暗号資産(仮想通貨)の安全を支える暗号を、量子コンピュータが解読してしまうリスクへの関心が高まっています。量子コンピュータ技術の発展が明らかになるたびに注目度が上がり、ビットコインをはじめとする主要プロジェクトでも対策の議論が本格化しています。
一方で、現時点の量子コンピュータが搭載できる物理量子ビットは最大でも約6,000程度。仮想通貨の暗号解読に必要とされる50万物理量子ビットには大きな開きがあり、実害が生じるまでには長い期間が必要との見方が専門家の間では優勢です。
本記事では、量子コンピュータが仮想通貨にとって脅威になる仕組みの概要と、ビットコイン・イーサリアム・XRP・ソラナ・BNBの主要5銘柄の最新対応動向を一覧でまとめます。
この記事でわかること
量子コンピュータとは(仮想通貨へのリスクと現在地)
量子コンピュータは量子力学の原理を活用し、従来のコンピュータよりもはるかに高い計算能力を実現できると期待される次世代技術です。金融・AI・創薬・物流など広範な分野に応用可能で、日本や米国など各国政府が重要な基盤技術と位置づけています。
ただし「あらゆる作業を速くこなせる万能マシン」ではなく、得意な計算と苦手な計算がある点に注意が必要です。メールの送受信や表計算といった日常業務では従来のコンピュータの方が優れており、量子コンピュータが特に得意とするのは「各種の最適化計算・シミュレーション・暗号の解読」です。
仮想通貨への具体的なリスク
仮想通貨の取引・送金には「秘密鍵による署名」が必要です。この秘密鍵は銀行口座の暗証番号に相当し、絶対に他者に知られてはいけません。
問題は、秘密鍵と対になる「公開鍵」がブロックチェーン上に記録されている点です。公開鍵は従来「秘密鍵を逆算することは現実的に不可能」という前提で公開されてきました。量子コンピュータはこの逆算を可能にする可能性があり、長時間ブロックチェーン上に露出している公開鍵が狙われるリスクが指摘されています。
より詳しい仕組みや、ビットコイン固有のリスク分析については、以下の専用ページをご覧ください。
現在の開発状況と脅威までの距離
2026年3月、Googleは「50万物理量子ビット未満の超電導方式量子コンピュータが、仮想通貨の暗号基盤である楕円曲線離散対数問題(ECDLP-256)を数分で解ける」と発表しました。これが現時点で「仮想通貨にとって脅威となる水準」の一つの目安です。
一方、2026年6月時点で確認できる最大規模の量子コンピュータは約6,000物理量子ビットにとどまります。50万という要件との開きは依然として大きく、実害が生じるには長い開発期間が必要との見方が優勢です。
ただし技術革新の速度は予測困難です。Googleは2021年に「100万物理量子ビットを10年以内に実現する」と目標を示しており、今後数年の動向を継続的に注視する必要があります。
主要5銘柄の動向一覧(2026年6月時点)
各銘柄の対応状況を下表にまとめます。詳細は各セクションで解説します。
| 銘柄 | 移行目標 | 対応状況 | |
|---|---|---|---|
| ビットコイン(BTC) | 未確定 | BIP-360・BIP-361を議論中(草案段階) | 詳細 ↓ |
| イーサリアム(ETH) | 2029年(L1) | 専用PQサイト公開、3フェーズで移行計画中 | 詳細 ↓ |
| BNB | 未確定 | 移行検証レポート公開、本番移行前に課題あり | 詳細 ↓ |
| XRP | 2028年 | 4フェーズのロードマップを発表、最も具体的 | 詳細 ↓ |
| ソラナ(SOL) | 未確定 | Falconを最有力候補に選定、初期実装を公開 | 詳細 ↓ |
銘柄ごとの最新動向
各銘柄のアプローチには特徴があります。以下で順番に確認していきます。
ビットコイン(BTC)
ビットコインでは量子リスク対策の提案が「ビットコイン改善提案(BIP)」として番号管理され、開発者・コミュニティ間で議論が進んでいます。
BIP-360(P2MR)は、ブロックチェーン上に長時間露出する公開鍵への「長期露出攻撃」を防ぐことを主な目的としています。ビットコインに本質的な量子耐性を与えるものではありませんが、最初に狙われやすい攻撃への対策と、将来の解読手法に対する拡張性の確保を両立する設計です。
BIP-361は、5年間の移行期間を設けた上で量子リスクに脆弱な旧来型アドレスを実質的に凍結する提案です。サトシ・ナカモトの保有分も対象に含まれるとされており、特に凍結への反発も多く、今後も議論が続く見通しです。
両提案とも2026年6月時点でドラフト(草案)段階です。ビットコインにはネットワーク参加者全体の合意が必要なため、変更には長い時間を要する傾向があります。
イーサリアム(ETH)
イーサリアムは2026年3月、量子耐性への取り組みをまとめた専用ポータルサイト(pq.ethereum.org)を開設しました。ロードマップ・開発リソース・FAQが一元公開されており、主要銘柄の中でも情報発信の透明性が高い対応として評価されています。
イーサリアム財団の研究者らは「暗号解読可能な量子コンピュータの誕生はすぐには迫っていない」との認識を示しつつも、分散型グローバルプロトコルの移行には数年の準備が必要なため、脅威が到来する前から対応を開始することが重要だと強調しています。
L1プロトコルの対応は2029年までに完了する計画で、以下の3フェーズで進めます。
- 準備とインフラ整備
- 段階的な導入
- プロトコルレベルの導入
特筆すべき点は、量子耐性方式を早期に固定せず「将来的な弱点発見や性能改善に対応できる設計」を優先している点です。性急な移行が新たな脆弱性を生むリスクを意識した慎重な設計方針といえます。実行レイヤーの完全移行には2029年以降もさらに数年を要する見込みです。
BNB
BNBチェーンのプロジェクトは2026年5月、BNBスマートチェーン(BSC)の量子耐性暗号への移行を検証した「BSC耐量子暗号移行レポート」を公開しました。
レポートでは、現時点での量子コンピュータは実運用の暗号を破れる段階にないと明示した上で、今回の検証を「長期的な脅威への先行対応」と位置づけています。標準化された署名アルゴリズム「ML-DSA-44」などを用いた耐量子署名スキームを、BSCのトランザクション層・コンセンサス層に導入できることを実証したとしています。
一方で、ネットワーク層とデータ層のスケーリングが本番導入前の主要課題として残ると明示しており、本番移行の時期や具体的なロードマップは未公表です。
XRP
リップル社は2026年4月、XRPレジャー(XRPL)の耐量子移行計画を発表しました。2028年の完全移行を目標とする、主要5銘柄の中で最も具体的なロードマップです。
計画では「耐量子暗号への移行を進めながら現在のXRPLの強みを維持すること」と「Q-Day(量子コンピュータが既存の暗号を突破する日)が予期せず到来した場合に備えること」の2軸を並行して最適化するとしています。
移行は以下の4フェーズで構成されます。
- 暗号技術が突破された場合の緊急対応策の確保
- 事前の計画策定と実験(2026年前半)
- 開発者向けネットワークで実験(2026年後半)
- 耐量子署名への完全移行(2028年目標)
ソラナ(SOL)

出典:Solana公式サイト
ソラナは2026年4月、公式サイトで量子耐性の準備状況を公開しました。実用化には数年の猶予があるとしながらも、研究と準備は不可欠だとの認識を示しています。
量子耐性署名方式の最有力候補として「Falcon」を選定したことも発表されました。主要開発チームであるアンザとジャンプ・クリプト(Firedancer)が独立して行った研究で同一の結論に至ったことが選定理由で、両チームはFalconの初期実装をすでに公開しています。
今後のロードマップとして、以下3段階のアプローチを示しています。
- 量子コンピュータに関する研究を継続し、Falconおよびその代替案の評価を続ける
- 量子コンピュータが現実的な脅威となった場合、新しいウォレットに耐量子方式を採用する
- 既存のウォレットを、選定された耐量子方式へ移行する
ソラナチームは「量子リスクは新しい脅威ではなく、準備で先行している」と主張しており、今後も情報共有を継続するとしています。
よくある質問
まとめ
量子コンピュータが仮想通貨の暗号を解読できる水準に達するまでには、現時点では長い期間が必要との見方が優勢です。ただし技術革新の速度は予測困難であり、今後数年の動向を引き続き注視する必要があります。
主要5銘柄はいずれも問題を認識し、対策の検討・研究・実装を進めています。特にXRPは2028年完全移行という具体的な目標を示しており、ETHも2029年のL1対応完了を計画しています。
量子リスクへの対応状況は今後も変化します。各プロジェクトの公式発表を定期的に確認しながら、正確な情報に基づいて冷静に備えることが大切です。
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