ウォール街大手Fidelityが「仮想通貨関連会社の設立」を発表|機関投資家参入の窓口へ
- Fidelityが機関投資家向けの仮想通貨サービス提供へ
- 世界最大級の金融サービスプロバイダーFidelity Investmentsが、米時間10月15日に、新会社Fidelity Digital Asset Servicesを設立したことを発表した。同社は、機関投資家向けの仮想通貨取引プラットフォーム、仮想通貨カストディ、24時間の顧客対応を実現させると明らかにしている。
- 市場への影響
- 仮想通貨カストディサービスの欠如が、多くの機関投資家を仮想通貨市場から遠ざけていた。Coinbaseカストディ部門責任者McIngvale氏も、カストディの充実により2兆円近い資金流入を見込めると主張していた。よってFidelityのカストディサービスの提供によって、機関投資家からの大きな資金流入が期待されている。
- フィデリティ・インベストメンツとは
- 米大手の投資信託販売・運用会社。オープンエンド型投資信託のミューチュアル・ファンドだけで300以上の基金を持ち、2,500万人以上の投資家との取引がある。推定運用資産額は2017年時点で、2.4兆ドル(約264兆円)。
Fidelityが仮想通貨業界に参入
10月15日に、多様な金融サービスを提供する世界最大級の金融企業Fidelity Investmentsが、機関投資家への仮想通貨取引(トレーディングデスク)および、仮想通貨管理(カストディ)サービスの提供に向け、新規関連会社Fidelity Digital Asset Servicesを設立したことがcnbcや forbesの報道で明らかになった。
これにより、ウォール・ストリートの大企業が、カストディサービスと、トレーディングデスクを出すこと動きにつながる。
Fidelity Investmentsは、70年以上の歴史を持ち、2700万以上の顧客の7.2兆ドル(約800兆円)相当の資産を管理し、世界5大金融サービスプロバイダーの1つとして知られている。
同社を1946年に創設したEdward C. Johnson氏の「群衆に流されるより、賢明なリスクを取ることを選べ」という言葉通り、過去にも様々な先見的な取り組みを率先して行ってきており、現在も、ブロックチェーン技術や人工知能(AI)、仮想現実(VR)などの最先端技術の研究開発に年間25億ドル(約2800億円)以上を投じている。
そして、今回設立されたFidelity Digital Asset Servicesは、ボストンに基盤を置き、100人ほどの従業員で構成。現在は、最初の顧客を迎えるための準備段階にあると考えられており、その本格的な公開は2019年初頭になると記述された。
同社が今回展開する予定となる仮想通貨関連サービスは以下の3点だ。
- 仮想通貨取引プラットフォーム(トレーディングデスク)
- 機関投資家基準のカストディ
- ノンストップでの機関投資家向けアドバイス対応
特に注目されているのが、そのカストディサービスと仮想通貨取引プラットフォーム(トレーディングデスク)だ。
カストディサービスは、保有する資産を物理的に金庫に格納し、世界中の複数拠点に分散して格納すると記述されている。
ハッキングなどの被害から顧客の預り資産を守るために、ソフトウェアベースで高いセキュリティを保つのはもちろんのこと、物理的にも策を講じることで更に安全性が高まると言及された。
特に機関投資家にとって、投資のリスク以上に懸念されている問題が保有面でのリスクであり、大手機関のカストディは市場を変化させる重要な動きとして注目が集まっている。
仮想通貨取引プラットフォームに関しては、取引所を新規開設するのではなく、既存取引所と提携し、あくまでも、Fidelity Investmentsの顧客と既存取引所を繋ぐパイプライン的な役割を果たすとされている。
そのプラットフォームは現段階で、ヘッジファンドやファミリーオフィスを対象としており、一般投資家は対象となっていない。そして、24時間動き続ける仮想通貨市場に対応するため、ノンストップでの顧客対応も行うことが明らかになっている。
Fidelity InvestmentsのCEOを務めるAbigail Johnson氏は、プレスリリースにて以下のようにコメントした。
「私たちの目標は、ビットコインのようなデジタル資産に投資家が容易にアクセスできるような環境を作ることです。よって、今後も長期目線で投資や実験を重ね、顧客がこの新興資産を容易に理解し、使用できるようにしようと思っています。」
カストディサービスは極めて重要
米大手仮想通貨投資企業「Galaxy Digital」のCEOであるMichael Novogratz氏は同カンファレンス後、 ブルームバーグの取材 を受けて、今回Fidelity社の仮想通貨市場への本格的参入の重要性を語った。
まず、カストディサービスについてこのように語った。
機関投資家が仮想通貨市場に入る上で、第一関門となるのはカストディだ。Fidelityが提供するカストディソリューションズがこれを保証するため、機関投資家は安心して投資できるようになる。
また、Fidelityが設立する新たな仮想通貨企業は、Bakkt(NYSEの姉妹会社)のように、信頼されているウォール街の企業であるため、機関投資家は資金を投入しやすくなるはずだ。今すでにハーバード大学やイエール大学などの著名大学が仮想通貨ファンドに投資し始めているので、仮想通貨が安全な「アセットクラス」であることが徐々に普及していき、機関投資家も段々と入ってくると思う。
まずFidelityの新企業は来年のQ1に開業され、およそQ2からは機関投資家が参加してくるだろう。
そして、同CEOは法的規制と今後の相場に関してこのように言及した。
以前、SECがビットコインが証券に該当しないと明言したので、Fidelityはまずそれにおいてはクリアした。それ以外の規制明確化は今後時間とともに進んでいくと思われるが、進捗は早くはないだろう。
なお、機関投資家の参加が普及する上で、まずビットコインは6800ドルの水準を上回る必要がある。年末までに1万ドルを突破することはないだろうが、来年Q1、Q2あたりに新たな高値を記録すれば、状況も変わってくると思う。
さらに、インタビューでもCEOのNovogratz氏はGalaxy DigitalがFidelityの仮想通貨企業『Fidelity Digital Assets』のカストディクライアント第一号となると言及したが、その後同CEOは自身のツイッターにてそれを公式発表した。
これにより、この業界のトップであるGalaxy Digitalがリードし、今後も同業界の企業だけでなく、機関投資家の参入が期待できると言えるだろう。
市場への影響
既に、Coinbaseや、Gemni、BitGo、Ledger、ItBitなどのようにカストディサービスを提供している仮想通貨関連企業も存在している。
しかし既存の大手金融機関となる、日本の野村ホールディングスや、ゴールドマンサックス、Northern Trustなどの世界的に影響力のある金融機関もカストディサービスの提供に向け、取り組みを進めているとされているが、未だ提供には至っていない。
過去にBitGoのCEOを務めるMike Belshe氏も、「仮想通貨市場に不足している唯一のものがカストディサービスであり、その不足が機関投資家を仮想通貨市場から遠ざけている」と言及していた。
Mt.Goxや、Coincheckなどの複数の仮想通貨取引所が過去にハッキングを受けてきたことを考慮しても、カストディサービスの必要性は明白であり、その対象として注目されるのが上記でも記載した「保有リスク」を問題視する機関投資家や大口投資家だ。
Fidelity Digital Asset ServicesのCEOを務めるTom Jessop氏は、以下のようにコメントした。
「機関投資家に求められていて、私たちFidelityのような企業にしか提供できないものがあります。私たちは、Fidelityの他事業で使用されている技術を同事業で再利用できるのです。つまり、この大企業の全てのリソースを活用することができます。」
そして、Coinbaseのカストディプロジェクト責任者であるSam McIngvale氏は、カストディサービスの充実により、約2兆円近い資金流入が見込めると主張している。
実際、既に13,000ほどの機関投資家顧客を有しており、Fidelityのような歴史や信頼性のある世界最大級の企業が仮想通貨カストディに参入することで、今後機関投資家からの資金流入が飛躍的に高まることが期待されている。
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「仮想通貨」とは「暗号資産」のことを指します