今回の記事は、「SBI R3 Japan」が公開しているMediumから転載したものです。
より様々な内容の記事に興味のある方は、是非こちらにも訪れてみてください。
ブロックチェーン/分散台帳基盤であるCordaを使ったまだ見ぬユースケースを探したいと思います。新規事業企画を担う皆様に読んでいただければ幸いです。
Cordaの特徴
まだ見ぬユースケースを探す出発点として、まずはCordaの特徴について改めて考えます。 突き詰めればCordaにできる事は次の2つだけです。
- 原本性
- プライバシーコントロール
実はこれだけ。ユースケースを探す前に、原本性という言葉について深堀りしましょう。
(原本性については、少し専門的なので読み飛ばしていただいてもかまいません。)
原本性とは何か
プライバシーをコントロールできるというのは容易に理解可能だと思いあすが、原本性とは何でしょうか?少しだけ掘り下げてみましょう。
そもそも、ブロックチェーンの特徴は 「信用できる第三者無し」 に「 価値の移動が可能となる」ことです。そして、ブロックチェーン技術を用いた次世代の技術であるCordaの特徴は、 「第三者に情報を開示すること無し」 に、「価値の移動が可能となる」ことです。
そして、この価値の移動というものを突き詰めて考えると原本性というものにたどり着きます。
価値のわかりやすい例といえばなんでしょうか?それは「お金」、「債券」、「株」あたりが浮かびますか?易等の分野に詳しい方であれば、「信用状」や「船荷証券」といったものもが浮かぶかもしれません。貿易に関しては以下の記事をご参照ください。
貿易金融×ブロックチェーン -Corda活用事例紹介-さて、こうした価値を担保するのは誰なのでしょう?エコシステムさえあれば担保されるのでしょうか?そうではありません。価値の担保をするのはあくまで発行者です。ブロックチェーン/分散台帳、そしてCorda上で発行される価値に意味ががあるのは、あくまで
「価値の発行者」がその「価値に責任を持たざるを得ない」
という状況をシステムが強制的に作り出すからに他なりません。
債券を例にとればわかりやすいでしょう。
債券をブロックチェーン/分散台帳基板上で発行した場合、その価値を保証するのはあくまで 債券の発行者です。 ブロックチェーン/分散台帳技術が保証してくれるのは、あるデータ(債券)が債券の発行者に紐づくことと、そのデータが複製されていない(=発行者やその他の人が嘘をつけない)ことだけです。
余談ですが、パブリックチェーン上で、ネイティブトークン以外の価値を作り出すことを目指すユースケースには全く意味がないと考えています。なぜなら、パブリックチェーンは、参加者の特定ができないからです。つまり、パブリックブロックチェーン上では「価値の発行者」が誰なのかを特定することができません。もし「価値の発行者」の特定をオフレッジャーで行うのであれば、それはプライベート/コンソーシアムチェーンと同じ道を(より複雑かつコストのかかる方法で)歩んでいるに過ぎません。
特に、その価値の保有者や発行者を(税金やAMLの観点で)完全に特定しなければならい場合、パブリックチェーンでそれを行うことは全く無駄な取組でしかないと思います。
一方でパブリックブロックチェーンには、インフラコストを第三者に転嫁できるという特徴があります。この特徴は、長期的にプライベート/コンソーシアム型チェーンが取り込んでいくべき特徴だと考えています。
「データが 複製できないこと」 ×「 発行者も保有者も言い逃れできないこと」これが 原本性 の本当の意味です。 プライベート/コンソーシアムチェーンはこの原本性の担保という機能を持っており、そこへプライバシーの確保というビジネスに必須な機能を追加したのがCordaであるということができると思います。
本論(まだ見ぬユースケースを求めて)
ということで、これまで、この原本性の確保という機能を活用したユースケースをcorda-japanでは数多く紹介してきました。
今回は、世の中にまだ見ぬどんなユースケースが埋もれているのか考えようと思います。
ユースケースの(強引な)分類
まずは、ユースケースを3つに分類する事から始めましょう。
- モノ・書類の管理(サプライチェーンマネジメント/契約書管理等)
- 既存の金融サービスの代替/効率化
- 1と2の組み合わせ
ブロックチェーン/分散台帳技術の使い道は今のところこの3つしかないといっても過言ではありません。いずれも原本性がないと話にならない世界です。契約書や納品書が自由に複製できては困りますし、(システム的に)ハンコを押したのになかったことにされても困ります。モノや書類に紐づくお金のやり取りが自動でできるところもブロックチェーン/分散台帳技術の良いところです。
こうした3つのユースケースはたった3つかもしれませんが、ありとあらゆる業種で必要とされるユースケースです。そして、単なるコスト圧縮を超えて、新しいビジネスを作り出すレベルの効率化を実現できることがブロックチェーン/分散台帳技術のすごみだと考えています。
ユースケース×TOPIX17業種
次に、新しいユースケースを発見する為にTOPIXの業種分類を眺めてみましょう。 ( 東証17業種分類とは)
この業種分類を縦軸に、横軸にユースケースの3分類を置き、それぞれにどんなユースケースがすでに実現されているかをまとめたのが次の表です。この中で、色を塗った部分について考えてみたいと思っています。
(元データは以下のリンクをご覧ください)
まだ見ぬユースケースのありか
まだ検討されていない業界
表をオレンジに塗った部分です。 素材・化学/鉄鋼・非鉄/機械/電機・精密 の4分野では契約書管理というプリミティブなユースケース以外に全くブロックチェーンを使った取り組みが聞こえてきていません。
この4つの分野の特徴は、
- BtoB
- サプライチェーンの中ほどに位置しており、自社の商品の価値を自社でコントロールすることが非常に難しい
- 小口契約が少なく、契約周りの事務負荷が少ない
といった特徴を持ちます。これは原本性の確保やプライバシーと言ったCordaの特徴を活かすことが難しいことを示しているようにも思えます。しかし、こうした分野にもIT化の波は当然に押し寄せていると思いますし、IT化の波の一番先にあるのがブロックチェーン/分散台帳である以上こうした分野でも遅かれ早かれ新しい取り組みが生まれてくるのではないかと考えています。自社製品の差別化や運転資金の効率化等という観点で新しいプラットフォームが生まれることを期待したいと思います。
サービス業×Corda
表の黄色い部分です。オレンジ色とは反対に最も容易に価値が生まれるであろう分野がこのサービス業における取り組みだと考えています。サービス業の特徴は、
- BtoCが多い
- サプライチェーンの最下流に位置しており様々な価値の源泉を作り出すことができる
- 小口契約が多く、契約管理コストが相応に高い
等になります。わかりやすい先行事例を二つあげましょう。
一つには、OTA(Online Travel Agent)によるホテルの予約管理をブロックチェーンに乗せる取り組みをあげられます。将来的には、ホテルの運転資金や各種調達(ベッドメーキング等)もブロックチェーンの上で自動手配/自動決済することも可能になるでしょうし、こうした背景業務の繁閑やコストに合わせて宿泊料金を変化させるような仕組みも生まれてくるかもしれません。
二つ目として、広告や芸能分野での取組を紹介しましょう。顧客動向トレースとブロックチェーンの相性は非常に良いため、広告ビュー数のトレースをするユースケースや、著作権管理に関する取組がはじまっていいます。顧客動向や著作権管理においても、プライバシーが必要となるユースケースにおいてはCordaを選ぶことはごく自然な選択肢となると考えています。
「サービス業×Corda」 では、業務の自動化という観点からも、既存金融との接続という観点からも、もっともっと多様な取り組みが今後生まれてくることが見込まれます。
御社のサービスの価値はどこから生まれているのかを再検討してみてください。そして、
「コスト(人件費、管理費、物品費など)との紐づけによるダイナミックプライシング」
や
「(事務)コスト低減による新たなサービスの提供」
という観点で新規事業を考えると、良いアイディアが生まれるかもしれません。
不動産×Corda
不動産に関しては賃貸管理や証券化など、「お金になる」業務へのブロックチェーン・分散台帳技術の適用が活発に検討されています。だが、こうした分野についてはどうしても「競争領域」であるためにブロックチェーン・分散台帳技術を使うには(インセンティブという意味での)注意深いビジネス設計が必要になります。
個人的にはよりプリミティブで非競争領域となりうる契約書の管理等からユースケースが生まれることを期待しています。 この観点で考えたときに、最大の非競争領域が 登記です。登記情報をブロックチェーン上に乗せる効果は本当に大きなものです。なんといっても登記と決済をDvP化できれば、これまで発生していた登記リスクの発生を基本的には0にすることができます。又、この領域については中央集権型のシステムにすべきではありません。なぜなら、登記単体であれば政府が保有するシステムで構築可能(何ならすでにバックエンドとしては存在する)でしょうが、間違いなくそれでは、今後のIT技術革新の恩恵を受けられなくなります。プリミティブかつ非競争領域であるからこそ、多様なシステムとつながることを前提とできる分散台帳技術を採用すべきです。分散台帳技術上に登記システムがあれば、関連する周辺システム(土地担保に基づく貸出システムや、所有権移転に伴う決済システムなど)は、様々な競争に基づくシステムが構築され、経済の効率性を飛躍的に高めていくことでしょう。
すでにイギリスではDegital Street Program という登記の分散台帳への移行プロジェクトが始まっています。私もこのトライアルに参加しました。住宅ローンを組んで決済するというユースケースに対するMVPシステムのトライアルです。DvP決済を前提に
契約条件決定から決済、登記まで1時間 でした。一番待たされたのは、書類のチェックでも決済日確定のための日程調整でもなく、前の打ち合わせが長引いた弁護士がボタンを押せなかったこと。そんな世界が不動産でも実現できるのです。
登記システムそのものを丸ごと移行することは容易ではないでしょうし、むしろその事務負荷を考えるとやるべきでないかもしれません。だが、MVP部分、つまり法的対抗要件として利用可能な登記APIをブロックチェーン/分散台帳基盤上で実現することは非常に価値の大きな取り組みであるように考えています。
銀行×Corda
銀行業とCordaとの相性に疑念の余地はありません。そもそも金融業界が必要とする機能を形にしたのがCordaです。
ただ一方で、銀行業界の取組は、まだまだ既存の金融サービスのリプレースの域を出ていないのが実情です。特に証券・保険分野でかなり面白い、新しいマーケットを生み出すような取組が出てきている一方で、所謂貸出/預金/決済という銀行業務における新しいユースケースがまだまだ生まれていない事も事実だと考えています。
そして、少し広い視点で考えてみると、この分野は前払い式支払い手段等を活用した「非銀行業」からの浸食が始まっている分野であるという理解もできるでしょう。(典型的なのがSuicaとPayPayでしょう)
銀行社内に対する駆け引き、ライバル行との比較、そういった事も社会インフラ提供企業として重要かもしれませんが、その余裕はもはやないのが銀行業かもしれません。
そして、今銀行に求められることは、(今新しいサービスが大量に生まれつつある)決済だけではなく貸出や預金といった銀行の本業と言える分野でのブロックチェーン/分散台帳技術を利用したユースケースの検討でしょう。伝統的かつ保守的であるべきこの業界においてどれだけ革新的な取組を打ち出せるかはわかりません。ですが、銀行の中にも新しい事業を切り開きたいという熱い思いを持った人々が必ずいるはずです。是非とも、新しいユースケースが生まれることを期待したいと思っています。
まとめ
ここまで、まだ見ぬユースケースを探す検討をしてきました。 Cordaの特徴は
プライバシーコントロール
にあり、こうした特徴を活かす分野として
サービス業×Corda
不動産×Corda
銀行×Corda
を挙げてみました。いかがでしょう?少しでも世界を変えるヒントが見つかればよいのですが。。。
このエントリーでは、各社に頑張ってほしいというスタンスで書きました。しかし同時に、弊社はブロックチェーン/分散台帳基盤の使いどころを探すお手伝いもしています。単なるフリーディスカッションでも構いません。プライバシー管理が必要で、複数の事業主体が関わるビジネスであればなんでも、Cordaによる新規事業企画は一行の価値があると思います。
ぜひ気軽に声をかけていただき、一緒に検討させていただけるとありがたいとおもっています。
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(記事作成:SBI R3 Japan/YuIku)