FTXと姉妹企業アラメダ、FTT頼りの資金繰りを解明
Alameda ResearchとFTX
暗号資産(仮想通貨)取引所FTXが流動性危機に陥り、ユーザー保護を目的に同業大手バイナンスによる買収に関する基本合意を取り付けたことが9日未明に明らかになった。
しかし、現時点で買収の意向を示した署名に法的な拘束力はなく、まずは数日間の内にバイナンスがFTXの財務・経営状況を詳しくデューデリジェンス(経営・財務状況調査)を実施した上で最終判断することになるため、白紙撤回される可能性も否めない。
また、買収の対象になるのはグローバル事業を展開する「FTX.com」であり、騒動の発端となった姉妹会社Alameda Research(アラメダ・リサーチ)の財務に関する不安は依然として残されている。
この記事では、Alameda Researchの投資企業、オンチェーンデータから確認できる現在の資産保有状況についてまとめていく。
Alameda Researchとは
Alameda Researchは、FTXのサム・バンクマン・フリード(SBF)最高経営責任者(CEO)が、2017年に設立したトレーディング会社。FTXを含む大手取引所で市場に流動性を提供するマーケットメイクだけでなく、数々の有望な仮想通貨・ブロックチェーン企業やプロジェクトに出資してきた。
企業データサイトCrunchbaseに記録された情報だけでも、Alamedaは計185件への投資を行っており、32件のリードインベスターを務めてきた。
主な投資先には、流動性ステーキングのLido Finance(LDO)、ソラナベースのDEX(分散型取引所Serum(SRM)、L1ブロックチェーンのソラナ(SOL)などがある。
Alameda Researchの財務問題
2022年の仮想通貨市場の冬の時代に、Alameda ResearchはFTXと共に破綻した仮想通貨企業の救済措置に積極的に取り組んできた。融資プラットフォームVoyager DigitalやBlockFiなどとの契約の中で、Alamedaは信用供与枠(クレジットファシリティ)を提供してきたが、その資金源がFTTトークンを担保とした借り入れ契約であるとの指摘もある。
米CoinDeskがリークした貸借対照表(B/S)情報によると、6月30日時点でAlameda Researchは146億ドルの資産を保有し、負債は80億ドルとされた。しかし、資産のうち約60億ドルはロック解除されたFTTトークンとレバレッジポジションの担保FTTで構成された。リークされた資産状況のその他の内訳は以下の通りだ。
- その他の仮想通貨:計33.7億ドル(主にSOL。SRM、MAPS、OXYなど)
- 株式:20億ドル
- 現金:1億3,400万ドル
この報道に対し、Alameda ResearchのCaroline Ellison最高経営責任者(CEO)は、B/Sの総資産について約100億ドル過小評価されていると主張した。
しかし、Alamedaの資産は少なからず姉妹会社FTXが発行したトークンに依存しており、現金同等物がほとんどないことからも、価格変動に脆弱な状態となっている。
11月9日にFTTの価値は一時83%下落しており、Alamedaがさらなる流動性危機に直面し、保有する資産の売却やFTT担保融資の債務不履行へと派生する恐れがある。
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Alamedaの投資先と保有資産
実際に、Alamedaの投資先プロジェクトのトークンは、11月9日時点に著しく打撃を受けている。特に、ソラナ経済圏のプロジェクト(SOL、SRM)への影響が顕著だ。
米Coindeskによると、AlamedaはFTTの次にソラナ(SOL)を保有しており、SOL単体で2億9,200万ドル、SOLステーキング プールに8億6,300万ドルをロックしていると伝えられた。これらの混乱から投資家の狼狽売りを招いたのか、ソラナは過去2日で38ドルから22ドルに下落した(執筆時点)。
スイスの投資会社21Sharesが管理するウォレット分析によると、11月9日時点でAlameda Researchは1億3,656万ドル相当の仮想通貨を保有している。なお、以下のデータはイーサリアム(ETH)ネットワーク上のFTXとAlamedaのウォレット保有量を集計した非公式な参考用である。
保有する最大資産は、BitDAOのガバナンストークン(BIT)で3,458万ドル、次いでステーブルコイン(USDC、USDT、TUSD)で約6,000万ドルを占めている。
FTT担保融資
FTXトークン(FTT)は、Alameda Reserachの創設者SBFによって設立されたFTX取引所のネイティブトークン。FTXのユーザーに対して手数料割引などを提供するユーティリティ・トークンとして設計されている。
データサイトMessariによると、FTXは2019年8月、9月、10月の3回にわたってICO(イニシャルコインオファリング)を実施し、FTTのプライベートセールを通じて資金を調達。Alameda Research、Binance、Coinbase Ventures、Paradigmなどが参加した。
FTXの公式サイトによると、FTTの初期供給量は3億5000万FTTに固定され、その69%が投資家に、31%が創設者とFTXプロジェクトに配分された。なお、初期投資家への割り当ては、権利確定までに約3年間のロックアップ期間が設けられた。
Alameda Reserachはこうした「ロックされたFTT」を担保に、姉妹会社FTXから資金を調達してきたと見られている。仮想通貨分析会社CoinMetricsのR&D責任者Lucas Nuzzi氏はオンチェーンデータから、9月28日にICOコントラクトからアンロックされた6,000億円(41.9億ドル)相当の1億7,300万FTTが、即座にAlamedaからコントラクト作成者(FTX)に返送された動きを捉えた。
Nuzzi氏はこれらの経緯から、22年の第2四半期にAlamedaが債務危機に直面したのではないかと推測。当時、ステーブルコインUST(TerraUSD)の崩壊およびテラ(LUNA)ショックの影響で、レンディング大手セルシウスや大手VCのThree Arrows Capital(3AC)などが相次いで連鎖的に経営破綻した。
「9月に権利確定を迎える1億7200万FTTを担保に、FTXから巨額資金を調達して乗り切ったのではないか」と加えた。先ほどのトランザクションはFTTの返済とすると辻褄が合う。
FTXとしてはAlamedaが破綻すると9月に権利確定するFTTトークンも確実に清算されることになる。そのため、水面下でAlamedaに資金を融資しつつ、表では同社と共に仮想通貨事業者の救済にパフォーマンス的に取り組み、資金力をアピールすることでFTTの価格維持を図ったのではないかとNuzzi氏は指摘した。
しかし、このAlameda救済が、「FTXのバランスシートを支払能力がないほど悪化させるきっかけになったように見える」と、Nuzzi氏は個人的見解としてまとめている。
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