暗号資産の税制改正にも言及、自民党の平議員と越智議員が語る「日本のWeb3戦略と展望」|WebX2024
Web3に精通した与党議員が登壇
CoinPost株式会社が企画・運営し、一般社団法人WebX実行委員会が主催する国際Web3カンファレンス「WebX」において28日、『日本のWeb3戦略と展望』というテーマで、自由民主党web3プロジェクトチーム座長の平将明議員と自由民主党 金融調査会幹事長の越智隆雄議員がトークセッションを行った。
日本では自民党のデジタル社会推進本部が2022年1月にweb3プロジェクトチームを設置したが、その中心人物が平将明議員である。SMBC大和証券出身の越智氏は、コインチェックハッキング事件の発生した2018年には内閣府副大臣(経済財政・金融担当)だったという。
本セッションのモデレーターは、日本暗号資産取引業協会(JVCEA)の代表理事で、SBI常務執行役員の小田玄紀氏が務めた。
小田氏は冒頭、(仮想通貨バブルと言われた)2017〜2018年のビットコイン出来高の約50%が日本円だった時代もあった。しかし、2024年現在は日本円の出来高は世界シェアの数%程度しかなく、日本の存在感が薄れつつあると指摘。
「先日には、ドナルド・トランプ前大統領がビットコインで米国を偉大にするなどと政策に暗号資産(仮想通貨)を組み入れる方針を掲げたことが話題になった。このような状況にある中、日本政府として暗号資産をどのように位置付けていくのか?」と問いかけた。
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この点について平議員は「米国では、今年11月の大統領選挙で誰が大統領になるか(トランプかハリスか)まだ分からない。日本でも自民党の総裁選があり誰が総裁になるか分からない、といった状況にある。」と現状を整理。
「以前までは、政策審議会などでも他の議員の理解がなく、Web3関連の提案が通りにくい状況だったのが、最近では『貴方たちの提案であれば通そう』ということで理解を示してくれるようになった。自民党は与党なので、提案が通れば国の政策となる。」と評した。
その一方、「一番のリスクは、時間をかけてようやく執行部から“理解”を得始めた中で、いざ自民党が下野をして野党と政権交代となれば、Web3政策への理解度について議論の厚みが薄くなってしまいかねない。」とし、志半ばで政権交代が起これば、推し進めてきた日本のWeb3政策が後退する可能性について懸念を示した。
次に越智氏は暗号資産(仮想通貨)業界に対する想いについて、「ジェットコースターのように色んな事象が起こる中で、2022年11月のFTX破綻の時には、日本の顧客資産はしっかり保全されたので、地道に制度改正してきた甲斐があった。」と述べた。
その上で、「一方、2024年には500億円規模の流出事案が国内で発生している。世界的に規模が大きくなればなるほどリスクも増えるが、暗号資産(仮想通貨)領域を日本の中でもしっかり伸ばしていきたい。」と前向きな姿勢を示した。
過去2年間の成果
モデレーターの小田氏に、最近の成果を問われた平議員は「国内でスタートアップ企業を作ろうとしても(今時代に最適化されていない)税金問題が重石となって有望な人材や企業が海外に出て行ってしまうという問題が浮き彫りになっていた中で、自民党web3PTとしても掛け合い、自社発行トークンの直評価課税問題は税制改正により解決した。」「さらにその翌年には、他社発行トークンの直評価課税問題も解決した。」と、自民党としての成果を強調した。
残された課題については、「スタートアップが発行するような、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)のようにメジャーでないトークンを企業が保有しているときに、会計監査法人がまともに監査できないという問題が残っている。」と指摘したが、その点においても、金融庁にラウンドテーブルを作ってもらい、四大監査法人らと議論して知見が溜まってきたため、すでに解決しつつあると述べた。
ただ、「個人投資家らの関心の高い暗号資産(仮想通貨)のキャピタルゲイン所得については、依然として日本の税制上、大きなテーマとして残っている。」という認識も示した。
日本では、暗号資産の売買や取引で得た利益は「雑所得」として扱われ、他の所得と合算して総合課税の対象となる。
そのため、所得税と住民税を合わせると最高税率55%にも達する可能性があるほか、株式投資などの他の金融商品との損益通算ができないというデメリットが挙げられる。
さらに、取引履歴の管理や所得計算が極めて複雑であるため、個人投資家の確定申告作業および税理士や税務署の負担が過度に大きくなる弊害も生まれる。
このような日本の暗号資産(仮想通貨)税制は、他の先進国と比較しても非常に不利な税制であり、新興産業の発展にあたり、時代遅れでイノベーションを阻害しているとの指摘も根強い。厳しい税制は、日本のWeb3関連ビジネスの国際競争力低下につながる懸念があるからだ。
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暗号資産税制は変わり得るか
平議員は「現時点で確定的なことは申し上げられない」と前置きしつつ、米国でSEC(証券取引委員会)に承認されたビットコインETF(上場投資信託)が日本でも認められれば流れが変わる可能性はある。世界大手の伝統的なファンドもポートフォリオを形成していると指摘。
「暗号資産は、すでに金融商品として一定の役割・評価がされている。これまでは資金決済の方で規律されてきたが、金融商品の方で規律すべきではないか?という議論はある。ここが整理されると、金融の方に寄って行き、それに合わせた証券並みの分離課税にはなり得る。」とした。
この問題意識は、政府も持っており、自民党の税制調査会(税調)の結論が今年中に出るのか?先送りになるのか?というところにあるという。総裁選で新しい政権の意向も反映され得るとした。
越智議員は「暗号資産の現物は資金決済法、デリバティブ(先物など)は金商法に該当するが、税制については両方とも“総合課税”になっているのが現状であり、株式などと同等の金融商品が適用される“分離課税”にはなっていない。」と言及。
「暗号資産は、税制上も金融としては整理されていない。金融商品に近づけば近づくほど、分離課税としての整理が進んでいく」と説明した。
また、「海外では米国、英国、香港でもビットコインETF(上場投資信託)の上場が始まっているが、日本だと現時点では投資信託に暗号資産の組み入れはできない。」と指摘。
今後議論の必要があり、「暗号資産のETFが国内でも実現されれば、金融商品として分離課税で取引できるようになるかもしれない。そのためには暗号資産の再定義が必要不可欠だ。」との見解を示した。
平議員は、「これまで米SEC(証券取引委員会)は消極的だったから、想定よりも早くビットコイン現物ETF承認されたのは意外だった」と本音を明かし、実際に米当局が承認した現在、日本は対応しなくて良いのか?という課題があり、早晩結論が出るだろうとの認識を示した。
これに対し越智議員は「日本でも金融当局の温度感は、ここ数ヶ月でかなり変わってきた。」と言及。「暗号資産の社会の中での役割や在り方について、腰を据えて議論を進める必要があると金融庁も考え始めているのではないか。」と述べている。
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暗号資産の位置付け
次に小田氏は、日本国内でも暗号資産(仮想通貨)取引所の口座数が“1000万口座”の大台を超えた中で、暗号資産市場をどのように見ていくか?と尋ねた。
越智氏は、“金融”というのは規制・要件が厳しいと説明。「結論から言うと、暗号資産は金融領域に近づいている」とした。
金融の定義については主に3つあるとし、
1つ目は、バランスシートの資産形成に資する、負債サイドで資金調達に資する、あるいはキャッシュフローで資金決済に使われること。
2つ目はリスク管理の観点で、顧客保護の体制が十分に整っているかどうか。
3つ目は、国民生活の利便性向上と、経済の成長に資するかどうか。
を挙げ、「このような切り口で合意形成が取れれば、税制や法体系で社会的な位置付けが再定義されるのではないか。」と説明した。
Web3で特に注目している領域は
平議員は「一周回ってNFT(非代替性トークン)に今注目している。」と言及。
「日本の商品価値の値付けが、世界と比較して(国際競争力が)相対的に弱いという課題がある中で、いろんな体験や日本のIP(知的財産)にNFTを紐付けることによって、グローバル価格に引き直すことができることに高い関心を持っている。」とし、「日本はこれまで経費ばかりデジタル化してきたが、そうでなく、数量×単価の“売上”の方をデジタル化すべき」と提言した。
例えば、Amazonのようなプラットフォームが出てくれば、地域で個人がやっている“モノ作り”が成功すれば世界中の人たちに売れる。個人経営のレストランでも、Instagramでバズれば世界に向けて売れるのが現代であるが、“単価”の部分はNFTの利活用で解決し得るという。
そうなれば、日本はIP(知的財産)の価値に多様性や深みがあるので、爆発的な経済成長に寄与する可能性もある。来年の大阪万博でも上手く展開したいと期待を込めた。
この点について小田氏も同調し、「日本のデジタル赤字が4〜5兆円あるとされる中で、どのように黒字転換するか?というのは大きなキーワード」だと総括した。
平議員は最後に、「Web3に関するモメンタムが日本国内でついて来たのは、自民党web3PTが発足したことと、岸田総理がweb3政策を“国家戦略”に位置付けてくれたことが大きい。」とし、現政権に感謝の意を示した。
その上で、「日本は大陸法なので、イノベーションとレギュレーションの進化が合わずに“失われた30年間”が生まれてしまったという認識だ。AI(人工知能)もそうだが、税制についても技術の進化に合わせて最適化して行きたい。最新の知見のシェアをお願いしたい。」と呼びかけた。
日本の法体系である大陸法は、「やっていいこと」を列挙する傾向があるためだ。英米法では「やってはいけないこと」が明文化され、それ以外は基本的に許容されることでイノベーションが起きやすいとされている。
大陸法の下では、技術の進歩に法規制がなかなか追いつかず、新しいビジネスモデルや技術の導入が遅れる傾向があるというのはかねてからある指摘だ。このミスマッチが、日本の経済成長を鈍化させ、失われた30年間の一因となった可能性がある。
越智議員は、「イノベーションが進む自由度と、経済や個人に対して迷惑がかからないリスク管理のバランスを取りながら、私たちが真ん中に立ちながら、現実的な解決策を決めていき、スピードアップして暗号資産領域を前に進めていきたい」と抱負を語った。
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「仮想通貨」とは「暗号資産」のことを指します