日本IBM、3つのブロックチェーン活用事例が本格運用段階へ
- ブロックチェーンの本格活用事例について
- 「Japan Blockchain Conference YOKOHAMA Round 2019」で日本IBM株式会社:髙田充康 事業部長が登壇し、現在のブロックチェーンの本格活用事例について言及。実証実験段階から本格運用にシフトしていることを説明した。
ブロックチェーンの本格活用事例について
ブロックチェーンといえば仮想通貨をイメージしたり、あるいはブロックチェーンを研究されている方でも実証実験レベルに留まっているというイメージが強いと思う。
去年の中頃からブロックチェーンを本格的に業務に適用するような企業やプロジェクトが増加し始めている。
クロスボーダー取引や食の安全管理などのような仮想通貨以外の本格的な需要が商用化されている時代に突入していると考えている。
今回のカンファレンスで日本IBM株式会社の事業部長である髙田充康氏が同社の展開する3つの事例を紹介した。
- 国際貿易
- 食の安全
- 貿易金融
また上記3つに関しては、既に本番運用を開始していることを明らかにした。
ブロックチェーン技術は元々、10年前に仮想通貨から始まっている技術であるため、仮想通貨のイメージが非常に強いと高田事業部長は見解を述べた。
IBMは2015年からブロックチェーン事業を開始しており、当時では「フィンテック = ブロックチェーン」という形で金融エリアへでの実証利用を行っていた。
そこから商船へのエリアのような金融業中心としたブロックチェーンプロジェクトが普及している。
しかし、2017年中頃から金融以外でのブロックチェーン利用が増加するのではないかということで、ブロックチェーンの実証利用というのが徐々に始まったと高田氏は言及し、2016年あたりに同社は、金融とそれ以外が9対1の割合だったが、2017年には6対4、2018年での同社が携わったプロジェクトの7割、8割が金融以外であったと述べ、「全産業にまたがってブロックチェーン利用の検討が広がっている」と語った。
ブロックチェーン技術の成熟
ブロックチェーン技術には様々な応用アプリケーションがあるが、最も代表的な例として挙げられるのは仮想通貨、ビットコイン(BTC)だろう。
そのビットコインの誕生から数年後、仮想通貨以外にも色々使用出来るのではないか、さらなる汎用性や複雑な処理の可能性を追求した結果、パブリックネットワークであるイーサリアムが誕生した。
現在はDLT技術を採用する企業が徐々に増えているが、企業で使用する場合には、パブリックネットワークではパフォーマンスやセキュリティー面で充足していないことがあるため、プライベートネットワークを使用するケースが多い。
IBMでは、「The Linux Foundation」と呼ばれるオープンソースを運営する団体があり、その中のHyperLedger Fabricというプロジェクトで、企業向けのブロックチェーン実装を他企業と共にオープンソースで開発している。
現在、事業向けのブロックチェーン技術が成熟し始めているため、本格利用に向けた動きが始動している。
ブロックチェーンの発展は実証実験段階にある企業が圧倒的に多いことが現状だが、実際にはパイロットに利用しているところ、食品のトレーサビリティや貿易金融において、ネットワーク開発へ投資したものを回収するフェーズに突入してきたとも言えるだろう。
ブロックチェーン本格活用の3つの事例
1:国際貿易
まず国際貿易の例で挙げると、一つのチューリップの花をアフリカからヨーロッパに流すだけでも、実際には30もの企業間でやりとりが行われ、100人以上もの人員、200以上もの書類のやりとりが必要となる。
しかしその過程にブロックチェーンを導入することで、関係者が瞬時に全ての情報を共有することが可能となる。
これまで貿易で紙媒体でやりとりをしていたものを全て電子化し、関係者が瞬時に情報を共有するにはブロックチェーンの利用に適しているとIBMは考えている。
多くの関係者が携わっており、情報がバケツリレー方式で伝わっていき、ブロックチェーンを使用すれば電子化されていたものが瞬時に伝わることとなる。
導入企業例として、世界最大の船会社、デンマークの「マースク社」が中心となって、ブロックチェーンネットワークを構築している。このネットワークには既に100社以上加入している状況となっており、1日に100万件のイベントが処理され、これまでの時点で3億件のイベントをブロックチェーン上で処理している。
このように確認すると、ブロックチェーンは実証利用を超えて、国際貿易の分野では頻繁に活用されてきた。
取引の透明化によりコスト削減効果や情報共有プラットフォームを活用し、業務プロセスを効率化していく事例も見られている。
2:食の安全
日本にいると食の安全は実感が薄いと思うが、海外では食に関する様々な問題が発生している。
小売業の最大手企業である「ウォールマート」は、3年前からブロックチェーン技術を活用して中国で豚肉のトレーサビリティを透明化出来ないかと、中国の清華大学と一部の豚肉加工企業と一緒に実験を開始した。
現在は、Food Trustという新たなプラットフォームに発展し、商用化されている段階となっている。
IBM Food Trustでは、トレーサビリティのモジュール、証明書管理、鮮度分析などが行われており、いつ、どこで、誰によって行われたが改竄されることなく記録されている。そのため、食の安全分野においてもブロックチェーン技術は非常に有効だと言えるだろう。
採用事例:マンゴー・スライス
また分散台帳技術をマンゴーの追跡に活用したところ、ブロックチェーンを導入する前では約7日間かかっていたところ、数秒間でトレース(追跡)することが可能となった。
万が一この商品で食中毒が起こった場合、7日間どこから来たものか不明であり、全ての商品を棚から下ろさないといけないことになる。
しかし現在では数秒間でトレースすることが可能となっているため、ピンポイントで該当商品を処理することが可能になったり、被害の拡大を防ぐことが可能となっている。
実際にWalmartは、食中毒が起こりやすい商品に関して、このようなプラットフォームを使用する取引条件を提示しているという。
世界最大の小売業者の業務プロセスの中に、ブロックチェーン技術が既に導入していることが分かる。
髙田氏は以下のようにコメントした。
非競合分野であるFood Trust共通の課題として、このようなプラットフォームを共同運営していく方針することが大事となる。
その一方で、溜まっていくデータに関してどのように活用していくかは競争エリアと考えている。
このように物流のエリア、食のエリア、貿易金融のエリアでブロックチェーンが本格運用しているが、ブロックチェーンの単独利用には限界があると考えている。
ブロックチェーン情報はデジタルに記録されており、改ざんすることは出来ないが、物流のエリアで物理的なモノのすり替えには対応出来ないのが次の課題となっている。
解決策として、モノには必ず光学的特徴があるため、スマホカメラとAIで検知し判断する仕組みや、塩粒程度の世界最小コンピュータにブロックチェーンを組み込み、商品自体が行方不明になっても確実に検知出来る仕組みなども実験しているという。
3:貿易金融
ブロックチェーンの大きな特徴としてスマートコントラクトと分散台帳技術の側面が挙げられる。
しかし企業側が1社でブロックチェーンネットワークを構築し、運営することは、従来通りの分散化された仕組みを使用すれば解決するため、あまり意味がないと高田氏は説明した。
複数の参加者が情報共有し、スマートコントラクトを執行することで、様々な取引の効率化や新たな事業システムを構築する形でブロックチェーン技術が最大限活かされていく。
ブロックチェーンやスマートコントラクトは仮想通貨を右から左に動かすだけではなく、ビジネスにおける様々なプロセスの効率化や新しい価値の誕生に繋がるのではないかとIBMの髙田部長は考えている。
このような現象について高田氏は以下のように語った。
1社の場合でも、グループ企業であったり、海外に多くの拠点を持っていることで非常に複雑なプロセスを動かしている場合にはブロックチェーンは一つの技術になるかもしれない。
基本的には、単一の組織が非常に大きな信用力を持っている場合、その企業が中央のデータベースを持ってAPIを公開し、様々な形でアクセスすれば良い。
一方で、異業種のパートナー企業とコラボレーションしたい場合、クロスボーダーで海外企業と取引をしたい場合、あるいは、競合他社と新しい何かを生み出したい場合は、非競争の分野でも情報を共有することで効率化されることがあるため、情報を共有することでブロックチェーンが活かされていく。/p>
まとめ
上記で紹介した3つの事例で、現状では独立して本格運用している状況となっているが、将来的に全てが繋がることで、よりブロックチェーン・ネットワークを確立された技術にし、普及が進んでいくのではないかと高田氏は考えを示している。
実際に初めから大きなネットワークから入るのではなく、「プロトタイプから始め、実際にユーザーのフィードバックを貰いながら継続的に改善していくことがブロックチェーン・プロジェクトの進め方」と髙田氏は語っていた。
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「仮想通貨」とは「暗号資産」のことを指します