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医療×ブロックチェーン適用事例のまとめ

はじめに

活動量を計測するウェアラブルデバイスの登場により、個人でも健康管理が可能になりました。ネットワークを介して健康・医療情報を管理する仕組みの歴史は古く、2000年代前半には医療情報連携ネットワーク(EHR)の運用が諸外国で開始しています。

健康・医療情報管理のセキュアな仕組みは現在進行形で研究・開発されています。そのひとつがブロックチェーンの活用です。そこで今回は、ブロックチェーンの医療分野への活用事例を取り上げたいと思います。

医療のICT化とその課題

PHR/EHRによる医療情報の管理

医療や健康管理において情報のデジタル化が進み、利便性が向上しました。個人が医療や健康にかかわる情報を自らの健康に役立て、健康管理の主体になる仕組みが、PHR(パーソナル・ヘルスレコード)です。PHRの主目的が個人による情報管理である一方、医療情報を分析する仕組みも不可欠です。個人だけでなく、病院や地方自治体、国レベルで医療・健康情報を管理・分析するのが、EHR(Electronic Health Record)です。健康・医療情報の分析に関しては、データのデジタル化やIoTセンサーの発達、AIの進歩等により可能になりました。

PHR/EHRの課題

その一方で、横断的に健康・医療情報を利用するのは従来のEHRでは困難です。個人情報保護の問題があり、広域での情報共有が進んでいないのが現状です。医療のICT化が進むなかで、健康・医療情報を管理する主体がこれまでの制度では扱いきれなくなりました。

医療にブロックチェーンを活用するメリット

ブロックチェーンによる問題解決

ブロックチェーンには、PHR/EHRの問題点を解消するメリットがあります。まず健康・医療情報の管理主体の側面です。従来のICT技術では中央集権的に個人の医療データが管理されるため、個人情報保護とセキュリティの確保が課題でした。ブロックチェーンは、P2Pを活用し、クライアント全体で分散して健康・医療情報を管理します。そのため、ブロックチェーンを活用することは、個人が健康・医療情報を管理主体であるべきというPHR本来のあり方にとって理想的だともいえます。

また、ブロックチェーンの活用は健康・医療情報のセキュアな管理にも役立ちます。個人の健康・医療情報が暗号化されるだけでなく、ネットワーク参加者全員の同意なしに、健康・医療情報の改ざんが非常に困難です。そのため、健康・医療情報の公正なデータベース作成が可能になります。

ネットワーク規模とトレードオフ関係にある分散化

P2Pを利用した健康・医療情報の分散管理により、更新やエラーチェックがネットワーク全体で行われるなど、セキュアな管理が可能です。ただし健康・医療情報の管理は、仮想通貨(暗号資産)の台帳管理と異なり、プライベートネットワークを使用します。

健康・医療情報管理のブロックチェーン活用に関して、この点に注意する必要があります。ネットワークへの参加の認証と分散化とはちょうどトレードオフの関係になっています。後述するように、PoA(権威の証明)というコンセンサスアルゴリズムを使うことで、認証された病院だけがアクセスできるプライベートネットワークの実現も可能です。

医療におけるブロックチェーンの活用事例

事例1:患者のデータ管理

医療分野へのブロックチェーン活用でもっとも一般的なのが、患者の医療情報管理です。医療情報は医療機関毎に管理されているため、患者の医療履歴を閲覧するためには前の医療供給者(病院など)の同意が必要です。この過程にはかなりの時間を要するため、ヒューマンエラーによる医療ミスの発生が起こりえます。

横断的な健康・医療情報の利用を可能にするシステムとして、MITメディアラボが開発したMedRecがあります。MedRecはイーサリアムのブロックチェーンを活用し、医療機関の認証し、承認された機関のみが医療履歴へのアクセスが可能になります。これにより、健康・医療情報を閲覧する仕組みが簡素化されます。

MedRecで特筆すべきなのが、患者の健康・医療情報の一元管理です。コンセンサスアルゴリズムとして、先述のPoA(Proof of Authority)が用いられています。中央集権的な側面を残す一方で、PoAにより身分が保証された患者や医者だけがネットワークに参加できる仕組みになっています。

事例2:偽造医薬品の防止

日本の場合、企業によって開発された医薬品は、厚生労働省への承認申請を経たのち、市販されるという厳格な管理が行われています。米国も同様で、FDA(アメリカ食品医薬品局)の承認が必要です。厳格な医薬品管理が行われている一方で、上記のプロセスを経ないで市場に流通する偽造医薬品が問題視されています。偽造医薬品により、アメリカでは年間数万人の死者が発生しているといいます。

偽造医薬品を防止するための医薬品の流通管理を行なうブロックチェーンがFarmaTrust(FTT)です。FTTにより、医薬品の製造からサプライチェーンを経て消費者に届くまでの流通経路の追跡が可能になります。

FTTの仕組みですが、ユーザーがユーティリティトークン(FTT)を100枚鋳造することで、ZOIという追跡用のトークンが付与されるようです。これにより、偽造医薬品の拡散防止にも効果があります。

FTTは今後、

  • Regulatory Compliance(連邦政府が設立したガイドラインに遵守しているかの確認)
  • Track and Trace(在庫管理)
  • Supply Chain Visibility(医薬品が任意の場所で変更された時点の追跡
  • Consumer Confidence App(ユーザーによる医薬品のライフサイクルの閲覧許可)

の4つに区分される予定だそうです。

事例3:治験や調剤の追跡

医薬品のサプライチェーンはグローバル化しつつあります。世界中で医薬品が製造され、市場が拡大しています。これが意味することは、製薬メーカーが医療品の種類やその製造業者、市販化に向けた臨床実験や使用された装置、各国のヘルスケアサービスから研究機関におけるバイオテクノロジーの動向に至るまで、把握する必要があるということです。

このような背景を受けて、サプライチェーン用のブロックチェーンに携わるAmbrosusが製薬メーカーのためのブロックチェーンプラットフォーム(AMB-NET)の立ち上げを計画しています。Ambrosusは現在、医薬品用AMB-NET立ち上げのために、大手製薬メーカーと交渉中だそうです。

The MediLedger Projectについて

最後に、アメリカ大手製薬メーカーの動向について触れておきましょう。

ジェネンテク、ファイザー、ギリアド・サイエンシズといったアメリカ大手製薬メーカーが参加するブロックチェーンに関するコンソーシアムが、The MediLedger Projectです。

参照:MediLedger

The MediLedger Projectでは、アメリカ・サンフランシスコに拠点を置くブロックチェーン企業Chronicledとの共同で、プロトコルを開発中です。卸売業者を通じて医薬品は販売されますが、個別に価格設定や契約について交渉が行なわれるのが従来のやり方でした。このような非効率なプロセスを除去するのがMediLeagerプロトコルの目的です。

アメリカ合衆国で2019年11月27日に医療品サプライチェーン安全保障法が改正されるのを受けて、医薬品の返品にも対応だそうです。MediLedgerプロトコルは2019年第3四半期にテストが開始される予定です。

まとめ

ブロックチェーンの健康医療分野への活用について、アメリカの事例を中心に紹介しました。日本とアメリカとでは医療制度が異なるため、日本にそのまま当てはめることはできません。その一方で、医薬品メーカーの多国籍化により、グローバルな市場開拓とその追跡も重要です。

ブロックチェーンは複雑だった医療情報の管理の簡素化や医薬品流通プロセスの透明化を実現するだけでなく、PHR/EHRで問題視されてきた健康・医療情報は誰のものかという問題を別の側面から考え直させてくれます。

原 英之(Hideyuki Hara) 株式会社digglue代表取締役

カリフォルニア州立大学を卒業後、日本で営業とエンジニアの経験を積む。

株式会社digglueのCEO。ブロックチェーンのオンライン学習サービス「EnterChain」ブロックチェーンコンサルティング及び開発、BaaSメディア「BaaS info!!」の運営を行う。

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