仮想通貨「イーサリアム」を変える2.0構想 ヴィタリック氏に取材敢行

EDCON 2019、Vitalik氏などコア開発者が明かす最新情報
イーサリアム開発者会議にCoinPostも参加。Vitalik氏らはインタビューで、イーサリアムの新たな実用例やPoS移行に関する最新情報、ガバナンスなど様々な質問に答えた。

コア開発者が明かすイーサリアムの最新動向、ロードマップや新たなビジネスユースへの言及も

イーサリアムの開発を支える開発者のための世界大会「EDCON2019」がオーストラリアのシドニーで開催された。

世界中から多くのブロックチェーンエンジニアが集まり、現イーサリアム開発のロードマップ、イーサリアム上で動く様々なプロジェクトがカンファレンスで発表される今大会はイーサリアム開発者にとっては重要なイベントだった。

イーサリアムの創始者であるVitalik氏はもちろんのこと、イーサリアムのコア開発に携わっているEthereum Foundation(EF)も今大会に出席している。今回、そのVitalik氏とEFとのプレスカンファレンスがCoinpostを含むメディア勢との間で実現した。

「EDCON2019」はシドニーの美しい港街で知られるダーリングハーバーで行なわれた。オーストラリアの季節は南半球に位置するため日本とは逆の季節にあり、4月は秋の涼風を感じることができる。Vitalik氏に対し、プレスカンファレンスで最初に発した質問はシドニー滞在についてであり、この点に関して一同がシンガポールと気候が似ていてとても過ごしやすいと答えている。

イーサリアムのロードマップ変更

EDCON初日、Vitalik氏とEFチームがイーサリアムの最新ロードマップを発表した。イーサリアム3.0を構想に入れたCasper CSGが発表され、イーサリアム2.0のフェーズ0で実装されるビーコンチェイン導入などの説明がなされる中、一人の記者の「開発当初とどれくらい計画が変わっていったか」の質問に対してVitalik氏は以下のように回答した。

イーサリアムのロードマップは開発当初と比べると、かなり変更されている。2014年1月からのProof of Stake(PoS)構想は存在したが、再考慮が必要となった。2015年からProof of Stakeの技術的可能性、トレードオフなどの綿密なリサーチがされ、2015年にはブロックチェーンスケーラビリティに関しての論文も発表した。現段階ではそれらの構想がハイレベルな形で達成してると認識している。

Casper FSGやシャーディングを現イーサリアムネットワークの上に実装するなど初期段階の構想から何世代もの進歩を成し遂げていると感じており、開発当初とは比べ物にならないぐらいの変更がなされている。

そして、様々なロードマップ変更がある中でイーサリアムには昨年の弱気相場により多くの人が失望し、開発や投資から離れた傾向があったのは否めないだろう。そこでイーサリアムはどこに向かっていて、もう一度人々がイーサリアムブロックチェーンに再注目する理由について尋ねたところ次のような回答を得た。

イーサリアムだけに限らず、多くのブロックチェーンプロジェクトが価格の暴落によって興味や関心を失ってしまった傾向は確かにあった。イーサリアム開発で言えば、今まで以上に新しい様々なコンセプトがここ数カ月の間に現ネットワーク上に積み重なっていくので、多くのユーザーにとって新しい経験となり、それが関心を引き起こすと考えている。

またEFのデベロッパーであるDanny Ryan氏は、イーサリアムのプロジェクトがEOS、STELLA、TRONなどに流れている傾向に関して危機感があるかについて尋ねたところ、「イーサリアムネットワークのエコシステムは堅く、健全だという評判を多くのハッカー達(技術者)からも評されている理由から危機感はない」と回答した。

またTRON関連で、TRON創設者のJustin Sun氏が、イーサリアムとの開発協力を目指すとの最近の発言に対してのコメントを求めたところ、Vitalik氏とEF一同はJustin Sun氏がそのような発言をしていたことを認知しておらず、「公の場での冗談は控えたい」と述べたうえで、コラボレーションの実現はないとは言いき切ってはないものの、多少なりとも消極的な姿勢を見せていた。

イーサリアムのビジネスユースの展望

仮想通貨の時価総額2位を誇るイーサリアムは通貨価値だけでなく、イーサリアムネットワークが現実のビジネスにどう適用されていくのかにも注目されている。そこでイーサリアムがビジネスにも応用され、その実用性が立証されているビジネスユースが存在しているかを伺ったところ興味深い回答を得た。

人々が今一番関心を集めているのは学会や教育機関でなく、スマートコントラクトを実装した「保険」などが注目を集めており、ビジネスユースとして面白さを感じてる。

スリランカではHurricane Guardというプロジェクトが進行していて、人々にもっともシンプルなスマートコントラクトを「保険」という形で与えている。例えば、「ここで洪水が起こればこの支払いが行われる」、「レートが悪ければ、違うとこで支払われる」などの契約をブロックチェーン上で制定するなど、特定の商品に対して、ブロックチェーンやスマートコントラクトがより簡単に実装でき、今までにないサービスを人々に提供できるようになっていくと考えている。

数多くのビジネスユースを成功させるためには、もちろん国としての協力も欠かせない。

そこでCoinPostは最近Vitalik氏が韓国議員に自身のブロックチェーン技術の可能性の見解を共有した話を例を挙げ、「他にどのような国と見解を分かち合っているか」について尋ねたところ、シンガポール、ロシア、台湾などの国を挙げていた。しかしいずれの国もブロックチェーン技術をどのように実用していくかを模索している段階であることも触れていた。

また、今回EDCONを主催したオーストラリアもコア開発者を含めたコミュニティがどの程度Vitalik氏やEFを技術的に支援しているか尋ねたところ、Danny Ryan氏は「オーストラリアにもレベルの高いチームがコミュニテイにいると感じた」と述べた。しかし仮想通貨の規制に対する意見交換の際に危機感が自分たちより楽観的だったということも付け加えていた。

イーサリアムPOW/POS、またガバナンスへのコメント

以前CoinPostの記事にも触れられたが、Bitmain創設者のJihan Wu氏はイーサリアムに実装されたProgPoW(Program Proof of Work)アルゴリズムに対抗するASICを容易に開発できると述べていた。それに対しコミュニティはどのような対策を講じる必要があるのかを聞いたところVitalik氏は次のように回答した。

現時点ではPoS実装が間近に迫ってることもあり、PoWは長期的なものでなくなるので、あまり大きな問題だとは思っていない。たとえ対抗するASICを開発して数倍の速さの計算能力が出来たとしても、PoS(Proof of Stake)実装により費用が無駄になると思う。

PoS実装に関しては更なる質問が挙げられ、最近発行されたDelphi DigitalのレポートでPoSの報酬が少ないのではないかと指摘されており、「将来的に報酬を挙げる計画があるのか」の質問に対しては次の見解を示した。

Proof of Stakeの報酬はもちろん最終決定しているわけではない。オペレーションコストを計算した時のコストが意外と割高だったのは私たちチームの見落としがあった可能性がある。

私たちはDelphi Digitalのレポートには目を通しており、その評価も真摯に受け止めているが、堅固な結果を得るためにはテストネットが出るのを待ってから実際のコストを鑑み、良いアイディアがあればそれを実装していき、報酬の調整を行なう計画は将来的にあると考えている。

そして、イーサリアムのガバナンスに対しても興味深い質問が飛び交った。

イーサリアムはカンファレンスでも述べた通りいくつもの変更がなされ、アップグレードにより新しい概念も数多く実装されていく。そのような数多い重要な決定はコア開発者のコミュニティを通して行なわれることから、イーサリアムはオフチェーンガバナンスを採用している。

そこでブロックチェーンそのものに重要な影響や変化を与えることになるイーサリアム2.0のメインネット移行に関してオンチェーンガバナンスの採用はコミュニティで討議されたのかについて以下のような回答を得た。

イーサリアムコミュニティで行われる技術的な進歩や変更はすべてコミュニティ(主に開発者)の議論のもと行われている。例えばホームステッド(Homestead)ハードフォークやコンスタンティノープルのアップグレード、また2016年に起こったDOS攻撃によって6日間でハードフォークを余儀なくされた時も、ガバナンスによって妨害されたことはない。

オンチェーンガバナンスはこれらとは相対的に小規模な議論であって、最初のはDAOにおけるチェーンが二つに分割されたこと、二つ目はETHの報酬が5ETH→3ETH→2ETHと2回減少したとき。これはイーサリアム保持者の間で投票が行われたりと、確かにコミュニティに分裂を生じさせるような事例や、それによって膨大なダメージを受ける可能性はある思うが、それらのことが起こるとは現時点では到底考えにくい。

直接的な回答ではなかったが、オンチェーンガバナンスがイーサリアム開発の幾つかのマイルストーンで存在している、という事象は必ずしもこれからもオフチェーンガバナンスであり続けるかは不明だ。

プレスの最後の方ではイーサリアムの開発に一区切りついた場合、どんな職業に就きたいか、とプライベートな質問もあり、それぞれが回答していた。

  • Vitalik氏「ブログライター(ブロガー)を再開したい。」
  • Danny Ryan氏「仮想通貨で購入できるコーヒーショップを営業したい。」
  • Justin Drake氏「私は元々、大工関係の仕事だったので、そちらに戻るか、コンセンサスメカニズムが完成に近づいた時には(10年以上先のことだと思うが)アプリケーションレイヤーでステーブルコインを今よりももっと良いものを趣味として開発したい。」

多忙を極めるVitalik氏にEDCON2019という場で様々な質問をする機会があったのは貴重であり、将来のイーサリアム開発の構想について触れることが出来た。イーサリアム2.0のアップグレードの明確な時期は不明だが着実にEDCON2019で発表されたロードマップが近い将来、現実になろうとしていることは間違いないだろう。

出典:CoinPost撮影

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用
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