2025年7月、イーサリアム財団の研究者ジャスティン・ドレイク氏がイーサリアムの長期ビジョン「リーン・イーサリアム」を提唱しました。
イーサリアム共同創設者のヴィタリック・ブテリン氏は、この構想を「2022年のMerge(マージ)に続く、イーサリアム第3の大きな進化」と位置づけています。
本記事では、リーン・イーサリアムとは何か、どのような技術的変化が計画されているのか、そして実際のロードマップ「Strawmap」まで、全体像をわかりやすく解説します。
リーン・イーサリアムとは
リーン・イーサリアム(lean Ethereum)とは、イーサリアムをよりシンプルで、強く、速く、将来も安心な形に進化させていくための長期的なビジョンです。
イーサリアムではこれまで、「Fusaka」や「Pectra」のように、その都度名前がついた大きなアップデートが定期的に行われてきました。リーン・イーサリアムは、そうした名前付きアップグレードのことではありません。これから数年かけて行われる複数のアップグレードをまとめた、全体の方向性・設計図のようなものです。
この構想は、2025年7月にイーサリアム財団の研究者であるジャスティン・ドレイク氏が提唱しました。「次の10年に向けたビジョンであり、個人的な使命」と位置づけており、簡単に言うと「無駄を省いて引き締め(Lean)、量子コンピュータなどの脅威にも耐えられる強さを持ち、性能も大きく伸ばしていく」という考え方です。
イーサリアム共同創設者のヴィタリック・ブテリン氏も、この構想を強く支持しています。ヴィタリック氏はリーン・イーサリアムを「マージ(Merge)に続くイーサリアム第3の主要な進化だ」と述べています。
マージとは 2022年9月に実施されたイーサリアム史上最大級のアップデートです。それまで使っていた「マイニング(Proof of Work)」という仕組みから、「ステーキング(Proof of Stake)」に切り替えた歴史的な変更で、ネットワークの仕組みそのものを根底から変えた出来事でした。
ヴィタリック氏は、リーン・イーサリアムもそのマージに匹敵する規模の大きな進化だと位置づけています。ただし「1回で切り替える」のではなく、「3〜4年かけて少しずつ進めていく一連の改善」であり、既存のアプリへの影響を最小限に抑えながらプロトコルの主要な部分を更新していくという点も強調しています。
リーン・イーサリアムの2つの方針:守りと攻め
ジャスティン・ドレイク氏は、リーン・イーサリアムを2つの視点から説明しています。
Fort mode(守りの視点)
イーサリアムを「どんな状況でも絶対に止まらない、強固な要塞」にするという考え方です。国家レベルの攻撃にも耐えられること、量子コンピュータが登場しても安全性を保てること、「インターネットが動いている限り、イーサリアムも動き続ける」状態を目指します。
Beast mode(攻めの視点)
守りを固めつつ、性能を大きく引き上げるという考え方です。メインネット(L1)で約1万TPS(1秒あたり1万件の取引)を目指し、L2ではさらに桁違いのスケール(約1,000万TPS)を実現するという性能目標をジャスティン・ドレイク氏は掲げています。
現在のイーサリアムL1の処理能力はおおよそ15〜30 TPS程度です。Beast modeでは現状の数百倍〜数千倍のスケールを狙っていることになります。
リーン・イーサリアムの特徴は、この2つの視点を同時に追求するところにあります。ジャスティン・ドレイク氏は、「性能」と「妥協のないセキュリティ・分散性」を両立させるために、次世代の暗号技術(特にハッシュベースの暗号やゼロ知識証明)が鍵になると述べています。
関連ガイド
3つの層のアップグレード内容
リーン・イーサリアムでは、イーサリアムのメインネットを構成する3つの層をそれぞれ大きく見直していく計画です。イーサリアムは大きく「合意形成・データ・実行」の3層で動いており、リーン・イーサリアムはその3つすべてを刷新することを目指しています。
Lean Consensus(合意形成層)
合意形成の仕組み(現在のBeacon Chain)を刷新するアップグレードです。この構想は、2024年11月のDevconでジャスティン・ドレイク氏が発表した「Beam Chain(ビームチェーン)」をベースに発展したものです。
Beam Chainで示された方向性を引き継ぎながら、以下の改善を目指しています。
- 最終確定(ファイナリティ)までの時間を大幅に短縮し、秒単位を目指す
- ブロック生成の間隔を短くする
- 量子コンピュータにも耐えられる署名方式へ移行する
- バリデータになるための最低ステーキング量を引き下げ、より多くの人が参加しやすくする(2024年のDevconでは、現在の32ETHから1ETHへの引き下げが提唱されました)
Lean Data(データ層)
データを扱う仕組み(Blobsなど)を改善するアップグレードです。ジャスティン・ドレイク氏は「Blobs 2.0」と位置づけており、現時点で公式に示されている方向性は以下の2点です。
- データの可用性を検証する仕組みを、量子コンピュータへの耐性を高めた、よりシンプルで堅牢な「ハッシュベース」の方式へ刷新する(現在のKZGコミットメントをハッシュベースの方式に置き換える)
- Blobのサイズを柔軟に選べるようにし、開発者が必要なデータ量に合わせて使いやすい体験を実現する
Lean Execution(実行層)
取引やスマートコントラクトを実行する仕組み(現在のEVM)を見直すアップグレードです。ジャスティン・ドレイク氏の公式ブログでは「EVM 2.0」とも呼ばれ、以下のような方向性が示されています。
- ゼロ知識証明(SNARK)と相性の良い、シンプルな実行環境を目指す
- 処理性能を高め、ゼロ知識証明による検証を効率化する
- 既存のEVMとの互換性はできるだけ保つ
- 長期的には、現在のEVMをより新しい命令セットに進化させる可能性も検討されている(候補の一つがRISC-V)
RISC-V(リスク・ファイブ)とは コンピュータが命令を処理するための「基本的なルール」の一種です。オープンな仕様で設計がシンプルなのが特徴で、ゼロ知識証明との相性が良いとされています。
Lean Executionでは、実行環境をシンプルでSNARKと相性の良いものへ進化させることで、イーサリアムの処理性能を高めることを目指しています。
Strawmap:実際のロードマップ
リーン・イーサリアムという長期ビジョンを、実際のアップグレード計画に落とし込んだものが「Strawmap(ストローマップ)」です。
2026年1月のイーサリアム財団ワークショップで議論が始まり、ジャスティン・ドレイク氏やヴィタリック・ブテリン氏らが維持している公式の設計図です。「Straw(藁)」という名前には、「完成図ではなく、まず仮置きして議論しながら改善していこう」という意図が込められています。
3層 × 7つのハードフォーク

出典:strawmap
Strawmapは、縦軸に「合意形成・データ・実行」の3層、横軸に2029年まで約6か月ごと・計7回のハードフォークを想定したタイムラインで構成されています。
2026年(予定)
Glamsterdam、Hegotá の2フォーク。まだ「プレLean」フォークと位置づけられており、リーン・イーサリアムの本格化前の準備段階。
2027年以降(予定)
I*以降のフォークから本格的なリーン化が始まる見込み。ヴィタリック氏は「I*以降は、ほぼすべての変更がLeanの色を強く帯びたものになる」と述べています。
2029年(目標)
計7回のハードフォークを経て、5つのNorth Star(到達目標)への到達を想定。
5つのNorth Star(到達目標)
Strawmapが目指す具体的な技術目標として、以下の5つが掲げられています。
- fast L1取引の確定を秒単位に短縮する
- gigagas L1L1で約1万TPS相当の処理を実現する
- teragas L2L2で約1,000万TPS級の処理を実現する
- post quantum L1量子耐性を確保する
- private L1L1自体にプライバシー機能を標準で組み込む
量子安全性とプライバシーの優先度引き上げ
2026年4月、イーサリアム研究者たちがベルリンに集まり、プロトコルの長期的な方向性について議論を行いました。この会議を受けてヴィタリック氏が言及した内容では、特に以下の2点が強調されています。
量子安全性
量子耐性への対応が「大幅に優先度が上がった」と明言しています。量子コンピュータに耐性のあるBlobsの設計はすでに数か月にわたって進行中とされており、対応の緊急性が高まっていることが伺えます。
プライバシー
プライバシーはもはや「後付けの機能ではなく、ファーストクラスの目標」と位置づけられています。Framesの設計やmempoolなど、プロトコルの各所でプライバシーを明示的に考慮するようになっています。
よくある質問(FAQ)
まとめ
リーン・イーサリアムは、「強くて・速くて・シンプルな次世代のイーサリアム」を目指す、3〜4年がかりの長期ビジョンです。合意形成・データ・実行の3層すべてを刷新し、量子耐性・大幅なスケーリング・プライバシーの3つを同時に追求するという、これまでにない規模の変化が計画されています。
ヴィタリック・ブテリン氏はこの構想を「マージ(Merge)に続くイーサリアム第3の大きな進化」と位置づけ、「プロトコルのほぼすべての主要な部分が刷新される」と述べています。1回で切り替えるのではなく、既存アプリへの影響を最小限に抑えながら段階的に進めていく点も、マージのときと同じ姿勢です。
2026年以降、I*以降のフォークから本格的なリーン化が始まり、2029年にかけて少しずつ実現していく想定です。リーン・イーサリアムは現時点では構想ですが、Strawmapという具体的な設計図のもと、すでに動き出しています。



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