NFTの課税問題について(2)|寄稿 損出しのための譲渡・Giveawayと課税リスク
NFTの課税問題(2)
NFTに関する課税問題について、千葉商科大学准教授で暗号資産(仮想通貨)税制の研究者の泉 絢也氏の寄稿コンテンツを二回に渡ってCoinPostで掲載。
第一回として掲載済の記事では、「①NFTの譲渡による所得は譲渡所得に該当するか」、「②譲渡益は非課税、譲渡損はなかったものとされるか」について。
本稿となる第二回では、「③NFTを譲渡して損失を計上した場合の課税リスク」、「④アーティストが創作したNFTをGiveawayする場合に、アーティストの側に課税が発生するか」に関するコンテンツを掲載する。
はじめに
前回の記事では、保有するNFTを他人に安く譲渡し、損失を計上しようとする動きに対して、意図したとおりに、他の所得と通算したり、利益調整に用いたりするような処理が認められるのか、議論の余地があり、税務署に否認されるリスクも十分あるという見解を示しました。
この点について、個人が「デジタル絵画と結びついているNFT」を贈与(無償で譲渡)又は低額で譲渡する場合を例に、適用されうるオーソドックスな規定との関係を中心に、考察します。NFTを譲り受けた個人は贈与税等の課税関係を検討することになりますが、以下では譲渡した個人の課税関係を考察していることに注意してください。
譲渡所得の場合
まず、「デジタル絵画と結びついているNFT」の譲渡による所得が譲渡所得に該当する場合に注意すべき点です。
(1)収入面の取扱い
個人が法人に対して、NFTを贈与した場合又は譲渡時の時価の2分の1に満たない金額で譲渡した場合は、その時の時価相当額による譲渡があったものとみなして、収入金額を計算します(所得税法59、同法施行令169)。
この取扱いは譲渡の相手方が法人である場合に限られるのですが、いわば、取引に際し、NFTの譲渡の相手方が法人であるのか、個人であるのかという点について確認することを要請するものといえる点に注意が必要です。後で述べるように、相手方が個人である場合には、譲渡損の取扱いに注意を要します。
(2)損失面の取扱い
前回の記事で述べたとおり、「デジタル絵画と結びついているNFT」の譲渡による所得が譲渡所得に該当する場合は、所得税法9条1項9号の譲渡益非課税の適用はなく、時価が30万円を超えるものであるか否かにかかわらず、その譲渡益について課税対象となり、その譲渡損について他の譲渡益との通算はできるものの他の種類の所得との通算の制限等がかかる可能性があることに注意が必要です(所得税69②)。
詳しい説明は省きますが、NFTが「主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する資産」に該当するとこのような取扱いになります(所得税法施行令178①二)。前回の記事で着目した「動産」ではなく、「資産」となっている点がポイントです。個人的にTwitterのアイコンで使用しているNFTや仮想空間のギャラリーで展示しているNFT(に関する権利)がこれに該当する可能性があります。
実物絵画や「実物絵画と結びついているNFT」もこれに該当すると同様の取扱いになるという見解も考えられますが、30万円以下の実物絵画の譲渡を非課税とする実務上の取扱いとの整合性など検討すべき点は残ります。
なお、個人が他の個人に対して、NFTを時価の2分の1に満たない金額で譲渡した場合の譲渡損はなかったものとみなされるため、注意してください(所得税法59②)。
事業所得又は雑所得の場合
次に、NFTの譲渡による所得が、事業所得又は雑所得に該当する場合です(所得税法27、35)。NFTの譲渡が、棚卸資産やこれに準ずる資産の譲渡、あるいは営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡に該当する場合であり(所得税法33②一)、主にNFTのアーティストの方や販売業者の方が譲渡するケースを想定しています。
(1)収入面の取扱い
個人が棚卸資産又はこれに準ずる資産を贈与した場合には、その時における上記資産の価額(時価、通常販売価額)が収入金額に算入されます。また、「著しく低い価額の対価」による譲渡をした場合には、その対価の額と譲渡時のその資産の価額との差額のうち「実質的に贈与をしたと認められる金額」が、収入金額に算入されます(所得税法40①)。
贈与の場合には、実務上、上記資産の取得価額以上、かつ、上記資産の価額のおおむね70%以上の金額で帳簿に記載し、これを事業所得の金額の計算上総収入金額に算入することも認められています(所得税基本通達39-2)。
低額譲渡の場合について、上記の「著しく低い価額の対価」とは、実務上、上記資産の価額のおおむね70%に満たない額をいうものとされています(所得税基本通達40-2)。また、実務上、上記の資産を著しく低い対価で譲渡した場合であっても、商品の型崩れ、流行遅れなどによって値引販売が行われることが通常である場合はもちろん、実質的に広告宣伝の一環として、又は金融上の換金処分として行うようなときには、上記規定の適用はないとされています(所得税基本通達40-2(注))。
実質的に広告宣伝の一環として行われるものについては時価で課税しないという取扱いは、後で述べるNFTのGiveawayのケースとの関係においても重要ですが、贈与の場合にも適用されるのかは明らかではありません。
なお、実務上、上記の「実質的に贈与をしたと認められる金額」とは、上記資産の価額のおおむね70%相当額からその対価の額を控除した金額として差し支えないとされています(所得税基本通達40-3)。
さて、問題は「デジタル絵画と結びついているNFT」を譲渡した場合に、これら一連の規定の適用があるかどうかです。一般に、NFTの販売業者の場合は適用される可能性が高いのですが、アーティストの方が最初にNFTを譲渡する場面について適用されるかというと、議論の余地があります。
この場合、NFTを利用する権利の設定に該当するケースを想定するならば、そもそも棚卸資産やこれに準ずる資産を譲渡したことになるのか(正確には、贈与又は譲渡による「移転」をしたことになるのか。所得税法40①)、という疑問が生じるからです。「実物絵画と結びついているNFT」とは異なる取扱いになるかもしれません。民法・著作権法等の法律関係等を踏まえてもう少し考察を深堀りする必要がありますし、デジタル絵画のデータ等がオンチェーンであるか、オフチェーンであるかに着目することも考えられますし、結局、ケースバイケースになるかもしれません。
(2)損失面の取扱い
事業所得と異なり雑所得の損失については、雑所得内部での通算(内部通算)はできるのですが、給与所得など他の種類の所得との通算(損益通算)ができないため、注意が必要です(所得税法69①)。
NFTの時価
NFTの時価は、当該NFTのマーケットプレイス等での提示価格・実際に販売された価格や、同じアーティストの類似のNFTの提示価格・実際に販売された価格に基づいて、算定されることになるのではないかと考えます。また、そのNFTの原価、購入価格やその後の販売価格が参考にされることもあるでしょう。
特に、贈与を受けた又は低額で譲り受けた相手方が、その直後に高い価格で譲渡している場合に問題とされることが多いと考えます。NFTの移転を通じて、他者に利益(所得)を移転することも可能であることも考慮すると、このNFTには時価がないと安易に処理することにはリスクが伴います。
最後に
NFTを他人に安く譲渡し、損失を計上する場合に注意すべき点を説明してきましたが、これまで見てきたとおり、贈与する場合にも同様の課税関係となるので注意が必要でした。
したがって、例えば、販売実績のあるアーティストの方が自身の製作した棚卸資産であるNFTをGiveawayする場合において(ただし、これが民法や所得税法上の贈与と構成されるのかなどの問題があります)、ケースによっては時価で課税されるか、(法的根拠の問題はありますが実務上の取扱いとして)時価で課税される代わりに対応する必要経費の算入が認められないというリスクがあると考えます。この場合、上記に示した「実質的に広告宣伝の一環として」なされたものであれば、課税は行われないという取扱いが適用されるのか明らかではありません。
このように見てくると、一般にNFTの譲渡や贈与という語で表現される取引について、法的には資産の譲渡や贈与ではなく、権利の設定や地位の移転などと構成された場合に、どのような影響があるのか、前回や今回の記事で示した見解とは異なる見解になるのか、という点は判然としないという留意を示しておかねばなりません。
自作のデジタルコンテンツのNFTがそのアーティストの方にとって棚卸資産になりうるのかは、検討の余地が残されていますが、いずれにしても無償で提供したNFTに関する経費の必要経費算入は認められない可能性があります。
なお、同族会社の個人株主等が当該会社と行う取引については、上記で説明したこととは別に、課税上のリスクがさらに高まりますので注意が必要です(所得税法157、所得税基本通達59-3、相続税法9、相続税法基本通達9-2等)。
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「仮想通貨」とは「暗号資産」のことを指します