AI・オンチェーン金融サミット セッションレポート
平将明議員、AI・オンチェーン金融の次期提言へ アセット・ウォレット・日銀が焦点
HashPort、KDDI、au Coincheck Digital Assets、WebX実行委員会が共催する「AI・オンチェーン金融サミット」が10月1日に開催された。
クロージングセッションには衆議院議員の平将明氏が登壇し、AIエージェントとステーブルコインが結びつく理由や、党の提言を国家戦略につなげる道筋を語った。
講演後はKDDIの黒田千春氏の質問に答える形で、次の提言で取り上げるテーマにも言及した。
登壇者
自由民主党平将明氏衆議院議員
※冒頭の写真の中央が平将明氏
第1部 クロージング講演
AIエージェントとブロックチェーンの接点
平氏はまず、オンチェーン領域に関わったきっかけを振り返った。4年ほど前のNFTブームの頃、先輩議員の平井卓也氏に声をかけられ、NFTにとどまらずブロックチェーン全体を見ようと、2022年にはweb3のPTで議論を進めた。同年11月にChatGPTが登場すると、2023年1月には「AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム」を設け、ブロックチェーンとAIの両方に取り組んできたという。
当初のAI政策の論点は、GPUの確保や、英語圏の情報に偏る「バイアス問題」、司令塔の不在だった。平氏が2023年から毎年まとめてきたAIホワイトペーパーは、2026年版から名称を西暦ではなく「2.0」とした。AIが自らコードを書き換えて自律的に進化する段階や、大まかな指示で連続してタスクをこなすエージェンティックAIの段階に入り、フェーズが大きく変わったとの認識を示した。
両者が結びついたのは、デジタル大臣として参加した2025年1月のダボス会議だった。平氏のもとにはweb3業界の関係者が集まり、最も盛り上がったのが、AIエージェント同士が取引する「エージェンティックコマース」の話題だったという。
AIエージェントは人間ではないため、銀行口座を持てない。では決済をどうするのか。その答えとしてステーブルコインや仮想通貨が挙がり、平氏は「非常に腑に落ちた」と振り返る。ブロックチェーンとAIエージェントは極めて相性が良いと感じたという。
半年で国家戦略にする政策のカレンダー
平氏はこの手応えをもとに、2026年に「次世代AI・オンチェーン金融構想PT」を立ち上げた。衆議院の解散・総選挙という想定外の事態があり、実際の始動は3月にずれ込んだという。
平氏が会場に覚えておいてほしいと強調したのが、政策づくりの年間の流れだ。1〜3月ごろに自民党のPTや調査会で議論し、4月ごろに提言を出す。政治家の力量にもよるものの、その内容が大型連休明けに党全体の成長戦略の提言に入り、数週間後には政府の骨太方針や成長戦略に盛り込まれるという。
「政策にはカレンダーがある。農業と同じで、種まきや田植え、収穫の時期が決まっている。(中略)実は動きが非常に早く、半年あれば十分に国家戦略ができる」
国家戦略に入れば、その後の概算要求や、場合によっては補正予算、年末の税制改正にもつながっていく。
PTの座長は、木原誠二氏に託した。平氏によると、木原氏はマウントゴックス事件の頃からこの分野に関わり、その後の法整備を担ってきた。税制や金融にも詳しい木原氏のもと、村井英樹氏を事務局長に据え、提言をまとめたという。
編集部注:「次世代AI・オンチェーン金融構想PT」は自民党デジタル社会推進本部の下に設けられ、木原誠二氏が座長、平将明氏が座長代理を務める。PTの提言は5月19日に党の政調審議会で了承された。提言はトークン化預金の普及に向けて日銀当座預金のトークン化対応が必要だと指摘し、日本銀行に年内の論点整理と実現への工程の提示を求めている。
大陸法の国で先手を打つ
講演では、オンチェーン金融に関わる省庁が多岐にわたる点も強調した。ビジョンを示し、キーワード同士がどう作用し合うかを描いたうえで、各省庁がやるべきことを具体的に示す必要があるという。例としてCBDC(中央銀行デジタル通貨)を挙げ、放っておけば他国の動向を見ながらの対応になりやすいと述べた。
平氏は、その背景に法体系の違いがあると説明した。米国や英国、シンガポール、イスラエルなど英米法の国では、明示的に禁止されていなければ実行できる。一方、大陸法の日本では「やってよいこと」が規定されるため、新しい技術を使ったサービスはグレーゾーンになりやすく、ガバナンスやコンプライアンスの観点から慎重な判断が働いて出遅れにつながるという。だからこそ日本の政治家は先を見据えて早めに手を打つ必要があり、金融は特にその傾向が強いと訴えた。
木原氏のもとでまとめた提言の最大の特徴は、各省庁への具体的な指示を盛り込んだ点だという。金融庁はすでに「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」を立ち上げ、前日の9月30日に第1回会合が開かれた。日本銀行や全国銀行協会、デジタル庁、財務省などが参加し、2027年初めに中間整理と関連のロードマップをまとめる予定だという。
AIエージェントにどこまで代理権を認めるかといった、民法に関わる論点にも触れた。民法の改正は法制審議会で3年、5年と議論が続くため、審議会にかけずにどこまで対応できるかも課題になると説明した。
編集部注:金融庁のフォーラムは金融担当大臣が座長を務め、有識者のほか、金融庁、デジタル庁、財務省、日本銀行、全国銀行協会が参加する。日銀当座預金のオンチェーン対応や官民ロードマップの作成などを検討し、2027年初めに中間整理をまとめる予定。並行して研究会でも、資産のトークン化やステーブルコイン、DEX・DeFi、ウォレット提供業者に関する制度のあり方を議論する。
通貨をめぐる危機感と金融機関の二重投資
平氏は、ステーブルコインをめぐる危機感も示した。アジアの貿易決済ではまだ円のシェアが大きいものの、米国のステーブルコインの潮流や中国のデジタル人民元、EUのCBDCがあるなかで、日本が何もしなければ取って代わられる可能性があると述べた。
提言は2カ月弱でまとめたため、主に決済に重点を置いた内容になった。今後はアセット(資産)の議論を深めるほか、今回のカンファレンスでも焦点となったウォレットについて追加で議論する考えだという。日銀に対しても、追加の要請を出すことを検討しているという。政府の成長戦略の17分野には入らなかったものの、骨太方針には提言の内容が明示的に盛り込まれた。一度方針に入れば、有能な日本の役所は自律的に動き始めるとの見方も示した。
一方で、サービスがAIエージェントによって自律化していけば、人員を多く抱える企業にとっては、対応の難しい話になってくるという。日本の金融機関は世界から信頼され、決済も滞りなく動いている。平氏はこの決済システムの信用を「日本の宝」と表現し、しっかり守る必要があるとする一方、ブロックチェーンにも投資が求められるため、金融機関にとっては二重投資になると指摘した。
成果がすぐに出るものではないため、金融機関だけで投資を判断するのは容易ではない。だからこそ政治の側から将来像を示し、後押ししていきたいと述べた。
8月にはワシントンDCとニューヨークを訪れ、規制当局や、ブラックロック、JPモルガンといった伝統的な金融機関、Circleのようなスタートアップと意見を交わした。先方の要望を受け、提言の英語版も用意したという。マンハッタンでは両者が違和感なく融合し、SECやCFTCといった規制当局も信念を持って取り組んでいるように映った。平氏は、論点整理と相場観は間違っていないとの確信を得て帰国したと話し、この分野をさらに加速させたいと講演を締めくくった。
第2部 KDDI黒田千春氏との対談
聞き手
KDDI株式会社黒田千春氏渉外・広報本部 政策調整部 レギュラトリーエキスパート
※冒頭の写真の左が黒田千春氏
講演に続き、KDDIの黒田千春氏が民間を代表して平氏に質問した。黒田氏は自身も行政に出向しており、ハードローの運用に数年単位の時間がかかるなか、アジャイルに進める考え方が行政にも浸透してきたと感じていると語った。民間も自主ルールづくりに取り組む必要があるとして、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)にウォレット・AI部会を立ち上げ、毎週議論を重ねていると紹介。そのうえで、PTの次の提言のスケジュールや方向性を尋ねた。
次の提言に向けた3つの論点
平将明
AIの政策に3年半取り組んできたが、Anthropic、OpenAI、Google、NVIDIAといった海外のビッグテックとこれほど良い関係を築けているのは珍しいと思う。日本のAI法は、大陸法の弱点を補うため、ハードローで対応する部分を最小限にしている。ガイドラインなどのソフトローでアジャイルに進め、最もリスクの高い部分だけをハードローで手当てする。AIはこれでおおむね対応できる。知財の面でも、文化庁が、学習は比較的自由とし、生成物が侵害に当たればアウトという規律を明確にした。
ただ、金融はそうはいかない。投資家を保護し、決済を確実に完了させ、マネーロンダリングやテロ資金への対策も講じなければならない。だからこそ、金融庁に本腰を入れてもらう必要がある。金融庁と一体の関係にある財務省にも、あわせて動いてもらわなければならない。そこに働きかけられる政治家は誰かを考え、木原さんに座長をお願いした。
そのうえで、ウォレットは非常に重要だ。放置すれば、海外のウォレットが使われるようになりかねない。社会が多様化すれば、細かく制度を設計しながら、ピンポイントで給付しなければならない場面が出てくる。将来的には、ウォレットを通じて給付するような使い方も考えられる。
先ほども述べたように、今回の提言は決済の側に寄りすぎた。アセットの議論を進めること、ウォレットについてさらに深く議論すること、そして日銀に改めてしっかり求めていくこと。この3つに取り組み、できるだけ早く次の提言を出したい。
立法者の解像度を上げる官民対話
黒田氏は、JCBAの部会がPTに招かれ、議論する論点を説明したことに触れた。現在は提言の取りまとめを進めており、まとまった際に改めて説明の機会をもらえるかを尋ねた。
平将明
通常、与党の議員は役所から説明を受けて社会の動きを把握し、動いていく。しかし、この分野は我々が先を行かなければならない。とはいえ、1社の話だけでは見方が偏ることもある。立法に携わる側の解像度を上げる必要があり、さまざまな立場から話を聞くことは非常に重要だ。
ウォレットが抱える課題とその解決策を、テクノロジーで解くのか、ソフトローか、ハードローか。その設計をしなければならないので、提言がまとまれば、いつでも持ってきてほしい。
黒田氏は、新しいテクノロジーにルールが追いつけるよう、官民連携の仕組みづくりに少しでも貢献していきたいと応じ、セッションを締めくくった。
編集部注:JCBAは7月1日、ウォレット・AI部会の設立を発表した(6月29日に第1回全体会合を開催)。部会長はHashPort代表取締役CEOの吉田世博氏で、黒田氏は副部会長を務める。ノンカストディアルウォレット提供事業者の利用者保護・安全管理や、AIエージェントが取引の提案や実行を支援する場合の責任分界などを検討し、自主基準や政策提言の取りまとめを進めている。
懇親会での呼びかけ
全プログラムの終了後に開かれた懇親会の冒頭、平氏は再びマイクを握った。サイバー対処能力強化法などの関連規定の一部が同日に施行され、攻撃元のサーバーにアクセスして無害化する「能動的サイバー防御」の運用が始まったことに触れた。AIをめぐる新たなサイバーリスクも念頭に、ID・パスワードに頼らないDID(分散型ID)にも力を入れると述べ、次の言葉で乾杯を呼びかけた。
「日本のオンチェーン金融がアジアをリードし、日本が世界から選ばれる国になるよう、ぜひ皆さんの力を貸していただきたい」
党の提言から金融庁のフォーラム、業界団体の自主ルールまで、政策と民間の議論が同時に動き始めている。次の提言でアセットとウォレット、日銀への要請がどう位置づけられるかが、今後の焦点になる。
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