【事例】「テレマティクス自動車保険」の課題を解決する分散型台帳技術Tangle 2020/04/01 19:30 digglue 目次 はじめに テレマティクス保険の概要と課題 2.1テレマティクス保険とは 2.2テレマティクス保険の効果 2.3テレマティクス保険の課題 分散型台帳技術による解決策 3.1ユースケース:TransIOT × BiiLabs 3.2「Tangle」 について 3.3気になる点 さいごに はじめに 近年、自動車保険に関しては「テレマティクス保険」というのが世界で拡大しています。 加入者は欧米を中心に急増しており、2017年の時点では3170万件でした。 2035年には2億3200万件に達すると予測されています。 <参考> テレマティクス保険の市場規模予測 将来的な普及が見込まれるテレマティクス保険ですが、現状ではまだまだ課題を抱えています。 その課題に対して、分散型台帳技術を適用することで解決できる可能性があります。 本記事では、まずテレマティクス保険の概要と課題について解説し、つづいて課題解決に有効である分散型台帳技術のユースケースをご紹介します。 テレマティクス保険の概要と課題 テレマティクス保険とは テレマティクス(Telematics)とは、通信(Telecommunication)と情報科学(Informatics)を組み合わせた造語です。自動車などに通信システムを利用して情報サービスを提供する技術です。 近年、テレマティクスによる自動車保険が世界で急拡大しています。特に注目されているのは、「運転行動連動型(PHYD/PayHowYouDrive)」の保険料方式です。これは、走行距離・速度・時間・地域、および急ブレーキ・急アクセル・ハンドリングなどの運転特性をデバイスによって測定し、運転の安全度に応じて保険料が変動するという仕組みです。 テレマティクス保険の効果 テレマティクス保険には、次のような効果があるとされています。 社会的なメリット ・安全運転へのインセンティブ設計があることで、交通事故が減少する。 保険会社のメリット ・従来型よりも詳細なリスク分析に基づく保険料設定ができる。 ・事故減少により、保険金支払いが削減できる。保険料を引き下げられる。 顧客のメリット ・保険料負担が減少する。 このように、各方面で多くのメリットがあります。 テレマティクス保険の課題 しかしテレマティクス保険は、いくつかの課題を抱えています。 ■提供データの改ざん問題 提供データは保険料の増減にかかわる問題なので、顧客には改ざんする動機が十分にあります。改ざんを防止するような仕組みが求められています。 ■保険料算出プロセスの透明性問題 逆に、保険料算出プロセスは顧客にとってブラックボックスとなっており、保険会社が不正をするのではないかという懸念があります。入手したデータの流れを透明にするような仕組みが求められています。 ■個人情報セキュリティ問題 テレマティクスにより入手される情報は、走行日時・場所などプライバシーにかかわる問題です。実際、英米の顧客にはその点に対する抵抗が見られているようです。プライバシーを慎重に管理する仕組みが求められています。 以上のように、テレマティクス保険は有望な保険ですが、現状ではいくつかの課題を抱えています。 <参考>テレマティクス自動車保険の課題と展望 分散型台帳技術による解決策 これらの課題に対しては、ブロックチェーン(分散型台帳技術)という技術の特性がマッチしていると考えられます。実際に次のようなユースケースが出ています。 ユースケース:TransIOT × BiiLabs TransIOTはテレマティクス技術を持つ企業で、OBD-IIという車両搭載デバイスを提供しています。OBD-IIは運転行動データを取得・分析して運転の安全性を評価し、保険料の調整に役立てます。 しかし、OBD-IIのデータは簡単にアクセスでき、改ざんが可能です。これは保険会社および顧客の両者にとって大きな問題です。 そこで、ブロックチェーン技術の知見を持つBiiLabsという企業のAlfred APIを利用します。車両データのハッシュ値と生データを分散型台帳「Tangle」に保存することで、データの存在証明 (Proof of Existence) と信頼性を担保します。 ※「Tangle」については後述します。 BiiLabs公式HPより(日本語版) TransIOT にBiiLabsの分散型台帳技術をかけ合わせることで、テレマティクス保険の課題を解決することができます。 車載デバイスのOBD-IIは、人間の手を介さず分散型台帳へとデータを送信することができます。Alfred APIでは、生データとそのハッシュ値を分散型台帳に記録することで改ざんを困難にしています。 これによって、提供データの改ざん問題や保険料算出プロセスの透明性問題を解決でき、保険会社および顧客の両者にメリットがあります。 それだけでなく、人の手を介さずこれを行うことでコストを削減することもできます。 「Tangle」 について Tangleは、厳密にはブロックの概念がないためブロックチェーンではなく分散型台帳です。 DAG(有向非巡回グラフ)というデータ構造を採用しており、次世代ブロックチェーンという呼び名もあるほど注目されています。 DAG(有向非巡回グラフ)のイメージ図です。一つ一つの四角がトランザクションを表し、灰色は新たなトランザクションです。 トランザクションからトランザクションへの矢印には向きがあり(有向)、かつトランザクションから同一のトランザクションへ戻るルートはないので(非巡回)、「有向非巡回グラフ」であることがわかります。 (Tangleホワイトペーパーより) Tangleは、マイナーが存在せず、取引の当事者がトランザクション承認を行う仕組みになっているため、 高いスケーラビリティ 手数料無料 のシステムを実現しています。 そしてブロックチェーンと同様、耐改ざん性を備えています。 自動車運転にかかわるデータはトランザクションの量が膨大になることが予想されるため、Tangleのような高スケーラビリティかつ手数料無料のシステムが向いていると思われます。 <参考>Tangleホワイトペーパー なお、分散型台帳技術とブロックチェーンの違いについてはこちらの記事をご参照ください。 ▼ 詳細はこちら 分散型台帳技術ブロックチェーンの違いとは? 気になる点 個人的に気になる点を述べると、この解決策によって個人情報は耐改ざん性を持つようになるものの、走行日時・場所などの生データを分散型台帳に載せることに不安を覚える顧客もいるかもしれません。個人とそのデータの紐づけが外部からはできないような管理方法になっているとは思われますが、どのような仕組みでセキュアにしているのでしょうか。詳細が気になります。 さいごに 近年拡大している「テレマティクス保険」の概要と課題、そして分散型台帳技術による課題解決策をご紹介しました。 ポイントは、保険会社および顧客の両者にとっての大きな問題はデータ改ざんのおそれであり、それに対して分散型台帳技術の特性が解決策としてマッチしているということです。 問題の本質と技術の特性がマッチしたとき、その技術を使う意味が生まれます。 また、自動車業界をはじめとするブロックチェーンの製造業活用事例については、下記のカオスマップにまとまっていますので、こちらも参考にしてください。 ▼詳細はこちら ブロックチェーン業界マップ大公開 ~製造業編~
【事例】「テレマティクス自動車保険」の課題を解決する分散型台帳技術Tangle
digglue
2.1テレマティクス保険とは
2.2テレマティクス保険の効果
2.3テレマティクス保険の課題
3.1ユースケース:TransIOT × BiiLabs
3.2「Tangle」 について
3.3気になる点
はじめに
近年、自動車保険に関しては「テレマティクス保険」というのが世界で拡大しています。
加入者は欧米を中心に急増しており、2017年の時点では3170万件でした。 2035年には2億3200万件に達すると予測されています。
<参考> テレマティクス保険の市場規模予測
将来的な普及が見込まれるテレマティクス保険ですが、現状ではまだまだ課題を抱えています。 その課題に対して、分散型台帳技術を適用することで解決できる可能性があります。
本記事では、まずテレマティクス保険の概要と課題について解説し、つづいて課題解決に有効である分散型台帳技術のユースケースをご紹介します。
テレマティクス保険の概要と課題
テレマティクス保険とは
テレマティクス(Telematics)とは、通信(Telecommunication)と情報科学(Informatics)を組み合わせた造語です。自動車などに通信システムを利用して情報サービスを提供する技術です。
近年、テレマティクスによる自動車保険が世界で急拡大しています。特に注目されているのは、「運転行動連動型(PHYD/PayHowYouDrive)」の保険料方式です。これは、走行距離・速度・時間・地域、および急ブレーキ・急アクセル・ハンドリングなどの運転特性をデバイスによって測定し、運転の安全度に応じて保険料が変動するという仕組みです。
テレマティクス保険の効果
テレマティクス保険には、次のような効果があるとされています。
社会的なメリット
・安全運転へのインセンティブ設計があることで、交通事故が減少する。
保険会社のメリット
・従来型よりも詳細なリスク分析に基づく保険料設定ができる。
・事故減少により、保険金支払いが削減できる。保険料を引き下げられる。
顧客のメリット
・保険料負担が減少する。
このように、各方面で多くのメリットがあります。
テレマティクス保険の課題
しかしテレマティクス保険は、いくつかの課題を抱えています。
■提供データの改ざん問題
提供データは保険料の増減にかかわる問題なので、顧客には改ざんする動機が十分にあります。改ざんを防止するような仕組みが求められています。
■保険料算出プロセスの透明性問題
逆に、保険料算出プロセスは顧客にとってブラックボックスとなっており、保険会社が不正をするのではないかという懸念があります。入手したデータの流れを透明にするような仕組みが求められています。
■個人情報セキュリティ問題
テレマティクスにより入手される情報は、走行日時・場所などプライバシーにかかわる問題です。実際、英米の顧客にはその点に対する抵抗が見られているようです。プライバシーを慎重に管理する仕組みが求められています。
以上のように、テレマティクス保険は有望な保険ですが、現状ではいくつかの課題を抱えています。
<参考>テレマティクス自動車保険の課題と展望
分散型台帳技術による解決策
これらの課題に対しては、ブロックチェーン(分散型台帳技術)という技術の特性がマッチしていると考えられます。実際に次のようなユースケースが出ています。
ユースケース:TransIOT × BiiLabs
TransIOTはテレマティクス技術を持つ企業で、OBD-IIという車両搭載デバイスを提供しています。OBD-IIは運転行動データを取得・分析して運転の安全性を評価し、保険料の調整に役立てます。
しかし、OBD-IIのデータは簡単にアクセスでき、改ざんが可能です。これは保険会社および顧客の両者にとって大きな問題です。
そこで、ブロックチェーン技術の知見を持つBiiLabsという企業のAlfred APIを利用します。車両データのハッシュ値と生データを分散型台帳「Tangle」に保存することで、データの存在証明 (Proof of Existence) と信頼性を担保します。 ※「Tangle」については後述します。
BiiLabs公式HPより(日本語版)
TransIOT にBiiLabsの分散型台帳技術をかけ合わせることで、テレマティクス保険の課題を解決することができます。
車載デバイスのOBD-IIは、人間の手を介さず分散型台帳へとデータを送信することができます。Alfred APIでは、生データとそのハッシュ値を分散型台帳に記録することで改ざんを困難にしています。
これによって、提供データの改ざん問題や保険料算出プロセスの透明性問題を解決でき、保険会社および顧客の両者にメリットがあります。
それだけでなく、人の手を介さずこれを行うことでコストを削減することもできます。
「Tangle」 について
Tangleは、厳密にはブロックの概念がないためブロックチェーンではなく分散型台帳です。 DAG(有向非巡回グラフ)というデータ構造を採用しており、次世代ブロックチェーンという呼び名もあるほど注目されています。
DAG(有向非巡回グラフ)のイメージ図です。一つ一つの四角がトランザクションを表し、灰色は新たなトランザクションです。 トランザクションからトランザクションへの矢印には向きがあり(有向)、かつトランザクションから同一のトランザクションへ戻るルートはないので(非巡回)、「有向非巡回グラフ」であることがわかります。
(Tangleホワイトペーパーより)
Tangleは、マイナーが存在せず、取引の当事者がトランザクション承認を行う仕組みになっているため、
のシステムを実現しています。
そしてブロックチェーンと同様、耐改ざん性を備えています。
自動車運転にかかわるデータはトランザクションの量が膨大になることが予想されるため、Tangleのような高スケーラビリティかつ手数料無料のシステムが向いていると思われます。
<参考>Tangleホワイトペーパー
なお、分散型台帳技術とブロックチェーンの違いについてはこちらの記事をご参照ください。
▼ 詳細はこちら
分散型台帳技術ブロックチェーンの違いとは?
気になる点
個人的に気になる点を述べると、この解決策によって個人情報は耐改ざん性を持つようになるものの、走行日時・場所などの生データを分散型台帳に載せることに不安を覚える顧客もいるかもしれません。個人とそのデータの紐づけが外部からはできないような管理方法になっているとは思われますが、どのような仕組みでセキュアにしているのでしょうか。詳細が気になります。
さいごに
近年拡大している「テレマティクス保険」の概要と課題、そして分散型台帳技術による課題解決策をご紹介しました。
ポイントは、保険会社および顧客の両者にとっての大きな問題はデータ改ざんのおそれであり、それに対して分散型台帳技術の特性が解決策としてマッチしているということです。
問題の本質と技術の特性がマッチしたとき、その技術を使う意味が生まれます。
また、自動車業界をはじめとするブロックチェーンの製造業活用事例については、下記のカオスマップにまとまっていますので、こちらも参考にしてください。
▼詳細はこちら
ブロックチェーン業界マップ大公開 ~製造業編~