
JPYCと新サービス「JPYC EX」
JPYC株式会社は2025年8月、国内で初めて日本円と1:1で連動する電子決済手段(ステーブルコイン)の発行が可能な資金移動業者として認定された。同社はこれに伴い、今秋(数週間以内)を目途に新たな発行・償還サービス「JPYC EX」を開始する計画。
本記事では、JPYCが持つ制度上の特徴やメリット、現在準備中の「JPYC EX」の概要・将来性をまとめる。
企業情報

JPYC株式会社
非上場新サービス「JPYC EX」では発行・償還をすべてブロックチェーン上で完結
国債の利息収益を運営に活用し、手数料無料を実現
JPYCのスペック
- 1円から即時送金可能、数秒で世界中に送金
- 発行・償還・送金手数料は当面無料
- 対応チェーン:Ethereum、Avalanche、Polygonから開始
- 利用者間の送金は金額上限なし
- 発行・償還は1日100万円まで(規制上限あり)
- ノンカストディ型:利用者が自分のウォレットで資産を保持、運営リスクを低減
- KYC/AML強化:マイナンバーICチップによる本人確認を導入
- プログラマブルマネー:SDKを無料公開、3行コードで送金可能。AIや自動決済と相性が良い
- 発行資産を国債や預金で運用:金利収入を主な収益源とする(サークル社と同様)
- 裏付け資産は101%以上を信託・国債・預金で保全
JPYCの4つのメリット
1. 暗号資産ではない:
法的に「電子決済手段」と位置づけられており、銀行・大企業・行政機関が金融庁の暗号資産ライセンスを気にせずに導入しやすい。「円建ての決済インフラ」として扱える。
2. 現金同等物として会計処理可能:
資金決済法の枠組みで「常に1円で払い戻される」ことが制度的に保証されているため、監査法人や企業会計で「現金同等物」と扱える。常に1JPYC=1円で評価でき、現金や預金と同様に帳簿に計上できる。
3. 即時・低コスト送金:
JPYC間の送金はブロックチェーンを利用し、手数料もほぼゼロ・数秒〜数分で完了。国際送金や日常決済において、既存金融よりも圧倒的に効率的。
4. ノンカストディ型の安全性:
JPYCはノンカストディ型であり、利用者が自ら資産を管理できる仕組みを採用。取引所や事業者に依存するリスクを排除する。さらに、資金移動業者として発行残高の101%を供託・保全する義務があり、信用不安にも対応した仕組み。
なお、資金決済法の改正により、発行額の50%を上限として、元本を毀損しない形での国債や定期預金による運用も認められている。 参考:金融庁 資料
JPYCの将来性
JPYCは今秋、サービス名「JPYC EX」として数週間以内に発行・償還を開始する予定だ。JPYC EXは「Exchange(交換)」を意味し、将来的には世界各国の電子決済手段を相互に取引するプラットフォームへと発展させる構想も示されている。資産の発行・償還・送金といった操作をすべてブロックチェーン上で完結させる点が特徴であり、利用者は取引所や銀行を介さずに、低コストかつ即時の資金移動を行える。
想定される需要と用途
・国内ヘッジファンド、機関投資家、大企業のファミリーオフィスなどによる本格的な利用。
・将来的には、貿易決済や海外送金、さらには給与支払いまで幅広く応用可能。
・5年後には円建てステーブルコイン市場が最大83兆円規模に拡大するとの試算もあり、日本が先行して整備した規制枠組みを国際標準へと押し上げることで、東京がステーブルコインのハブとなる可能性が期待される。
・また、上場企業やCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)によるJPYC株式会社への出資・協業も進んでおり、
- 電算システムとのコンビニ決済・POS連携構想
- パーソルグループCVCによる給与支払いの自動化構想
- アイフル系ライフカードとのプリペイドカード展開
など投資家パートナーとのシナジーを通じて、実社会での活用領域を広げる可能性がある。
金融システムへの波及効果
JPYCはUSDCと同じ仕様でDeFi(分散型金融)でも利用可能であり、グローバルに展開される金融サービスと円建て資金をシームレスにつなぐことができる。また、JPYC EXの収益モデルは米Circle社と同様に国債運用による金利収入を柱としており、これにより発行・送金手数料を無料化できる。
新しいユースケースの拡大
DAO(分散型自律組織)や地域特産品の海外販売など、従来の銀行送金やカード決済では高コストだった領域においても、JPYCを利用すれば即時かつ低コストでの越境決済が可能になる。海外観光客による不動産購入や、グローバル企業の日本市場での決済インフラとしての利用も視野に入る。実際に外国人投資家や不動産業者からの問い合わせは増加している。
今後の企業戦略
JPYCは今後、USDCとの交換や販売のため「電子決済手段等取引業」のライセンス取得を進めている。将来的には、トークン証券(STO)や企業トークン発行に関わる領域への参入も視野に入れているという。また、Circle(USDC発行体)がIPOで注目を集めた流れを追う形で、JPYC自身もIPOを目指し、監査法人を導入して体制を整備中。スタートアップながら大手上場企業からの出資や提携も進み、日本発ステーブルコイン企業として国内外の金融インフラに新しい選択肢を提示していく構えだ。
ステーブルコイン市場と規制動向
世界のステーブルコイン市場は時価総額42兆円超、1日取引高は最大40兆円規模に拡大。そのうち98%以上が米ドル建てで、USDTとUSDCだけで全体の9割を占めている。
米国ではトランプ政権下で「GENIUS法」が成立し、推進姿勢が一段と高まった。一方、日本では2022年の資金決済法改正が2023年6月に施行され、法定通貨担保型ステーブルコインの制度整備が進んでいる。
JPYC・ライセンス取得の意義
2025年8月18日、JPYCは資金決済法第37条に基づく「資金移動業者」(登録番号 関東財務局長 第00099号)として登録を完了。国内で初めて円建てステーブルコインを発行できる事業者となった。大手銀行ではなくスタートアップが第一号の認可を得たことは、日本の金融インフラにおける新しい潮流を象徴している。会計・税務面でも「現金同等物」として扱えるようになり、企業の実務利用が現実味を帯びてきた。
関連:2025年夏、日本円ステーブルコインの新たな幕開け JPYC岡部典孝氏のビジョンとは|独占インタビュー
JPYCのよくある質問
Q1. JPYCは暗号資産(仮想通貨)ですか?
A. いいえ。JPYCは暗号資産ではありません。法律上も会計上も「電子決済手段」として整理されており、暗号資産交換業のライセンスも不要です。
Q2. 電子決済手段になると何が変わるのですか?
A. 以前のプリペイド型JPYC(前払式支払手段)との最大の違いは「日本円に償還(交換)できる」点です。
- JPYC Prepaid(旧型):円に戻せないプリペイド型。
- JPYC(新型):1JPYC=1円で日本円に戻せる電子決済手段。これにより銀行預金に近い安心感が生まれ、利用規模が大きく拡大します。
Q3. 会計処理の違いは?
A. 暗号資産は時価評価が必要ですが、JPYCは常に1JPYC=1円で処理できます。例:期末に1万JPYCを持っていれば、現金1万円と同じ扱いになります。
Q4. JPYCを購入・償還するにはどうすればいいですか?
A. 2025年8月18日、JPYC株式会社は第二種資金移動業ライセンスを正式に取得しました。これにより、日本円建ステーブルコイン「JPYC」はEthereum・Avalanche・Polygonの3つのブロックチェーンで提供される予定です。
サービス開始に向けた準備が進んでおり、開始後は以下の流れで利用できます。
購入時(予定)
- JPYC Xで専用口座を開設し、本人確認(マイナンバーカード等)を完了。
- 購入申込後、指定口座に日本円を振り込み。
- 振込が確認され次第、接続したウォレット(例:MetaMask)に同額のJPYCが即時発行。
償還時(予定)
- 口座を開設済みであれば、ウォレットからJPYCを指定アドレスに送付。
- JPYC株式会社が受領後、同額の日本円を銀行口座へ振込。
- 銀行営業時間内であれば即日処理、休業日の場合は翌営業日に反映。
ユーザー体験の特徴
- 即時性:ウォレットへの出金・銀行口座への入金が原則リアルタイム。
- 低コスト:発行・償還手数料は無料。必要なのは銀行振込手数料(GMOあおぞらネット銀行なら無料〜数百円)とガス代のみ。
- ユースケースの拡大:送金、決済、Web3サービス連携、法人・個人の幅広い用途に対応予定。
※現在は「準備完了後に速やかにサービス開始」という段階であり、購入・償還の流れは設計済みだが、実運用はサービス開始後に有効となります。
Q5. 手数料はかかりますか?
A. 発行・償還手数料は無料です。必要なのは以下のみです。
- 銀行振込手数料(GMOあおぞらネット銀行なら無料〜数百円)
- ブロックチェーンのガス代
Q6. JPYC PrepaidとJPYCの違いは?
- JPYC Prepaid:円に戻せない。Visaプリペイド交換などで利用可能。
- JPYC:円に償還可能。本人確認必須。両者は別のスマートコントラクトで、直接の交換は不可。
Q7. JPYCの想定される用途は?
A. JPYCは単なる決済手段にとどまらず、国内ヘッジファンドや機関投資家、大企業ファミリーオフィスなどによる本格的な利用が見込まれています。流通量が増えれば、資産運用やリスクヘッジの手段としての役割が広がり、日本の金融市場に安定性と流動性をもたらします。
さらに、貿易決済・海外送金・給与支払いなど幅広い用途で応用可能です。特にDAO(分散型自律組織)が地域の特産品を海外へ販売する際、従来の銀行送金やカード決済では高コスト・高手数料が課題でしたが、JPYCを使うことで即時かつ低コストの取引が可能になります。
Q8. どのくらいの市場規模を目指していますか?
A. 日本円のM2(約1,200兆円)の1.5%=約18兆円が当面の目標です。将来的には10%=約120兆円規模を目指しています。
Q9. 国際的にはどのように活用されますか?
A. JPYCは海外在住の日本人への送金、外国人による日本不動産購入、アフリカや新興国への貿易送金などに利用可能です。DAOやWeb3企業がグローバルに事業展開する際の決済基盤としても注目されています。
Q10. JPYCの今後のロードマップは?
A. まずは「電子決済手段等取引業ライセンス」を取得し、USDCとの交換・販売を開始予定です。その後はIPOも視野に、国際展開を積極的に進める計画です。将来的には、大規模な金融機関や企業による導入を促進し、日本円建てのステーブルコインが世界的な金融インフラの一部となることを目指します。
Q11. ディペグ(1円との連動が崩れる状況)は起きないのか?
A. USDTやUSDCのような暗号資産型ステーブルコインの場合、発行体の準備資産への信頼性次第で「1ドル割れ」=ディペグが起こり得る。過去に数%割れた事例もあります。一方、JPYCのような電子決済手段型ステーブルコインにおいて、発行体は資金移動業者として「発行残高=供託金(現金)を金融機関に100%保全」する義務があります。1JPYC=1円で払い戻しが制度的に担保されているので、基本的にディペグは発生しない設計です。