国債と金利、リスク資産の関係
中央銀行の金融政策が変化するたびに、株式市場や暗号資産市場が大きく動く場面が繰り返されてきました。金利が下がればリスク資産に資金が流入しやすく、金利が上がれば資金が引き上げられやすい——こうした動きを理解するには、金利の仕組みとその波及経路を把握することが重要です。
機関投資家の参入増加により、株式市場との相関性が高まるビットコイン(BTC)をはじめとする暗号資産にとっても、金利動向は無視できない要因です。金利が上昇すると国債などの「安全な資産」の魅力が高まり、リスク資産から資金が抜けやすくなります。反対に金利が低下・安定すると、より高いリターンを求めてリスク資産に資金が向かいやすくなります。
ただし、金利とリスク資産の関係は単純な逆相関ではありません。好景気局面では金利と株価が共に上昇することもあり、市場環境全体と照らし合わせて総合的に判断することが必要です。
この記事では、株やビットコインを含むリスク資産にとって、金利変動がどのように影響するのかを解説します。
目次
国債と利回り
金利と株価の関係を正しく理解するにはまず、金利に密接に関わる国債とその利回りの関係が手掛かりになります。
国債とは、国が財源を調達するために発行する債券(借用証書)のことです。2年・5年・10年・20年・30年・40年といった満期があり、発行時に、満期に償還可能な額面と、一定期間毎に国債保有者に付与される「利子(クーポン)」が固定されます。
しばしば「国債価格が上昇すると利回りが低下する」と語られる場面がありますが、国債利回りは投資元本(購入価格)に対してどれだけ利益を得られるかを指します。
国債投資から得る収益は主に、一定期間毎に受け取る「利子(クーポン)」と、国債を売買した時の差額で得られる「売却益」があります(満期まで保有して償還する場合は「償還差益」です)。
国債は流通市場で取引されるため「国債の価格」は需給に応じて変動しますが、この利子と償還可能な額面(元本)は固定です。そのため、国債の投資元本(購入価格)が上がると、(新規購入者からすれば)収益の合計額が相対的に縮小(償還差益も縮小)し、国債利回りは低下することになります。
短期金利と長期金利
金利は国債と密接な関係がありますが、起点となるのは中央銀行の金融政策で操作対象となる「短期金利(政策金利)」です。
一般的に中央銀行は、好景気にインフレ(物価上昇)傾向になると政策金利を引き上げて経済の過熱感を抑えます。反対に、不景気にデフレ(物価下落)傾向になると政策金利を引き下げて経済を刺激します。
例えば、日銀が国債を買い取ると金融機関の日銀当座預金に入金され、経済全体のマネーサプライ(通貨量)が増加します。これらの資金は企業への貸し出しや投資に回され、経済活動の活発化とデフレ脱却に寄与することが期待されます。
こうした金融政策は長期金利にも波及します。長期金利には、金融政策、国内景気、国内物価、為替、海外金利等に関する市場予想や期待が債券売買を通じて反映されます。そして、長期金利の代表的なものが「10年物国債利回り(国債金利)」です。
金利とリスク資産(株価、ビットコイン)
投資家にとって、国債は元本が保証されている安全な資産という意味で「無リスク資産」と呼ばれます。この無リスク資産から得られる利回り(リスクフリーレート)が、リスクのある資産の期待利回りよりも魅力的な場面では、投資家が無リスク資産に移る傾向があります。

出典:三井住友DSアセットマネジメント
上記は2021年12月時点における、米MSCI社のグローバル株式インデックスの期待利回りと国債利回りの関係を示したデータです。この図からは、機関投資家が株式投資において実質運用利回り1.7%を最低限のリスクで達成することを目指していることが見て取れます。
リーマンショックとコロナショック——歴史的事例から読む金利とリスク資産の関係
ただし、金利とリスク資産(株価や仮想通貨)の関係は単純ではありません。金融政策や経済動向に対する市場の期待によって、金利と株価が相関することもあれば、逆相関することもあります。
ここでは米国の金融政策が株式市場に影響を与えた2つの歴史的事例(リーマンショックと新型コロナウイルスの世界的拡大)を振り返り、長期金利と株価の関係を見てみましょう。

出典:MacroMicro
リーマン・ショック後の2008年12月に米連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利をゼロ近くに誘導するゼロ金利政策を導入、2015年12月まで継続しました。さらに、2008年11月には景気や物価を下支えするために金融資産(主に国債)を買い入れ、市場に大量に資金を供給する無制限の量的緩和(QE1)を開始。QE1は2010年3月に終了しましたが、2010年11月に第2弾(QE2)、2012年9月に第3弾(QE3)と続きました。
この間、米国市場は金融緩和やカネ余りを背景に上昇する「金融相場」に突入。米国10年国債利回りも低水準(2.0%前後)を推移する一方、株価は大きく上昇しました。
しかし、バーナンキFRB議長(当時)が金融緩和策を正常化するため、テーパリングに言及した2013年5月22日以後、「業績相場」にシフトしました。株価上昇と併せて市場がテーパリングを織り込んでいく形で長期金利は3%近くまで上昇。実際に、FRBは2014年11月に量的金融緩和を停止し、15年12月には1回目の利上げを実施。その後2018年までに0.25ポイントの利上げを計9回行い、最終的にFFレートは2.25%〜2.50%に引き上げられました。
続いて2020年3月、新型コロナウイルスの混乱により世界経済の不確実性が高まる中、FRBは再び事実上の「QE4」を実施。政策金利をそれまでの1.75%から0.1%まで引き下げると、リスク資産に資金が流入する中で株価やビットコインは高騰しました。
2020年半ば以降は、コロナ禍からの回復と経済正常化に伴い「業績相場」に突入。「ペントアップ需要(一時的に控えていた消費行動)」に対する期待から、米国で緩やかな長期金利上昇と株価上昇が続きました。
2022年にはインフレ懸念などから米国の金融政策が緩和から引き締めへシフトして「逆金融相場」に入りました。金利上昇と米ドル高が続く一方、株価やビットコイン(BTC)など暗号資産市場からは資金が抜け、下落が続きました。
こうした局面を経て金融引き締めにより景気が後退し始めると、長期金利の上昇圧力が和らぐ「逆業績相場」を迎えます。この局面では企業業績が悪化して株価が下がり、市場が徐々に次の金融緩和を織り込み始めて長期金利が低下し、徐々に資金がリスク資産に移り始める傾向があります。こうした「金融相場→業績相場→逆金融相場→逆業績相場」という4局面の循環は、市場環境を整理する際の一つの考え方です。
日本と比較した米国債動向
日本では日本銀行が2013年4月から「量的・質的金融緩和」(通称:異次元金融緩和)を開始し、2016年にはマイナス金利政策やイールドカーブ・コントロール(YCC)を導入しました。しかし2024年3月、日銀はマイナス金利政策を解除するとともにYCCを終了し、17年ぶりの利上げに踏み切りました。これは日本の金融政策における歴史的な転換点となり、その後も段階的に利上げを進めてきました。
2026年9月時点では、共同通信の報道によると、日銀が政策金利を現在の1.0%程度から1.25%程度に引き上げる方針を固めたとされています。実現すれば約31年ぶりの高水準となり、円安・原油高が想定以上に物価を押し上げるリスクへの対応が背景にあるとされています(共同通信、2026年9月8日)。
一方、米国ではFRB(米連邦準備制度理事会)が2022年から利上げを進め、2025年後半には利下げに転じました。2025年12月以降、政策金利(FF金利の誘導目標)は3.50~3.75%で推移しています。
日米の金融政策の方向性は、かつて「日本が緩和・米国が引き締め」という大きな格差がありました。現在は日本が利上げを進める一方、米国の政策金利は3.50~3.75%で推移しています。日米の金利差は為替(円安・円高)に影響するため、暗号資産を含むリスク資産への投資を考える上でも注目すべき要因の一つです。
中央銀行は金融政策の方向性を決定する際、インフレ率や雇用、景気動向などのマクロ指標を総合的に判断します。国債利回り(長期金利)は、金融政策の見通しやインフレ・景気見通し、国債の需給などを反映して変動するため、金融市場の先行きを見るうえで重要な指標です。リスク資産への投資を考える際には、各国の金融政策スタンスと長期金利の動向を継続的にウォッチすることが重要です。
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