ユースケースと実務論点から考えるオンチェーン金融の現在地
目次
- Part 1: ウォレット ― それは「口座」ではなく「実印」
- Part 2: 送金とエクスプローラー ― 「銀行振込」と何が違うのか
- Part 3:ステーブルコイン ― 「デジタルのドル・円」のいろは
- Part 4:DeFiをのぞく ― 銀行機能の「部品化」
- まとめ
2026年7月24日、日本デジタル経済連盟のトークナイゼーションPT内に設置された「第2回 暗号資産運用 普及啓発勉強会」が、アライドアーキテクツ株式会社の主催で開催された。
本勉強会では、Fracton Ventures Co-Founderの鈴木雄大氏が登壇し、ウォレットの仕組みからステーブルコイン、DeFiの最前線、そして企業実装に向けた実務論点まで、オンチェーン金融の現在地について解説が行われた。本稿ではその講演内容を整理する。
Part 1: ウォレット ― それは「口座」ではなく「実印」
鈴木氏は、ウォレットを「お金の入れ物(銀行口座)」ではなく「実印の入った印鑑ケース」であると定義した。銀行口座の場合、残高は銀行の帳簿に存在し、銀行が本人性を確認するが、ウォレットでは残高はブロックチェーン上に存在し、秘密鍵(実印+暗証番号に相当)によって自分自身で直接署名・実行を行う仕組みとなっている。
【ウォレットとは ― 銀行口座と何が違うか】
ウォレットには以下の4つの系統があり、用途と金額に応じた使い分けが推奨されている。
・ソフトウェア型(MetaMaskなど):個人利用で利便性が高く、日常の少額決済に適する。
・メールログイン型(Privyなど):メールやパスキーで即時に発行でき、利用者にシードフレーズを意識させない設計(Stripe社が買収等の動きあり)。
・ハードウェア型(Ledgerなど):鍵を専用端末の中に隔離し、長期保管や大口利用に向く。
・エンタープライズ型(Safeなどのマルチシグ):組織の権限管理を前提とした鍵の分掌。
組織の鍵管理においては、「誰が・いくらまで・何に署名できるか」という職務権限表をオンチェーンに落とし込むことが重要となる。過去最悪の資金流出となったBybit事件(2025年2月に約15億ドル被害)の教訓からも、鍵の数以上に「実際に何に署名しているかの検証(ブラインド署名問題の回避)」が不可欠である。
Part 2: 送金とエクスプローラー ― 「銀行振込」と何が違うのか
オンチェーンでの送金は、全銀ネットとは異なり24時間365日稼働し、数秒から数分で完了する。国際送金においても国内外で同一の手順で実行可能である。
【送金比較 - 全銀ネット vs Ethereum】
手数料(ガス代)は道路の通行料のようなもので、ネットワークの混雑状況によって変動する。Layer 2(バイパス道路に相当)を利用することで、混雑を避けて安く速く送金が可能になる。
また、Etherscan等のエクスプローラーを用いれば、「誰が・誰に・いくら・いつ」送金したかというすべての取引が公開台帳に残り、監査証跡の取得が容易となる。一方で、自社のアドレスを誰に知らせるかという「可視性の設計」が実務上の論点となる。
Part 3:ステーブルコイン ― 「デジタルのドル・円」のいろは
ステーブルコインは、法定通貨に1:1で連動し、短期国債や預金を裏付けとする。いわば「デジタル両替商+信託」とも言える存在である。
【電子マネーとステーブルコインの比較】
世界の発行残高は急速に拡大しており、2021年の1,300億ドルから2026年7月時点では約3,000億ドルに達している。発行体シェアはUSDTが約59%(1,840億ドル)、USDCが約24%(730億ドル)を占める。
企業が注目する理由として、取引額でVisaやMastercardを上回る決済レールとしての性能や、AIとの相性の良さが挙げられる。クレジットカードは人間の本人性が前提でありAIエージェント決済の障害になるが、ステーブルコインはこれを解決しうる。
日本の法制度(改正資金決済法)においても、1号(資金移動業型)、2号、3号(国内信託型)、4号(外国信託型)の区分が整理された。2026年6月にはRLUSDが国内初の4号電子決済手段として取扱開始されるなど、「使ってよいか」から「どの区分を・どの業者経由で・どの用途に」使うかというフェーズへ移行している。
Part 4:DeFiをのぞく ― 銀行機能の「部品化」
DeFi(分散型金融)は、銀行機能の「部品化」である。
・Swap(Uniswap等):人間のディーラーの代わりに、資金プールと計算式(AMM)が値付けを行う両替の自動販売機。
・Lending(Aave等):過剰担保型の質屋であり、金利は需給で自動的に決まる。担保割れすれば清算も自動で行われる。
口座開設や審査を必要とせず24時間いつでも実行できる摩擦のなさがDeFiの本質だが、それが管理の難しさの源泉にもなる。リスクの所在は「コードのバグ」から「ガバナンス・運用・権限管理」へと移行しており(例:KelpDAO/rsETH事例)、損失はリスクを取った主体に直接帰属するため、誰が・どの権限を行使できるかという鍵管理の仕組み(Part 1)が極めて重要となる。
また、新たな潮流として、Nansen API/MCPのようにAIが自然言語の質問に対してオンチェーンデータで回答する技術も紹介された。
関連ガイド
まとめ
本勉強会の総括として、企業実装に向けた5つの論点が提示された。
1. 鍵管理:署名権限・職務分掌の設計
2. 区分整理:何号の電子決済手段か、どの業者を経由するか
3. 会計・税務:別問題としての設計(詳細は専門会にて)
4. AML/CFT:トラベルルール・スクリーニングへの対応
5. 社内規程:端末管理、承認フロー、誤送金対応ルールの策定
なお、本セッション内では個人向けウォレットとして使い勝手の良いRabby Walletの紹介のほか、鈴木氏が持参した私物のハードウェアウォレット(カード型やネットワークから遮断された独立端末型など)を紹介する場面もあった。さらに次回の勉強会では、ウォレットの作成、資金の受け取り・送金からエクスプローラーでの確認、Swapまでの一連の流れをさらうハンズオンまたはデモを通して、参加者へのオンチェーン決済の実務的な体験の提供が検討されている。



WebX完全ガイド
TOP
新着一覧
取引所
WebX













