自己管理型のハードウェアウォレット、週間売上高が過去最高に

ハードウェアウォレットの売上急増

大手暗号資産(仮想通貨)取引所FTXの破綻により、自身で資産を保管する手段への需要が高まっているようだ。前週末にかけて、Ledger社やTrezor社が製造するハードウェアウォレットの週間売上高が大幅に急増したという。

ハードウェアベースのウォレットは「コールドウォレット」と呼ばれ、仮想通貨の保存、送信、および受信に使用される。利便性に長けたホットウォレットとは異なり、ウォレットの「秘密鍵」をインターネットから隔離された状態で保管するため、ネットを介したハッキング攻撃被害を物理的に遮断できるメリットがある。

Ledger社のPascal Gauthier最高経営責任者(CEO)は、米仮想通貨メディアDecryptに対して以下のように述べている。

先週、Ledger過去最高の売上を記録した。先週日曜に過去最高を記録し、翌月曜日にさらに更新した。明らかに人々は分散化の重要性に立ち戻り、セルフ・カストディの必要性に気付きだしている。

ビットコイン保有者の中では、以前から「Not your keys, not your coins(秘密鍵を持っていないなら、ビットコインの所有権はない)」という格言がある。これは、2014年2月にビットコイン(BTC)取引所「マウントゴックス」の破綻により生まれた教訓でもある。

Gauthier氏は、「この格言は仮想通貨の歴史と同じくらい古いものだが、これほど適切なものはない」と加えた。

マウントゴックスとは

2010年から2014年にかけて運営された、東京を拠点とするビットコイン取引所。ハッキング被害によって閉鎖しており、これをきっかけにして、取引所がハッキングされたり、誤送信などで仮想通貨を失ったりすることを「GOXする(ゴックスする)」と呼ぶ慣習が生まれた。同社が保有する約14万ETCについて債権者への返還手続きが進められている。

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リスクの取り方を再考

Trezor社もまた、Ledger社と同様にセールスが記録的に急増しているという。TrezorのビットコインアナリストJoseph Tetek氏が、「11月7日以降に売上が指数関数的に増加した」とDecryptに対して認めている。

ハードウェアウォレットが普及しなかった背景には、投資家が自分で仮想通貨を管理することで生じる複雑な手間や、秘密鍵や復元可能なシードフレーズの紛失・盗難などのリスクへの懸念があった。

仮想通貨投資の初心者や莫大な資金を扱う機関投資家が、セキュリティや利便性を鑑みて取引サービスプロバイダーに資産を預託する方を好んだとしても想像に難くない。

Tetek氏は「自己保管ウォレットへの関心が高まっていることは歓迎するが、現在の需要の急増がFTXの資金が大量に失われた結果であることは嬉しくない」と複雑な心境を語っている。

11月7日は、市場も半信半疑だったFTXの財務リスクが本格的に危惧された日である。FTXのライバル企業で業界最大手の取引所バイナンスのチャンポン・ジャオ(CZ)CEOが、「最近明らかになった事物」を理由に、保有する21億ドル(3,000億円)相当のFTTを今後全て売却する方針を表明。

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FTXの姉妹会社アラメダ・リサーチを巡る財務懸念の信憑性が高まり、取引所から投資家が資金を引き上げる「バンクラン(取り付け騒ぎ)」が加速した。

その後の調査で、FTXが顧客資産の一部を融資に流用していたことが明らかになったほか、破産申請後に600億円の仮想通貨の不正流出が発覚。こうした事態はCEX全体への信頼失墜となり、バンクランは他の仮想通貨取引所にも伝播している。

仮想通貨市場の多くの著名人が、仮想通貨を自己保管することの重要性を改めて呼びかけている。バイナンスのCZ氏は仮想通貨を自分で管理することの重要性についてツイート。同社が2018年に買収したウェブ・モバイルウォレット「Trust Wallet」の使用を促した。

これを受けて、BNBチェーン基盤のトラストウォレットトークン(TWT)は、1.14ドルから2.75ドルまで2.4倍以上高騰。トラストウォレットトークン(TWT)やSafePal(SFP)など関連銘柄も上昇した。

Trust WalletはMetaMaskと同様にソフトウェアベースのホットウォレットと呼ばれ、デバイスに秘密鍵を暗号化形式で保管し、インターネットに接続して使用する。TrezorやLedgerなどコールドウォレットに比べて使い勝手が良いが、セキュリティ面で難がある。

米仮想通貨取引所クラーケンの共同創業者ジェシー・パウエル氏は「クラーケンを含む取引所で、トレードに必要以上のコインを保管しないようにしてほしい」と主張。LedgerとTrezorを使用するよう促した。

パウエル氏はまた、自己保管型ウォレットと同様にFTX騒動によりトレーディング基盤としての需要が高まっている分散型取引所(DEX)のリスクを指摘。スマートコントラクトの脆弱性が突かれて約50億円が盗まれたThe DAO事件を例示した。

11月8日以降、DEXカテゴリーの総取引量は22年5月のテラ(LUNA)ショック以来最大となる、1.54兆円(110億ドル)規模まで拡大した(DeFillama調べ)。

The DAOとは

参加者の投票によって投資先を決定する非中央集権ファンド。その革新性に注目が集まり、わずか二週間のうちに約150億円を調達したが、稼働後にプログラムの脆弱性を利用した攻撃によって、約50億円が盗まれた(The DAO事件)。

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