
価格変動性を排除した仮想通貨
CoinPost独自整理──2025年8月時点、世界のステーブルコイン市場は2,780億ドル(約41兆円)に到達。過去12か月の総取引量は37.9兆ドルに達し、日常決済や国際送金、DeFiまで用途が拡大しています。本記事では最新データと規制動向をもとに、主要銘柄や発行体の動きまでを網羅的に解説します。
目次
2025年の市場規模

ステーブルコイン発行総額推移 出典:DeFillama
仮想通貨データサイトDeFiLlamaによると、2025年8月時点のステーブルコイン発行総量は2,780億ドル(約41兆円)に達しています。近年は決済・送金用途だけでなく、DeFi(分散型金融)や証券型トークン決済など、多様な領域での活用が広がっています。
銘柄名 | 市場規模 | 特徴 |
---|---|---|
Tether(USDT) | $1,650.53億 | 流通量最大。複数チェーン対応で取引所の流動性が高い。 |
USD Coin(USDC) | $650.56億 | Circle発行。規制準拠や米金融機関連携を重視。 |
Ethena USDe(USDe) | $98.09億 | DeFiネイティブの新興。利回り設計で急拡大。 |
Sky Dollar(USDS) | $51.27億 | 分散型担保・ガバナンスで安定性を確保。 |
USDS(USDS) | $43.75億 | 分散型自律組織Sky Protocol運営。仮想通貨担保で発行。 |
BlackRock USD(BUIDL) | $22.73億 | トークン化MMF系の設計。 |
World Liberty Financial USD(USD1) | $22.04億 | 新興のUSD連動。クロスボーダー決済志向。 |
Ethena USDtb(USDTB) | $14.60億 | Ethena関連の派生設計。 |
Falcon USD(USDf) | $11.58億 | ボラティリティ局面を想定した安定設計。 |
JPYC(JPYC) | 今秋発行予定 | 【国内初】日本円ステーブルコイン |
主要ステーブルコインの取引量推移(2025年8月時点)

ステーブルコイン取引量推移 出典:Visa
過去12か月間で、ステーブルコイン取引は規模・件数ともに高水準を記録しました。
- 総取引量:$37.9兆(約5,900兆円)
- 調整後取引量:$7.7兆
- 総取引件数:77億件
- 調整後取引件数:17億件
- リテール規模取引量:$509億
- リテール規模取引件数:9.34億件
- リテール比率(取引量):0.7%
- リテール比率(取引件数):55.0%
全体の取引量は巨大ですが、件数ベースではリテール(小口)取引が半数以上を占め、日常決済や少額送金への活用が進んでいることがわかります。
主要な発行体
ここからは、既存ステーブルコインのアップデート、新規ステーブルコインの発行予定など、発行体別の動向について触れていきます。Tether
Tetherは、ステーブルコインの最大手・USDTの発行体です。今年はUSDTの発行から10年という節目の年。その勢いは凄まじく、ステーブルコイン市場におけるシェアは2年前から20%拡大、約75%に達しました。
時価総額は1180億ドル。これは仮想通貨市場全体でも、ビットコイン、イーサリアムに次ぐ規模です。 このように、ステーブルコインの域を超え、USDTは主要仮想通貨の一つとなっています。

出典:Token Terminal
関連:「ステーブルコインの成長が短期国債の需要増加に寄与」=米財務省
PayPal
PayPalはフォーチュン500にも名を連ねる米金融大手です。 2023年には同社のプラットフォーム上で利用可能なステーブルコイン、PYUSDをローンチしたことで話題になりました。
関連:米PayPalがステーブルコイン「PYUSD」をローンチ|8日朝の重要速報まとめ
今年10月にはフィリピン、アフリカの金融企業との提携を発表。PYUSDによる国際送金が可能になると発表しました。 PayPalの仮想通貨責任者、ホセ・フェルナンデス氏は「国境を越えた取引は、経済成長および発展途上国の繁栄のための大きな原動力となる」とコメント。 国際的な決済インフラとしての将来性が伺えます。
Ripple
米Ripple社は、米ドルに裏付けられた新規ステーブルコイン「RLUSD」の発行を計画しており、その承認が間近であると報じられています。RLUSDはUSDTと同様に、国際送金などの用途で利用されることが想定されています。このプロジェクトはニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)の承認を得る必要があり、Rippleは規制を遵守しながら最高水準の基準を満たす形でのローンチを目指しています。
しかし、Rippleは12月4日、ローンチの延期を発表し、続報を「可能な限り早く共有する」と明らかにしました。この動きにより、プロジェクトの進展が注目され続けています。Rippleは引き続きNYDFSとの協力を強化し、今後の展開に期待が寄せられています。
JPYC
JPYC株式会社は、日本初となる「電子決済手段(ステーブルコイン)」の発行ライセンスを金融庁・関東財務局から取得し、正式に認可されたことを発表しました。登録番号は第99号で、JPYCは円建てで1円から即時送金が可能なステーブルコインとして提供されます。発行・償還・送金手数料は当面無料で、EthereumやPolygonなど複数チェーンに対応予定です。
関連:JPYC、日本円ステーブルコイン発行へ 新サービス「JPYC EX」とは?
今回の認可により、JPYCは「暗号資産」ではなく会計上も現金同等物として扱えることが特徴です。今後は法人の決済・海外送金・給与支払いなど幅広い利用を見込み、数週間以内に新サービス「JPYC X」の提供を開始する計画です。日本発の円建てステーブルコインとして、次世代金融インフラへの成長が期待されています。
ブロックチェーン別のシェア
市場に流通しているステーブルコインのうち、約84%はある二つのブロックチェーン上に存在しています。その一つはイーサリアム。約50%のシェアを誇り、オンチェーンのステーブルコイン総額はおよそ846億ドルです。

出典:CoinGecko
もう一つはトロン。特にトロン上のステーブルコイン量は、2022年から約68%増加しており、拡大傾向にあります。
USDT
ステーブルコイン最大手であるUSDTは、トロン上に流通するステーブルコインのうち98%以上を占めます。2024年にUSDTの市場シェアが大きく拡大したことは、トロンネットワークにとっても大きな後押しとなりました。
USDTの発行体はトロンだけではありませんが、トロンベースのUSDTはイーサリアム規格のUSDTなどと比べ、手数料が安価という魅力も。その費用対効果の高さが評価され、2022年にはドミニカ国の公認デジタル通貨に選定されました。ドミニカ国内での決済や、税金の支払いに利用できるといいます。

USDTのブロックチェーン別発行量推移 出典:visaonchainanalytics
関連:ドミニカ国、トロン(TRX)など国家通貨として承認 ビットコイン以外では初
ステーブルコインとは
ステーブルコインは、価格変動を抑えて価値を安定させた仮想通貨です。多くは法定通貨(例:米ドル、円)に1:1で連動(ペッグ)し、「1コイン≒1USD」のように設計されます。日本円ペッグ型には「GYEN」や「JPYC」があり、金などの資産に連動するタイプも存在します。
取引所で購入・売却できるほか、DeFiプラットフォームで借入や発行も可能です。
主な特徴・メリット
- 低コスト:仲介者を介さず手数料を抑えられる
- 即時決済:24時間稼働で即トランザクション完了
- 国境制限なし:地域に関わらず同条件で送金可能
- 透明性・改ざん耐性:全取引が公開され、不正が困難
- プログラム可能性:通貨に機能を組み込める
※ネットワーク混雑時は送金コストや処理時間が法定通貨送金より不利になる場合があります。
主なユースケース
- 仮想通貨トレード:USDTなどを使い、法定通貨を介さず取引可能。手数料削減と選択肢拡大に有効。
- DeFi・イールドファーミング:安定資産として貸付や利回り運用に利用。高APYが期待される。
- 貯蓄・価値保全:インフレや外貨規制下でも安定した資産保有が可能。
- 送金:国内外問わず同コストで送金可能。銀行より安価かつ即時。
- 決済・支払い:価格変動リスクが小さく、チャージバックも回避可能。NFT決済などにも利用。
- その他用途:国境を越える商取引や法定通貨代替としての利用拡大。銀行口座を持たない層の金融アクセス手段にも。
関連:DeFi(分散型金融)とは? 特徴と仕組みを初心者にもわかりやすく解説
規制動向、注目点
ステーブルコインの供給量が増加した20年以降、各国政府、規制機関および金融機関は、積極的にステーブルコインの規制について議論を交わすようになりました。
ステーブルコイン拡大の要因
米国でWeb3やステーブルコインが注目されているのは、トランプ政権が公約どおり制度整備に踏み出し、これまで曖昧だった規制を明確化しているためです。
例えばCLARITY法案は、多くの仮想通貨を有価証券の範疇から除外し、SECとCFTCの管轄を整理することで、企業が安心して新規事業を展開できる環境を整えます。
またGENIUS法案は、ステーブルコイン発行者に認可制と裏付け資産の義務付けを行い、域外適用によって米国外の大手発行体も規制対象に含める仕組みを導入。
こうした制度整備は、
- 銀行:独自ステーブルコイン発行やカストディ事業への参入
- 投資機関:ETFや証券トークンの開発・上場の加速
- 小売・決済企業:高速・低コスト決済の導入
といった具体的なビジネス展開を促し、参入を控えていた大手企業の動きも活発化しています。
さらに、米ドルの国際的な基軸通貨としての地位維持や、発行体による米国債保有を通じた国債需要増加といった国家戦略とも直結しており、経済・政策の両面から注目が高まっています。
日本
日本では、2023年6月に施行された改正資金決済法により、法定通貨と価値が連動するステーブルコインが「電子決済手段」として定義された。銀行、資金移動業者、信託会社によるステーブルコインの発行が可能となりました。
国内でも企業によるステーブルコイン発行に向けた取り組みは活発化しており、ソニー銀行、バイナンスジャパン、JPYC、プログマら多くの企業がステーブルコイン開発に向けた取り組みを開始することを発表しています。
関連:あおぞら銀行とG.U.Group、ステーブルコイン発行に向けた合意書を締結
PayPayの立ち上げやディーカレットでのCTO経験を持つ白石陽介氏はCoinPostのインタビューで、日本国内におけるステーブルコイン解禁のメリットと規制の先進性について言及しました。
白石氏は、日本円表示がWeb3ビジネスの普及を促進し、国内事業者が為替リスクを回避できる利点を強調しています。また、スマートコントラクトの活用による新サービスの創出が社会変化を促し、規制緩和にも寄与すると述べています。日本のステーブルコイン規制は利用者保護を徹底しており、FTXやUSDCの問題を踏まえた国際的な基準よりも先進的であると評価されています。地方銀行にとっては、発行コスト削減や相互接続の課題解決、地域経済の活性化への貢献も期待されています。
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※補足: ステーブルコインの種類
ステーブルコインは、価格を安定させる仕組みに基づき、「法定通貨担保型」「仮想通貨担保型」「無担保型」の3種類に大別されます。
法定通貨担保型
法定通貨担保型ステーブルコインとは、その名の通り、米ドルやユーロなどの法定通貨を価値の裏付けとすることにより、その価値を一定に保っているステーブルコインです。一般的にこの種のステーブルコインは、1:1の比率でコインが法定通貨にペッグされています。
例えばテザー(USDT)は、「1USDT≒1USD」を目指して設計されており、1USDにつき1USDTがテザー社から発行されることになります。法定通貨担保型ステーブルコインには、以下のようなものがあります。
- Tether(USDT) ー テザー社
- USD Coin(USDC) ー CENTRE
- True USD(TUSD) ー TrustToken
- Gemini Dollar(GUSD) ー Gemini
- Binance USD(BUSD) ー バイナンス
- Diem USD(DIEM、旧Libra) ー Diem協会
おおよその仕組みとしては、金本位制に類似しています。
金本位制では、金を担保に紙幣の価値を保証していましたが、ステーブルコインの場合、法定通貨を担保に各コインの価値が保証されています。また金本位制において、紙幣の発行元である各国の中央銀行が金を金庫に保管しているのと同様に、ステーブルコインでも、各コインの発行または管理主体が、法定通貨を保管しています。
法定通貨担保型ステーブルコインを使用するメリットには、以下のようなものがあります。
- 直接法定通貨にペッグされているため、他の種類よりも価格が安定
- 資金効率が良い
- スマートコントラクト・リスクが少ない
スマートコントラクト・リスクとは
スマートコントラクトとは、あらかじめプログラムされた条件に応じて、自動的に契約を執行する仕組みを指す。スマートコントラクト・リスクとは、スマートコントラクトを構成するコードにある不備やバグといった脆弱性を原因に資産を失うリスクの総称。
一方、法定通貨担保型ステーブルコインのデメリットとしては、以下が指摘されています。
- 透明性が低いため、発行元が十分な額の法定通貨を保有していない可能性もある
- 資産凍結やブラックリスト入りなど、中央集権的リスクやカウンターパーティ・リスクが高い
- 規制リスクが高い
カウンターパーティとは
「取引相手」であり、デリバティブ取引や外国為替取引などの相手方の金融機関のこと。 相手方の事情により契約上の取り引きが成立せず、利益を得られなくなるリスクを「カウンターパーティー・リスク」と呼ぶ。
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仮想通貨担保型
仮想通貨担保型のステーブルコインでは、一種以上の仮想通貨を担保に価値を裏付けることにより、コインの価値を一定に保っています。基本的にこのタイプのステーブルコインは、「過剰担保(Overcollateralization)」に頼って発行されています。
過剰担保とは、あるステーブルコインの発行に、そのコインが持つ以上の価値を裏付ける行為を指しています。仮想通貨担保型ステーブルコインには、以下のようなものがあります。
- USDS ー Sky Protocol
- sUSD/sEUR等 ー Synthetix
例えばSky ProtocolのUSDSは、法定通貨担保型のUSDTと同様に、「1USDS≒1USD」になるように設計されています。しかし、1USDTあたりちょうど1USDの価値が裏付けられているUSDTとは異なり、1USDSの発行には1USD以上の価値を持つ仮想通貨の裏付けが必要となります。
執筆時点において、ETHを担保にUSDSを発行したい場合、最低でも150%の担保率を維持する必要があります(参考:Oasis)。これはつまり、150USD相当のETHを担保にしたとしても、最大で100USD分のUSDSしか発行できないということを意味しています。
関連:初心者でもわかるDeFiプロジェクト「Maker」とは
この仕組みは、法定通貨と比較して、担保となっている仮想通貨のボラティリティが大きいことに起因しています。担保の価値がステーブルコインの価値を下回ってしまうと、そのステーブルコイン自体の信頼が損なわれ、ステーブルコインとして機能しなくなってしまいます。
そのため、担保資産の価格がある程度変動したとしても、常に担保がステーブルコイン以上の価値を維持できるように、初めから発行時に担保を多く要求しています。以下は、MakerDAOの担保資産例です。一番右の数字がUSDS発行時に必要な最低担保率を表しています。

出典:MakerDAO
仮想通貨担保型ステーブルコインを使用するメリットには、以下のようなものがあります。
- 中央集権型機関に依存せずに分散型(Decentralized)のステーブルコイン発行が可能なため、透明性が高く検閲耐性がある
- トラストレス(第三者や発行機関を信頼する必要がない)
- 発行から利用まで全てがオンチェーンで完結
- ブロックチェーン外の管理者が存在しないため、自身の資産の主権を掌握できる
- 規制リスクが低い
一方で、仮想通貨担保型ステーブルコインにはデメリットもあります。
- 過剰担保を要するので資金効率が悪い
- 法定通貨担保型よりも価格が安定しづらい
- 担保資産の価値が急落した場合、清算(担保没収)リスクがある
- スマートコントラクト・リスクが高い
無担保型
無担保型ステーブルコインとは、先述の二つとは異なり、価値の裏付けに法定通貨または仮想通貨の担保を必要としないステーブルコインを指しています。無担保型ステーブルコインには、以下のようなものがあります。
- Frax (FRAX)
- Ampleforth (AMPL)
この種のステーブルコインは、担保を必要としない代わりに、市場の需給に応じてコイン供給量をアルゴリズムで調整することにより、その価値を一定に保っています。
コインの価値が目標価格を上回っている場合、コインの供給量を自動的に増やし1コインあたりの価値を減少させます。一方、コインの価値が目標価格を下回っている場合には、反対にバーン(焼却)などを介してコインの供給量を減らします。
これらのように1コインあたりの価値をコントロールすることにより、価値を一定範囲内に保っています。
この基本構造は、各国の中央銀行がインフレまたはデフレ抑制のために、紙幣発行量を調節する仕組みと同じになっています。
中央銀行ではこれを手動で行っていますが、無担保型ステーブルコインのプロトコルでは、このプロセスがアルゴリズムに沿って自動化されています。そのため、「シニョリッジ(通貨発行益)型ステーブルコイン」や、「アルゴリズム型ステーブルコイン」と呼ばれることもあります。
無担保型ステーブルコインのメリットには、以下があります。
- 担保を必要としないため、法定通貨担保型のような中央集権型リスクがない上に、仮想通貨担保型よりも資金効率が良い
- アルゴリズム含め全てがブロックチェーン上に存在しているため、透明性が高い
無担保型ステーブルコインのデメリットとしては、以下が主に指摘されています。
- スマートコントラクト・リスクが高い
- 価格維持が難しく、ペッグが崩壊しているプロジェクトも多い
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