ステーブルコインの使用急増の影響
米国財務省は30日、財務省借入諮問委員会(TBAC)向けに公開した報告書で、法定通貨に裏付けられたステーブルコインの普及が米国短期国債の需要増加につながっている可能性が高いと指摘した。
報告書によれば、ステーブルコインの担保資産の多くは短期国債および財務省が保証するレポ取引で構成されており、総額1,200億ドル(約18.4兆円)が直接米国債に投資されていると推計されている。
レポ取引(レポジトリ取引、あるいは「再購入取引」)とは、特定の債券を担保として一時的に資金を調達し、一定期間後にその債券を買い戻す形態。この仕組みを活用することで、ステーブルコイン発行者は国債などの安全な資産を裏付けに資金を調達し、ステーブルコインの価値を安定させている。
具体的には、最大のステーブルコインであるテザー(USDT)の2024年第2四半期の報告によると、総担保資産1,184億ドル(約18.1兆円)のうち、68.3%(809億ドル、約12.4兆円)が米国債、10.3%(123億ドル、約1.8兆円)がレポ取引となっている。
財務省はこれをもとに、短期国債に対する需要の増加は、主にステーブルコインの使用と普及の増加によってもたらされていると結論づけた。
ステーブルコインとは
ステーブルコインとは、価値を安定させるように設計された暗号資産(仮想通貨)の一種で、通常は法定通貨などの価値にリンクすることで安定性を保つ。現在、すべての仮想通貨取引の80%以上がステーブルコインを介して行われており、仮想通貨市場において仲介役を果たしている。
リスクヘッジとしての国債
財務省は、仮想通貨の急速な成長と大幅なボラティリティは、将来的にヘッジの必要性と国債に対する質への逃避需要につながる可能性があると主張した。
近年、ブラックロックのETFやマイクロストラテジー社によるビットコインの大量保有など、機関投資家からのビットコイン需要は増加し、価格上昇を後押ししている。一方、ビットコインは2017年以降、4回の大きな価格調整を経験しており、ボラティリティは非常に高い。
報告書では、仮想通貨の時価総額が増加するのに伴い、価格下落に対するヘッジおよび「オンチェーン」の安全資産として、国債に対する構造的な需要が増加する可能性があるとまとめた。
ステーブルコインのリスクと規制
財務省は、金融安定性の観点から、ステーブルコインが担保として大量の米短期国債を保有している状況に対して、大きなリスクがあると指摘した。
ステーブルコインTerra USD(UST)の破綻や、大手取引所FTXの崩壊とシリコンバレー銀行破綻によるUSDTやUSDCの米ドルとのペグ脱落などの事例は、ステーブルコインの脆弱性を浮き彫りにしている。
財務省が憂慮するのは、テザーのような主要ステーブルコインの崩壊が、保有する米国債の「投げ売り」につながる可能性があることだ。
ステーブルコイン市場の影響が、金融市場や国債市場に広く波及するのを防止するためには、ナローバンク(貸付業務を行わない銀行)やマネーマーケットファンドのように、ステーブルコインを規制する必要があると報告書は強調した。
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歴史から学ぶ
ステーブルコインは、現在、「民間のオンチェーンマネー」の一種として機能していると報告書は指摘。ステーブルコイン市場は、短期的には仮想通貨市場の拡大に伴って、成長を続けると考えられるが、「中期的な規制と政策の選択がこの民間通貨の運命を決定する」と述べた。
歴史を振り返ると、1800年代の「民間マネー」は、たびたびパニックや暴落に見舞われ、最終的には政府が介入して、統一された形態のマネー(グリーンバックと呼ばれる)を発行する結果となった。
当時、米国では各銀行が独自の紙幣を発行していたが、担保が不十分で取り付け騒ぎを起こしたり、二次市場では割引価格で取引されるなど、問題が多かった。そのため、多くの州政府が、銀行が発行する紙幣を政府債と一対一で裏付けるよう義務付けたものの、さまざまな形態の紙幣との交換が困難となった経緯がある。
この状況を受け、1863年に国立銀行法が制定され、国家レベルの通貨として米ドルが誕生することとなった。
歴史が示すように、ステーブルコインは民間マネーとしては機能せず、最終的には、無リスクの担保を保有する現在の政府マネーマーケットファンドのように、厳しく規制される必要がある。
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