ボストン連銀と米MIT、7月頃にデジタル・ドルの研究成果を発表へ

米連銀とMIT、Q3にCBDCの研究成果を発表へ

デジタル法定通貨(CBDC)の共同研究を進めてきたボストン連邦準備銀行とマサチューセッツ工科大学(MIT)が早くて7月に研究成果を発表する予定であることがわかった。ブルームバーグなどが報じた。

ボストン連銀の責任者James Cunha氏によれば、MITと共同で開発してきたデジタル・ドルのプロトタイプに関する研究を2020年8月から行なってきた。なお、現段階では暗号資産(仮想通貨)やビットコイン(BTC)などの基盤となるブロックチェーン技術が活用されているかは定かではない。

2021年Q3(7月から9月)に予定されている成果発表では、二つのプロトタイプ・プラットフォームを披露する見込み。開発されたプラットフォームはデジタル・ドルの移動、保管や決済が可能なソフトウェアで、コードなども公開される。

Cunha氏は「規制の議論を待っていたら1年以上遅れをとってしまう」と述べ、今回の共同研究は、米国の中央銀行や財務省、並びに米議会に法的には中立的な姿勢を保ちながら技術的に可能なものを示す意図があると語った。デジタル・ドルにおける匿名性の是非や、サイバー攻撃や誤った取引などが議論の的になっている。

米国の金融トップはデジタル・ドルを容認する見方も

これまで米国ではCBDCの技術に関する調査と実験が行われてきたものの、具体的な発行の方針は示されていない。一部金融業界からは「デジタル・ドル」や「Fedコイン」(連銀の通貨)と呼ぶ声もあるが、米政府内では最近では変化の兆しが垣間見える。

2021年1月に就任したジャネット・イエレン財務長官は2月、デジタル通貨が銀行口座を持たない米国市民の金融包摂につながると好感していた。

また米議会の上院銀行委員会の議長である、民主党所属オハイオ州のSherrod Brown議員も3月初頭、パウエル議長宛てに国際社会に遅れを取らないために米国でのCBDCの調査を早めるよう求める書簡を提出している。イエレン財務長官と同様、金融システムにアクセスしづらい米国市民の支援の観点からもCBDCの必要性を訴えた。

FRBのパウエル議長も先週スイスで行われた決済に関するカンファレンスで「デジタル通貨は、現金やその他のお金の形態と共に既存の決済システムに導入されていくべき」と動画を介して言及した。

またパウエル議長は今週22日、国際決済銀行(BIS)のオンラインサミットに参加した際には発行は急がず、まずは調査に時間を割くと発言。「技術の進歩において米国は先頭にいる責務がある」反面、現時点では発行するかも含め決断する段階ではないと慎重な姿勢を示している。

さらに、仮にCBDC発行に進んだとしてもFRBは法案として米議会の支持を得ずしてデジタル・ドルを発行しない方針も強調。このようなパウエル議長の慎重な姿勢は銀行など所謂「伝統金融」からの懸念や批判を反映しているかもしれない。

銀行など既存の金融業者からは反発の声も

フェイスブック主導のステーブルコイン「リブラ」が大きく注目を浴びた2019年以降、国際社会では中央銀行が発行するデジタル法定通貨、CBDCの研究が大体的に進んでいる。決済の容易化や、送金の高速化が主なメリットとして挙げられるが、事業領域を左右されかねない米国の金融企業からは懸念の声が強まっている。

中国をはじめとする各国は、独自の中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)の構築競争を繰り広げています。ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)ではなく、独自のデジタル通貨の導入を目指すのはなぜでしょうか。

特に銀行やクレジットカード企業、並びにデジタル決済プロセッサーなど事業の核となる分野で大きな打撃を受けるリスクのある金融機関からはCBDCに対して否定的な意見が多い。デジタル通貨が米国市民のお金の使い方に変化をもたらす可能性があることから、業界団体は連銀や議会に対してロビー活動を行なっている。

1875年に設立された米国銀行協会(ABA)はデジタルドルに大きく反発しており、昨年米議会に提出した証言書ではデジタルドルを「存在しない問題の解決を目指すコストの高いソリューション」と形容していた。

一方で、決済企業のVISA社やマスターカード社などは連銀(≒中銀)の発行するデジタル通貨の導入を進めるなど意見が分かれている。

送金・決済大手は先駆的に導入する事例も

送金事業者もリスクがある反面、VISA社やマスターカード社の関係者はブルームバーグに対して各国の中央銀行と連携して、新通貨がネットワーク上でも利用できるシステムを構築していると説明している。2020年バハマ諸島の中央銀行が発行を開始した「サンド・ドル」についてマスターカード社は2月、サンド・ドルでチャージするプリペイド・デビットカードの発行を開始した。

決済大手VISAのCEOはインタビュー番組で、仮想通貨をのデジタル資産(ビットコインなど)とデジタル通貨(ステーブルコイン)に分類し、それぞれの取り組みを語った。

国際社会のデジタル通貨事情の進展

世界各国を見渡してもデジタル人民元(DCEP)の実証実験を重ねる中国が頭一つ抜き出ている印象だ。中国政府は南東部の深セン市や上海に隣接する蘇州市でデジタル人民元(DCEP)の実証実験を重ねており、2022年の本格的ローンチを目指している。

関連:デジタル人民元、秘匿性は部分的=中国人民銀行関係者

日本でも日銀が今春から実証実験を開始する方針を示しているが、CBDCの発行を行う計画は無い点は以前から変わらない。しかし先週日本経済新聞社と金融庁共催のフィンテックカンファレンス「FIN/SUM 2021」では日銀の黒田総裁は「今後の様々な環境変化に的確に対応できるよう、しっかり準備しておくことが重要」と述べていた。

その他主要国のCBDCに対する姿勢は以下の通りだ。(参考:ブルームバーグ)

  • インド:CBDCを必要な時に運用できるよう、準備しておく必要がある
  • ブラジル:2022年までに「デジタルリアル」の流通を予想
  • カナダ:ローンチの計画はないが、デジタル通貨に必要なインフラを開発中
  • ユーロゾーン:デジタル・ユーロのポテンシャルを調査中、早くて4月に今後の進展が決定される模様
  • ロシア:年内にデジタル通貨のパイロット版ローンチを計画
  • スウェーデン:e-kronaのパイロットを2022年に延期
  • 英国:デジタル通貨発行の意向を示すも現在は調査フェーズ
  • ベネズエラ:2018年に石油資源に裏付け「デジタル・ペトロ」をローンチ。ハイパーインフレなどで上手く機能せず

NFTやビットコインをはじめとする仮想通貨の環境への影響が懸念視され、コロナ禍の感染防止対策の一環として非接触型決済の重要性が推進される中、今後も各国のCBDCに関する取り組みは引き続き見守る必要がある。

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「仮想通貨」とは「暗号資産」のことを指します

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