ENS(イーサリアム・ネーム・サービス)と分散型IDの違いとは 似て非なる2つのフレームワークを比較|オントロジー寄稿
分散型IDとENSの違いを解説
今年はブロックチェーン関連のプロジェクトにとって忙しい1年でしたが、中でもイーサアム・ネーム・サービス(ENS)には多くの注目が集まりました。
ローンチ以来、ENSは広く利用され、統合されたブロックチェーンドメイン名の標準となりました。現在、20万人以上のユーザーがENSを利用し、51万件以上のドメイン名が作成されています。さらに、ENSは300以上のアプリケーションに統合されています。
大まかに言うと、ENSのドメイン名も一種の分散型IDに属すものです。ENSはドメインネームシステムとして、「Zookoの三角形(Zooko’s Triangle)」の3つの特徴、すなわちセキュリティ、分散化、可読性に適合したものです。
そのことから、イーサリアムに支えられたベテランブロックチェーンプロジェクトとして、ENSは分散型ID(DID)の代替となり、今後は分散型IDを統合してしまうのではないか、と考える人がいます。
本稿では、ENSが本当に分散型IDを置き換えることができるのか、実用化の観点から分析してみます。
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ENSとは
ENSとは、イーサリアム・ネーム・サービスの頭文字です。イーサリアムのドメインネームサービスのことを指し、イーサリアム・ブロックチェーンをベースとした、分散型でオープンかつ拡張可能なネーミングシステムとなります。
ENS(Ethereum Name Service)とは
ENSは、より覚えやすく簡単な文字列を仮想通貨のアドレスとして利用できるようにするためのサービス。インターネットにおけるDNS(ドメインネームシステム)と同様の役割を果たす。例えば「coinpost.eth」のようにすぐに識別できるアドレスの作成が可能。
Web2において、ウェブサイトのIPアドレスは、数字の羅列に過ぎないものです。例えば、GoogleのホームページのIPは「142.250.4.100」です。しかし、私たちがGoogleを開くとき、通常は「google.com」しか入力しません。これは、DNS(ドメイン・ネーム・システム)という技術によって、私たちが入力した「google.com」をコンピュータがネットワークのIPアドレス「142.250.4.100」として変換し、Googleのサーバーにリンクしているからなのです。
ENSは、Web3におけるDNSのような役割を果たすものですが、Web3では、ENSが解釈するドメイン名はウェブサイトのIPアドレスではなく、ユーザーのイーサネットアドレスであるという違いがあります。例えば、VitalikのENSドメイン名「vitalik.eth」は、彼のイーサリアムアドレス「0xd8….45」が可読化されたものとなります。
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冒頭で述べたように、ENSにはすでに多くのプロトコルやアプリケーションが接続されています。ENSが提供する分散型ログイン方式と分散型IDおよび一部サービスが重複していることから、イーサリアムの後ろ盾と相まって、「ENSは分散型IDを置き換えることができる」という主張がまかり通っています。
しかし、本当にそうなのでしょうか。
分散型IDとは
では、ENSと分散型IDを比較する前に、分散型IDについて簡単に見ておきましょう。
ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム(W3C)が定めた分散型IDの定義によれば、分散型IDは「人、機関、組織、デバイスなどあらゆるエンティティの識別に使用でき、集中型ID登録機関、IDプロバイダ、認証局センターなど従来の中央集権型組織から切り離されたもの」です。それらは、ユーザーがパーミッションレス(第三者の許可を得ることなく)で、分散化された識別子を完全にコントロールすることを可能にするものです。
分散型IDは、分散型データのクライアントとサーバー間の安全な通信路の確立など、幅広い用途があるとされています。
分散型識別子によって構築される分散型IDシステムは、主に上記の分散型識別子と、検証可能クレデンシャル(VC:Verifiable Credentials)の2つの構成要素を含んでいます。
それぞれのパフォーマンス
ENSの識別子は、「xxx.eth」のようなドメイン名として表されます。この識別子はユーザーにとって可読性のあるものです。ENSが果たす最も基本的な機能の一つは、文字列だけで可読性のないイーサリアムアドレスを、ユーザーが読むことのできるENSドメイン名に変換することです。
分散型IDの場合、その識別子は「did:method:xxxxx」となりますが、オントロジーが提供する分散型IDの識別子の場合、「Did:ont:AMQoUFjwjVNNSejomUPRmGrkQDyvmujDt5」といったものとなります。
これは分散型ID(DID)を示す「Did」とオントロジー(Ontology)の「ont」を意味し、次にオントロジー上のアドレスの文字列で、ユーザーにとっては可読性の無いものです。
ただし、分散型IDの識別子は固定ではなく、要件に応じて設計することが可能です。分散型ID方式のルールでは、設計者が分散型IDの仕様を定義することができ、「did:ont:iris」のような読みやすいアドレスとして設計することも可能なのです。
つまり設計者は、分散型ID識別子の可読性に対して大きなイニシアティブを取ることができるということになります。
それぞれの使い勝手は?
ENSの作成は、イーサリアムをベースとしています。そのため、作成・保有する際、イーサリアム上でオンチェーン手数料を支払う必要があります。
ENSの設定上、ENSのドメイン名を保有するには、レンタル料の支払いも必要です。文字数が少ないほどレンタル料は高くなる仕組みで、たとえば3語以内のドメイン名の年間レンタル料は640ドルと高額です。
しかし同時に、ENSはNFTでもあるため、OpenseaなどのNFTマーケットで転売することも可能です。これにより、アカウント連携(バインド)解除やマネタイズといったユーザーのニーズに応えることができるようになっています。
分散型IDの作成については、どのブロックチェーンをベースにするかはユーザーが選択でき、それに応じて一定の手数料が発生します。また分散型IDは一度作成され、ユーザーのIDと連携されると、譲渡や破棄ができなくなります。そのため、分散型IDはデータとIDの独立した管理権を付与する一方で、IDに対する責任をユーザーに与えることになるため、ユーザーはその点に注意を払う必要があります。
まとめ
ENSはアプリケーションレベルでも分散型IDとして利用することができるものの、やはり根本的な実装ロジックやディテールにおいて、分散型IDとはかなり異なります。
おそらく将来的には、ENSはKYC(本人確認)など、オフチェーンデータとのインタラクションを実現するために、検証可能なクレデンシャルを追加し、プライバシーを含むユーザーのニーズを満たすようなアップグレードを行うとみられています。しかし、今のところ、分散型IDに取って代わるには時期尚早であると言えるでしょう。
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