無担保型ステーブルコイン 「TerraUSD」が対米ドルで一時前日比40%下落
LUNAの時価総額が急落
暗号資産(仮想通貨)テラ(LUNA)が10日、一時前日比50%近く下落した。これに伴い、ステーブルコインTerraUSD(UST)が1ドルの基準値を一時前日比40%下回った。投資家の最大の懸念は、LUNAの時価総額がUSTのそれを下回ったことにある。
「担保不足」に対する直感的な不安が市場に拡がり、投資家のUSTとLUNA売却の連鎖に拍車をかけた。市場データサイトCoinMarketCapによると、日本時間10日午前にUSTとLUNAの時価総額はそれぞれ1兆8,000億円と1兆2,400億円となっている。
TerraUSD(UST)に関連するLUNAの「デス・スパイラル」は日本時間5月8日に始まった。少数の大口投資家がTerraネットワークのレンディングプロトコル「Anchor Protocol」から大量のUST(約650億円)を引き出すと、仮想通貨取引所バイナンスや分散型取引所CurveでUSTが大量に売却された。CurveではUSTの出口流動性が急激に減少している。
9日にテラ(LUNA)の非営利組織である「Luna Foundation Guard(LFG)」は、USTの1ドル奪回のために約2,000億円(15億ドル)の流動性を調達したが、その後もUSTの価格は下がり続けた格好だ。
10日9時(日本時間)に仮想通貨取引所バイナンスで、USTは過去最低値となる0.60ドルまで下落、現在は0.85ドルで取引されている(執筆時点)。一方のLUNAは前日比50%安となる30.93ドルを付けている。
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無担保型ステーブルコインの信頼
TerraUSD(UST)は、テラブロックチェーン上で発行される無担保型ステーブルコイン。アルゴリズムをベースにLUNAトークンとUSTの発行とバーンで価格と供給量を調整し、米ドル価値とのペグ(連動)を維持する。
例えば、USTが1ドルを下回っている時、トレーダーはUSTを市場で購入して「Terra Station」に差出し、1ドル相当のLUNAに交換できる。そしてLUNAを公開市場で売却して差額分の利益を得る。この仕組みは、裁定取引(アービトラージ)と言われるトレーディング戦略に基づく。
テラ(LUNA)の開発を主導するTerraform Labs社によると、USTの価値は裁定取引を中心とするTerraネットワークの経済需要と関連するキャッシュフロー(取引手数料と通貨発行益がLUNAステーキング参加者に分配される)に支えられている。そのため、LUNAには買われる理由があり、時間がかかったとしてもUSTはペッグに戻る性質がある、と主張する。
LUNAの時価総額がUSTの総額を下回ったのはこれが初めてではない。2021年5月にも同様の懸念が広がり、USTが1ドルのペグを失ったが持ち直していた。しかし、当時と現在では2つの点で異なっている。
1つは、当時はUSTの時価総額が20億ドル程だったが、現在は200億ドル規模にまで拡大していること。もう一つは、現在は市場全体が弱気相場にあることだ。そのため、LUNAとUSTの裁定取引の仕組みを説明されても、投資家は直感的にリスクを下げるべく反応したようだ。
Terraの中央集権的な運用体制
Terraform Labsは10日早朝、USTの1ドルペッグの復旧に向けた「A-team(専門チーム)」を結成していると言い、「より多くのアップデート」を発表することを示唆した。しかし、こうした中央集権的な運用体制も批判の的となっている。
LFGはUSTの価値を支える準備金として5月6日時点で、80,394BTC(約3,800億円)を保有していたが、BTCリザーブとLUNA発行・バーン用のコントラクトはまだ実装されていないため、10日時点で手動での運用となっている。
ソーシャルメディアでは、大手トレーディング会社であるJump TradingやAlameda Research等がUSTの救済措置として20億ドルを出資するとの噂も広がっている。The BlockのリサーチディレクターのLarry Cermak氏は、「仮に(奇跡的に)1ドルのペッグが復帰することができたとしても、USTに対するトラスト(信用)は取り戻せないのではないか?」と指摘した。
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