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「ステーブルコインを当たり前に」KDDIとHashPortによる連携の全貌

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

KDDIは2025年10月、Web3ウォレット開発のHashPortへの第三者割当増資を引き受けて発行済株式の20%超を取得し、同社を持分法適用会社化した。

さらに2026年5月、Coincheck Groupに約102億円を出資して14.9%の株式を取得すると同時に、auフィナンシャルホールディングス・コインチェックとの3社で合弁会社「au Coincheck Digital Assets」を設立。中核プロダクトとして、2026年夏にau PAY内ミニアプリでのノンカストディアルウォレット提供を予定する。

CoinPost編集部は、新会社au Coincheck Digital Assets代表取締役社長に就任し、本取り組みを最前線で率いる笠井道彦氏と、開発を支援するHashPort代表取締役CEOの吉田世博氏に座組み設計の意図、万博で蓄積された知見、そしてマスアダプションに向けた道筋を聞いた。

笠井 道彦
笠井 道彦(かさい みちひこ)
au Coincheck Digital Assets株式会社|代表取締役社長
KDDI株式会社|オープンイノベーション推進本部 OIビジネス開発部
KDDIにてWeb3関連事業を統括。2023年のαU walletやαU marketの展開を主導し、ブロックチェーン領域における同社の取り組みを牽引してきた。HashPortとの資本業務提携を経て、2026年5月に設立された3社合弁「au Coincheck Digital Assets」の代表取締役社長を兼務し、KDDIグループの次世代金融戦略を最前線で推進する。
吉田 世博
吉田 世博(よしだ せいはく)
株式会社HashPort|代表取締役CEO
「まだ見ぬ価値を、暮らしの中へ」をミッションに、Web3ウォレット・コンサルティングを軸としたWeb3ソリューション事業を展開するHashPort創業者。2025年大阪・関西万博の公式ウォレット「EXPO2025デジタルウォレット」(現「HashPort Wallet」)を提供。国内ステーブルコインJPYCの主要なウォレットインフラとしても採用されており、日本のWeb3社会実装を牽引する。

プロジェクト発足の背景と社会の潮目

au PAY内ミニアプリとして提供されるノンカストディアルウォレットの開発に至った全体像についてお聞かせください。
笠井

ステーブルコインの普及をはじめ、金融や決済の中に暗号資産・デジタル資産が組み込まれていく可能性が、非常に強く見えてきています。お客様が資産を管理し、多様な決済や利用用途につないでいくためのウォレットは、今後ますます重要性が高まる。これが今回の開発を決めた背景です。

ブロックチェーン上でトークン化された価値が流通する世界において、ウォレットはもともと中心となるツールでしたが、その重要性はさらに高まっています。

私自身もKDDIから新会社au Coincheck Digital Assetsの代表に移って本プロジェクトを率いていますが、これを自分たちだけで作っていくのは難しい。ウォレットとブロックチェーンの世界をつなぐ知見、そしてカストディアル領域、つまり暗号資産の分野とどう接続していくかも重要なテーマでした。

今回の座組によって、これらを強力に推進できる形が整ったと考えています。

吉田

本プロジェクトは、両社で2024年後半からアイデア段階の議論を始め、2025年から具体的な開発検討を進めています。技術基盤としては「EXPO2025デジタルウォレット」と一定共通化されたものを用いており、長い歩みを経てやっと具体化が進み、大変嬉しく思っています。

編集部注:日本のステーブルコイン市場は2023年の改正資金決済法施行後、制度整備が進み、2025年8月にはJPYC株式会社が国内初の電子決済手段としての発行ライセンスを取得した。米国でも2025年7月にGENIUS法が成立するなど、各国でステーブルコインを「制度化された金融インフラ」として位置づける動きが加速している。
2024年から議論を始められ、長い道のりを経てプロジェクトが日の目を見たとのことです。両社はここまで、どのように進めてこられたのでしょうか。
笠井

時間はかかりましたが、時代がかなり変わってきたと感じます。2023年ごろの段階では、NFTはコンテンツとして理解されても、暗号資産については、言葉を選ばずに言えば「アングラ」と呼ばれるような見方もあった。その段階では、ここまでの取り組みは進まなかったかもしれません。

そこから、暗号資産自体が普及し、メディアでも毎日のように聞かれるようになりました。さらに大きいのは、ステーブルコインが登場したことです。これまでブロックチェーンやトークンは「倍になるかもしれないが、なくなるかもしれない」という投機の対象として見られがちでしたが、日常の決済や送金の利便性・効率を高めるために活用できそうだ、という認知がかなり浸透してきたところが大きい。

弊社内でも、金融業界の感覚としても、「オンチェーン化が進むこと」自体は前提になり、「どういうタイミングで、どういうやり方で活用するか」という議論に移ってきています。前々から検討を進めてきて社内にも浸透してきたという面もありますが、社会全体の変化が大きかったと感じます。

吉田

弊社の社外取締役でもあるKDDIオープンイノベーション推進本部の舘林俊平副本部長は「新規事業は、いい波が来そうなところで波が来るまで待つサーフィンみたいなものだ」と言います。本当にその通りだと感じています。

「ステーブルコイン、ウォレットにはいい波が来そう」というビジョンを、舘林さんや笠井さんはαU marketやαU walletを長く手がけながらお持ちでした。弊社も、ステーブルコインが必ず日本で普及する、そして最も大きなディストリビューションチャネル(ステーブルコインがユーザーに届く流通経路)がノンカストディアルウォレットだという見立てで、HashPort Walletを展開してきました。

沖でいい波を待っていたところに、国内でステーブルコインが注目を浴び、グローバルの流れも含めてノンカストディアルウォレットが必要とされ始めました。波が来てから海に泳ぎ出たわけではなく、長い期間、いいポイントでしっかり波待ちができたことが、大きな要因の一つだと考えています。

資本提携の経緯

HashPort社の持分法適用会社化からCoincheck Group社との合弁設立まで、段階的に座組みを広げてこられた意図をお聞かせください。
笠井

23年にαU事業を開始した当時から、ウォレットは新しい決済やコンテンツ利用、そして認証の基盤として、ブロックチェーンの世界の中心になっていくと考えていました。

ただ、当時は、暗号資産やトークンはまだ実験的で、「ちょっと怪しい」と見る人も多かった時期でした。一方でNFTやゲームなどのコンテンツ分野は、一般のお客様にも利用していただきやすいと考え、まずはウォレットをNFTやコンテンツにつなぐユースケースを提供してきました。

その後、暗号資産も一般的になり、ステーブルコイン普及の兆しも見え、海外を中心に既存の経済や金融との接続が始まりました。今後は「既存金融事業と次世代金融の融合」を目指す中で、金融資産やトークンも扱いやすいウォレットを志向していきます。

そのための座組として、ウォレット分野では大規模なサービス提供の知見を持つHashPortさんと提携を進め、暗号資産分野、いわゆるデジタル資産と金融をつなぐ部分については、コインチェックさんに入っていただき、合弁会社という形をとりました。

編集部注:KDDIは2025年10月24日、HashPortとの資本業務提携を締結。第三者割当増資の引き受けによりHashPort株式の20%超を取得し、同社を持分法適用会社とした。続いて2026年5月12日、Coincheck Group N.V.に約6,506万ドル(約102億円)を出資し発行済株式の14.9%を取得すると同時に、auフィナンシャルホールディングス・コインチェックとの3社合弁「au Coincheck Digital Assets株式会社」(出資比率:KDDI 50.1%、コインチェック 40.0%、auフィナンシャルHD 9.9%)を設立した。
関連記事:KDDIがCoincheck Groupと資本提携を締結 合弁設立し仮想通貨ウォレット事業へ参入
関連記事:au PAY ポイント運用、ビットコイン連動コース開始

万博で蓄積された知見

設計や開発には主にHashPort社の知見が活用されていくとのことですが、この体制はどのような経緯で決まりましたでしょうか。
笠井

HashPortさんとは、2023年頃、私たちがブロックチェーンやNFTの検討を始めた時期から、ゲームやNFTなど様々な領域で連携を重ねてきました。その流れで、ウォレット分野の議論も進めてきた経緯があります。

特にHashPortさんは大阪・関西万博の公式ウォレットを提供され、社会実装を力強く進めてこられた実績が大きな決め手でした。そうした背景から、2025年10月にHashPortさんへ出資し、今回のプロジェクトに向けた検討を進めてきました。

吉田

弊社はノンカストディアルウォレット事業として「EXPO2025デジタルウォレット」を2024年より本格的に展開してきました。2025年の万博でプロダクトを大きく伸ばす過程で、au PAY内ミニアプリへの組み込みについてKDDIさんと協議を重ねて現在の協力体制に至っています。

最初の議論は、「日本でウォレットを普及させるにあたっては、万博という大きなきっかけでウォレットアプリとしてのサービスを伸ばすとともに、既存のウォレットや金融サービスの中にウォレットを組み込んでいくことも非常に大事だ」というものでした。

グローバルに目を向けると、既存の金融サービスの中のウォレットサービスは急伸しています。ここに可能性があるのではないか、と両社で協議し始めたのが2024年です。

そこから2025年に本格的にサービスの開発検討が始まり、さまざまな仕様の検討を経て今日に至ります。KDDIさんからau経済圏・Ponta経済圏に関するノウハウをいただきながら、弊社の大規模運用の知見も活かして開発を進めていく予定です。

加えて、HashPort Walletでは、2025年12月にPontaポイント、次にau PAYマネーライトとの接続を開始して大変ご好評をいただきました。au経済圏・Ponta経済圏との接続の知見も、今回のプロダクトに活かされていくと思います。

編集部注:「EXPO2025デジタルウォレット」は2025年10月31日に「HashPort Wallet」へリニューアル。発表時点で累計100万ダウンロードを突破。約1.2億人の会員を持つPontaおよび約3,900万人のユーザーを持つau PAYとの連携が2025年12月から段階的に開始された。
関連記事:万博ウォレットがリニューアル、JPYC対応開始&総額1億円配布へ
関連記事:HashPortウォレット、Pontaポイントでステーブルコインの購入が可能に
HashPort社がこれまで万博やHashPort Walletで蓄積された知見は、本プロダクトのどの部分に活かされるでしょうか。
吉田

万博を通じて大きく二つの知見を蓄積できたと考えています。一つが大規模なユーザー運用、もう一つが既存の金融サービスとの連携です。

大規模なサービス運用については、月間で数十万人のユーザーがEXPOウォレットを使ってくださっていました。こうした規模での運用知見を得られたのは、非常に貴重な経験です。ウォレットを数十万人のユーザーが安定して使えるようにするには、通常のWeb3サービスとは違ったノウハウが必要になります。それを日本国内で唯一蓄積できたことは、大きな成果だと考えています。

もう一点が、金融サービス連携、企業連携に関する知見です。実際にEXPOトークンを発行し、「ミャクぺ!」(万博独自の電子マネー)にチャージできるよう設計し、さらにその先のVISAプリペイドとも連携できたところは、金融サービス連携の貴重な経験となりました。

また、ノーコードでdAppsを作成できる「ConnectHub」の機能は170社以上にご利用いただき、延べ620万枚のSBTが発行されています。こうした金融・企業連携の蓄積は、本プロダクトにも大きく活かされていきます。

Ponta経済圏では1.2億人ほどのユーザーがいると伺います。この規模のユーザー基盤にウォレットが接続されることの意義について教えていただけますか。
吉田

弊社は大阪・関西万博で実際にサービスを提供し、現在約120万人のHashPort Walletユーザーを抱えています。また、日本のステーブルコイン「JPYC」のユーザーの8割超が、弊社のウォレットを使ってくださっています。

Web3領域、あるいはアーリーアダプター領域においては、一定の規模感を実現できたと考えています。ただ、そこからさらにユーザー数の桁を上げていく作業においては、既存のau PAYアプリ、そしてPontaの経済圏が非常に重要な役割を果たします。au PAYの中に組み込まれることで、ユーザーがより使いやすくなり、これまで暗号資産に触れたことがなかった方にも届くサービスになると期待しています。

マスアダプションの軸

両社が特に重要視されている「マスアダプション」を叶えるための軸についてお聞かせください。
吉田

ガスレスやステーブルコインの管理、オンランプ・オフランプチャネルといった部分は、すでに「マイナスをゼロにする作業」、つまり「使われない理由をなくす」取り組みとして、HashPort Walletによって一通り完了したと捉えています。一部のチェーンでガスレス対応ができないなどの細かな課題は残るものの、秘密鍵を含む基本的な問題は解決されました。

これから重要になるのは、「使われない理由をなくす」ことではなく、「使われる理由を作る」ことです。これからはユースケースの勝負で、既存の経済の仕組みの中にどう入っていけるかが鍵になります。まさにここが、KDDIさんと弊社が一緒に取り組む理由です。

笠井

吉田さんのおっしゃる通りだと思います。今回のミニアプリ化も含め、初期ハードルを下げる取り組みは私たちも進めていますし、他のサービスでも進んできているところです。

ただ、ステーブルコインを「聞いたことはある」という人が、それをどのように持てば良いのか。持てるようになっても、何に使えばよいのか、どういうメリットがあるのか分からないという点を、誰でも分かりやすい形で理解できるようにしていく必要があります。使えるようになるだけでも一定理解のある人たちは使い始められますが、もう一段階広く使っていただくためには、利用用途や「何が嬉しいのか」を明確に作っていく必要があると考えています。

au PAYの加盟店は約851万店に上ります。将来的なステーブルコイン決済への対応は視野に入っているのでしょうか。
笠井

現時点で具体的な検討内容は申し上げられないものの、決済をはじめ金融経済の仕組みの中でどう活用していくかは、重要な検討テーマだと考えています。

HashPort Wallet Studioの展望

両ウォレットは共通のHashPort開発基盤を活用しています。HashPort Wallet Studioとして、今後の展開や提供範囲の拡大をどのようにお考えでしょうか。
吉田

弊社が開発したノンカストディアルウォレットは、「EXPO2025デジタルウォレット」「HashPort Wallet」の2つに展開されており、au PAY内のウォレットにもそのノウハウが活用される予定です。その中で、さまざまな機能と開発知見の蓄積がなされてきました。

ここで蓄積された知見は、これからウォレットサービスを構築する多くの企業様にとって、ある種「車輪の再発明」を防ぐ蓄積になっています。これを今後「HashPort Wallet Studio」という開発基盤として広く提供していく予定です。日本国内でノンカストディアルウォレットの絶対数が増えることによって、デジタル資産の経済圏全体が拡大していくことを期待しています。

CoinPost読者へのメッセージ

最後に、本取り組みに関心を寄せるCoinPost読者へメッセージをお願いいたします。
笠井

私たちは今後より一層、デジタル資産を皆様にとって身近なものにしていきたいと考えています。

今、ニュースでステーブルコインという言葉をよく聞かれる方も多いと思います。CoinPostの読者の方々は詳しい方が多いと思いますが、私の周囲でも、言葉自体は知っていても、どんなもので、どうやって持てばよいのかが分からないという人がほとんどです。

利用開始の難しさ、初めて持った後にどこで使えばよいのか分からないといった点も含めて、まだ一定のハードルがあります。これを既存のau PAYなどとの組み合わせによって、自然な形で触れていただけるサービスとして提供していきたい。この業界の発展に貢献できればと考えていますので、ぜひご期待いただければと思います。

吉田

2024年から議論を開始したプロダクトが、いよいよ世の中に出ていくところで、両社でこの長い道のりを一緒に歩んでこられたことを、非常に嬉しく思います。

ステーブルコイン、ウォレット、そしてAIは、今後生活の中でスタンダードになっていくプロダクトです。

2025年から2026年は、ステーブルコインとAIエージェントが普及してきた年だったと振り返っています。

ウォレットも2025年には、特に万博を通じて多くの方の手元に届けられました。2026年に入ってからのHashPort Walletへの機能追加、そして今後のau PAY内ウォレットのリリースによって、より多くの人にとって当たり前のプロダクトになっていきます。au PAY内のウォレットは、社会実装の鍵になるプロダクトだと位置づけています。

最終的には、ウォレット・AI・ステーブルコインが、HashPortのミッションである「まだ見ぬ価値を、暮らしの中へ」を体現するイノベーションになっていく。そこをKDDIさんと一緒に進めていきたいと考えています。

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