日本企業も注目のAstar zkEVM、開設キャンペーンやトークン設計の今後
Astar zkEVMのメインネットローンチへ
Astar Network(アスターネットワーク)は、イーサリアム(ETH)のレイヤー2として位置づけられる「Astar zkEVM」のメインネットのローンチを2024年2月下旬に予定しています。
Astar zkEVMはPolygon(ポリゴン) Labsと提携して開発された、イーサリアムのスケーラビリティを強化するように設計されたレイヤー2ソリューションです。
また、暗号資産(仮想通貨)アスター(ASTR)の買い戻しとバーン(焼却)により供給増加率を抑制する新しいメカニズムが導入されることもあり、投資家も注目しています。
本記事では、Astar zkEVMの特徴やユースケース、Astar Networkの仮想通貨ASTRトークンのユーティリティがどのように強化されるのかについて紹介します。また、ローンチキャンペーン「Yoki Origins」の詳細や、今後のロードマップに至るまでを解説し、Astar zkEVMの将来について探っていきます。
目次
-
Astar zkEVMの概要
1-1. Polygon CDKを活用
1-2. Astar Networkとの相乗効果
1-3. 日本で存在感を高める
1-4. 使いやすさを重視する
1-5. Astar zkEVMの主要パートナー - Astarトークンのユーティリティ拡大
- Astar zkEVMローンチキャンペーン「Yoki Origins」
①Astar zkEVMの概要
Astar zkEVMは、イーサリアム向けのレイヤー2(L2)スケーリングソリューションで、EVM(Ethereum Virtual Machine)と同等のスマートコントラクト環境を提供することが特徴です。
これは、イーサリアム用の既存のスマートコントラクト、開発ツール、ウォレットのほとんどがAstar zkEVMでも動作することを意味します。
EVMとは
イーサリアム仮想マシンの略。スマートコントラクトを実行するための「翻訳機」として機能する。EVMはイーサリアムクライアントのネットワークに保持されるステートマシン(入力条件と現在の状態によって次の状態が決まる論理回路)であり、ブロック生成の度にトランザクションやスマートコントラクトを実行してネットワークの状態を計算する役割を担う。
▶️仮想通貨用語集
また、レイヤー2(L2)スケーリングソリューションの中でも、Astar zkEVMはトランザクションの有効性証明に「ゼロ知識証明(Zero-Knowledge Proofs)」技術を採用。ブロックチェーンに記録されるデータ量を削減し、手数料を抑えながら取引速度を向上させます。
ゼロ知識証明とは、暗号証明技術の一種であり、証明者が「自身の主張は真実である」以外の情報を検証者に開示することなく、その主張が「真実である」と証明するメカニズムです。
ゼロ知識証明を用いたL2(zkロールアップ)は、数学的手法によってブロックチェーンの信頼性と一貫性を確保するプロセスです。他のL2ソリューション(Optimistic Rollups など)のようなシークエンサーによる検証を必要とする方法よりも不正耐性が高く、検証のためのチャレンジ期間が不要となります。そのため、取引のファイナリティ(決済完了性)到達が迅速なことが特徴です。
以上の特徴を備えるAstar zkEVMは、イーサリアムのエコシステムを拡張し、より多くのユーザーと開発者に利用されやすい環境を提供することを目指しています。
関連:ブロックチェーンのレイヤー2とは|種類や注目点、代表的なネットワークを解説
1-1. Polygon CDKを活用
Astar Networkはポリゴン(MATIC)と提携しており、Astar zkEVMの技術要素はポリゴンのChain Developer Kit(CDK) を活用しています。
Polygon CDKは、開発者によるイーサリアム用のゼロ知識証明(zk)レイヤー2チェーンの立ち上げをサポートするオープンソースのコードコレクションのため、CDK上に構築されたチェーンは、他のCDKチェーンとの相互接続が実現しやすい設計となっています。
関連:イーサリアムとの等価性実現へ ポリゴン、次世代の「Polygon zkEVM」をリリース
1-2. Astar Networkとの相乗効果
Astarエコシステムは、Astar zkEVMとAstar Networkの両方を備えることで、企業が製品を開発する際に、最適な選択肢を提示出来る形となります。
既存のAstar Networkはポルカドットのブロックチェーン技術を基に構築されており、幅広いブロックチェーン間での相互運用性、高いセキュリティ、及びスケーラビリティを実現します。EVM(Ethereum Virtual Machine)だけでなく、WebAssembly(Wasm)など他の実行環境もサポートすることで、開発者が様々な技術スタックを使ってアプリケーションを構築可能です。
一方、Astar zkEVMはイーサリアムの豊富な開発資源、ライブラリやツールを活用して、レイヤー2でのスケーラビリティを重視しています。また、Astar zkEVMはEVM等価性を持つため、既存のチェーンとの間で即座に相互運用可能です。
1-3. 日本で存在感を高める
日本国内では、2023年6月に岸田内閣が発表した「骨太方針2023」にWeb3が含まれるなど、新たな産業発展に向けて、環境整備が進んでいるところ。国内の知的財産(IP)やコンテンツ産業の活性化、DAOを通じた地方創生などが期待されており、分散型デジタル社会の実現に向け、トークンの利活用促進に向けた環境整備が進行しています。
関連: WebX開幕 岸田文雄 内閣総理大臣がビデオ登壇|WebXカンファレンス
Astar Networkの創立者兼Startale LabsのCEO、渡辺創太氏は、日本でのWeb3.0産業の拡大を促進するため、自民党本部を訪問するなど、法制度上の課題について話し合ってきた人物です。
Astar zkEVMの展開にあたり、渡辺氏は日本の企業や官公庁との更なる連携を進め、広範囲にわたる採用を目指しています。Astar zkEVMを通じて、日本の企業や自治体がWeb3の世界に進出し、国際的にリードする事例の創出や、日本独自のゲームやアニメコンテンツの世界への展開が期待されています。
この目標を達成するため、Astar zkEVMはWeb3(分散型インターネット)の幅広い採用を目指し、従来の複雑なウォレットログインではなく、使いやすいSNSアカウントログイン、ガス料金不要のトランザクション、クレジットカード支払いなど、ユーザーに優しい機能を提供しています。
2024年に入り、秋元康氏が総合プロデュースする男性アイドルグループプロジェクトやデロイトトーマツのNFT開発支援ツールなど、Astar zkEVMを採用する企業やプロジェクトが次々と発表されています。
2月には、博報堂と日本航空が共同で、6つの地域の特別な体験や工芸品をNFT(非代替性トークン)化し、Web3を活用して地域の関係人口創出を目指す「KOKYO NFT」の実証実験を開始しました。
Astar zkEVMローンチ記念キャンペーン「Yoki Origins」(後述)には、企業やプロジェクトなど40以上の参加が予定されており、さらなる日本企業の関与が期待されます。
関連:秋元康らが挑む次世代アイドルプロジェクト、Web3基盤のAstar zkEVMを採用
関連:デロイト トーマツ、スポーツ庁の実証事業でAstar zkEVM活用
渡辺創太氏がCEOを務めるWeb3開発会社Startale Labsとしては昨年、ソニーとの共同ブロックチェーン開発プロジェクトも発表しました。
関連:ソニーがブロックチェーン開発へ、スターテイル・ラボと合弁会社設立
同氏はAstarエコシステムの拡大と大企業との連携によるWeb3の普及を強化する方針を示しており、地域としては日本、アジア、そして将来的にアメリカ市場への進出を計画しています。
1-4. 使いやすさを重視する
Astar zkEVMは開発者向けに柔軟性の高い技術スタックを備えており、日本企業にとっても実用的なユースケースを開発しやすいブロックチェーン基盤を提供しています。
「アカウント抽象化(アカウントアブストラクション)」は、ウォレットをスマートコントラクトで操作可能にする技術の一種です。これを活用して、開発者はユーザー向けに様々な機能を付加したウォレットを提供できます。
アカウント抽象化の主なユースケースとしては、二要素認証、様々なERC20を用いたガス代の支払いやガス代の肩代わり、スマートフォンでのトランザクションへの署名、アカウントの毎月の支出制限の設定、ブロックチェーンゲームをプレイするためのセッションキーによる継続ログイン、紛失したウォレットのソーシャルリカバリー、などが実装可能です。
Astar zkEVMは、このアカウント抽象化に適したインフラを提供します。例えば、「Particle Network」を通じて、開発者はアプリケーション内で利用可能なスマートウォレットを容易に作成できます。
Particle Networkにより、GoogleやX(旧Twitter)のような既存のOAuthプロバイダーを使用して、ユーザーが簡単にログインできる機能をdApps(分散型アプリ)に実装することも可能です。
Astar zkEVMでは、従来よりも仮想通貨ウォレットの使用がより簡単になり、直感的かつ柔軟なウォレット操作が可能になると期待されます。
関連:イーサリアムが「スマートアカウント」を実装、ウォレットのユーザビリティ向上に期待
1-5. Astar zkEVMの主要パートナー
Astar zkEVMの主なユースケースは、DeFiアプリケーション、NFT、GameFiが想定されます。また、即時かつ低料金での取引を実現することで、企業アプリケーション、および決済の分野での導入が期待されます。
これは、ゼロ知識証明を活用して、預金や引き出しの際に長い待ち時間を必要とせず、より良い資本効率をDeFi dAppsやユーザーに提供できるからです。また、イーサリアムのコンポーザビリティを補完し、低いガスコスト、高速トランザクション、そしてより高いレベルのセキュリティを各種アプリケーションに提供します。
現在までに公表されている、Astar zkEVMを構築するパートナーには、ユーザー向けにサービスを提供するプロトコルだけでなく、インフラストラクチャーを構築するプロジェクトもあります。
- Quickswap:Polygonエコシステム内で最も大きな分散型交換所(DEX)で、ユーザーが異なる仮想通貨を交換できるプラットフォーム。
- LayerZero:Astar zkEVMとAstarパラチェーン間での相互運用性を実現するプロトコル。ETHやASTRは、LayerZeroプロトコルを介して移行される。
- The Graph:ブロックチェーン上のデータを整理し、アクセスしやすくするためのインデックス作成プロトコル。これにより、開発者はブロックチェーンデータを簡単に検索し、アプリケーションに組み込むことができる。
- Rarible:Ethereum NFTとAstar zkEVM NFTを含む、NFT(非代替性トークン)を売買するためのマーケットプレイス。アーティストやコレクターがデジタル資産を取引できるプラットフォームを提供する。
- Dew:Polygonエコシステムにおける主要なNFTマーケットプレイスの一つで、ユーザーがNFTを発行、購入、売却できる。
- Startale:Astarの主要なWeb3インフラを提供するプロバイダで、ブロックチェーンベースのアプリケーション開発をサポートするための基盤技術やツールを提供する。
関連:アスターがzkEVM版メインネットを2月下旬に起動 6つの初期プロダクト公表
②Astarトークンのユーティリティ拡大
本来、仮想通貨ASTRはAstarNetowrkのネイティブトークンであり、今後もステーキング報酬、ネットワーク手数料(ガス代)の支払いといった実用面、及び、Astarエコシステムにおけるプロジェクト向けの助成金などで使用されます。
新たにAstar zkEVMの導入により、ASTRはその利用用途を拡大します。Astar zkEVMで追加される重要なASTRの新機能は3つあります。
まずはASTRの買い戻しとバーンです。Astar zkEVMには、レイヤー2上でトランザクションを順序付け、バッチ処理し、Ethereum Layer 1に提出する役割を担うシーケンサーという役割があります。この活動によって得られたETHはASTRの買い戻しに使用され、それらのASTRはバーン(焼却)に使用されます。トークンバーンは供給量の抑制につながり、希少性を高めると期待されます(今後、オプションとしてASTRを追加する可能性がある)。
次に、Astar zkEVM上でトランザクションを集約し、効率的な処理を支援するアグリゲーターという役割があります。シーケンサーからアグリゲーターに対してサービス料をASTRで支払っており、このASTRもまたバーン(焼却)されることで、トークンの供給減少に貢献します。
Astar zkEVMにおいてASTRトークンの3つ目のユーティリティはdApp Stakingです。これは、Astar Netowrkの独自機能であり、dAppsの開発とインフラの構築を行う開発者に報酬としてASTRインセンティブを提供するものです。Astar zkEVMもdApp Stakingの対象となり、特に日本市場での開発者と企業の関与を支援する方針が強調されています。
関連:「Astar zkEVM」が仮想通貨ASTRの実用性に与える影響は?
③Astar zkEVMローンチキャンペーン「Yoki Origins」
「Yoki Origins」は、2月下旬に予定されるAstar zkEVMのローンチキャンペーンです。Astar Networkとパートナープロジェクトから提供される限定NFTを収集し、それぞれを組み合わせることでYokiを成長させるゲーミング体験となります。
「Yoki」は、日本の妖怪からインスピレーションを受けたオリジナルキャラクターで、カプセルトイ形式で配布されます。参加者はOMAというゲーム内通貨を使用してガチャを回し、カプセルを開き、NFTアイテムを「融合」させて自分のYokiを育成していきます。
キャンペーンでは、40以上の企業、クリエイター、プロジェクトビルダーが協力し、ユニークなNFTを提供する予定です。また、特別なマンガシリーズやソーシャルメディアでのコンテンツを通じて、「Yoki Origins」の世界観が深まり、参加者が楽しめるようなコンテンツが用意されています。
Astar zkEVMの様々なdAppsの利用履歴に沿った、参加者独自のコレクションが出来上がります。
「Yoki Origins」スケジュール
〇2月下旬:先行スタート期間
- ユーザーは、Astar Yo-Port(ガチャ:カプセルを入手する場所)にて、最初のカプセルをミントできるようになる
- 「初版カプセル」の保有者は特別なNFTを入手できる
- 最初のOMAを入手する
〇キャンペーンの公式ローンチ
- 第一週:パートナーYo-Portが利用可能になる
- リーダーボード上で自分の「Lore」(ポイント)を確認可能になる
「Yoki Origins」キャンペーンは、SNSアカウントを利用したソーシャルログイン機能やクレジットカードを使ったNFT決済機能を取り入れ、仮想通貨に不慣れなユーザーでも簡単にアクセスできるユーザー体験を提供します。
Astar NetworkはWeb3のエコシステムへの参入障壁を低減し、より多くの人々にその可能性を体験してもらうことを目指しています。
Yoki Originsに参加するプロジェクトに関する詳細は、近日公表予定です。
関連:アスター(ASTR)の価格・チャート|今後の将来性や買い方を解説
画像はShutterstockのライセンス許諾により使用
「仮想通貨」とは「暗号資産」のことを指します