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みずほ・野村・JSCCが動く国債オンチェーン実証、カントン・ネットワーク創設者に聞く日本戦略

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

カントン・ネットワーク(Canton Network)は、機関投資家向けに設計されたパブリックブロックチェーンとして、金融インフラのデジタル化をリードしている。ゴールドマン・サックス、HSBC、DTCC、Visaなどグローバル大手が参加し、現在600以上の機関が6兆ドル超の資産をオンチェーンで運用する規模にまで成長した。

2026年4月には、日本証券クリアリング機構(JSCC)、みずほフィナンシャルグループ、野村ホールディングスとの国債担保管理の概念実証(PoC)が始動し、日本市場への本格参入が具体化し始めた。

このタイミングに合わせて来日したDigital Asset(カントン・ネットワークを創設したブロックチェーン企業。同ネットワークはオープンソースで、現在はカントンファウンデーションが運営する)共同創業者兼CEOのユーヴァル・ルーズ(Yuval Rooz)氏が、CoinPostの単独取材に応じた。

Yuval Rooz
Yuval Rooz(ユーヴァル・ルーズ)
Digital Asset|共同創業者・CEO
2014年にDigital Assetを共同創業。機関投資家向けブロックチェーン基盤「Canton Network」の設計・普及を主導する。Global Synchronizer Foundation(現・Canton Foundation、Linuxファウンデーション支援)の理事・会計担当も務め、ネットワークの分散型ガバナンス構築に取り組む。米CFTCグローバル市場諮問委員会のデジタル資産市場小委員会メンバー。

機関投資家の姿勢変化

主要な金融機関がカントン・ネットワークへ関心を示しています。機関投資家のブロックチェーンへの姿勢は変わってきたとお考えですか。

ブロックチェーンへの姿勢が変わったとは、必ずしも思っていません。多くの人はそう感じているかもしれませんが、実際にはカントンを長年にわたって本番環境で使い続けている機関はすでにあります。

最近変わったのは、姿勢ではなく「見え方」です。歴史的に米国の規制当局は「ブロックチェーン=クリプト」に対して否定的だったため、多くの機関は自分たちが取り組んでいることをあまり表に出さなかった。

規制当局が好まないものを「大好きだ」と公言するのはリスクがある。トランプ政権の誕生により規制当局や行政がこの技術を支持するようになったことで、機関は実際に使っているだけでなく、それを積極的に語るようになりました。ゴールドマン、HSBC、ナスダック、Broadridgeとのプロジェクトは、公式発表よりずっと前から進んでいたのです。今は単純に「より多く聞こえる」ようになっただけです。

私たちがDigital Assetを創業した11年前から、一貫して信じてきたことがあります。規模のある金融レールには機関投資家の採用が不可欠だということです。世界に規模を持つ金融インフラで、機関投資家なしに成立しているものは存在しません。

クリプトの当初のナラティブは「リテールを既存の支配者から解放する」というものでしたが、そのためにシステムが設計されていなかった。機関投資家が必要としているプライバシーや、理解できるガバナンス構造が欠けていたのです。

たとえばArbitrumは2026年4月、KelpDAOのハッキングで流出した資金に対し、セキュリティカウンシルの12人中9人の署名による緊急措置で資産を凍結しました。

機関にとって、この事実が意味することを考えてみてください。自分の資産を置いたチェーンで、法的関係も法的責任も持たない12人が投票だけで何かを決められる。それは機関として絶対に受け入れられないことです。

私たちが10年前からカントンの設計においてプライバシーとガバナンスを最優先にしてきたのは、こうした機関の制約を起点に考えてきたからです。

編集部注:2026年4月、ArbitrumはKelpDAOハッキングで流出した約3万ETHについて、セキュリティカウンシル12人中9人の署名で資産を凍結。分散型を標榜するネットワークで少数の選出委員が資産を動かせることへの懸念が業界内で議論を呼んだ。(参照:報道

ユーヴァル・ルーズ(Yuval Rooz)氏 Digital Asset 共同創業者・CEO

日本国債担保の実証と法的論点

2026年4月、カントンネットワークを基盤にJSCC(日本証券クリアリング機構)、みずほ、野村が日本国債(JGB)をブロックチェーン上で担保として動かす実証実験を始めました。本番展開に向けて、何が鍵になると考えていますか。

今まさにJSCC、野村、みずほと共に法的分析を進めています。カントンにJGBを載せた場合、トークンを保有する者が従来の世界と同じ法的権利を持つかどうかを確認する作業です。

会社を立ち上げたとき、私たちは「まず技術を作り、いつか規制が変わることを祈ろう」というアプローチは取りませんでした。それは正直、まともな考え方ではないと思っています。カントンを設計するにあたって私たちは強い確信を持っていました。この技術を使えば、既存の規制体制の中でそのまま機能できる、という確信です。

米国での法的分析はクリア済みです。香港でも同様にクリアしています。いずれも、政府に法律を変えるよう求めることなく達成しました。日本においても、現行法の枠内での法的分析を完成させることが目標であり、それが完了すれば次のステップへ進むだけです。

編集部注:みずほフィナンシャルグループ、野村ホールディングス、JSCC、Digital Asset Holdingsの4社は2026年4月20日、カントン・ネットワークを活用したJGB担保管理の実証実験を開始した。振替法(社債、株式等の振替に関する法律)のもとでJGBの権利移転をブロックチェーン上で支障なく遂行できるかを法的・実務的観点から検証する。金融庁の「FinTech実証実験ハブ」内の「決済高度化プロジェクト(PIP)」支援案件。試験期間は2026年9月末まで。(参照:JPX公式プレスリリース
米国ではDTCC(米国の証券清算・決済の中央インフラ機関)の保管資産をカントン・ネットワーク上で直接ミントする形をとっています。日本ではみずほを起点にするアプローチを選びました。この違いはどこから来るのでしょうか。

指摘していただいた違いは事実として正しいです。DTCCは米国国債や株式を保管する市場中立的なインフラです。日本にはDTCC相当の機関が必ずしもあるわけではないため、JGBの最大保管機関であるみずほを起点にしました。みずほはJGBの最大の保管機関の一つだと思います。アプローチの違いは法的な差というよりも、実務的な理由によるものです。

むしろ、この両プロジェクトは非常に大きな機会を生み出しています。DTCCプロジェクトに参加している機関が、JGBプロジェクトにも関与したいと言ってきています。米国債を借りてJGBを担保にする、またはその逆を行う、つまり二つのプロジェクトをまたいだ取引を実行したいからです。想定以上に大きなクロスボーダーの機会になってきています。

プライバシーと規制監督の両立

金融庁が支援するJGBパイロットでは、機関間のプライバシー保護と監督当局の可視性をどう両立するかが課題になり得ます。カントンはこの点をどのように設計していますか。

少し質問で返させてください。あなたはどこの銀行を使っていますか?その口座に他の人はいくら入っているか知っていますか?知らないですよね。でも金融庁は銀行を規制できる。プライバシーがあっても、可視性を与えることは可能なのです。

仮想通貨の世界では「皆が見られるようにすることが信頼を生む」という考え方が広まりましたが、私たちはそれとは異なる考えを持っています。匿名性を主張しているのではありません。「あなたにその情報を見る業務上の必要性がなければ、見せない」ということです。

私が銀行員で、あなたが金融庁の担当者であれば、私の口座の活動は見ることができます。その権限がある。でも他に見る必要のない人には見えない。カントンはそういう仕組みで動いています。今日の金融システムと何ら変わらない形です。

むしろ逆説的なことを言えば、仮想通貨の方が規制当局に多くを見せています。パブリックチェーンはすべての取引が公開されているため、サブポエナ(裁判所や行政機関が発行する「召喚状」)なしに政府がアクセスできる。オンチェーン監視ツールの最大のクライアントは政府です。

私たちの技術は、発行体が「今日と同じモデル」を維持できるようにするものです。規制当局が見たければ、既存の法律と同じプロセスを経て見ることができる。それで十分です。

トークンエコノミクスと日本の金融機関

カントンのトークンモデルでは、ネットワークを利用する機関がカントンコインを保有・バーンする必要があります。日本の金融機関にとって、仮想通貨保有は会計・規制上のコストを伴います。このモデルは参加のハードルを上げませんか。

投資目的での保有と、手数料支払いのための利用は、明確に区別して考える必要があります。手数料支払いのためにコインを取得して使うことは、投資資産として保有することとは非常に異なるモデルです。カントンエコシステムには、その取得を代行するサービスもあるため、自分で保有しなくても利用できる仕組みもあります。

実際、近いうちに日本の主要な金融機関がカントンのスーパーバリデーターになり、コインをバランスシートで得るようになるのが見えています。すでにJGBプロジェクトを選んだ各機関は、カントンの仕組み全体を理解したうえで参加を決めています。

資金調達と普及加速の戦略

Digital Assetについて大型資金調達の報道があります。調達があった場合、資本をどう使うお考えですか。また、カントン・ネットワークとDigital Assetの関係についても改めて教えてください。

私たちはカントンの「創業者」です。カントンはオープンソースで、財団が所有しています。その財団はDigital Assetがコントロールしているわけでもない。財団の議長はEuroclear(欧州最大の証券決済機関)とDTCCが務め、技術小委員会はTradeWebが主導しています。ネットワークが本当の意味で分散型・独立型であることは、私たちが立ち上げ時に最も重視したことです。

資金調達については、機関採用を加速するために使います。たとえばVisaがカントンを次世代決済レールとして選んだとします。Visaが予算サイクルを待って本格展開するまで待つより、Digital Assetが投資してそのプロジェクトを前倒しにする、という使い方が考えられます。日本でも同様です。どこかの機関がカントンで何かをやりたいと決めたなら、私たちが投資してそれを早める。このタイミングは特別だと考えているからこそです。

技術的な準備は整っています。DTCCが動いている、HSBCがすでに稼働している、あらゆる機関のビジネスがオンチェーンに乗っている。同時に規制のタイミングも重なってきた。技術的な準備と政治的な環境が同時に整うことは、歴史的にも非常にまれです。このウィンドウを逃してはいけない。

編集部注:Digital Assetは2026年6月11日、a16z crypto主導で3億5500万ドルの資金調達を発表した。ABNアムロ、アブダビ投資庁、アポロ・ファンズ、BNPパリバ、Broadridge、シタデル・セキュリティーズ、CMEベンチャーズ、コインベース・ベンチャーズ、HSBC、SBIグループ、TradeWebなど、伝統的金融とDeFi双方の主要機関が参加。調達資金はカントン・エコシステムの拡充、開発者・金融機関との連携深化、ネットワーク成長の加速に充てられる予定。(参照:Digital Asset公式プレスリリース

Visaの参加とスケーラビリティ

2026年3月、Visaが決済会社として初めてカントンのスーパーバリデーターに加わりました。資本市場向けの担保・クリアリングと決済では、パフォーマンス要件も規制も異なります。一つのネットワークでどう両立させるのですか。

JPモルガンも決済会社としての側面を持っており、Visaより前に決済目的でカントンに参加しています。ただ、ご質問の本質は有効です。

Visaが今なおカントンを選んだということは、プライバシーとパフォーマンスを両立できていることの証明に他なりません。Visaは資本市場プレイヤーと本質的に共通する思考を持っています。プライバシーが重要、クライアントへの責任がある、安全で健全なインフラが必要、規制への対応も同じです。

確かにユースケースは一部異なりますが、VisaはDTCCに近い存在であり、たとえばミームコインとは全く異なります。

技術的にも問題はありません。カントンに取り組むグループが最近、数十万TPS(毎秒のトランザクション数)への到達可能性を示す論文を発表しており、現時点でも約10万TPSのベンチマークを達成しています。技術的な壁はありません。

編集部注:VisaはCantonのスーパーバリデーター(計40社のうちの1社)として2026年3月に参加を発表。Visaのステーブルコイン決済の年換算稼働額は46億ドルで、50カ国以上で130以上のステーブルコイン連携カードプログラムを展開している。(参照:Visa公式プレスリリース

相互運用性の最大障壁

カントンの重要な約束の一つは規制された金融システム間の相互運用性です。現時点での最大の障壁は何ですか。技術・規制・機関間調整のどれですか。

技術です。それがカントンのユニークな差別化点です。現在の規制は、銀行同士が相互運用することを禁じていません。それを妨げているのはテクノロジーだけです。相互運用性は今、「照合(reconciliation)」という形でなんとか実現しているに過ぎない。

L2ネットワークがイーサリアムのエコシステムを分断したことも同じ構図です。アバランチのサブネット、コスモスのサブネットをまたいで相互運用することは現状できない。ブロックチェーン技術の根本的な目標だったはずの相互運用性が、設計上損なわれてしまっている。カントンはその問題を技術として解決しています。

ユーヴァル・ルーズ(Yuval Rooz)氏 Digital Asset 共同創業者・CEO

日本市場へのアプローチ

日本での活動は2年半になると伺いました。日本の機関への教育・普及をどのように進めていますか。米国などとの違いは何でしょうか。

日本は信頼の市場です。一晩でひっくり返せると思って来た人は多いと思いますが、私もその一人でした。ただ、諦めていない。長く、忍耐強くここにいるからこそ、今になって成果が出始めています。

2014年に会社を始めたとき、私はDigital Asset.comのドメインを1万ドルで買いました。当時はまだ誰もそういうことを考えていなかった時代です。グローバルな資本市場レールを変えるには時間がかかるという覚悟でした。

そのアプローチは日本にとても合っている。リスク回避的であることは、金融システムを考えるときには正しい姿勢です。最近のDeFi(分散型金融)のハッキングを考えてみてください。日本規模の経済でそれが起きたら、世界的な災害です。

ゴールドマン、BNPパリバ、HSBC、Visa、ナスダック、Tradeweb、DTCCといった企業が信じているという事実は、日本の機関の信頼構築にも確実に貢献しています。やってきたことを一貫して示し、他の地域での実績を重ねることが、ここでの信頼につながっています。

日本市場は御社にとってどのような戦略的位置づけですか。また今後3〜5年の計画は。

100%、重要です。米国と中国を除けば、日本は世界で最も重要な経済です。高い優先度を置かないことはあり得ません。

今後3〜5年、日本での活動基盤を拡大します。採用も増やします。今はまだ公開されていない機関がカントンで稼働しており、近いうちにわかることになると思います。金融サービスを主軸にしながら、銀行だけに限るつもりはありません。

リテール投資家への意義

日本の読者へメッセージをお願いします。

私が最近書いた記事のタイトルを紹介させてください。「The case for institutional adoption for the sake of the retail investor(リテール投資家のための機関採用の意義)」です。

日本の個人投資家は、仮想通貨のエコシステムにとって非常に大切な存在です。本当に良い投資家であり、忠実なコミュニティです。私たちがお伝えしたいのは、これらの機関プレイヤーを取り込んでいくことで、トークンを実際にバーンするようになることで、その結果としてリテール投資家にとっても良い結果につながるということです。

この技術が目指していたのは、次世代の金融インフラを誰もが持てるようにすることです。でも次世代の金融インフラになるには、機関投資家の採用が必要です。

私たちは日本のことを非常に楽しみにしています。金融機関だけでなく、日本の個人の皆さんとも何が起きているのかを一緒に理解するための場、ミートアップや勉強会を通じてその接点を広げていきたいと思っています。

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