NEAR財団の女性CEOが語る「NEARの強みとイーサリアムとの違い」
NEAR財団CEOとの独占インタビュー
「シンプルさ、セキュリティ、スケーラビリティ」の3点に焦点を置くL1ブロックチェーンプロジェクトのNEARプロトコル。
22年6月上旬に米テキサス州オースティンで開催された「Consensus 2022」でも、著名女優ミラ・クニス氏のWeb3プロジェクト「Armored Kingdom(アーマード・キングダム)」のブロックチェーン基盤として採用されたばかりで、イーサリアム(ETH)キラーの1つとしても注目が集まっています。
そんなNEARプロトコルのエコシステムを支援するのが、スイスに拠点を置くNEAR Foundation(NEAR財団)。今回は3年ぶりの現地開催となったコンセンサスにも登壇したMarieke Flament CEOに独占インタビューを実施。
プロジェクト始動の経緯やNEARの強み、弱気相場の中での取り組みなどについて見解を伺いました。
NEARとは
ー自己紹介とNEARについて
私は、NEAR財団のCEOを務めるマリークです。私は2015年末から仮想通貨に関わっていて、2015年〜2019年にかけてCircleに(CMOなどとして)在籍していましたが、22年1月にNEAR財団に参加しました。
財団は、NEARという大きなエコシステムを構成する一部です。NEARプロトコルはレイヤー1プロトコルで、PoS(Proof of Stake:プルーフ・オブ・ステーク)というコンセンサスアルゴリズムを採用しています。他と最も違う点は「ユーザビリティ(使いやすさ)」にフォーカスしている点です。
NEARプロトコルは、実際に使用する”エンドユーザー”にとって非常に使い勝手がいいのですが、それは開発者にとっても同じです。
例えば、エンドユーザーにとっては、例えばMaticのNEARアドレスを自分のものにしたいと思えば、すぐにそのアドレスが作成されることを意味します。エンドユーザーにとって完全にシームレスなのです。
エンドユーザーにとっての使いやすさについてを考慮した結果、私たちは「Sweat coin」とのパートナーシップを結びました。
これは、歩いてトークンを獲得できるアプリですが、実はすでに新しいウォレットに組み込まれています。ユーザーはブロックチェーンが何であるかを理解する必要がないほどシームレスなのです。これがエンドユーザーにとっての使いやすさです。
また開発者にとってのユーザビリティとは、ROSだけでなく、JavaScriptでもコーディングできる点です。世界には何千万人ものJavaScript開発者がいますから、本当の意味での普及を望むのであればJavaScriptが必要です。これが、私たちを差別化する一つのキーワードになると思います。
もちろん、私たちはPoSで、シャーディング機能を完全に実装しており、4つのライブチャーターと数百のバリデーターを持っているため、スケーラビリティやセキュリティといった機能はプロトコルの設計に反映されています。
もうひとつ私たちの考え方の根底にあるのは、このような特性によって「持続可能であること」です。
テクノロジーは常に進化していますが、長期的な視点に立ち、エコシステム全体の二酸化炭素排出量を把握したり、どうすればそれを継続的に削減できるかなどを考えています。このようなことも、私たちが作るものの中にとても深く関わっているのです。
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NEAR Protocolについて
NEARプロトコルは、例えるならひとつのパーツのようなもので、オープンソースなので、誰でも参加することができます。プロトコルの上では、NEARエコシステムのプレーヤーが重要なインフラを構築しています。
プロジェクトは、大きく分けて3つのカテゴリーに分類されます。ゲームであれ、NFTであれ、NEARはユーザビリティが高いので、素晴らしいゲームを作ることもできます。
そしてDAO(自律分散型組織)もまた、基本的なパーツの一つです。現在700近い高品質なプロジェクトがあり、それとほぼ同数のDAOがあります。ウォレットは1,300万のアカウントがあり、世界で再生産されている仮想通貨ウォレットの7〜8%を占めていると思います。つまり、全体として非常に活発なエコシステムなのです。
NEAR財団の話に戻すと、財団は基本的にエコシステムの中のパーツのようなものです。私たちが重視しているのは、上記の3つのカテゴリーに対する認知度をいかに高めるか、そしてその上に構築される、あるいは構築されようとしているプロジェクトをいかにして実際にサポートするかということです。
また、規制のガバナンス(統治・管理)をどのように支援するかということも重要です。ご存知のように、それがトークン・トレジャリーであれ、私たちがOTC(相対)取引で調達した資金であれ、エコシステムの多くの資金を監督しています。
私たちは時間をかけてそれを分散化していきます。そして、エコシステムの中で作られたエコシステム・ファンドや、地域のハブも持っています。そして日本には、すでに強力で良好な基盤があると聞いており、それは本当に素晴らしいことだと思います。私たちはこのようなコミュニティを良い指標として、より多くのリソースを投入し、エコシステムに任せ、成長させることができるからです。
イーサリアムとの違い
ーイーサリアムは発展途上でいずれシャーディングを持つが、NEARとの最大の違いは
とてもいい質問です。イーサリアムの場合、実際にそうなるとしても、非常に時間がかかりますよね?
なぜなら、シャード化されたバージョンに到達したとしても、オリジナルのイーサリアムで作成されたものをシャード化されたバージョンに実際に移行させる必要があるからです。あるバージョンで作成されたプロジェクトが、どのように移行されるのか、その時間(期間の長さ)を過小評価しているのではないでしょうか。
NEARにおいては最初からすべて揃っており、私たちが持つ大きな利点のひとつです。イーサリアムがそこに到達するには、あと2~3年ほどかかるかもしれません。つまり、私たちは”ビジョンの実現”ということにおいてはイーサリアムの数年先を行っていることになります。
しかし一方で、私たちはマルチチェーンの可能性を信じています。では、そこから生まれるものをどのように他の場所へ橋渡ししていくのか。使い勝手という点では、イーサリアムの完全共有版が今と同じように使えるかどうかはまだわかりません。まだ多くの未解決の問題が残っているように思います。
ーナイトシェードの開発状況と、スケジュール遅延に関する苦労は
一つ言えることは、シャードや分割を続け、バリデーターの数が増えると、最も複雑化するのはコンセンサスのメカニズムです。セキュリティの観点からすると、悪質なアクターが51%いることでネットワークを覆ってしまうことになり、アクターが増えれば増えるほど、そしてシェアが増えれば増えるほど、解決すべき最も複雑な問題になってくるからです。
そのため、私たちは常にこの問題に取り組んでいます。そして、どのようにそれに対処するのか?そして、どうすればいいのか?研究の観点からどのようにすればいいのか、ということなどに取り組んでいます。
仮想通貨の冬について
下落トレンドが続いているが、どう受け止めているか
確かに弱気相場にあると思います。
しかし、下落トレンド自体は過去に何度もあったことですし底は近いと考えています。マクロ的に見れば、さらに悪化する可能性もありますが。
NEARは、前回の弱気相場の底(2018年)に設立されました。
逆に言えば、強気相場にあるときは誇大広告が多すぎて、かえって良くないこともあります。物事が過大評価されたり、FOMO(Fear of Missing Out:取り残されることへの不安)状態を引き起こすため、合理的な投資判断は難しくなります。
現実的な視点に戻ることは、間違いなく良いことだと思います。
もう一点、私たちがポジティブに考えているのは、エコシステムとして、かなり多くの資金を獲得しているということです。それにより、私たちは開発を続けることができますし、強力なビルダーの集団であり続けることができます。
また、業界全体に見てもVC企業からの資金流入は続いています。a16zやKatie haunのような、仮想通貨に投資しているVCやファンドは変わらず出資を継続しており、この2つのファンドだけでも出資額はおそらく50億円に上ります。
この業界に多くの資本が流入することは、長期的には才能ある人材の誘致にもつながります。資本(の流入)は才能を呼び、才能ある人材が集まれば、より良いプロダクトを開発できます。この良いサイクルはしばらく続くと思います。
永続的に、現状のような評価額での資金調達が続くことは考えにくいですが、私はそれはむしろ良いことだと思います。長期的には基本に立ち返り、エコシステムとして、起業家として、レジリエンス(回復力)が重要であるというメッセージを伝えています。
それと同時に、起業家達にただ資金を投げるだけではなく、資金繰りを徹底し、洗練されたビジネスモデルを実践することが重要です。
資金繰りを厳しくすること、ビジネスモデルを考え抜き、本当に必要なリソースは何かを考え抜くべきです。ひたすらリソースを投げやすい強気相場とは違った立ち回りが大事になります。
過去の弱気相場との違いは
最大の違いは”人材”にあると思います。今回の弱気相場では、「Web3に参入するべき」と確信を持ったWeb2の人材が数多くいますが、これは2018年には考えられなかったことです。
今回の相場急落で、応募してくる人材のパイプライン減少も想定していましたが、市場が落ち込んだ後でもこの業界に入りたいと希望する人材は未だに多くいます。これは非常に心強い点だと思います。
あと大きな違いと言えば、2018年には”ユースケース”がほとんどありませんでした。しかし今では、具体的なユースケースを挙げやすくなっています。
戦時下にあるウクライナ情勢は悲しい出来事ですが、これの最たる例です。NEARのUnchained Fundは、数日で1千万ドル(約13億円)もの資金を集め、それを現地で細かく分配して、ウクライナ全体を支援することができました。こうした実世界への直接的な影響が見られるユースケースは今後も増えてくるでしょう。
分散化された組織としての活動
ーマリークさんの活動拠点は
スイスのチューリッヒを拠点に活動しています。
ーNEARチームは定期的に集まっているのか
コロナ禍では、私たちは皆リモート化して分散しています。
しかし、チームとして一緒にいることは何にも代えがたいことです。そこで、例えば、カンファレンスが始まる前日に、ここでリーダーシップチームが誕生したのです。
会議の前日にリーダーシップチームが集まり、一緒に時間を過ごすことができました。少なくとも四半期に一度、時にはそれ以上の頻度で、リーダーたちとそのような時間を持つようにしています。そうすれば、他のメンバーも顔を合わせることができますし、そうしなければお互いを知ることができませんからね。だから、こうしたカンファレンスはチームの絆を深める良い機会になっています。
独自カンファレンス「NEAR CON」開催へ
ーコンセンサス以外にどのような会議に参加しているのか
ETHデンバーは、私たちにとって大きな意味を持つイベントでした。ETHデンバーでは大きな存在感を示し、私たちのNEAR Buildingがありました。これは素晴らしいことでした。その後、パリとアムステルダムにも行きました。次はパリのEthCCで、大きなカンファレンスが開かれる予定です。
どうしたら皆さんに参加していただけるか、考えています。また9月13日から15日にかけて、ポルトガルのリスボンで「NEAR Con」という大型カンファレンスを開催予定です。
第1回のNEARコンは昨年開催され、今年が2回目となります。
ー昨年はコロナ禍で開催が大変だったのでは
昨年より今年は参加者は増えるでしょうし、NEARが始動したのが2018年なので去年が初めてでした。
NEARのプロジェクトが始まったのは、前回の弱気相場の真っ只中です。また、新型コロナウイルスの影響なども重なり、去年の第1回目となったNEARコンは、実際NEARコミュニティが集まったのはほぼ初めてでした。
この頃、私はまだNEAR財団にジョインしていなかったのですが、NEARコンには参加しました。素晴らしいイベントだと思いましたし、雰囲気も最高でした。
我々はエコシステムとして大きく成長しましたから、今年のイベントはもっと大きく、大胆なものになるでしょう。また、NEARのビジョンを前進させるためには、政治家や政府、規制当局、機関、そしてアーティストやミュージシャンなど、あらゆる分野の人々が必要です。
日本市場への意気込み
ー今後日本市場への進出予定は、NEARを取り巻くコミュニティ基盤が強いのはどの国か
素晴らしい質問です。私たちが地域社会について考えていることは、次のようなことです。
私たちにとって、非常にグローバルであるためには、非常にローカルであることが重要であると考えています。というのも、英語は多くの場所で使用されてはいますが、どこでも通じるわけではありません。
地域ハブを作るには、2つの方法があります。ひとつは、市場に強いニーズがあるというシグナルを出すこと。そして2つ目は、いかにして市場に資本を配分し、素晴らしい人物を確保するかということです。
そのために、私たちは地域のハブを作っています。私たちにとって地域ハブとは、私たちが採用する3つ目の方法です。その背景には、「どうすればミートアップの教育コンテンツや地域コミュニティが持てるか」という、非常に強い需要があります。製品ラボはどうすればいいのか?NEARに特化したベンチャーキャピタルファンドを作るにはどうしたらいいか、など。
このモデルは、現在戦争中のウクライナを始め、ポルトガル、バルカン半島、イギリスを拠点とするヨーロッパ各地のハブ、またアフリカのケニア、ラテンアメリカ(主にメキシコとコロンビア)のハブ、そしてインドは開発者のコミュニティがあるため、次の巨大な市場だと考えています。
また、アメリカでもいろいろなことが起きています。今は実際にそれをまとめているところです。アジア圏では韓国も巨大な市場の1つです。Terra Lunaに関しては、業界にとっては大失敗でしたが、素晴らしいデベロッパーがいますし、非常に優れたコミュニティがあり、運営も機能しています。
また、プロトコルとしてのNEARの知識やノウハウの移転も始まっており、これは素晴らしいことだと思います。現地のコミュニティが現地語でNEARを強力にサポートしていることがわかれば、私たちはそれをバックアップし、前進させていきます。
そのためには、読者の皆さんから「このようなことをやってみたい」「このようなことを率先してやってみたい」という声を聞きたいですね。
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