暗号資産の税制改革
CoinPost株式会社が企画・運営し、一般社団法人WebX実行委員会が主催する国際Web3カンファレンス「WebX」において、『暗号資産の税制改革』をテーマに、特別対談が行われた。
日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)税制検討部会のコアメンバー、自民党議員、専門の大学教授らが一堂に会し、現状の課題と今後の展望について意見を交わした。
この会合では、申告分離課税に向けた現状、譲渡所得としての区分の可能性、そして暗号資産の特殊性を考慮したさらなる環境整備の重要性が共有された。
登壇者概要
- 廣末 紀之(モデレーター):ビットバンク株式会社 代表取締役社長
- 斎藤 岳:株式会社pafin 代表取締役、JCBA アドバイザー兼税制検討部会長
- 竹ケ原 圭吾:コインチェック株式会社 常務執行役員CFO、公認会計士、JCBA税制検討部会副部会長
- 小倉 將信:自民党副幹事長。元内閣府特命担当大臣、元税制調査会 幹事。
- 泉 絢也:東洋大学法学部准教授、税理士、クリプト税制研究者。著書に『事例でわかる!NFT・暗号資産の税務〔第2版〕』(共著)
JCBAの税制改正要望
JCBAは今年7月、「2025年度税制改正要望書」を政府に提出、4つの重要項目を掲げた。
- 個人の暗号資産所得の課税方式変更:現行の雑所得(最大55%)から申告分離課税(一律20%)への移行
- 暗号資産の寄付に関する取り扱いの整理
- 相続税の課題解決
- 暗号資産同士の交換における損益繰り延べ
株式会社pafin代表取締役でJCBAアドバイザー兼税制検討部会長の斎藤岳氏によると、最優先されているのが「1.個人の暗号資産所得」に関する税制改革だ。
東洋大学の泉絢也准教授によれば、現行の雑所得分類では、給与との損益通算や損失の繰り越しができないなどのデメリットが大きい。
斎藤氏はさらに、全ての暗号資産取引を雑所得に分類することに疑念を指摘し、一部を譲渡所得として扱うことも提案していると加えた。
譲渡所得の可能性
譲渡所得は、日本の所得税法第33条で定義される、資産の譲渡から生じる所得を指す。土地や建物、株式などの資産性のあるものが対象で、取得価額と譲渡価額の差額に課税される。また、所有期間が5年を超えるか否かで課税方法が異なる点も特徴的だ。
泉教授は、暗号資産を譲渡所得として扱う余地があると指摘。国税当局の現在の解釈は、資金決済法上の、決済手段の枠組みに基づく。「暗号資産が単なる支払い手段であり、値上がり益が存在しないという考えは、現状と合っていない。投資資産性やガバナンス機能を持つトークンも存在する」と指摘した。
税制改正実現に向けて
自民党の小倉將信副幹事長は、JCBAが提案する税制改革について、実現に向けた3つのポイントを挙げた:
- 理論的根拠:改革の必要性を論理的に説明できること
- 税収予測:改革による税収上のメリットを示すこと
- 国民の理解:暗号資産投資が一般国民の資産形成に貢献することを示すこと
小倉議員はさらに、分離課税と総合課税の違いに言及し、「国が推奨する投資に適合するものが分離課税の対象となる」と指摘。この文脈で、暗号資産投資も資産形成に資するものとして認められる必要があると強調した。
税制を決めるのは与党の税制調査会であり、国会議員であると小倉議員は述べ、一般投資家に対し、地元選出の国会議員の理解を得るために積極的に訴えかけるよう促した。
Coincheckの竹ケ原圭吾CFOは、現行の雑所得分類が納税を促進するインセンティブになっていないと指摘。「分離課税化によって、損益通算や繰り越し控除が可能になれば、納税のインセンティブが高まる」と主張した。
今後の展望
Pafinの斎藤岳氏は、暗号資産ETFの導入に関する懸念について「仮に暗号資産ETFが分離課税扱いになれば、現物を買う人がいなくなり、Web3エコシステムが崩壊する危険性がある」と警鐘を鳴らした。
さらに「税の違いによって、従来の金融業界が暗号資産市場の利益を吸収してしまい、初期から事業投資してきた企業が損をするようなら、今後イノベーションが生まれなくなる」と強調した。
小倉議員は、暗号資産の多面性を考慮した新たな法体系の必要性に言及。暗号資産が資金決済法の枠組みに縛られていることが、あらゆる課題の原因だと指摘した。「決済手段であり、投資対象であり、イノベーションの基盤でもある暗号資産。この多面性を大切にしながら、どう制度的に担保するかが課題だ」と述べた。
同氏はまた、金融庁が業界との対話を開始する方針であることも明かし、事業者や利用者からの積極的な意見提供を求めた。
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