2024年11月のアメリカ大統領選挙、争点の一つに仮想通貨関連政策
暗号資産界のロビー活動や支援も活発に
2024年11月に行われるアメリカ大統領選挙では、「経済」や「移民問題」といった主要な議題に加えて、暗号資産(仮想通貨)や中央銀行デジタル通貨(CBDC)に対する政策も一つの争点になっている。
Morning Consultの調査によると、若い有権者の中で、web3などの新興技術や暗号資産に関心を持つ人々が増えており、これらのテーマが政治的な議論の中心になり始めている。
2024年現在、暗号資産を保有する有権者の数は数百万人に上るとされ、前回の選挙で僅差で決定した激戦州に居住している。
暗号資産業界におけるロビー活動や候補者への支援は活発化しており、現時点でブロックチェーンに基づく予測・賭けプラットフォームであるPolymarketに掲載された情報によれば、共和党候補であるドナルド・トランプ元大統領が過半数の支持を得ており、有利な立場にあるとされる。
本記事では、次期アメリカ大統領選挙における暗号資産政策の重要性を詳しく探る。
グレースケールの世論調査
2023年末に発行された、グレースケールによる「2024年選挙:暗号資産の役割」という世論調査(ハリス・ポール社実施)は、ビットコイン(BTC)や他の暗号資産が選挙の文脈でどのように語られているかを探り、暗号資産の政治的重要性を裏付けた。
調査結果のポイントは次の通りである。
- インフレに対する有権者の懸念が、選挙年におけるビットコインの重要性を際立たせている。
- 有権者の46%が、暗号資産投資に関する追加政策を待っている。
- 株式を上回る割合で暗号資産を保有する若年層の有権者の約半数が、投票する前に候補者の暗号資産に対する立場を検討している。
調査結果は、金融安定性とインフレへの懸念が暗号資産への関心を促進していることを示しており、特に法定通貨の価値低下と相関関係のあるビットコインに注目が集まっていまる。
グレースケールの分析
これらの傾向について、グレースケールの分析では、ビットコインに関して以下の二つの重要な見解が示されている:
- ビットコインに詳しい人々が、これをマクロ経済的資産とみなしていること。ビットコインの投資が投機的な行為や短期間の利益追求を超え、広範な経済動向に影響され、価値が変動する資産と認識している。
- 一方、一般人がビットコインを理解するためには、さらなる教育が必要である。そうすることで、ビットコインが広く受け入れられ、主流の投資オプションとなる可能性がある。
Z世代とミレニアル世代は、株式よりも暗号資産を所有している割合が高く、彼らの多くが「暗号資産とブロックチェーン技術は金融の未来である」と考えている。さらに、より明確な政策や規制が導入されれば、暗号資産への投資意向が高まると回答している人が多い。
この調査によると、有権者の73%が、AIや暗号資産のような革新的な技術について、大統領候補者が情報に基づいた視点を持つべきだと考えている。
関連:米大統領選と仮想通貨、有権者の間で高まるビットコイン政策への関心=Grayscale調査
元SECの強制執行官スターク氏の見解
元米国証券取引委員会(SEC)の強制執行官であるジョン・リード・スターク氏は、暗号資産の議論や政策が2024年の大統領選挙の鍵を握る可能性があると、2022年1月17日にX(旧Twitter)に投稿した。
すべての大統領候補は、直ちに内部の暗号資産担当官を任命し、その候補者の暗号資産に関する中心的な担当者および広報担当者とすべきだ。
この投稿は、2024年の大統領選挙において暗号資産が重要な議論と政策のポイントになるという見解を示してる。暗号資産はただのマイナーな問題ではなく、選挙戦において重要な役割を担う可能性がある。
暗号資産業界が支援するスーパーPAC
2023年12月18日、暗号資産業界の幹部や投資家が支援する3つのスーパーPACは、2024年の選挙に影響を与えるための新たな大規模な取り組みの一環として7,800万ドルを調達したと発表した。
これは、2024年の選挙に取り組むという暗号資産業界の非常に真剣な取り組みを示しており、規制当局からの厳しい監視に直面する中、友好的な政策立案者を支持しようとしている。
このキャンペーンはベンチャーキャピタル大手のアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)、米国の暗号資産取引所コインベース、Ripple(リップル社)、Messari(メッサリ:暗号資産市場のデータ分析会社)、暗号資産の早期投資家およびテクノロジー企業家のウィンクルボス兄弟など、他多数の企業や個人からの支援を受けている。
関連:米大手ベンチャーキャピタルa16z、「2024年に期待する9つの仮想通貨トレンド」を発表同日、リップル社のブラッド・ガーリングハウス氏(CEO)はXの投稿で、
「2024年のアメリカ選挙において、リップル社とそのチームは、革新的で暗号資産に友好的な候補者を積極的に支援するため、他の業界リーダーとともに主導権を握る意向である」と述べた。
規制の行き過ぎ、特にSECの行き過ぎについて懸念を表明したガーリンハウス氏は、米国が誤った方向に進むことを避ける必要性を強調した。
これは、アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)のベン・ホロウィッツ氏が12月14日に発表したメッセージと一致しており、彼はすべての寄付は自分たちの考えに沿った候補者のみを支援し、アメリカの技術進歩を妨げようとする候補者には反対する方針であると述べている。
米大手の暗号資産取引所コインベースでCEOを務めるブライアン・アームストロング氏はXに以下のように投稿した。
暗号資産業界は現在、2024年の選挙に向けて暗号資産推進派の候補者を選出するための大きな軍資金を持っている。私たちは貢献できることを誇りに思っており、暗号資産を利用する5000万人以上のアメリカ人により良い代表を提供することが可能になるこの取り組みは超党派的で、来年の第1四半期には1億ドルに到達できることを期待している。
通常のPAC(Political Action Committee:政治行動委員会)とは異なり、スーパーPACは無制限の資金を調達・支出できるが、候補者のキャンペーンと直接協調することは禁止されている。
これらは主に政治広告や選挙関連活動に資金を提供し、特定の政策や立場を支持するために使われる。 関連:コインベースら米Web3企業が政治活動委員会に巨額投資、仮想通貨政策推進派の選挙支援に
暗号資産に関する議会の両党協力
議会では、税制、気候変動、医療、銃規制、LGBTQ+の権利など、従来の問題に関しては民主党と共和党の意見が分かれがちだが、暗号資産に関しては両党間の協力が観察される。
ブロックチェーン協会のCEOクリスティン・スミス氏は、昨年議会に提出された多数の法案が、政治的立場の異なる議員同士の協策だると指摘した。
スミス氏によると、特に暗号資産に関しては、若手議会メンバーが年配のメンバーに比べてその理解を早めに深めている。
実際、ブロックチェーン技術や暗号資産に関連する政策や規制に特化した関心を持つ「議会ブロックチェーン・コーカス」は、共和党員2名と民主党員2名の共同議長により運営されている。
米国上院議員の暗号資産支持者の割合
一方、共和党議員が民主党員に比べて暗号資産に対してより肯定的な姿勢を示している傾向を示すデータが出ている。
コインベースの非営利擁護団体「Stand with Crypto」の調査によると、米上院議員の中で暗号資産支持者は18人に上り、このうち共和党員が14人、民主党員が4人となっている。
これに対し、暗号資産に反対する上院議員は30人で、その内訳は民主党員23人、共和党員5人、無所属議員2人である。
暗号政策を重視する有権者層の増加
CoinbaseとMorning Consultの調査データによれば、アメリカ人の5人に1人(5200万人)がデジタル資産を所有している。回答者の暗号資産保有者のうち、22%が民主党支持者、18%が共和党支持者、22%が無党派。さらに、60%がジェネレーションZ世代やミレニアル世代であり、41%が少数派だ。これらの有権者ブロックは2020年には影響を与えなかったが、今年の11月には大きな役割を果たす可能性が高い。
Morning Consultはまた、4つの激戦州(ニューハンプシャー、ネバダ、オハイオ、ペンシルバニア)での仮想通貨に関する世論調査を実施。その結果、数百万人のアメリカ人が、デジタル資産政策を最も重要としていることが判明した。
大統領候補者たちの暗号資産に対する様々な立場
元民主党員で現在は独立候補として出馬している無所属のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏は、暗号資産支持の態度を明確にしている。
2023年7月にRFKジュニア氏は、米国をビットコインの世界的なハブにすることを公約に掲げ、自身が大統領になればビットコインを米ドルに換金する際に発生するキャピタルゲイン税を免除すると伝えた。
1月24日にケネディ氏は自身のXアカウントを通して、「ビットコイン(BTC)は法定通貨(フィアット)よりもインフレやその他の危難から人々を守ってくれる」という主旨のメッセージを伝えている。
一方、共和党候補のドナルド・トランプ氏は、大統領在任中にビットコインに関していくつか否定的なコメントをした以外、仮想通貨について特に明確な立場を取っていたわけではなかった。
大統領選においても、トランプ氏はビットコインや暗号資産に関して直接的な言及はほとんどない。しかし、自身の「デジタルトレーディングカード」と称するNFT(非代替性トークン)コレクションを発売するなど、暗号技術を積極的に採用している候補者の一人として認知されている。
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ただし、トランプ氏は、CBDC(中央銀行デジタル通貨)の創設に反対する姿勢を示している。トランプ氏は1月17日にニューハンプシャー州の都市ポーツマスでの選挙演説中「中央銀行デジタル通貨の創設を決して許さない」と発言し、CBDCは連邦政府に市民のお金に対する「絶対的な支配権」を与えるだろう、と批判した。
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米国ではここ数年、CBDCがドルの中央集権化を引き起こし、デジタルウォレットを通じて米国人をコントロールするために使われる可能性があるとの批判の声も上がっている。前述したRFKジュニア氏も、「CBDCに向けた取り組み」を終わらせると宣言している。
一方で、現職のジョー・バイデン大統領(民主党)は再選を目指しているが、彼の政権は過去4年間、暗号資産に対して特に積極的ではなかった。例えば昨年、バイデン大統領は「富裕な仮想通貨投資家」を非難し、「MAGA(Make America Great Again)共和党」が支持する税制上の抜け道を悪用していると非難した。
一方、米証券取引委員会のゲイリー・ゲンスラー委員長は、暗号資産取引所とプロトコルの抑制を試みた。そして、民主党上院議員エリザベス・ウォーレン上院議員は、業界に対して規制的圧力を高めている。
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しかしながら、ビットコインETF(上場投資信託)の承認など、政府の姿勢に影響を及ぼす要素も存在し、今後の規制方針に変化が生じる可能性もある。
2024年米大統領選挙の現状:バイデン氏とトランプ氏の対決の可能性
2024年1月時点で、米大統領選挙は予備選挙の段階だ。
各政党は自分たちの候補者を選出するプロセスを進行中で、民主党で現大統領のジョー・バイデン氏と共和党で元大統領のドナルド・トランプ氏が、それぞれの党の候補者になることが有力視されている。
予備選挙は、党員が代表を選び、それらの代表が党の全国大会で大統領候補者を正式に指名する一連の州レベルのコンテストで構成されている。
この候補者たちはその後の一般選挙で投票され、2024年11月5日に決定される予定だ。
現在の傾向では、バイデン氏とトランプ氏がそれぞれの党の指名を確保すれば、2024年の選挙は2020年の大統領選挙の再戦となる可能性が高い。
暗号資産予測・賭けプラットフォームでトランプ氏が有利
暗号資産予測・賭けプラットフォームのPolymarketでは、ユーザーたちが、ドナルド・トランプ元米大統領の2024年大統領選挙勝利に賭けている。
現在、トランプ氏勝利の見込みは55%で、現職のジョー・バイデン大統領の39%を上回っている。
このプラットフォームのデータによると、次のアメリカ大統領選挙に対して1900万ドル以上の賭けが行われている。
トランプ氏とバイデン氏が主要候補者である一方、民主党でカリフォルニア州知事のギャビン・ニューサム氏、無所属ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏、元大統領夫人で法律家のミシェル・オバマ氏のような注目される人物も潜在的な候補者とされている。
Messariの創設者兼CEOであるライアン・セルキス氏は、
「トランプ氏の方がポイントを取っているが、業界のリーダー達は彼を支持したがらない。」一方でバイデン氏については「暗号資産の規制を強化する立場を取るエリザベス・ウォーレン氏に財政政策を委ねてきた人物」と言及。
セルキス氏は、「不快かもしれないが、もはやトランプ氏支持を隠す言い訳はない。」とXに投稿した。
2024年は、ビットコインETFが承認され、半減期のような大きなイベントも控えている。
また、アメリカの大統領選挙も行われるこの年、候補者たちの暗号資産に対する姿勢が市場に大きな影響を与えると予想される。
選挙結果によっては、暗号資産に関する規制や政策が大きく変わる可能性があり、投資家や業界関係者は政治的な動向に注目している。
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