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米国ビットコインETFの売却損益は分離課税に 国税庁の見解と押さえておきたい注意点|寄稿:泉 絢也 照会担当者の税理士が解説

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

*本レポートは、東洋大学法学部准教授・税理士の泉 絢也(@taxlaw17)氏が、CoinPostに寄稿した記事です。

照会と回答の経緯

筆者(泉 絢也)が、日本にお住まいの個人の方(日本の居住者)から委任を受け、「米国ビットコインETFを譲渡した場合の所得は分離課税になるか」という案件について国税庁に照会した結果、2024年12月5日に(国税局経由で)国税庁から「分離課税の対象となる」という口頭回答をいただきました。

正確には、申告期限等の前に「具体的な取引等に係る税務上の取扱い」に関して国税局に文書回答を求める「事前照会に対する文書回答手続」を利用したものの、文書回答の要件を満たさないと判断され、文書での回答は得られませんでした。しかし、口頭での回答が提供されたものです。

国税庁に照会した結果:米国ビットコインETFの売却益は分離課税の対象

照会内容は、次のとおりです。

日本にお住いの個人の方が、米国で組成された暗号資産であるビットコインの現物を運用対象とするETF(上場投資信託)の一銘柄の本件持分(Shares)を米国の証券取引所で購入し、譲渡をした場合に、その譲渡による所得に対して、租税特別措置法37条の11に定める上場株式等に係る譲渡所得等の課税の特例の適用があるか、つまり分離課税の特例の適用があるか。

これに対する国税庁の回答は「適用がある」というものです。

回答の要旨は次のとおりです。

➊本件持分は信託の持分であることを前提とする。

➋法人課税信託に該当するのであれば、その受益権である本件持分は株式又は出資とみなされて、分離課税の対象となる

➌法人課税信託該当性については、以下により判断する。

【1】法人税法2条29号の2で定める信託のいずれか1つにでも該当する。

【2】集団投資信託、退職年金等信託、特定公益信託等に該当しない。

➍【1】について、関係法令の内容やその趣旨を考慮し、本信託は、法人税法2条29号の2で定める信託のうち「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」に該当すると判断される。

➎【2】について、本信託は退職年金等信託や公益信託等には該当しない。また、「信託会社」の意義等に照らしても、合同運用信託にも該当しない。

➏以上から、本件持分は法人課税信託に該当し、その結果、株式又は出資とみなされることになり、米国の証券取引所に上場されているため、その譲渡による所得は分離課税の対象となる。

分離課税は当然じゃない?複雑なETFと税法について国税庁が下した判断の背景

以下、いくつか説明を補足します。

➊本件持分は信託の持分であることを前提とすること

本件持分が信託の持分であるという前提が置かれたことにより、税法上の信託に関する規定の適用があることになります。

税法に詳しくない方の中には「ETFなんだから分離課税は当然だ」、「ETFは投資信託なんだから、その持分が信託の持分となるのは当然だ」とおっしゃる方もいるのですが、本件は、そんなに簡単なことではありません。

一般に、どのような税金がかかるかは、①税法の条文に定められているルール、特に文言に強く縛られます。また、本件では、②ビットコインETFの当事者や持分等の事実関係と法律関係を目論見書やデラウェア州法などから読み解いて、①のルールに照らし合わせて結論を得るという作業が求められます。

①のルールの検討場面では、実際には、投資信託及び投資法人に関する法律(投信法)や信託法など税法以外の法律を確認したり、解釈したりする必要があります。

②の事実関係等の検討場面では、米国ビットコインETFの多くは、ビットコインETFに係る信託の受益権の持分を発行する際にデラウェア州の信託を利用しており、そもそもその信託がどういうものなのか、当事者にはどういう役割、権利や義務があるのかといった点を検討しなければなりません。限られた資料や情報の中で、複雑なビットコインETFの仕組みや法律関係の検討を迫られるという難しさがあります。

この①と②の作業を進めていくと、「米国ビットコインETFの信託は、日本の税法上の信託なのか」と問題にぶつかります。つまり、米国で「trust」とされているものが、日本の信託法上の「信託」に該当するのか、ひいては日本の税法上の「信託」なのか、という問題です。一般に「trust」という英語が「信託」と日本語で訳されているという一般論だけで法律関係を決めつけることはできません。

このように難しい法的論点が立ちはだかるのですが、国税庁は、その回答をするに当たり、「本件持分は信託の持分である」という前提を置くことで、”税法の泥沼”に入り込まずに分離課税という回答に行き着いているのです。

私自身も、国税庁に照会する際に、「ここは検討してもそう簡単に答えがでない」と考えた箇所は、上記のように「前提」を置いてもらうことによって、できる限り早く回答をいただけるよう照会文書の内容を試行錯誤していました。

➋法人課税信託に該当するのであればその受益権である本件持分は株式又は出資とみなされて、分離課税の対象となること

信託税制は難しいのでここで簡単に説明することは難しいのですが、原則として信託の所得は「受益者」に課税されるところ、法人への投資に類似する一定の信託(法人課税信託)については、「受託者」に法人税を課税しています。また、法人課税信託に該当するのであればその受益権である本件持分は株式又は出資とみなされます。

要するに、投資家からすると、投資信託の持分を購入したけど、税法上は法人に対する株式又は出資を持っていることになるということです。

➏本件持分は法人課税信託に該当するため、株式又は出資とみなされることになり、米国の証券取引所に上場されているため、その譲渡による所得は分離課税の対象となること

先ほど述べたとおり、税法上、投資家が保有している本件持分は株式又は出資とみなされるわけですから、米国ビットコインETFのように米国の証券取引所に上場しているものについては、上場株式等になるため、分離課税の対象となるという理屈です。

本件持分を発行している米国ビットコインETFの信託が法人課税信託に該当することの根拠については、上記➌~➎のとおりです。ここにはテクニカルな議論がちりばめられており、上記➊の信託該当性の議論と同様に、本件照会において最大の難所だったと思います。

注意点をチェック!国税庁の回答がそのまま自分に当てはまるとは限らない

今回の国税庁の回答の取扱いについて、いくつか注意点があります。

・文書回答手続やこれに関連する口頭回答は、照会者の申告内容等を拘束するものではありません。

・回答は、照会者が提出した資料および前提とした事実に基づいて行われたものです。異なる事実が認められた場合、今回の回答と異なる結果となる可能性があります。上記➊のとおり、回答は、本件持分が信託の持分であることを前提としていますので、仮に、この前提が崩れた場合には、つまりビットコインETFが日本の税法上の「信託」ではないと判断されるようなことがあった場合には、異なる回答になる可能性があります。他方で、この場合でも、理論構成や適用される規定が変わるだけであり、結論自体は変わらずに分離課税のままとなる可能性もあります。

・「日本に住む個人が外国で組成された暗号資産の現物を対象としたETFを購入し、売却した場合の損益は分離課税の対象となる」と単純に一般化して議論することや、専門家のチェックなしに自己判断して確定申告等することには慎重さが求められます。

・回答は、日本に住んでいる個人が米国で組成されたビットコインの現物を対象としたETFを米国証券取引所で売買できることを認めたり、売買することを推奨したりするものではありません。

今後の議論に影響する可能性も

上記のような注意点はありますが、今回の国税庁の回答は、現在日本でなされている、暗号資産取引から生じた所得を雑所得として最高55%の税率で課税することの是非や分離課税の導入の是非の議論に一定の影響を与える可能性はあるでしょう。特に、日本にいながら、米国の取引所で米国ビットコインETFを売買できるハードルが下がる場合には、国内の暗号資産取引所等から資金が米国市場へと流出する可能性もあるため、注意が必要です。

寄稿者:泉絢也Junya IZUMI
東洋大学法学部准教授・税理士。(一社)日本暗号資産ビジネス協会税制部会メンバー、(一社)アコード租税総合研究所研究顧問、租税訴訟学会理事。クリプト税制研究者として、暗号資産・NFTなどの税金に関する研究論文を多数発表し、個別相談、当局への照会、税務調査の案件にも関与。著書に『事例でわかる!NFT・暗号資産の税務』(共著・中央経済社)、「新NFTの教科書―web3時代のビジネスモデルと法律・会計・税務―」(共著・朝日新聞出版)などがある。

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