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国税庁の「仮想通貨FAQ」改訂について、専門家の税理士が解説|寄稿:泉 絢也

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

*本レポートは、東洋大学法学部准教授・税理士の泉 絢也(@taxlaw17)氏が、CoinPostに寄稿した記事です。

国税庁・暗号資産(仮想通貨)FAQの解説

国税庁は、令和6年12月20日付けで「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」(以下「新FAQ」といいます)を改訂しました。この記事では、改訂された部分について簡単に解説します。

改訂があった項目は次のとおりです。

1-4 暗号資産による寄附を行った場合

1-5 暗号資産の取得価額

2-13 暗号資産の信用取引

3-1-2 暗号資産の譲渡原価

3-1-3 暗号資産の期末時価評価

3-1-4 活発な市場が存在する暗号資産

3-1-5 DEXにおいて取引される暗号資産

3-1-6 ステーキングのためロックアップした暗号資産の期末時価評価

3-1-7 貸付けをした暗号資産の期末時価評価

3-1-8 借入れをした暗号資産の期末時価評価

3-1-11 特定譲渡制限付暗号資産に該当する暗号資産

1-4 暗号資産による寄附を行った場合

新FAQは、暗号資産を認定特定非営利活動法人であるA協会の行う特定非営利活動に係る事業に関連する寄附として、A協会のウォレットに移転し、寄附した場合の取扱いを解説しています。

個人が認定特定非営利活動法人に対し、その行う特定非営利活動に係る事業に関連する寄附をした場合には、所得控除又は税額控除のいずれか有利な方を選択適用できます。

法解釈的にはあまり疑義はありませんでしたが、以前から、金銭ではなく、暗号資産を寄附した場合にも上記の適用があるのかという点を明らかにしてほしい、という要望がありました。

今回、このような要望を受けて、新FAQは、「所得税法上、寄附は金銭(日本円)によるものに限られません。暗号資産の寄附をした場合には、その寄附をした時におけるその暗号資産の価額に相当する金額(時価)が寄附金の額となります。」と明記したものと考えます。

注目すべきは、この場合の暗号資産の時価をどのように算定するかという点に関する記述です。

新FAQは、次のとおり、原則と例外を示すことにより、実務に即した柔軟な対応をとりました。

原則:A協会が保有するウォレットで寄附に係る暗号資産を受領した時のその暗号資産の市場価格である。

例外:取引相場に大きな変動が認められないような場合には、(取引所等の)価格等公表者によって公表されたその受領した日の前日の最終の売買の価格により計算した金額を付することとしても課税上の弊害はない。

上記例外では、「課税上の弊害」というマジックワードが使われています。今後、納税者は、個別の案件において、調査官が「課税上の弊害」があると判断したら上記例外の取扱いは認められないのではないか、そもそも「課税上の弊害」はどのように判断するのか、といった不安にかられる可能性があります。

注意すべきことに、個人が暗号資産をA協会のような法人に寄附した場合には、その暗号資産の含み損益(評価損益)を税金の計算に含める必要があります。

新FAQは、寄附をした個人の事業所得又は雑所得の計算上、その寄附の時における暗号資産の価額(時価)を総収入金額に算入し、その暗号資産の帳簿価額を必要経費に算入することを明らかにしています。

新FAQは、法人税についても同様に、暗号資産の寄附をした場合には、その寄附をした時におけるその暗号資産の価額に相当する金額(時価)が寄附金の額となることなどを明らかにしています。

1-5 暗号資産の取得価額

暗号資産の譲渡損益を計算する場合に取得価額が重要な要素となります。例えば、対価を支払って暗号資産を取得(購入)した場合には、購入時に支払った対価の額(購入手数料その他その暗号資産の購入のために要した費用の額を加算した金額)が取得価額となります。

新FAQは、自己が発行することにより取得した暗号資産については、その発行のために要した費用の額を暗号資産の取得価額とすることを明らかにしました。すでに、令和5年 4月1日以後の取得分から適用されていた改正内容を組み入れたものです。

2-13 暗号資産の信用取引

従来、暗号資産信用取引とは「暗号資産交換業者」から信用の供与を受けて行う暗号資産の売買をいうとされていましたが、新FAQでは、暗号資産交換業者に限定せず「他の者」から信用の供与を受けて行う暗号資産の売買をいうこととされました。

これは、令和5年度税制改正の内容を反映したものです。

3-1-2 暗号資産の譲渡原価

令和5年度及び6年度改正で複雑化した期末時価評価課税の改正に伴う暗号資産の区分に関する説明が追加されました。

現在、法人が暗号資産の譲渡利益や譲渡損失を計算する場合に用いられる1単位当たりの帳簿価額の計算は、移動平均法又は総平均法により算出することとされています。新FAQでは、この算出方法は、暗号資産の種類ごと、かつ、次の区分ごとに選定することとされていることを明らかにしています。

①特定譲渡制限付暗号資産に該当する暗号資産であって自己発行暗号資産に該当しないもの

②特定譲渡制限付暗号資産に該当する暗号資産であって自己発行暗号資産に該当するもの

③特定自己発行暗号資産に該当する暗号資産

④上記以外の暗号資産

各用語の定義は次のとおりです。

用語 定義
特定譲渡制限付暗号資産 譲渡についての制限その他の条件が付されている暗号資産であって、その条件が付されていることにつき適切に公表されるための手続が行われている一定のもの
自己発行暗号資産 内国法人が発行し、かつ、その発行の時から継続して有する暗号資産
特定自己発行暗号資産 自己発行暗号資産であって、発行時から継続して譲渡についての制限その他の条件が付されている一定のもの
市場暗号資産 活発な市場が存在する一定の暗号資産

なお、上記用語の定義からわかるとおり、現在、期末時価評価課税の対象となるか否かを判定する場合には、活発な市場が存在するかという点に加えて、①自己発行か否か、②譲渡制限が付されているか否かがポイントになるということです。

3-1-3 暗号資産の期末時価評価

新FAQ3-1-2と同様に、期末時価評価課税の改正に伴い、次のとおり説明が更新されています。

法人が事業年度終了時に有する暗号資産のうち次のものについては、時価法により、評価した金額をもってその時における評価額とする必要があります。

① 市場暗号資産であって次の暗号資産に該当しないもの

・特定譲渡制限付暗号資産

・特定自己発行暗号資産

② 市場暗号資産に該当する特定譲渡制限付暗号資産(自己発行暗号資産を除きます。)で、その評価の方法につき時価法を選定しているもの

また、上記①と②の暗号資産を自己の計算において有する場合には、その評価額と帳簿価額との差額である評価損益は、その事業年度の益金の額又は損金の額に算入する必要があります。

3-1-4 活発な市場が存在する暗号資産

新FAQ3-1-3と同様に、期末時価評価課税の改正に伴い、次のとおり、活発な市場が存在する暗号資産であっても、期末時価評価課税の対象外となることについての説明が更新されています。

新FAQは、活発な市場が存在する暗号資産であっても、次の暗号資産に該当するものは、期末時価評価の対象とならないことを明らかにしています。

・特定自己発行暗号資産

• 特定譲渡制限付暗号資産で自己発行暗号資産に該当するもの

• 特定譲渡制限付暗号資産(自己発行暗号資産を除きます。)で、その評価の方法につき時価法を選定していないもの

3-1-5 DEXにおいて取引される暗号資産

こちらも同様に、期末時価評価課税の改正を反映したものです。

新FAQは、DEXで取引の対象となる暗号資産が活発な市場が存在するものである場合において、当該法人が自己発行したものではないときは特定自己発行暗号資産に該当せず、また、移転制限も付されていないため特定譲渡制限付暗号資産にも該当しないことになるから、期末時価評価課税の対象となることを明らかにしています。

先ほどご説明したとおり、現在、期末時価評価課税の対象となるか否かを判定する場合には、活発な市場が存在するかという点に加えて、①自己発行か否か、②譲渡制限が付されているか否かがポイントになるということです。

3-1-6 ステーキングのためロックアップした暗号資産の期末時価評価

新FAQ3-1-5と同様に期末時価評価課税の改正内容を反映したものです。暗号資産をロックアップしている場合でも、期末に時価評価し、評価損益を課税の対象としなければならないケースがあることに注意しましょう。

3-1-7 貸付けをした暗号資産の期末時価評価、 3-1-8 借入れをした暗号資産の期末時価評価

いずれも期末時価評価課税の改正内容を反映したものにすぎません。暗号資産を貸し付けた側が、期末に時価評価し、評価損益を課税の対象としなければならないケースがあることに気を付けましょう。

貸し付けた側は、暗号資産ではなく、暗号資産建債権を保有していると構成したとしても、期末時価評価課税を含む暗号資産に係る税制の適用があるのかという議論が残されているように思います。今後、会計でこの点に関するルールが定められた場合、法人税の改正又は取扱いの変更があるかもしれません。

3-1-11 特定譲渡制限付暗号資産に該当する暗号資産

新FAQの中で、実質的に新しく設けられた問です。

問 当社は、当社が有する暗号資産A (当社が発行したものではありません。)について、移転制限が付された暗号資産の情報提供及び公表に関する規則(一般社団法人日本暗号資産取引業協会)並びにこれに関するガイドラインに従って当事業年度中に移転制限を付すとともに、その旨を暗号資産交換業者に通知しましたが、暗号資産Aの種類、数量等の情報が一般社団法人日本暗号資産取引業協会のウェブサイト上で公表されるのは翌事業年度となる見込みです。暗号資産Aには活発な市場がありますが、当事業年度末において時価評価をする必要はありますか。なお、当社は、特定譲渡制限付暗号資産について、評価の方法の選定を行っていません。

上記問に対して、新FAQは「貴社が有する暗号資産Aは、貴社の当事業年度終了の時においては時価評価をする必要はありません。」と回答しています。

活発な市場が存在する暗号資産であっても、次の①と②の要件のいずれにも該当する暗号資産は特定譲渡制限付暗号資産とされます。この特定譲渡制限付暗号資産のうち自己発行暗号資産に該当しないものは、時価法と原価法のうちその法人が選定した方法により評価した金額をもって事業年度終了の時における評価額とすることになります。

① その暗号資産につき、特定条件(一定の移転制限)が付されていること。

② その法人が、その暗号資産につき、暗号資産交換業者が認定資金決済事業者協会(一般社団法人日本暗号資産等取引業協会)を通じて特定条件が付されていることを公表するための一定の手続を行っていること。

新FAQは、移転制限が付されている暗号資産Aは上記①の要件に該当するとしています。

また、事業年度末までに上記②の一定の手続を行っていれば、実際の公表が翌事業年度になったとしても、上記②の要件に該当することになるため、上記②の要件も満たすことを明らかにしています。

これにより、暗号資産Aは特定譲渡制限付暗号資産に該当することになります。

結局、新FAQは、暗号資産Aについて、活発な市場が存在する暗号資産であって、特定譲渡制限付暗号資産に該当し、自己発行暗号資産に該当しないとしたうえで、時価法と原価法のうち法人が選定した方法により評価することになる(上記ケースでは、評価方法の選定を行っていないため、暗号資産Aの評価の方法は原価法となる)ため、期末時価評価の対象とならないことを明らかにしています。

寄稿者:泉絢也Junya IZUMI
東洋大学法学部准教授・税理士。(一社)日本暗号資産ビジネス協会税制部会メンバー、(一社)アコード租税総合研究所研究顧問、租税訴訟学会理事。クリプト税制研究者として、暗号資産・NFTなどの税金に関する研究論文を多数発表し、個別相談、当局への照会、税務調査の案件にも関与。著書に『事例でわかる!NFT・暗号資産の税務』(共著・中央経済社)、「新NFTの教科書―web3時代のビジネスモデルと法律・会計・税務―」(共著・朝日新聞出版)などがある。

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