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「金商法施行は業界のビッグバン」bitFlyer加納裕三CEOが語る、業界再編後の勝ち筋

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

都内で開催されたWeb3カンファレンス「WebX2026」で、タイトルスポンサーを務めたのが2014年創業の暗号資産(仮想通貨)取引所bitFlyerだ。

会期初日の7月13日には、グループ持株会社のbitFlyer Holdingsが、機関投資家・事業法人向けのプライムブローカレッジサービス「bitFlyer Prime」を発表した。OTC取引(取引所を通さない相対取引)の執行から保管までを一体で担う構想で、2027年の提供開始を予定する。

閉幕翌日の7月15日には、暗号資産を金融商品として位置づける改正金融商品取引法が成立した。国内の交換業者にとって、制度移行は事業環境そのものを塗り替える転換点となり得る。

この変化を、業界の当事者はどう見ているのか。税制改正への提言や自主規制ルールの策定に長く関わってきたbitFlyer Holdings代表取締役CEOの加納裕三氏に、制度面で次に解くべき課題、機関投資家参入に向けたインフラ整備、そして「ハッキングゼロ」という実績の位置づけを聞いた。

目次
  1. WebX参画の狙い
  2. 制度整備の次の一手
  3. 業界再編の現在地
  4. 機関投資家の受け皿
  5. セキュリティの競争軸
加納裕三
加納 裕三(かのう ゆうぞう)
株式会社bitFlyer Holdings|代表取締役CEO
ゴールドマン・サックス証券株式会社等を経て、2014年に株式会社bitFlyerを共同創業。暗号資産関連の法改正への提言や自主規制ルールの策定に尽力してきた。現在は株式会社bitFlyer Holdings代表取締役CEOをはじめグループ会社の代表取締役を務めるほか、一般社団法人日本ブロックチェーン協会(JBA)代表理事、一般社団法人日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)理事として、暗号資産・ブロックチェーン業界の発展に向けた活動を続ける。

01PARTWebX参画の狙い

ビギナーと金融機関、二つの届け先

このタイミングでWebX2026のタイトルスポンサーを選ばれた理由はどこにあるのでしょうか。

bitFlyerは「ブロックチェーンで世界を簡単に。」をミッションに掲げ、2014年の設立以来、暗号資産の普及と市場の健全な発展へ取り組んできました。今、業界全体に確かな追い風が吹いていると感じています。7月15日には改正金商法が成立し、暗号資産が金融商品として位置付けられる新たなステージの幕開けを迎えようとしています。こうした節目の年に、業界を代表する場であるWebXのタイトルスポンサーとして参画することは、私たちにとって自然な判断でした。

WebXに集まるお客様を考えると、お届けしたい相手としてまず挙げられるのは、これから暗号資産に触れる若い世代、まだ使ったことのない方、ビギナーの皆さんです。こうしたお客様に、bitFlyerが新しく取り組んでいること、そして私たちのビジョンを直接お伝えしたいと考えています。

次に、この領域のビジネスへの参入を検討されている伝統的金融機関の皆様です。WebXでも発表させていただいたbitFlyer Primeを通じて、伝統的金融機関の皆様にも安心・安全に暗号資産ビジネスに取り組んでいただきたいと考えています。

また、WebXには海外からの来場者や事業者も数多く集まります。私たちは米国・欧州でもグループとして事業を展開しており、日本発の取り組みを世界へ発信する場としても重視しています。今回のWebX2026は、まさにそのための機会となりました。

WebX2026 bitFlyer Holdings 代表取締役CEO 加納裕三氏
編集部注:bitFlyer PrimeはOTC取引を株式会社bitFlyer、保管(カストディ)を株式会社Custodiemが担う構成で、両社とも第一種金融商品取引業と暗号資産交換業の登録を持つ。提供予定内容はOTC取引の執行、暗号資産の保管、管理・統制の支援。

02PART制度整備の次の一手

分離課税とオンチェーン金融

長年働きかけてこられた分離課税化は、2028年からの適用見込みです。一つの山を越えたいま、制度・規制面で次に解くべき最も重要な課題はどこにありますか。

分離課税については、今回決まったのは「申告」分離課税です。お客様ご自身が確定申告を行う仕組みで、相応の負担が生じます。本来は、業者が源泉徴収して代わりに納付する源泉分離課税の方が、お客様の利便性、税収の増加効果のいずれも高いと考えています。税制面では、源泉分離課税の実現を次の目標と位置付けています。

制度・規制面では、7月15日に改正金商法が成立しました。ただ、これで終わりではありません。今後、政令・内閣府令といった下位法令の整備が控えており、責任準備金の設計をはじめ、足元の課題はなお山積しています。

加えて、もう一段先で取り組むべき論点があります。オンチェーン金融、すなわちブロックチェーンを用いた新しい金融の制度設計です。最近もDEX(分散型取引所)をめぐる話題がありました。海外では、無登録の事業者が日本を代表する上場企業の株式に連動するトークンを取り扱う事例も現れるなど、新たな課題が生じています。規制枠外での取引では、お客様が本来受けられるはずの保護の枠組みの外に置かれてしまう懸念があります。何をオンチェーン化するか、どのようなライセンスを要するか、システムとしてどう設計すべきか。本格的に議論すべき段階に来ています。

あわせて、ステーブルコインも論点です。法的な分類としては、電子決済手段としてのステーブルコイン、預金トークン、そして暗号資産の中にはアルゴリズム型ステーブルコインがあります。ステーブルコインが実際の決済にどう組み込まれていくか、とりわけ決済代行の場面でどのように使われるかが次の論点だと考えています。新たな登録区分が設けられた場合の扱いも含め、実務の設計はこれからです。

編集部注:20%の申告分離課税は改正所得税法で措置済みだが、適用開始は改正金商法の施行日が属する年の翌年から。施行日は政令未定で、2028年1月1日以後の譲渡等が対象となる見込み。ただし対象は国内業者を通じた特定暗号資産の譲渡等に限られ、海外取引所やDEXでの取引は総合課税のまま。

03PART業界再編の現在地

業界再編とコンプライアンス負担

改正金商法の施行によって、業界地図はどう塗り替わると見ていますか。bitFlyerはその変化をどのような機会として捉え備えていますか。

金商法施行は、暗号資産業界にとってまさにビッグバンと呼ぶべき規模の変革となります。業界全体の信頼性が大きく向上し、機関投資家や金融機関を含め投資家層が拡大していく。これは長く待たれていた変化です。

もっとも、施行を待たずに業界の再編は既に始まっています。現在、多くの暗号資産交換業者が事業を営んでいますが、収益環境とコンプライアンス負担の両面で厳しい環境に置かれる事業者が少なくないとみています。私たち自身が日々の運用で実感するほど、ガバナンス・コンプライアンス・マネーロンダリング対策の水準は一段と高まっています。コードリリース一つとっても厳重な監査・レビュー・態勢チェックが要求され、その監査負担は上場企業と同等、領域によってはそれ以上の水準に達しています。この負担に耐えられる態勢を持たない小規模事業者が単独で生き残るのは難しくなっており、中堅事業者も同様に困難です。

実際、再編の動きは表面化しています。2026年6月には、SBIホールディングスによるビットバンクの完全子会社化が公表されました。この取引が完了すれば、国内の主要な暗号資産交換業者のうち、特定の企業グループに属さない独立系はbitFlyerのみとなります。業界は最終的に数社程度に集約されていくと見ています。

bitFlyerとしては、これまで投資してきた内部管理態勢とセキュリティが活きる局面だと捉えています。世界で戦える態勢を、引き続き整えてまいります。

WebX2026 bitFlyer Holdings 代表取締役CEO 加納裕三氏 画像2
編集部注:SBIホールディングスは2026年6月25日、ビットバンクの完全子会社化に向けた基本合意書と株式譲渡契約の締結を発表した。取得価額は総額467億円で、公正取引委員会による企業結合審査などを前提に、2026年10月頃の完了を予定している。

04PART機関投資家の受け皿

カストディと現物市場の流動性

国内でも暗号資産の現物ETF解禁が現実味を帯びる中、機関投資家の本格参入に向けて整えるべきインフラは何だとお考えですか。bitFlyerグループとCustodiemの役割分担もお聞かせください。

機関投資家の本格参入を見据えると、整えるべきインフラは二つあります。一つは、機関投資家が安心して資産を預けられるカストディです。日本の法令下で運営し、bitFlyerグループとして創業以来培ってきたセキュリティ技術を武器にします。機関投資家・アセットマネジメント・信託、さらには銀行・証券会社、あるいは競合他社の資産までお預かりできる会社を構築する。それがCustodiemに託した構想です。

もう一つは、国内の現物市場の流動性です。ETFは、現物市場の価格形成があって初めて成立します。国内現物市場に十分な流動性が確保されなければ、ETFそのものが機能しません。あわせて、デリバティブ市場の整備も欠かせません。ETFの組成・運用ではヘッジ手段としてデリバティブが活用されるため、ETF解禁が現実味を帯びるほど、レバレッジ倍率の在り方を見直す議論にもつながりやすくなります。レバレッジ倍率の引き上げは、業界団体からもかねて要望されてきた論点です。

bitFlyerグループとしての設計は、取引と流動性はbitFlyerが、機関投資家向けカストディはCustodiemが担う、明確な分業構造です。Custodiemはグループ内の独立した法人として、bitFlyerグループのお客様にとどまらず、業界を横断して顧客基盤を拡大していきます。預かりという機能が背負う責任を踏まえ、社会の公器として信頼を得ながら業界の発展に貢献します。また、高いセキュリティ水準の維持に絶えず努める会社を目指します。これが私たちの描く姿です。

編集部注:Custodiemは旧FTX Japan。2024年7月にbitFlyer Holdingsが全株式を取得して完全子会社化し、同年8月に商号を変更した。暗号資産交換業と第一種金融商品取引業の登録を持ち、クリプトカストディを中核事業に据える。加納氏は同社の取締役も務める。

05PARTセキュリティの競争軸

自助こそが真の競争領域

金商法施行でセキュリティ基準が業界全体で底上げされれば、「ハッキングゼロ」という優位性の意味も変わり得ます。この実績を今後どのような価値に転換していくとお考えですか。

創業以来の「ハッキングゼロ」は、今後も変わらず私たちの強みです。そのうえで、この実績に裏打ちされた運用ノウハウを「エンタープライズ向けウォレット」として打ち出していく段階へ進めたいと考えています。実績と、それを支えてきた運用の中身。この両輪で価値を広げていくことが目指す方向性です。

セキュリティには、公助・共助・自助の三層で整理する考え方があります。公助とは、金商法による制度整備や当局との継続的な対話・連携など、業界の安全性を支える公的な枠組みを指します。共助とは、JPCrypto-ISAC(クリプトアイザック)を通じた業界横断のセキュリティ情報共有・連携です。そして自助とは、各事業者が自ら積み上げる取り組みを指します。業界全体の水準が底上げされた世界では、自助こそが事業者の真の競争領域になると考えています。

その自助は、さらに二つに分けて考えています。一つは「コモディティ化されたセキュリティ」です。EDR(不審な挙動を検知・対応する仕組み)による端末の監視、WAF(Webアプリケーションを保護する防御機能)やDDoS対策、脆弱性管理、認証・アクセス管理、クラウド環境のハードニング(設定を強化して攻撃対象を減らす作業)、SOC(セキュリティ監視を担う専門組織)によるセキュリティ監視など、成熟した製品や外部サービス、確立されたベストプラクティスを活用できる領域を指します。もちろん、製品やサービスを導入するだけで安全になるわけではなく、自社の環境に合わせた設計と継続的な運用が不可欠ですが、必要な機能や専門的知見を市場から調達しやすい領域といえます。

もう一つが、ブロックチェーン固有のセキュリティです。こちらは市場で売っているものではありません。ブロックチェーンや暗号の本質を理解しないままウォレットを構築すると、事故リスクが極めて高くなります。ウォレットは想定どおりに動くとは限らず、攻撃者は多様な手段で攻撃を仕掛けてきます。これを守れるのは、運用実績とノウハウの集積です。具体的には、監査の積み重ね、ソースコードの健全性担保、運用態勢の整備、人材教育、捜査機関との連携、そして暗号技術そのものに対する研究水準の知見の蓄積が挙げられます。秘密鍵の管理やウォレットの設計は、暗号理論とブロックチェーンの仕組みを深く理解して初めて安全に成立するものです。

bitFlyerには、ここに一日の長があります。「ハッキングゼロ」という実績を支えているのは、その背景にある自助の中身です。この中身を「エンタープライズ向けウォレット」というキーワードで明確に打ち出していく方針です。

WebX2026 bitFlyer Holdings 代表取締役CEO 加納裕三氏 画像3
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