ取引でも、その年に計上する所得金額が100万円変わります。ただし、この差は年末に残る1BTCの平均取得単価に反映されるため、最終的にすべて売却した時点で比べた所得金額の合計は同じになります。
下落相場では損失に見えても所得になることがある
次は、相場が下がった年の例です。1月に1BTCを800万円で購入し、6月にその1BTCを600万円で売却、9月に1BTCを300万円で購入したとします。
| 項目 | 総平均法 | 移動平均法 |
|---|---|---|
| 売却時の1BTCあたりの平均取得単価 | 550万円(1,100万円÷2BTC) | 800万円 |
| 所得金額(600万円で売却) | 50万円の所得 | 200万円の損失 |
| 年末に残る1BTCの平均取得単価 | 550万円 | 300万円 |
移動平均法では200万円の損失ですが、総平均法では、年の後半に安く買い増した分が平均取得単価を引き下げるため、50万円の所得になります。「売った時点では損をしたはずなのに、年が明けて計算すると所得が出ていた」ということが、総平均法では起こりえます。
現行制度では、暗号資産の損失は給与など他の所得と相殺できず、翌年への繰り越しもできないため、年の途中の損益を感覚で計算してしまうと年末の正しい計算結果とずれてしまう可能性があり、納税資金の準備にも影響します。
総平均法と移動平均法の違いと選び方
2つの方法の違いを整理すると、次のようになります。
| 項目 | 総平均法 | 移動平均法 |
|---|---|---|
| 平均単価を計算するタイミング | 年末に1回 | 購入のたび |
| 計算の手間 | 少ない | 取引が多いほど増える |
| 年の途中での所得の把握 | 年が終わるまで確定しない | しやすい |
| 手続き | 届出不要(法定評価方法) | 届出が必要 |
選ぶときに考えたいポイント
どちらが有利かは取引の内容によって異なり、一概には言えません。選ぶときは、次のような点を自分の取引に照らして考えます。
- 年の途中で税額の見通しを立てたいか:移動平均法は、売却のたびにその時点の取得単価で所得を把握できるため、納税資金を準備しやすくなります。総平均法は、年が終わるまで取得単価が確定しません。
- 取引の回数と計算の手間:総平均法は年に1回の計算で済みます。移動平均法は購入のたびに計算し直すため、取引が多いほど手間が増えます。
- 相場の動きによる年ごとの所得のぶれ:総平均法では年の後半の買い増しも平均取得単価に反映されるため、上昇相場では所得が小さく、下落相場では大きくなることがあります(計算例を参照)。最終的にすべて売却した時点で比べた所得金額の合計は、どちらも同じです。
- 手続き:総平均法は届出が不要です。移動平均法を使うには届出が必要で、いったん選んだ方法を変えるには変更承認申請が必要です。現在の方法を採用してから原則3年を経過していないと、変更が認められないことがあります。
判断に迷う場合は、税理士や所轄の税務署に相談してください。
損益計算ツールで評価方法を設定するとき
取引の件数や銘柄が多くなると、どちらの方法でも手計算は難しくなります。損益計算ツールを使う場合は、税務署に届け出た評価方法とツール上の計算方法の設定がそろっているかを確認してください。たとえば損益計算サービス「クリプタクト」では、個人の場合は初期設定で総平均法により計算されます。移動平均法を届け出ている場合は、設定で計算方法を移動平均法に切り替えたうえで損益を確認します。
総平均法・移動平均法のよくある質問
評価方法の届出をしたかどうか分からない場合は?
届出をしていなければ、総平均法で計算していることになります。e-Taxで提出した場合はメッセージボックスの受信通知、書面で提出した場合は手元の控えで確認できます。手元で確認できない場合は、所轄の税務署に問い合わせてください。届出をしないまま期限を過ぎていて移動平均法に切り替えたい場合は、変更承認申請書の提出が必要です。
銘柄ごとに違う評価方法を選べますか?
はい、選べます。評価方法は暗号資産の種類ごとに選ぶため、ビットコインは移動平均法、イーサリアムは総平均法、といった組み合わせも可能です。新しい種類の暗号資産を取得した年分の確定申告期限が、その銘柄の届出期限になります。
総平均法は年をまたいで計算しますか?
いいえ、総平均法は1月1日から12月31日までの1年ごとに計算します。ただし、前年末に保有していた暗号資産の評価額は、翌年の計算で年初の取得価額として引き継ぐため、その年の取引履歴だけでは損益を計算できません。
年間取引報告書だけで計算できますか?
国内の暗号資産交換業者での取引が中心で、総平均法で計算する場合は、年間取引報告書の数値を使って計算できます。国税庁は、所得計算用のExcelの計算書として「暗号資産の計算書(総平均法用)」と「同(移動平均法用)」を公開しており、年間取引報告書を利用して計算する場合は「総平均法用」を使うよう案内しています。ただし、海外取引所・DeFi・個人ウォレットでの取引や、暗号資産同士の交換、ステーキング報酬など、年間取引報告書に含まれない取引がある場合は、報告書だけでは正確な所得金額を計算できないことがあるため、別途集計が必要です。また、移動平均法では取得のたびに計算するため、取引ごとの履歴が必要です。
まとめ
総平均法と移動平均法は、暗号資産の1単位あたりの取得価額を求めるための2つの方法です。最終的にすべて売却した時点で比べると所得金額の合計は同じですが、年ごとの所得金額と税額は変わります。
- 届出をしなければ総平均法で計算する
- 移動平均法を使うなら、初めて取得した年分などの確定申告期限までに届け出る
- 変更するときは、変更しようとする年の3月15日までに変更承認申請書を提出する
- 2028年からの適用が見込まれる申告分離課税の導入後の取得価額の計算や届出は、今後の政省令や国税庁の公表資料も確認する
自分がどちらの方法で計算しているのかを確認し、その方法で年末までに一度損益を計算しておけば、納税額の見通しを持ったうえで確定申告を迎えられます。確定申告期間は、原則として毎年2月16日から3月15日までです。
参考:国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱い及び計算書について(令和7年12月)」、国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)(令和7年12月)」、国税庁「A1-20 所得税の暗号資産の評価方法の届出手続」「A1-24 所得税の暗号資産の評価方法の変更承認申請手続」
税金計算ツール「クリプタクト」の詳細はこちら関連ガイド
株式会社pafinは暗号資産の損益計算サービス「クリプタクト」を運営するFintechスタートアップです。クリプタクトでは多くの取引所・ブロックチェーンに対応し、暗号資産のポートフォリオ管理から確定申告の準備までをサポートしており、税理士をはじめとする専門家にも利用されています。
平成4年、東京国税局に入局。税務署や国税局において国税徴収業務等に従事し、特別国税徴収官を務める。また、法務省租税訟務課での勤務も経験する。平成29年7月、長年勤務した国税の職場を離れ、税理士として独立。東京都国立市に「たまらん坂税理士法人」を設立し、代表社員に就任する。
暗号資産が一般に広く知られる以前から、その税務上の問題に着目。暗号資産の所得計算、確定申告、税務調査、法人税務、相続税務など、幅広い分野で専門的な実務に取り組んできた。特に、複雑な暗号資産取引に関する税務判断や、国税当局との折衝を伴う税務調査対応を得意とする。
現在は税務実務に加え、税理士会、弁護士会、企業等での研修講師を多数務めるほか、専門書の執筆、経済誌への寄稿、メディア取材・記事監修などを通じて、暗号資産税務の正しい知識の普及に力を注いでいる。
主な著書:『超基本から学ぶステーブルコインの税務』(第一法規)/『重要キーワードで読み解く 暗号資産・NFTの分かる税理士になる』(税務経理協会)/『士業のための暗号資産案件対応マニュアル』(税務経理協会)
主な活動:税理士・弁護士向けの専門研修、暗号資産関連企業との連携、経済誌への寄稿、暗号資産税務に関する記事監修など。東京地方税理士会立川支部の綱紀監察部長として、税理士制度の信頼性確保にも携わる。専門分野での活動の一方、ボランティア活動にも取り組み、社会とのつながりを大切にしている。
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