マイニングプールAntPool、「ETHマージ」後のサポートを廃止する方針
アップグレード後の検閲リスクを懸念
暗号資産(仮想通貨)マイニングプール大手AntPoolは27日、イーサリアムの次期大型アップグレード「マージ」(The Merge)完了後、ユーザーのETH資産をPoS(プルーフ・オブ・ステーク)チェーン上で管理しない方針を発表した。
セキュリティ上の観点、及び「検閲のリスク」が主な理由だという。
ETH2.0 (The Merge)はさまざまな国の検閲リスクを伴うため、顧客の資産保全を考慮すると、ANTPOOLはPoSチェーン上のユーザーのETH資産を維持することができなくなる。
The Mergeとは
イーサリアムのコンセンサスアルゴリズムを「プルーフ・オブ・ワーク(PoW)」から「プルーフ・オブ・ステーク(PoS)」へ移行する大型アップグレードのこと。 アップグレード後もマイナーが採掘を続けることで、PoWとPoSをそれぞれ採用した2種類のイーサリアムが誕生する可能性があると注目が集まっている。
▶️仮想通貨用語集
AntPoolはユーザーに対し、9月3日までに、自身の保有するアカウントに個人のETHアドレスを追加するように求めている。ユーザーがAntPoolで獲得したマイニング報酬を受け取るためだ。
イーサリアム財団は25日、マージの実施日程を正式に発表。アップグレードはマイニングの最終合計難易度(TTD)でタイミングを決定し、9月10日から20日の間に行われる予定だという。
PoWトークンは引き続きサポート
一方、AntPoolは「最大手のPoW系マイニングプールとして」、引き続きビットコインやイーサリアムクラシック(ETC)など、分散型PoWコンセンサスとそのトークンを全面支援する方針を改めて強調した。
ETCに代表されるEthashトークンのマイニングを希望するユーザーに対しては、Ethashマイニングプールサービスの提供を継続していくという。
AntPoolは先月26日、ETCのエコシステムに13.6億円(1,000万ドル)を投資すると発表。ETCのdApps(分散型アプリケーション)の開発や全体的パフォーマンスの向上などに充てるという。
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検閲について
イーサリアムに対する検閲懸念が高まっているのは、8月8日に米国財務省外国資産管理局(OFAC)が、仮想通貨ミキシングサービスTornado Cash(トルネードキャッシュ)を制裁対象者リスト(SDN)に指定したことに起因する。
トルネードキャッシュは、イーサリアムチェーン上で動作し、取引を匿名化するミキシングサービス。これまで、仮想通貨ハッキング事件で犯罪者の資金洗浄に利用され、追跡が困難になるケースが複数発生している。
PoSに移行後、イーサリアムのトランザクション処理はバリデータによって行われることになるが、ネットワーク上のバリデータノードの約60%が、Lido Financeやコインベースをはじめとする米国に拠点を置くステーキングサービスプロバイダーによって管理されているという。そのため、これらのプロバイダーが米国の制裁にどのように対応するか、また政府がにプロバイダーに対し、どの程度の検閲を要求するのかなど未知数の部分が大きい。
米政府の対応には、業界から批判の声が上がっている。米仮想通貨シンクタンク「コインセンター」(Coin Center)は、OFACがトルネードキャッシュを制裁対象にしたことは、憲法に違反している可能性があると指摘。訴訟の検討も視野に入れているようだ。
また、仮想通貨支持派のTom Emmer米議員はこの件で、Janet Yellen財務長官に対し書簡を送付。技術は中立であり、プライバシー保護を望むことは極めて普通のことだと主張した。
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