流動的ステーキングがETHにもたらすリスク、イーサリアム財団が警告
リキッドステーキングのリスク
イーサリアム財団のDanny Ryanリサーチャーは先週、リキッドステーキングデリバティブ(LSD)の問題点を指摘するレポートを公開。Lido Finance(LDO)を初めとするステーキング・エコシステムの寡占化により、暗号資産(仮想通貨)イーサリアム(ETH)に集権化リスクをもたらすとした。
Lido Finance(LDO)は仮想通貨のステーキング金利を受け取りながら、その代替資産(ステーキング証明トークン)を運用できる「リキッド(流動的)ステーキング」のサービスプロバイダー。ETHをステークすると「stETH」を受け取り、レンディングの担保としたりDEX(分散型取引所)等で運用できる。
LSDはイーサリアム・ビーコンチェーン上のETHステーキング量のシェア29.91%を占めるまでに拡大しているが、その市場はLidoが91%を占めている。執筆時点に420万ETH(約1兆円)がLidoにステークされている。
レポートでは、特定のプロトコルが流通するETHの大部分をステークすることになればバリデーター(検証者)のカルテル化を助長し、最終的にイーサリアムプロトコルにとって脅威になると主張されている。
Lidoを含むリキッドステーキング・デリバティブ(LSD)はカルテル化の震源であり、(1/3、1/2、2/3といった)重要なコンセンサス閾値を超えれば、イーサリアム・プロトコルとプールされた資本に多大なリスクをもたらす。
検閲とは
個人のネットワーク参加やブロックチェーン上のトランザクションを(技術的な原因ではなく)何らかの意思によって差別的に制限することを指す。検閲耐性とはブロックチェーン上で検閲が困難であることを指す。
▶️仮想通貨用語集
Ryan氏によると、仮にLSDプロトコルが重要なコンセンサス閾値を超えた場合、ブロックスペース(≒手数料市場)のカルテル化によって、取引承認者としての立場を利用して莫大な利益を得ることが可能となるという。協調したマルチブロックMEV(取引の順序変えでマイナーが抜き取る利益)や、ブロック(生成)タイミングを操作してその最大化を図るといった戦略があるとした。
カルテル化、不正なMEV抽出、検閲などはすべてイーサリアムプロトコルに対する脅威であり、ユーザーと開発者は従来の集権化攻撃と同様、社会的な介入によるバーン等で対応することになる。したがって、こうしたカルテル化の震源に資本をプールすると、イーサリアムのプロトコルだけでなく、プールされた資本も危険にさらされることになる。
関連:待望のPoSへ、イーサリアム大型アップグレード第一弾「The Merge」を詳細に解説
ノード・カルテル化の弊害
Lidoではノードオペレーターの追加と除外はLidoDAOのガバナンス投票で決まる。競合のRocketPoolでは収益性評価メカニズムとスマートコントラクトによってノード構成が制御されている。レポートでは、どちらもカルテル化の恐れがあると説明されている。
例えば、LidoDAOのガバナンストークン(LDO)の大部分が大口ホルダーに偏ると、検閲やMEVなどのカルテル攻撃を仕掛けたり、同調しないノードを除外することもできるだろう。別の側面では、規制当局が検閲を要求できる単一のガバナンストークン・ホルダーが生まれることになる。RocketPoolではマルチブロックMEVを乱発するノードの不良行為が横行すれば、誠実なノードが自動的に排除される状況が想定される。
結論として、Ryan氏はプロトコルに対して、カルテル化のリスクを避けるために自主規制を行うべきだと働きかけている。そして、投資家に対してはこれらのリスクを認識し、ETHビーコンチェーンへのステーキングシェア25%を超えている(Lidoのような)プロトコルに資本を配分しないよう警告している。
stETHのディペッグ
足元ではLidoが発行するstETHがETHの価値から乖離するディペッグが生じており、主要な取引市場であるCurveで0.9785 ETHで取引されている。ディペッグをきっかけに取り付け騒ぎに発展したテラ(LUNA)になぞらえて「仮想通貨市場の次のリスク」とする声が散見される中、むしろこれはイーサリアムの「The Merge」のリスクが織り込まれた証左であるとの見方が出ている。
The Mergeとは
イーサリアム・ブロックチェーンのコンセンサス(合意形成)アルゴリズムを従来の「プルーフ・オブ・ワーク(PoW)」から「PoS」へ移行する大型アップグレード。ユーザーが現在利用している旧イーサリアムと「ビーコンチェーン」と呼ばれる新チェーンを統合(The Merge)することにより、PoSへのアップグレードが完了する。
▶️仮想通貨用語集
現在のところ、The Mergeは早ければ22年8月の実現が見込まれている。そして、The Merge後にアップデートが実行されて初めてビーコンチェーンにステークしたETHを報酬とともに引き出せるようになる。つまり、仮にThe Mergeの延期を含むトラブルが生じた場合、stETH保有者は投資した資金を動かせないままとなる。そうしたリスクに対して「ショートするのは理にかなっている」と、米調査会社ファンドストラットのWalter Teng氏は米Coindeskに対して語っている。
ゴールドマン・サックスが5月中旬のレポートで、stETH価格のディペッグをテラ(LUNA)崩壊と結び付けて「DeFi(分散型金融)におけるシステミックリスクを引き起こす恐れがある」と説明したことも、投資家の不安を助長した可能性がある。アルゴリズム型ステーブルコイン「TerraUSD(UST)」が1ドルから乖離し始めた5月8日頃にstETHのディペッグも始まり、今日まで2~3%のディスカウントで取引されている。
一方で、stETHのディスカウントはThe Merge成功によって解消する、とstETHの分析ツールを運用するData Alwaysは主張する。同氏はstETH価格がThe Merge成功率の予測市場のようなものだと述べている。
しばらくはディスカウントの縮小傾向が続いているが、The Mergeに近づくにつれてディスカウントは拡大するだろう。だが、PoSへの移行が成功した途端にペグを取り戻すだろう。今はレバレッジをかけたstETHのトレードには適さない時期だ。
関連:イーサリアム、「The Merge」の最初のリハーサルへ
画像はShutterstockのライセンス許諾により使用
「仮想通貨」とは「暗号資産」のことを指します