EUイノベーションハブ報告書、匿名銘柄や仮想通貨ミキサーで犯罪捜査が困難に ゼロ知識証明とレイヤー2ソリューションの普及にも懸念
初の暗号化レポート
欧州連合(EU)域内安全保障イノベーションハブ(以下、EUイノベーションハブと表記)は、初の暗号化レポートを公開。暗号資産(仮想通貨)に関するセクションでは、犯罪収益のマネロンに仮想通貨が広く使用されていると指摘し、ゼロ知識証明とレイヤー2ソリューションが普及すると、資金の追跡がより困難になると懸念を表明した。
EUイノベーションハブは、欧州刑事警察機構(ユーロポール)や欧州司法機構(ユーロジャスト)をはじめとする欧州連合の機関と加盟国のメンバーが参加するイニシアチブ。最新のイノベーションに関する情報と効果的なソリューションを提供するイノベーションラボを統合する共同ネットワークだ。
レポートは、犯罪捜査・訴追を可能にしつつ、市民のプライバシーや権利を保護するためのバランスの取れた解決策を見出すため、暗号技術を使用する様々なテクノロジーについて検証している。
マイニングと犯罪
レポートはまず、様々な形態のマイニングが異なる犯罪者を惹きつけていると指摘した。
その一つの例が、マイニングファームの利用で、犯罪の収益をマイニング機器購入に当てたり、資金が合法的に獲得されたように見せかけるという手法がある。またマイニングによる利益がもたらされることもある。
他者のコンピューターの帯域幅や処理能力を悪用するボットネットマイニング・クリプトジャッキングは、5年以上に渡り観測されているという。
さらにプールマイニングへの参加を呼びかける出資金詐欺も横行しており、数億ユーロの被害が発生した。
ブロックチェーンの可視化を阻害
レポートは仮想通貨の取引やデータの大部分はブロックチェーンで公開されている一方で、(匿名性を持つ)プライバシーコインと呼ばれる一部の仮想通貨ではそのような可視性が隠されていると指摘。例としてモネロ(XMR)、Zキャッシュ(ZEC)、グリン(GRIN)、ダッシュ(DASH)を取り上げた。
また、プライベートなトランザクションを可能にするものとして、ライトコイン(LTC)でオプション機能として実装されているMimblewimbleに言及。
Mimblewimbleはマルチ署名モデルを使用し、複数の入力と出力をブロックにまとめることで、すべての取引当事者の集約を可能にするため、トランザクションの合計のみを検証すれば良くなる。そのため、個々のアドレスと金額が紐づけられなくなる。
さらに、ゼロ知識証明とレイヤー2ソリューションにより、トランザクションデータの一部を公開することなく、取引実行が可能になる。ゼロ知識証明によって情報を公開せずに、検証が可能になるためだ。(Zキャッシュで使用)
そのほかに、ゼロ知識証明を利用しているのが、仮想通貨ミキサーの「トルネードキャッシュ」で、ユーザーは元の預金額を明かすことなく、ミキサーから資金を引き出すことが可能となっている。
レイヤー2ソリューション
レポートでは「レイヤー2」ソリューションの、最もよく知られた例として、ビットコインのライトニングネットワークに言及。「二者間のマルチ署名支払いチャンネル」が作成されることで、すべての取引ではなく、チャネルの開始と終了のみがブロードキャストされ、速度の向上と支払い手数料の削減につながる。
レイヤー2(L2)
レイヤー2とは、「2層目」のブロックチェーンのこと。全ての取引履歴をメインチェーンに書き込むと負荷が大きくなり、処理速度の低下やネットワーク手数料の高騰につながる。そこで、取引履歴の一部をオフチェーンやサイドチェーンに記載するようにすることでメインチェーンへの負荷軽減や処理速度向上を期待することができる。
▶️仮想通貨用語集
法執行機関への影響
法執行機関はほとんどの場合、パブリックブロックチェーンのアドレスを調査するが、上記のような「仮想通貨取引の可視性を不明瞭にすることを目的とした傾向」について批判している。
ミキサーやプライバシーコインは長年にわたり追跡を困難にしてきた。しかし、比較的新しく開発されたMimblewimbleやゼロ知識証明は、仮想通貨のアドレス、残高、取引の可視性を不透明にすることもできる。
また、ライトニングネットワークなどのレイヤー2ソリューションも「犯罪者に悪用される可能性がある」と警告した。
さらにビットコイン改善提案(BIP)3830で、ニーモニックコードによる秘密鍵に加え追加のパスワードが使えるようになったことにより、法執行機関によるウォレットへの合法的なアクセスを困難にする可能性があると指摘した。
新たな規制の発効
欧州では今年段階的に、仮想通貨に関する包括的な規制案「MiCA」が施行される。12月30日にはすべてが発効し、仮想通貨サービスプロバイダーによるプライバシーコインの取り扱いが規制の対象となるため、取引所はプライバシーコインの上場廃止を促されている状況だ。
仮想通貨ミキサーについては、世界の法執行機関から圧力を受けており、トルネードキャッシュの開発者であるアレクセイ・ペルツェフ氏は、今年5月、オランダの裁判所から、12億ドル相当の違法な資金洗浄を助長したとして、懲役5年4ヶ月の刑を言い渡された。
米国連邦検察は4月、ビットコインミキサー「Samourai Wallet」の創設者キオン・ロドリゲス氏とウイリアム・ヒル氏を、「違法なダークウェブ市場から1億ドル以上のマネロン取引を促進した」として、マネーロンダリング共謀の罪で起訴した。
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「仮想通貨」とは「暗号資産」のことを指します