コンコーディアム設立者、Solidity House落合氏と特別対談  レイヤー1にプライバシー重視のID管理を融合

コンコーディアム会長Christensen氏と落合渉悟氏

2023年5月、規制準拠を可能にするブロックチェーンを提供する 「コンコーディアム」ブロックチェーンの設立者であり、暗号資産(仮想通貨)関連企業の集積地「クリプトバレー」と呼ばれるスイス・ツーク州に拠点を置くConcordium財団会長のLars Seier Christensen氏が来日。ブロックチェーンエンジニアの落合渉悟氏との対談が実現した。

対談では、コンコーディアムがデジタルID(アイデンティティ)管理機能を通じて伝統的な金融とブロックチェーン技術をどのように統合するかというビジョンが焦点となった。

Christensen氏によれば、伝統的な金融セクターには多くの非効率性が存在し、大幅な改善の余地がある。その一方で、分散型金融(DeFi)には匿名性やマネーロンダリング、テロ資金調達への懸念が常について回る。

そんな中でコンコーディアムは、ブロックチェーン基盤にIDレイヤーを導入することで、これらの問題に取り組んでいる。IDレイヤーにより、利用者の身元証明とその管理が可能となり、通常の金融システムが抱える多くの問題が解決するとChristensen氏は主張する。さらに、同氏は規制当局からの圧力が高まるDeFi(分散型金融)プロジェクトにとって、このようなIDマネジメントシステムが必須になるとの見解を示した。

Christensen氏はデンマークでオンライン銀行「サクソバンク(Saxo Bank)」を共同設立し、CEOを20年間務めた経歴を持つ。そして2018年にコンコーディアムプロジェクトを始動し、デンマークのオーフス大学にコンコーディアム・ブロックチェーン・リサーチセンター(COBRA)を設立。専門家チームと共にプロトコルの開発を行っている。

対談相手の落合渉悟氏は、佐賀県にSolidity言語と高いリテラシーを持つエンジニアを育成するためのブートキャンプ施設Solidity Houseを運営。ブロックチェーン開発者・研究者として、公共のDAO(分散型自律組織)を実現するために活動している。スマートコントラクトと法規制に関する深い知見を持ち、パブリックチェーンの社会的実用化に向けた取り組みを日本のブロックチェーン開発者コミュニティを指導しながら進めている。

この対談を通じて、コンコーディアムのIDマネジメント機能により、イーサリアムなど他のレイヤー1ブロックチェーンとどのような差別化が生じるのか。そしてそれが規制当局に準拠するエンタープライズのニーズにどのように対応するのかについて、エキスパートからの見解を得ることができた。

コンコーディアムについて

コンコーディアム(Concordium)は、パーミッションレスのレイヤー1ブロックチェーン。開発者や企業は、このシステム上でスマートコントラクトを利用し、様々な分散型アプリ(Dapps)を構築できる。

コンコーディアムの目指すところは、伝統的な金融業界と新しい技術を融合させ、ブロックチェーンの潜在能力と法的コンプライアンス要件を調和させる新しい金融の形を創出することだ。

IDレイヤーとゼロ知識証明により、プライバシーと説明責任のバランスをとるように設計されている。IDレイヤーにより、コンコーディアムを利用するのは、本人確認を提供する意志があるユーザーだけに限定される。

これにより、ユーザーが識別可能となり、すべての取引の来歴を追跡することが可能。コンコーディアムは世界の規制当局のニーズを満たすことができる。

例えば、Web3 IDウォレットを介して、Dappsからユーザーへ年齢や居住地域などの属性に関する質問を送ることが可能となる。ユーザーは、公開する情報を必要な範囲に限定しながら、ゼロ知識証明に基づいて自身の身分を証明できる。

Christensen氏は「ユーザーが自分自身のIDを管理できるようにするのが我々の目標だ。ユーザーは自身のIDのどの部分を、どのタイミングで公開するかを自由に選択できる」と語った。

このアプローチにより、ユーザーは他者に対して自分自身が信用できる存在であることを証明できる。この原則は、コンコーディアムの哲学の核心であり、Christensen氏は今後のプロジェクトにおいてこれが重要な要素となると信じている。

Christensen氏は、「もしもそれが金融サービスであり、金融資産の取引を伴うものであれば、規制当局が介入するのは避けられないだろう。規制当局の目指すゴールは、消費者保護、自己資本の充実、そしてマネーロンダリングやテロ資金に対する防御策の確立と同意したことを実際に実行に移せるかどうかだ」と語った。

法抑止力を備えたスマートコントラクト

さらに、Christensen氏は企業による個人情報管理に対する懸念を明らかにしている。大手テクノロジープラットフォームにIDを渡す現状は、IDのマネタイズや保護の問題をはらんでいると指摘した。

コンコーディアムが提供するゼロ知識証明と組み合わせた自己主権IDの導入により、ユーザーは自身の情報を必要な範囲に限定して証明することが可能となる。

ゼロ知識証明とは

ゼロ知識証明とは、証明(Proof)プロトコルの一種であり、証明者が「自身の主張は真実である」以外の情報を検証者に開示することなく、その主張が「真実である」と証明するメカニズム。

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例えば、18歳以上であることを証明する際に、ユーザーは住所や社会保障番号を公開することなく、年齢だけを証明できる。このようにして、不要なトラブルに巻き込まれるリスクが排除されると、Christensen氏は説明した。

一方、落合氏は、コンコーディアムが非常にユニークなインフラストラクチャーであると評価。スマートコントラクト・レイヤーを利用し、企業や政府機関など法的な力を持つ組織(法人)と、中央の管理者がいないシステム(トラストレス・システム)を組み合わせる可能性があると指摘した。

「IDリボーキングによる法抑止力」のようなトラストレスなスマートコントラクトパーツを取り入れることにより、市場原理と法の強制力の両方を持つアプリケーションの実行が可能になるという。

実際に、コンコーディアムには法執行機能も備えており、不適切な行動を取ったアカウントは法的措置によりプライバシーが解除され、所有者が特定されるというメカニズムを持つ。

「アノニマス(プライバシー)リボーカー」という機能は、規制当局が発動できるID開示メカニズムだ。ただし、規制当局がユーザーIDの開示を要求するには、裁判所の命令が必要となる。

これらの機能により、ユーザーを騙そうとするノードはアイデンティティを開示され、市場原理に基づいた罰を受けるだけでなく、法的な罰も科される可能性がある。落合氏は、これらの抑止力がコンコーディアムのスマートコントラクトが他のプラットフォームと一線を画す独特な特徴であると評価している。

通常のイーサリアムのスマートコントラクトはマーケット・インセンティブしかありませんが、コンコーディアムはマーケットと法の強制力を備えています。コンコーディアムのスマートコントラクトの特徴は、クリプト経済の中に、市場原理の他に、法執行や法律の原理のようなものがあることです。

コンコーディアムのユースケース

エンタープライズにおける具体的なユースケースを探ると、Christensen氏は、現在、自動車やESGカーボンクレジットの分野で、多くの企業がコンコーディアムに興味を示しているという。

その中でもLars氏は、特に興味深いユースケースとしてデンマークの電力網を取り上げた。同国は、全国の電力を送電システムオペレーター(TSO)によって制御し、電力を1時間単位で売却している。そして、どの生産源からの電力かを記録する方法を求める中で、コンコーディアムを採用している。

デンマークの電力網が完全に実装されると、その規模は約310億円、年間登録数は約800件で、データ量は膨大になる。このユースケースはデンマークだけの話だが、規模が大きい日本ではその20倍になる可能性がある。

デンマークのグリッド会社は、このソリューションを他のヨーロッパのグリッドオペレーターに販売することを目指しており、既にこのシステムの採用を約束した国が3、4カ国ある。数カ国はデンマークよりも大きな国であると、同氏は加えた。

Rustエンジニアリングの可能性

Christensen氏はかつてSaxo BankのCEOを務めた経験から、ブロックチェーンが重要なインフラの一部となるためには、それが堅牢で安全なプラットフォームでなければならないとの認識を強く持っている。

同氏の経験と洞察は、コンコーディアムのプロジェクトに直接反映されている。具体的には、そのブロックチェーンシステムが、コンセンサス層の上に「ファイナリティ層」という安全性を確保するための特殊な層を持つ構造を採用している。この安全な構造により、システムが不正に利用された場合でも、その影響は最新のブロックに限定され、以前のブロックは保護されるというメカニズムが確立されている。

また、Rustというプログラミング言語を選択し、高い安全性の実現を追及している。Rustは、コンピュータのハードウェアやプロセッサーに直接的にアクセスや操作が可能な言語であり、その高いパフォーマンスと安全性が評価されている。Rustはバグや予期せぬエラーを最小限に抑える特性を有しており、その結果、MicrosoftやGoogle、Amazonなどの主要なIT企業でも広く採用されている。

こうした背景から、落合氏は、コンコーディアムにおいてスマートコントラクト開発だけでなく、プロトコル開発言語としてもRustが利用可能な点を高く評価している。この事実は、ブロックチェーンの基盤技術に直接関わることが可能であることを示しており、コンコーディアルで新たな機能の追加や既存の機能の改善など、ブロックチェーンシステムに対するより大きな影響力を発揮する可能性があるという。

Rustエンジニアの皆さんにとっては、コンコーディアムのコアチームという選択肢は非常に魅力的ですし、スマートコントラクトの開発者として後でプロトコルレイヤーを選べるので非常に良い選択です。非常に豊富なチャンスと機会があると思います。日本のエンジニアの皆さんには、ぜひコンコーディアムに触れてみてくださいと言いたいです。

コンコーディアムのウェブサイト上では、現在募集している職種が公開されている。Christensen氏はまた、新たな助成金プログラムや開発者向け教育プログラムの立ち上げを通じて、開発者支援に全力を注いでいると語っている。

この取り組みの一部として、彼は他のブロックチェーンからコンコーディアムへの移行を望む開発者たちへ、スマートコントラクトの書き換えに必要な財源を提供している。また、革新的なアイデアを持つ者たちに対しては、技術的な支援も行っている。

さらに、自己学習が可能なアカデミーや電話によるテクニカルサポートを提供し、開発者に対する仕事の機会を提供するなど、幅広い取り組みを進めていると同氏は語った。

対談の終わりに、Christensen氏は2023年の夏に日本でハッカソンを開催予定であることを明かした。これに対し、落合氏は次のように述べた。

Rustの経験はまだ少ないけれど、スマートコントラクトに興味を抱いている開発者はきっとたくさんいるでしょう。私自身もそうです。Rustでのスマートコントラクト開発経験はそれほどありませんが、その領域に新たな視点をもたらす開発者なら、コンコーディアムのスマートコントラクトにおける新たな原理や、法的強制力を持つ匿名性リボーカーシステムの革新性に気付くはずだと考えています。

落合氏はまた、新しいタイプのDeFiプロトコルやソーシャルdAppsの制作に焦点を当てたハッカソンを、佐賀県にある自身が運営するSolidity Houseでも開催したいという意欲を示した。

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用
「仮想通貨」とは「暗号資産」のことを指します

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