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国内ステーブルコイン解禁の影響は?|WebXレポート&インタビュー MZ Cryptos白石氏が解説

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

ステーブルコイン解禁で何が変わる?

国際カンファレンス「WebX」Day2の26日、「日本でステーブルコイン解禁 暗号資産・金融業界はどう変わる?」をテーマにした対談が実施された。

登壇者は、三菱UFJ信託銀行デジタル企画部デジタルアセット事業室プロダクトマネージャーの齊藤 達哉(Progmat:プログマ ファウンダー・CEO就任予定)氏、MZ Cryptosの白石陽介氏、アンダーソン・毛利・友常 法律事務所外国法共同事業の河合健氏。

議題となったのは、米ドルや日本円などの法定通貨に価格が裏付けられる形で連動し、ブロックチェーン上で発行可能な資産であるステーブルコイン。これは2023年6月に施行された改正資金決済法にて”電子決済手段”として定義され、日本国内で発行、流通を行えるよう整備されたばかり。

既存の電子マネーと何が異なり、何が可能になるのか。ライセンス形態からビジネス機会、その種類など。ステーブルコインを取り巻く環境について、今回の法整備に第一線で携わった登壇者達が意見を交わした。

一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会ステーブルコイン部会 法律顧問を務める、片岡総合法律事務所の佐野 史明氏がモデレーターを務めた。

ステーブルコインのユーザビリティ

まず、今年6月に施行された改正資金決済法について河合氏が整理した。この法律は基本的に「発行者(銀行、信託、または資金移動業ライセンスを保有する事業者)」と「流通者(仲介者や取引所)」の二つのカテゴリーに分けられる。流通者には、現行の暗号資産交換業者と同じ資産保全要件が適用される。

出典:WebX

Web3の実用性についてはどうか?白石氏によると、パーミッションレス(無許可型)チェーンやアンホステッド(事業者が管理しない)ウォレットの利用可能性を法制度の段階で確保することに焦点を当てたという。基本的には、ユーザーは暗号資産交換業者やその他の仲介業者からステーブルコインを取得し、ウォレットのホワイトリスト登録を必要とせずに送金できるようになる。

白石氏は、DeFi(分散型金融)を代表とするパブリックブロックチェーンのユースケースに必要な3つの要素、「ボーダーレス、マルチカレンシー(多通貨性)、インターオペラビリティ(相互運用性)」が可能になることを強調した。さらに、河合氏は、この新規制がビジネスにとって便利であると付け加えた。業者間取引に必須となるマネーロンダリング対策がPtoP取引では必ずしも必要でなく、Web3ビジネスを構築する上でより実用的だと指摘した。

関連:6月1日施行の改正資金決済法で国内ステーブルコイン発行可能に、多国籍企業にメリットも

ステーブルコインのマネタイズ

ステーブルコイン発行、及び流通業者にとってどのような収益性が見込まれるか。三菱 UFJ 信託銀行の齊藤氏は、米ドル建てのステーブルコインの裏付け資産から金利収入を得ることができ(FEDレートにより4~5%)、円建てステーブルコインと米ドル建てステーブルコインの交換需要により手数料収益を得られると指摘。さらには、ステーブルコインを用いて1,000兆円規模とされる法人間決済市場を自動化(プログラマビリティ)すれば、これが強力なビジネスインパクトを生む可能性を示唆した。

海外発行のステーブルコイン

一方で、河合氏は海外発行のステーブルコイン(例:USDT、USDC)について触れ、海外発行体にはライセンス要求を行わず、その代わりに流通業者に100%の保全金を要求する制度について説明した。また、送金金額に最大1,000,000円の上限が設けられるなど、AML/KYCの観点からの予防策が存在する。

しかし、この制度には課題も存在する。海外発行体のステーブルコインの送金上限により、貿易決済などの大規模な法人間決済には適さない。また、仲介者が同額の保全を行うことは厳しい制約となる。

齊藤氏は、これらの問題を解決するためには、パートナーバンクと提携したローカル版(例:BUSD)のステーブルコインを発行するのが現実的だと語る。特に、非KYC対象先への自由な送金が課題となり、現状では預金型スキームは規制上許可されていない。しかし、信託型スキームを利用すれば、送金上限などの課題を解消できると語った。

現在、外資発行体と日本企業との間で調整が進められており、河合氏によれば「今年後半から来年にかけて流通する予定」。三菱UFJグループが開発するデジタルアセットの発行・管理プラットフォーム「Progmat」では、信託型スキームにより、外部事業者のステーブルコイン発行が可能だ。

関連:「ステーブルコイン発行の世界的ハブ」へ、MUFGが海外向けの新プロジェクト進行中

MZ Cryptos白石 陽介氏インタビュー

白石陽介氏が、Coinpostのインタビューに応じた。白石氏は、ヤフーでのPaypay立ち上げや、ディーカレットでのCTO就任、デジタル通貨事業立ち上げなどの経歴を持つ他、JCBAステーブルコイン部会長として法改正に向けて当局に働きかけてきた。

白石氏は、ステーブルコインの国内解禁のメリットについて語り、これがWeb3ビジネスの普及と拡大につながると指摘した。日本人向けのサービスで日本円表示が可能になることで、実態経済に即した運営が可能となる。また、日本円で納税する国内事業者にとっては、米ドル建てのステーブルコインがもたらす為替リスクを避ける利点がある。

さらに、スマートコントラクトの活用により、特定条件を付加した決済や、決済に連動してNFTなどのデジタルコンテンツを動的に配布するなど、新たなサービスの登場が期待される。これらのユースケースの拡大が社会変化を引き起こし、Web3の規制緩和にもつながると白石氏は見ている。

海外発行のステーブルコイン、USDC、USDT、BUSD等でしばしばカウンターパーティーリスクや規制リスクが懸念される。白石氏によれば、発行体と流通者の両方に対して利用者保護のための規制が施行されているため、例え日本国内で銀行が破綻する事態が発生したとしても、ステーブルコイン(電子決済手段)では同様の問題は発生しないと語る。

資金移動業者の場合、発行額と同等の保全が必要とされ、特定信託会社でも同等額の償還請求が可能となる。また、仲介者には金銭の預託禁止と分別管理が義務付けられる。

白石氏は、これらの規制内容が日本のステーブルコイン規制が他国より先進的であることを強調した。各国の規制当局は、顧客資産の流用問題を浮き彫りにした海外取引所FTX.comの事件や、米国のシリコンバレーバンクの機能停止により、一時的にUSDCの一部準備預金へのアクセスが制限されるという事態を受けて、利用者保護の規制策定に注力するという慎重な姿勢へと転換している。

最後に、地方銀行がステーブルコインを発行する際のメリットについて語った白石氏は、これによりシステム開発や維持に伴う高額なコスト、さらに他事業者との相互接続の課題を解消できると指摘した。この前提となるのは、パブリックブロックチェーンの特性である公開ソースコードであり、これによって地方銀行が発行するステーブルコインの相互交換の実現、KYC情報を活用した地域内での利用、居住者への特典付与などのプログラム設計が比較的容易に行えるだろう、と白石氏は説明した。

登壇者プロフィール

齊藤 達哉氏。2010年、三菱UFJ信託銀行入社。法人営業、業務企画、IT企画を経て、2016年にFinTech推進室設立、1人目の専任担当として三菱UFJ信託銀行のデジタル戦略を企画・推進。

情報銀行基盤「Dprime」、デジタル証券基盤「Progmat」、ステーブルコイン基盤「Progmat Coin」、機能型NFT基盤「Progmat UT」、200社近くの組織が入会する「デジタルアセット共創コンソーシアム」等を立ち上げる。

2022年、複数の金融機関や取引所、ソフトウェア企業の出資による、デジタルアセット基盤事業の独立会社化を発表し、代表就任予定。特許登録6件。

白石 陽介氏。インターネットイニシアティブ入社後、SBIグループへの出向を経て、2012年ヤフー株式会社入社。Y!モバイル、Yahoo!マネー等の立ち上げを経て、決済プロダクトの統括責任者に就任。PayPayを立ち上げる。その後、株式会社ディーカレットにCTOとして参画。デジタル通貨事業を立ち上げる。

2020年 株式会社ARIGATOBANK 代表取締役CEOに就任。株式会社MZ Cryptos代表取締役、株式会社Hashport社外取締役として、Web3関連事業にも従事。JCBA ステーブルコイン部会長として業界団体としての提言や、東京都 フェローとしてICT政策に関する助言等も行っている。

河合 健氏。1988年京都大学法学部卒業、東京銀行/東京三菱銀行(現:三菱UFJ銀行)勤務、2008年神戸大学法科大学院修了を経て、2009年弁護士登録。

現在、自由民主党「Web3PT」ワーキンググループメンバー、経済産業省「スタートアップ新市場創出タスクフォース」委員、日本金融サービス仲介業協会監事、日本デジタル空間経済連盟監事、Metaverse Japanアドバイザー、大阪府「国際金融都市OSAKA推進委員会」アドバイザー、日本STO協会顧問、日本暗号資産ビジネス協会顧問等を務めている。主として、フィンテック、ブロックチェーン、金融規制、IT・デジタル関連法務を取扱う。

佐野 史明氏。2012年弁護士登録。2014年から2 年間信託銀行に出向し、以後、証券化取引、プロジェクトファイナンス等に従事。2017年から3 年間金融庁に出向し、暗号資産、デジタルマネー、Fintechに関する監督業務や、銀行等の破綻処理法制の業務に従事し、金融規制法及び実体法の両面を踏まえた先端的なストラクチャリングの助言を多く行う。

現在、一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会ステーブルコイン部会 法律顧問、一般社団法人Fintech協会 監事、一般社団法人日本暗号資産取引業協会 法律顧問、一般社団法人オンライン型ファクタリング協会 アドバイザーなどを務めている。近時の著書として『詳解 デジタル金融法務』(2021年、きんざい)、『金融法務の理論と実践』(2023年、有斐閣)など。

関連:なぜ日本政府は「Web3政策」を推進し始めたのか?重要ポイントと関連ニュースまとめ

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