「2020年は、新生bitFlyerをお見せしたい」三根社長が語る暗号資産事業戦略
bitFlyerインタビュー
コインポストは、今年3月30日付で株式会社bitFlyerの代表取締役に就任した、三根公博氏にインタビューを5月29日に実施。純損失が7.5億円となった2019年度の決算や、約2年ぶりのテレビCM放映を含めた今後のbitFlyerの戦略、三根氏個人としての暗号資産・ブロックチェーン業界に対する思いなどについて訊いた。
代表取締役に就いた三根公博氏は、松井証券やマネックス証券、コインチェックなどで取締役・執行役員を務めてきた人物。コインチェックには、不正流出事件からの建て直しを図っていたタイミングにマネックスから出向する形で執行役員に就任、2019年3月よりbitFlyerの一員となっている。bitFlyerでも当初リスク・コンプライアンス部門を担当するなど、金融規制、コンプライアンスにも長けている。
2019年度決算の位置づけ
ー21億円超の純利益を達成した前年度と対照的に、純損失が7.5億円となった2019年度の決算となりましたが、これからやろうとしていること、あるいはこれまで改革を進めてきた中で、決算をどう位置付けますか?
2018年前半は営業収益が高いレベルに留まり、結果として21億円の純利益を出すことができました。これに対し2019年は市況の影響で大幅な減収となり、またセキュリティのための設備投資、金融機関としてガバナンス・KYC(本人確認)強化のためのコンプライアンスコスト、人材採用強化などのコスト増などの結果、このような業績となりました。
今年は新規通貨としてもXRPとBAT(ベーシックアテンショントークン)を追加しましたが、2020年3月の経営陣の体制変更も経て、「攻めの1年」になると考えています。昨年のコスト増などは、その準備のための先行投資として位置付けています。
なお、bitFlyerは2014年に創業し、7年目に入った企業ですが、利益余剰金は110億円を超えております。今回の赤字決算(7億5000万円)は十分に吸収できる水準で、「潰れる」といったことはないため、ご安心ください。
bitFlyer 取扱いペア一覧
ー資金決済法及び金融商品取引法改正の影響はいかがでしょうか。
影響としては、基本的には、顧客保護の観点がより厳格化されたものと認識しています。 中長期的には、業界として顧客の信頼を得られるものとして、プラスに作用すると考えます。
具体的には、証券会社と同様に、証拠金の分別管理や自己資本比率規制比率の算出に対応して、顧客資産保護を優先して運営しています。
改正法案のパブリックコメントの中には、収益の面からレバレッジ規制によるキャピタルフライト(国外への資本逃避)を心配する向きもあるようですが、今のところ目立った動きは見られず、あまり心配はしていません。
短期的な収益よりは、顧客保護を最優先して安全な取引を提供することで、国内での信頼を勝ち取っていきたいです。
最近は、コロナの影響から、いわゆる「巣籠もり消費」の効果と、昨年12月から開始したeKYCによるスマホで完結する口座開設も可能だったこともあり、収益面でも順調に推移しています。 特に3月12日の相場の暴落では、「逆張り」を行う個人投資家などが多く売買も活発となりました。
また、セキュリティトークン発行による新しい資金調達法であるSTO(Security Token Offering)についても、日本STO協会との情報交換を行い、前向きに検討しているところです。
ー代表取締役に就任された中で、今後のbitFlyerのあり方はどのように見据えていますか。
3月30日に代表取締役に就任しましたが、その直後から在宅勤務となったこともあり、その通知が初めての仕事でした。
実は、現在まで全社員が揃った場所で「リアル」で話ができていません。一方で、コミュニケーションは問題なくできており、オンラインでの全社会議を行い、匿名での質問も受けておりますが、率直な質問にも、全てに回答をしています。
このようにbitFlyerでは「Work From Home(在宅勤務)」体制をとっていますが、在宅勤務体制の中でも、BATの新規取扱(上場)を完了し、さらには金商法改正への対応も乗り切ることができたことで「やれる」との認識が社員にも広がりました。 電話対応のコールセンター業務の全ては在宅ではできないため、100%同じレベルではないですが、セキュリティに配慮したメールによる対応等で、お客様へのサービスレベルの低下を防ぐこともできました。
スタッフには、在宅手当に加え、オカムラ製の椅子やモニター等を自宅に配送するなどの支援を行っています。社員アンケートによると、在宅勤務の満足度は高く、ポジティブな受け止め方がなされているようです。
また、このような体制下でBATのような通貨も上場できたことから、継続して新規通貨の上場についても検討しています。今後もご期待ください。
本年3月時点で日本、アメリカ、EUの3拠点の合計で250万口座を達成しましたが、国際的な戦略としては、日本のサービスを海外拠点に拡充していくという方針です。アメリカ、EUとも口座は順調に伸びています。
暗号資産とブロックチェーンで注目しているポイント
私が注目している業界動向には、CBDC(Central Bank Digital Currency:中央銀行デジタル通貨)やステーブルコインがあります。
CBDCは、どのような形で実装されるか、規制当局や中央銀行でも検討段階でありますが、これが実現された場合、多くの意味で違ってくると思います。
ステーブルコインは、日本の資金決済法上では通貨建て資産とみなすと、はっきりとした判断が示されているので、国内では難しい面もありますが、今後の法解釈や位置付けによって、特に国際間の通貨移動で変わっていく可能性があるのではないか、と注目しています。
ビットコインやイーサリアムが、決済手段として普及しない理由は、使い勝手の悪さではなく、市場価格の変動率(ボラティリティ)が高すぎることであり、実体経済の支払い手段としての安定性がないことにあると、認めざるを得ないです。
その点、ステーブルコインはフィアット(法定通貨)に結びついているので、社会実装としての暗号資産の「一丁目一番地」なのではないか、と個人的には思っています。
bitFlyerの今後の戦略
ー技術領域にまで言及したテレビCMに込めた想いは。
技術領域のCMと理解されたようですが、全体として「先端技術で安心安全」を訴えた面が大きいテレビCMで、特にセキュリティについてCMで伝えたいと考えました。
CMの放映は、一部地域限定ではありますが、2年ぶりとなるCMを再開できたことは大きな前進です。2017年に比べて、規制が厳しくなっていることもありますが、金融機関として顧客の資産を厳正に管理しているという点を、業界全体としてPRしていくことが重要だと考えています。
ー業界やbitFlyerとして発進も増やされていますが、今後の戦略はいかがでしょうか。
現在のスタンスは、「守りから攻めへ」になっています。 前経営陣が「危機管理」にフォーカスし、コンプライアンスやセキュリティを中心とした、しっかりとしたガバナンスによって築いてきた経営基盤の上に、今後は「復興成長」段階と位置付けまして、事業主導で「二階部分」を築いていく体制も整えていきます。もちろんコンプライアンス・セキュリティを中心とした一階は大前提でありまして、この「一階部分の安定性」があるからこそ、攻めのスタンスに挑戦できると考えています。
2020年は、世界にbitFlyerの存在とサービスを認知していただく年だと考えていまして、テレビCMに限らず、様々な手段で発信していきます。 準備しているプロダクトを次々に発表していき、「より洗練された攻め」のbitFlyerをお見せしたいと思います。
現在は、セキュリティやコンプライアンスの面でしっかりとしたルールづくりにおいて、同業他社と協調し、業界全体に対する顧客の信頼を勝ち取り、業界全体のパイを大きくしていく段階だと考えています。
2001年から2006年のネット証券業界でもこのようなルール作りを行なってきましたが、今回もそれと同じだと考えています。その意味で、自主規制団体や様々なメディアとも連携し、積極的に協調していくなど、業界全体を活性化して健全な発展を目指していきます。
ー最後に、コインポスト読者へのメッセージをお願いします。
bitFlyerはこんなもんじゃありません。まだまだ、これからのbitFlyerを楽しみにしていてください。
攻めのbitFlyerは「採用も強化中」
三根公博 代表取締役のもとで攻めの1年を目指すbitFlyerグループでは、共に事業を拡大するメンバーを募集している。
WEBデザインやプロダクトデザインを担うUXエンジニアから、ブロックチェーン活用を軸とした新規事業の創出を支えるコンサルタント/PMまで、幅広い人材の採用を強化している。
「ブロックチェーンで世界を簡単に。」 ブロックチェーン技術の発展に貢献し、よりシンプルで便利な世界の実現を目指すbitFlyerの採用情報は以下のリンクから閲覧できる。
Wantedly:bitFlyerグループ
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