前編で述べたように、起源が同じであり似たような機能を有しているとはいえ、これら三つのプロジェクトはそれぞれ異なった特徴を持っており、それによりメリットやデメリット、さらには適切なユースケースもそれぞれ異なっています。
後編では、ディエムの流れを汲む3つのプロジェクトが、互いにどのように異なっているのかを比較しながら見ていきます。
本記事は2022年9月時点の内容をもとにしていましたが、2026年10月時点でAptosとSuiはメインネットを稼働させ、Lineraは運営を停止するなど状況が大きく変わっています。以下、各チェーンの最新状況を反映して更新しています。
Aptos
三つのプロジェクトの中で、おそらく最も開発が進んでいるであろうプロジェクトが「Aptos」です。「最速かつ最もスケーラブルなL1ブロックチェーンの構築」をモットーに、元Meta社員のMo Shaikh氏およびAvery Ching氏の二人により創始されました。Shaikh氏は2024年12月にCEOを退任し、現在はAvery Ching氏がCEOを務めています。
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Block-STMによる並列処理
Aptosの特徴の一つは、トランザクションの並列処理を可能とする技術に、Block-STM(ソフトウェア・トランザクショナル・メモリを応用した並列計算技法)と呼ばれるエンジンを利用している点です。ブロック内のトランザクションは互いに関連性がないと楽観的に仮定して同時実行し、関連性のあるトランザクションが見つかった場合のみ再実行することで、処理速度を高めています。
Diem BFTによるコンセンサス形成
Aptosでは、PoSに加えて「Aptos BFT」というコンセンサス・メカニズムが採用されています。元々ディエムで開発されていた「Diem BFT」というプロトコルを基盤にしており、ネットワーク参加者のうち3分の1が不正を働いたとしても正常に機能するビザンチン耐性を持ちます。
エコシステム
2026年10月時点でAptosのメインネットは稼働しており、Aptos上で開発されたdAppも多数存在しています。中には、トランザクションの並列処理システムを活用し、他のチェーンでは提供できないサービスを構築しているプロジェクトもあります。
代表例:
2026年10月時点では、BlackRockのトークン化ファンドBUIDLがAptos上に展開されているほか、完全オンチェーンのパーペチュアルDEX「Decibel」が累計取引量85億ドル超を記録するなど、機関投資家向けの資産運用基盤としての存在感を強めています。
トークノミクス
Aptosのネイティブトークン(APT)は、トランザクションおよびネットワーク使用料、ガバナンス投票ならびにPoSを使用したブロックチェーンのセキュリティに利用されます。2026年10月時点では供給成長を抑制する見直しが実施されており、ガス手数料を全額バーンする仕組みにより、トークン保有者にとってのネット収入がプラスになる局面もあります。
2026年10月時点の状況
Aptosのメインネットは2022年10月にローンチ済みです。2026年10月には、並列処理性能を高めるBlock-STM v2がメインネットで有効化されたほか、取引内容を暗号化してフロントランニングを防ぐEncrypted Mempoolが稼働しています。Keyless AccountsやConfidential APTなど、プライバシー関連の機能も順次導入されています。また、スマートコントラクト実行を最大55倍高速化するとされる大型アップグレード「MonoMove」が発表されており、2026年末までに機能完成、2027年にメインネット展開予定です。価格は2026年10月下旬時点でおおむね0.68〜0.83ドル前後で推移しています(最新の価格はCoinMarketCap等でご確認ください)。
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Sui
Aptosと肩を並べて語られることの多いプロジェクトが、Mysten Labsにより開発が進められている「Sui」です。Mysten Labsも、元Meta開発者のEvan Cheng氏、Adeniyi Abiodun氏、Sam Blackshear氏およびGeorge Danezis氏により創始されたプロジェクトです。2026年10月、創業者でCEOを務めていたEvan Cheng氏はCTOに退き、新設のAI事業部門を率いることになりました。後任のCEOにはKevin Boon氏が就任しています。
Aptosと類似している部分も多くありますが、以下の点でAptosおよびその他ディエム系プロジェクトと異なっています。
二種類のトランザクションによる並列処理
Suiの特徴は、トランザクションを二種類に分けて異なる方法で実行することにより並列処理を可能にしている点です。単純な送金など他との関連性が薄いトランザクションはコンセンサス・プロトコルを経由せず即座に完了する一方、DEXでのトレードなど複雑なトランザクションは、NarwhalとBullsharkを組み合わせたDAG基盤のBFTプロトコルを経て実行されます。
Sui Move
Metaで開発されていたMoveをそのまま採用しているAptosに対し、SuiではMoveの改良版を使用しています。
トークノミクス
Suiのネイティブトークン「SUI」の詳細は公開されています。
Mysten Labsによると総発行数は100億SUIで、メインネットローンチ時にはその一部のみが市場に流通する予定だそうです。多くのブロックチェーンと同様にSUIは、資産であると同時に、PoSにおけるステーク、ガス代支払いおよびガバナンス投票に利用されます。
SUIトークノミクスの最も特徴的な点が、ガス代算出方法です。Suiでは、ネットワーク使用量に応じてガス代が急に上昇してしまったり、ガス代の予測が困難であるなど、ユーザーにとって不利な状況にならないように「バリデータが参考価格を提示する」という仕組みを採用しています。
この仕組みにおいては、各エポック(ネットワークにおける時間の一単位)の初めに、バリデータが、「このくらいの価格でトランザクションを処理します」という参考価格を話し合い、それをユーザーへ提示します。しかしそれだけでは、バリデータ同士が協力して法外に高いガス代をユーザーへ提示することが可能になってしまうため、Suiではこれを防ぐために、「最初の話し合いの段階で比較的安いガス代を提示したバリデータは、最終的に他のバリデータよりも多く報酬をもらえる」という仕組みを組み込みました。
これによりバリデータは、闇雲に高いガス代を提示するインセンティブが無くなったため、トランザクション処理に必要なコストはカバーし利益は上げられるものの、ユーザーも過度に高いガス代を払う必要がないというwin-winの関係が出来上がります。
またSuiでは、大容量のデータをチェーン上に保存できるという特徴を最大限活用するために、「ストレージ使用料」も導入しています。ネットワーク上にデータを保存したいユーザーは、ストレージ提供者へ直接ではなく、プロトコルへSUIでデータ保存料を支払うことにより、ストレージを利用できます。プロトコルへ支払われた手数料は、提供したストレージ量に応じて、ストレージ提供者へ報酬として分配されます。
エコシステム
Suiのメインネットは2023年5月にローンチ済みで、DeFiのTVLやアクティブ開発者数ではAptosを上回る規模に成長しています。処理能力の高さを生かし、ゲーム関連に加えてAIエージェント取引やデータプロトコルなどの開発も進んでいます。
代表例:
2026年10月時点の状況
Suiのメインネットは2023年5月にローンチ済みです。オブジェクト中心モデルとMysticetiコンセンサスにより、単純な送金はコンセンサスをスキップする高速パスを活用し、ファイナリティは約390ミリ秒程度とされています。2026年10月には、Samsung WalletがSolanaとSuiを技術基盤に採用し、米国の最大8,200万台のGalaxy端末向けにUSDC転送機能を導入予定であることが発表されました。また、Bitcoinを担保としてSui上で活用できる仕組み「Hashi」が5億ドル超の資本コミットを集め、段階的にメインネット展開を進めています。価格は2026年10月下旬時点でおおむね0.91〜0.94ドル前後で推移し、時価総額はAptosの数倍規模です(最新の価格はCoinMarketCap等でご確認ください)。
Linera
AptosとSuiが本格稼働を遂げた一方、同じディエムの流れを汲むLineraは資金調達の不調によりメインネットへ到達することなく運営を停止しました。ここでは、プロジェクトの概要と停止に至った経緯を解説します。
プロジェクト概要
Lineraは、2022年6月に公式情報が公表された、AptosおよびSuiと同様に元Diemのエンジニアであるマチュー・ボーデ(Mathieu Baudet)氏により創設されたプロジェクトでした。「Linera」という名前は「Linear Scaling(線形スケール)」に由来し、ネットワークに参加するノードの数に比例して処理能力が向上するという考え方を表しています。トランザクションを順々に処理し、ノードの数が増加しても処理速度が変わらないEVM互換チェーン等とは対になる考え方です。
技術的には、Baudet氏がMetaで研究していた高速決済システム「FastPay」に改良を加えた「Zef」というプロトコルを基盤にしていました。AptosおよびSuiがディエム開発の言語Moveおよびその改良版を採用しているのに対し、Lineraは「Rustベースの言語を採用」としか述べられていませんでした。
2026年9月の運営停止
a16z等から計約1,200万ドルを調達していましたが、2026年9月にコミュニティトークンセールが最低調達額(150万ドル)に届かず、緊急資金調達も失敗したことを理由に運営を停止しました。ポイントやコミュニティの記録は保持されるものの、将来的な補償は保証されていません。
比較表(2026年10月時点)
ここまで見てきたAptos・Sui・Lineraの現状を、メインネットの稼働状況や強み、並列処理方式といった主要項目で一覧にまとめます。
主要項目の比較
| 項目 | Aptos | Sui | Linera |
|---|---|---|---|
| メインネット | 稼働中(2022年10月〜) | 稼働中(2023年5月〜) | 未到達・2026年9月に運営停止 |
| 強み | 機関投資家の採用・RWA・プライバシー機能 | 開発者数・DeFi流動性・高速決済 | (開発終了) |
| 並列処理方式 | Block-STM(楽観的実行) | オブジェクト独立性+高速パス | (未実現) |
価格・TVL等の数値は変動が激しいため、最新の確認はCoinMarketCapや各公式サイト、DefiLlama等をご参照ください。
記事執筆時(2022年)の「最も開発が進んでいる」「テストネット段階」という前提は2026年10月時点で大きく変化し、AptosとSuiは本格稼働してそれぞれの強みを伸ばしています。一方Lineraは資金調達の不調により運営を停止しました。



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