AI・オンチェーン金融サミット セッションレポート
ローソンのレジでJPYCが動いた日 決済実証の4社が語る商用化の壁
「AI・オンチェーン金融サミット」が10月1日、東京・高輪のKDDI本社で開催された。HashPort、KDDI、au Coincheck Digital Assets、WebX実行委員会の共催。セッション「【日本初】コンビニレジでステーブルコインが動いた日」には、8月にローソンで行われたステーブルコイン決済の実証実験に関わった4社が登壇。店頭のレジと連動させた取り組みを振り返り、商用化に向けた課題と普及の道筋を議論した。
登壇者
株式会社ローソン田村太郎氏金融カンパニー兼マーケティング戦略本部部長
キャナルペイメントサービス株式会社清水亮佑氏代表取締役社長
JPYC株式会社櫻井良子氏CBO
株式会社HashPort吉田世博氏代表取締役CEO
モデレーター
株式会社日本経済新聞社関口慶太氏編集委員兼NIKKEI Financial副編集長
※冒頭の写真は左から、関口慶太氏、田村太郎氏、櫻井良子氏、清水亮佑氏、吉田世博氏
実証の座組
セッションは、各社が実証で果たした役割の紹介から始まった。ローソンは店舗を提供し、店頭のPOS(販売時点情報管理)レジとの連携を担った。田村氏によると、既存のPOSレジを通じてステーブルコインで決済できた点が「日本初」にあたるという。
レジとさまざまな決済サービスをつなぐのが、キャナルペイメントサービスの役割だ。清水氏によると、同社はゲートウェイとして、レジと決済サービスで異なるデータのやり取りの仕組みを間で調整した。店舗のシステムにできるだけ手を加えずに済ませるためだという。
店舗が支払いを受け取るためのウォレットは、HashPortが提供した。吉田氏によると、同社は事業者向けの「HashPort Wallet for Biz」をコンビニのレジに組み込んだ。店員がスキャンするだけで決済が完了する仕組みだ。
決済手段のJPYCを発行するJPYC社の櫻井氏は、話を聞いたのは実施の1週間ほど前だったと明かした。そのうえで「原材料としてJPYCを提供していたら、いつの間にか仕組みが出来上がっていた。それがステーブルコインのいいところだと思う」と語った。発行体の手を借りずに、事業者同士で決済の仕組みを組み立てられる。その特性を象徴する一言だった。
補足:ローソンは2026年8月、既存のPOSレジと連動したステーブルコイン決済の実証実験を関係者限定で行った。登壇4社が関わったのは8月6日の高輪ゲートウェイシティ店での回で、HashPort WalletとJPYCが使われた。利用者がウォレットに表示したコードを、店員がレジで読み取って支払いが完了する。ステーブルコイン専用の端末をレジに追加する必要はない。CoinPost編集部も高輪ゲートウェイシティ店で決済を体験している。
商用化の壁は決済スピードと返金対応
関口氏は、8月の実証でHashPort WalletのJPYCを使い、アイスコーヒーを購入したと振り返った。続けて田村氏に、商用化に向けて残る課題を尋ねた。
田村太郎
今回はまず、決済ができるかどうかの実証だった。ウォレット内の認証や、オンチェーン取引を経て承認が下りる流れも、ありのままの状態で試した。その結果、普通のバーコード決済と比べると、かなり時間がかかった。これはもともと予想していたことだ。
さまざまなウォレットやコイン、ブロックチェーンを試し、速い・遅いの違いも見えてきた。商用化に向けては、こうした手順をどう省き、決済時間を縮めていくかが1つの課題になる。
商用化の目安となる速度を問われると、田村氏は明確なラインは決めづらいとしつつ、「ローソンでau PAYを使うときのスピード程度」と答えた。
清水亮佑
課題は2つある。1つはレシートが出るまでのスピードだ。店舗オペレーションの負担や利用者の購買体験に直結するため、解消が欠かせない。
もう1つは、今回の実証では十分に検証できていない、キャンセルや返品、返金の業務だ。JPYCは決済ツールというより、デジタル通貨という側面がある。既存のPOSの仕様に、デジタル通貨の仕組みをどう合わせていくか。ただ、大まかな方向性は見えてきており、技術面の壁はなくなりつつあるという印象だ。
吉田世博
決済スピードには、物理法則的な制約がかかる部分がある。ブロックチェーンは中央集権型ではないため、決済速度はネットワークそのものの処理速度に依存する。既存のEVMベースのチェーン設計では限界がある。ただ、そこに甘んじるつもりはない。
店舗側のウォレットで行う処理を工夫し、ファイナリティ(取引の確定)を待つ前に決済を完了させる。そうした方法で制約を乗り越える研究を進めている。
もう1つの課題は、店舗が受け取ったステーブルコインの扱いだ。利用が大規模になれば、店舗側にどんどん蓄積されていく。これをどう売上に反映させるのか。ローソン、キャナルペイメントサービスと一緒に、解決策を検討している。
普及のきっかけと発行インセンティブ
関口氏は会場に挙手を求め、スマートフォンにQRコード決済を入れていない人はほとんどいないことを確かめた。一方、ステーブルコインを持たない人は3割ほどいた。円建てステーブルコインはまだ発行規模が小さく、使える場がないから持たないという「鶏と卵」の状態にあると関口氏は指摘した。では、コンビニは普及のきっかけになり得るのか。最初に話を向けられたのは、発行体の櫻井氏だ。
櫻井良子
コンビニは、多くの人がまず足を運ぶ場所の筆頭だ。JPYCを事業で使おうとした方にとって、ユーザーに渡しても何に使えるのか、という点が1つのハードルだった。受け取った人が使える場ができたのは、大きなアドバンテージだ。一方でJPYCは使える幅が広い分、特定の用途に特化した手段と比べると、使い勝手(UX)でまだ劣る面がある。ユースケースを広げていくには、まずインセンティブのある事業者に取り組んでもらう必要がある。
決済を受け取る側には、手数料が安くなるメリットがある。では、利用者にJPYCを発行させることでインセンティブを得られる事業者は誰か。公式のnoteにも書いたが、最もあてはまるのは銀行ではないか。JPYCは、お客様が振り込んだ預金をそのまま保全している。その保全先を、発行を手伝ってくれた銀行にするとどうなるか。銀行は口座を開いてもらわなくても、JPYC経由で預金を獲得できる可能性がある。
例えば現在も、HashPort Walletからは当社の接続事業者APIを使ってJPYCを発行できる。こうした窓口を通じて銀行がユーザーにメリットを提供すれば、ユーザーには持つ理由が生まれる。三方良しの構造をつくれれば、ユースケースは拡大すると思う。
関口氏は、トークン化預金とステーブルコインをめぐる議論にもつながる提案だと受け止めた。
補足:トークン化預金は、銀行が預金そのものをブロックチェーン上でトークンとして扱うもので、銀行預金としての性質を持つ。一方、JPYCは資金移動業者が発行する電子決済手段で、発行残高の裏付けとなる日本円は預貯金と国債で保全される。櫻井氏は9月11日、JPYC公式noteで「JPYCは、銀行をなくすためのものではない」と題した記事を公開。両者を二者択一とせず、銀行が資金保全を、ステーブルコインが価値移転を担う役割分担を提唱している。
田村太郎
コンビニは、さまざまなサービスや商品を気軽に利用・購入していただく場だ。JPYCをより身近に感じてもらうための窓口、出口というポジションにはなっていると思う。JPYCが普及しないとコンビニは導入しない、導入しないから普及しない、という鶏と卵の関係はある。
ただ、これまでの各種の実験を拝見して、コンビニでもそれほどハードルは高くないと考え、実証まで進めた。新しい決済手段が普及する前に、少なくとも準備はしておきたい。
清水亮佑
ステーブルコインはデジタル通貨であり、決済手段とは似て非なるところがある。流通・小売の文脈だけでユースケースを考えると、もったいないうえ、スケールもしにくい。金融や証券の取引、不動産売買など、さまざまな事例を関係者が協力してつくっていく。そうすれば、持つインセンティブ、使うインセンティブは自ずと広がっていく。
吉田世博
コンビニ以外で大きなテーマは、クロスボーダーではないか。海外から来た方が、コンビニでクレジットカードかステーブルコインかを選べるのは大きい。決済や送金でも、SWIFTやクレジットカードのクロスボーダー決済よりステーブルコインの方が便利で安い。使い勝手もいい。
円建てはUSDT・USDCに並べるか
関口氏は、銀座の宝飾品店などの高額決済では、外国人が仮想通貨やステーブルコインで支払う例があると紹介した。一方で、少額決済ではまだほとんど使われていないと指摘した。では、コンビニで海外通貨建てのステーブルコインは使えるようになるのか。この問いに、まず田村氏が答えた。
田村太郎
結論から言えば、使えるようになる。実験ではUSDTとUSDCも試しており、決済ができることは確認した。ウォレットをどうするか、どのルートで使われるかなど検討事項はある。HashPortをはじめ関係各社と協議しながら導入していきたい。インバウンドはもちろん意識している。
続いて関口氏は、円建てステーブルコインがUSDTやUSDCのような存在になれるかを吉田氏に尋ねた。
吉田世博
円建てステーブルコインがそうなれるかどうかより、業界全体で盛り上げ、そうした存在にしていく必要があると考えている。8月に東南アジアのカンファレンスに登壇した際、USD以外のステーブルコインも普及するかという問いが出た。他の2人の登壇者はそろって否定し、ローカルステーブルコインは不要だと強く主張していた。
東南アジアの国々の通貨建てでは、ドル建てと比べて事業として成り立ちにくいという感覚なのかもしれない。ただ、円とユーロと人民元は、ぎりぎり事業として成り立つラインにあるのではないか。ドルに飲み込まれないステーブルコイン経済圏を目指して、業界を挙げて取り組む必要がある。
関口氏は、ドル建てと円建ての両方が広がれば、互いの普及にもつながるのではないかと応じた。吉田氏もこれに同意しつつ、日本のステーブルコイン決済がすべてドル建てになる事態は避けたいと述べた。
清水亮佑
難しいが、ポテンシャルは十分にある。最終的には、持つインセンティブと使うインセンティブをどう設計するかに尽きる。米国でできている以上、日本でできない理由はない。あとは業界としてどう盛り上げていくかだ。
最後に関口氏は、円建てステーブルコインを発行するJPYCの櫻井氏に見解を求めた。
櫻井良子
通貨主権を守るために日本円のステーブルコインが必要だという思いで立ち上がったのがJPYCだ。USDTやUSDCがあれば円建ては不要という世界ではない。流通額が同じような規模になる可能性はあると思う。
ただ、同じ成長の仕方はしない。USDTやUSDCはオンチェーンから広がり、オンチェーン金融を押さえる形で一般の方に降りてきた。JPYCはむしろ一般の方から広がり、オンチェーン金融が後からついてくることもあり得る。法規制が先に整い、政府もステーブルコインやオンチェーン金融の推進を後押ししているからだ。
セッション総括
関口氏は、どこに導入すればステーブルコインが最も普及するかを、吉田氏と1年ほど議論してきたと振り返った。そうしたなかで登場したローソンの座組に注目してきたとし、普及のきっかけになるのはコンビニだとの考えを示した。締めくくりに、来場者へ次のように呼びかけた。
「本日お越しの皆さんも、さまざまなビジネスに携わっていると思う。ぜひ多様な座組をつくっていただきたい」
決済速度と返金対応という技術的な課題に加え、利用者が持つ理由をどう設計するか。コンビニのレジで使えることが実証されたステーブルコインは、商用化に向けた議論の段階に入った。
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