デジタル証券の成功事例、先進企業の取り組みと成果 デジタル証券特集⑤
先進企業のデジタル証券活用例
2020年5月1日の金融商品取引法改正及び関連する政省令の改正施行により、デジタル証券の法制度が整備されて以来、従来の金融商品とは異なる新たなアプローチが次々と生まれています。
この記事では、国内におけるデジタル証券の先進的な事例や、企業が実際に取り組んでいる具体的な取り組みに焦点を当て、不動産から社債、ファンマーケティングまでの幅広い分野でデジタル証券が業界にどのような影響を及ぼし、新たな価値を生み出しているのかを詳しくご紹介します。
目次
1.不動産のデジタル証券が先行
デジタル証券市場の主流となっているのは「トークン化有価証券」であり、主には不動産の投資信託受益証券や、社債が中心です。多くは利回りを重視し、償還期間までの保有を前提とする投資商品として扱われています。
中でも、不動産セキュリティトークン(不動産ST)は、デジタル証券の分野で最も先行しています。STO協会の統計(21年4月~23年4月)によれば、不動産STの公募事例は全体(22件)中13件(予定4件)あります。
主な不動産STの発行事例
不動産のトークン化は、ブロックチェーン技術と「特定受益証券発行信託」の組み合わせにより、不動産投資の新しい形を生み出し、より多くの人々に投資の機会を提供しています。野村證券が関与した東京の超高層レジデンスプロジェクトのSTOは、国内最高額となる134億円を調達しました。
2.社債に付加価値を付けるデジタル証券
先ほどのSTO協会の統計(21年4月~23年4月)によれば、社債や株式などの有価証券をデジタル証券(ST)として発行し、資金調達を行う事例は9件存在しています。一般的に、既に電子化されている振替債をSTに移行するインセンティブは単体ではあまりありません。そこで、日本取引所グループ(JPX)「グリーン・デジタル・トラック債」のように、特殊な性質を持つ社債がSTとして発行される事例が増えています。
デジタル債でデータの透明性・適時性を高める
本プロジェクトは日本初のESG債でのST活用となり、環境問題の改善を図るグリーンプロジェクトに活用する資金調達を目的として発行される債券・グリーンボンドと組み合わせてセキュリティトークンを発行しました。
ブロックチェーン技術を活用しつつ、従来のグリーンボンドが抱えていた、発行後のレポーティングの透明性が低いという課題を解決。発電したクリーン電力の量やどれほど二酸化炭素(CO2)削減量のデータを蓄積するなど、資金の使途や成果をリアルタイムで把握可能な点が特徴です。
デジタル証券(ST)により、社債は多様な特徴を持ち、異なるニーズに対応できる柔軟性を示しています。次章では、デジタル証券の分野で活躍する先進企業の取り組みに焦点を当てます。まずは、運用額3兆円を誇る大手資産運用会社のケネディクスの代表的な事例を深堀りします。
3.国内初の公募型不動産STの事例紹介
具体的な事例として、2021年8月に実施された国内初の公募型不動産セキュリティ・トークン「ケネディクス・リアルティ・トークン渋谷神南」の公募概要について紹介いたします。この案件は、株式会社SBI証券と野村證券株式会社が販売を担いました。
ケネディクス・リアルティ・トークン渋谷神南は、再開発の進む渋谷中心地に所在する賃貸住宅への新たな投資機会として考案されました。このファンドは、特に単一の物件に焦点を当てており、それが「手触り感、オーナー感」を提供します。従来のポートフォリオ投資(複数物件)を行うJ-REITと比べると、投資対象の物件が一つのみであるため、何に投資しているのかが非常に明確になります。
主な調達要件:
- 売り出し時期:2021年8月
- 鑑定評価額:27億4,000万円(2021年6月時点)
- トークン価格:1口=1,000,000円
- 売り出し総数:1,453口
- 総調達資金:約14.53億円
- ファンド形態:特定受益証券発行信託
本ファンドの主要な目的は、賃貸物件を担保とし、家賃収入を基にした資金調達です。具体的には、2016年11月に竣工された高スペックの新築分譲マンションが投資の対象となっており、この単一不動産からのキャッシュフローを基に分配金が年2回支払われることが予定されています。
なお、この投資の収益や損失は、上場株式などの所得として税務申告が必要となります。一般口座で購入するため、投資家ご自身での税務申告が求められます。
主な実績:
本案件はファンドの透明性を保つため、運用状況をまとめた開示資料を年2回(1月 / 7月)公開しています。ここで、2023年7月時点の実績を確認しましょう。
- 当初の見込み利益:1口当たり16,767円(年利3.35%)
- 2023年7月の実利益:1口当たり19,134円
- 増加要因:収入の上振れ。他経常費用が想定を下回った。
- 鑑定評価額の増加:30.5億円(2023年7月時点)
- 評価額の要因:土地と建物に基づいて28.8億円と評価された。ただし、最終的な鑑定評価では、収益価格がより説得力を持つとして、この価格は参考程度に留められた。
- トークン価格:1口=1,213,352円
- 備考:2023年7月末日現在、37戸中33戸が稼働。2024年1月期及び2024年7月期については、稼働率(面積ベース)95%を想定。
「ケネディクス・リアルティ・トークン渋谷神南」の2023年7月の鑑定評価額は、前年に比べて増加しており、その主な原因は収入の上振れです。
このファンドでは、投資対象不動産の鑑定評価額に基づく純資産額(NAV)をもとに、定期的に価格が設定され、取扱金融商品取引業者がその価格での売買を許可しています。
一般的に、J-REITや上場株式に比べて、不動産セキュリティトークン(不動産ST)の価格変動は比較的小さいとされています。これは、不動産STの評価が実物不動産の価値に密接に関連しているため、市場の短期的な変動にはあまり影響されにくいという特性があります。
最後に、重要な点として、「ケネディクス・リアルティ・トークン渋谷神南」の運用は、2026年1月までを予定しており、その後の不動産受益権の売却から得られる収益や元本を投資家に返還する計画です。つまり、投資家は2026年1月をメドに資産のリターンを期待することができるということを意味します。
ただし、市況やその他の要因により、アセット・マネージャーの判断で早期売却や運用期間の延長の選択も考慮されています。
4.ファンマーケティング×デジタル証券
近頃のトレンドとして、投資家との関係を深化させる手段として「ファンマーケティング」の考えを取り入れたデジタル証券、特に社債STの発行が注目されています。この方法を活用することで、伝統的な株主優待を現代的にデジタル化し、特典をリアルタイムで付与することが可能となります。この新しいアプローチは、企業と投資家との繋がりをより深くし、マーケティングの新たな道を開拓しています。
日本初の社債ST発行事例は、SBI証券によるもので、その特徴は、税引前利益0.35%の利息に加え、10万円ごとの投資で暗号資産「XRP」が受け取れる点にあります。
主な特典付きSTの発行事例
また、丸井グループもこの波に乗り、セキュリティトークンの発行を行いました。特に、エポスカード会員をターゲットとしたこの取り組みは、若年層から年配層まで多くの世代が参加。投資することで、通常の利益に加えて、エポスポイントも獲得可能となっています。
さらに、この「応援投資」による資金は、貧富の格差が問題となっているインドなどで、マイクロファイナンス機関の資金として利用されています。投資家への利息は1%で、そのうちの0.7%がエポスポイントとして支払われる仕組みです。
カゴメ社も、この流れに乗じ「日本の野菜で健康応援債」というプロジェクトをスタート。年利0.20%と、特典として「つぶより野菜」のジュース1箱が受け取れるという条件で、この社債STを提供しています。
5.UTとの組み合わせでさらなる拡張へ
デジタル証券(ST)は、単なる金銭的報酬を超えて、非代替性トークン(NFT)やユーティリティトークン(UT)を活用した特典提供の方法を探求しています。UTは、特定のサービスやコミュニティへのアクセスを目的としています。
具体的な事例として、ケネディクスが発行した「ケネディクス・リアルティ・トークン湯けむりの宿 雪の花」STを挙げられます。このSTの特典として、新潟県にある「湯けむりの宿 雪の花」での特別体験がUTとして提供されています。
このSTとUTの発行は、株式会社BOOSTRYの「ibet ネットワーク」を通じて行われ、デジタル優待としてモバイルアプリ「ibet ウォレット」で利用可能です。
このような新しい取り組みの背景には、投資家に独自の価値を提供し、同時に投資先の施設やサービスをより身近に感じてもらい、ロイヤルな顧客に育て上げるという戦略があります。
まとめ:デジタル化の時代において、ファンマーケティングとデジタル証券の組み合わせは、企業と投資家の関係を一層強固にし、両者に新たな価値をもたらす可能性を秘めています。
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