米上場企業マイクロストラテジーがビットコインを大量に買い続ける理由とは?
上場企業で最大のBTC保有量
ビジネス・インテリジェンス(BI)業界の先駆者である米マイクロストラテジーは、数千の企業に対して革新的な製品を提供してきた。近年その株価を更に押し上げているのは、一見不可解に思える投資戦略だ。
同社の共同創設者であるマイケル・セイラー氏は、2020年8月に資本配分戦略の一環として2億5000万ドル相当のビットコインを購入した。この大胆な戦略は、高いリターンの可能性とインフレ対策としてのビットコインの魅力を見込んだものだった。結果として、2020年初頭に対してマイクロストラテジーの株価は約3倍に上昇している。
ビットコイン投資に対する同社の信頼は増すばかりで、2023年12月5日時点では174,530 BTC(1兆740億円)に上り、その量は上場企業として最大だ。今やマイクロストラテジーの株(MSTR)はビットコインへの代理投資手段となり、ブラックロックやバンガード・グループ、モルガン・スタンレー、フィデリティといった大手機関投資家からも注目を集めている。
本記事ではマイクロストラテジーのビットコイン投資戦略、財務状況、そしてマイケル・セイラー氏のビジョンについて詳しく探っていく。
目次
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マイクロストラテジーの概要
米国バージニア州を本拠とするマイクロストラテジーは、マサチューセッツ工科大学(MIT)出身のマイケル・セイラー氏とサンジュ・バンサル氏が1989年に設立した。
企業がビジネスデータを効率的に分析し、可視化するためのプラットフォームを提供すると順調な成長を遂げ、1998年にはアメリカのナスダック市場で株式(NASDAQ: MSTR)を公開するに至った。
ビジネス・インテリジェンス(BI)の分野で先駆者として名高いマイクロストラテジーは、エンタープライズレベルのアナリティクスソリューションとモバイルソフトウェアを提供している。これらの革新的な製品群を活用し、全世界の数千の組織がデータ駆動型の意思決定を行うためのインサイトを得ている。
BI領域では、SAP AG Business Objects、IBM Cognos、Oracle CorporationのBI Platformといったプロダクトが主な競合となっている。
近年の動向として注目すべきは、23年6月、マイクロストラテジーの製品をMicrosoft Azureで拡張し、AI機能を強化する目的でマイクロソフトと提携した。この提携により、顧客はクラウド上でデータを管理・分析する包括的なソリューションを実現し、より迅速かつ的確な意思決定を行うことができる。
上場企業としてBTCを最大保有
マイクロストラテジーが生み出す収益は主にクラウドサービスのライセンス料とサブスクリプション料から生じており、2023年の第1四半期(1-3月)の売上は約168億円(1億2,190万ドル)、前年同期比2.2%増加。売上および営業利益は、過去数年間横ばい状態となっている。
しかし、株価の面で見ると状況は異なる。2020年初頭からマイクロストラテジーの株価は約3倍に上昇しており、その主な要因は2022年8月に同社が資本配分戦略としてビットコインを購入したことにある。
以降、同社はビットコインの保有量を増やし続けており、2023年10月時点では保有量は158,245 BTCと上場企業としては最大。マイクロストラテジーの株価(MSTR)はビットコインの価格変動と共に動く傾向が強まっている。
2022年にビットコイン価格が60%下落した際、MSTRの株価も約35%下落した。しかし、2023年に入ると風向きが変わり、年始の約19,000円(約145ドル)から7月11日時点で約56,000円(約400ドル)まで急騰した。
マイクロストラテジーが初めてビットコインを購入した際のBTC価格は約11,700ドル、MSTR価格は約144ドルだった。しかし、2023年7月現在、ビットコインの価格は約30,300ドルと3倍近くに上昇し、同時にMSTR株も2.7倍に上昇している。
過去5年間におけるマイクロストラテジー(MSTR)のパフォーマンスは、S&P500を大きく上回り、メタ社やアマゾン社よりも優れた結果を示している。
マイクロストラテジーのBTC推定含み益
2020年8月以降、マイクロストラテジーはビットコインの購入に積極的で、過去3年間で25回以上の購入を重ねてきた。
その購入ペースは2023年に入っても維持され、同年4月5日には1,045BTCを追加で購入。さらに6月28日には3億4,700万ドル(500億円)に相当する12,333BTCの大量買い増しを行った。
2023年12月5日時点、MicroStrategyのビットコイン保有量は174,530 BTC(1兆740億円)、平均購入価格は30,252ドル。仮に、BTC価格が上昇し続けた場合の含み益は以下の通りだ:
- BTC価格が40,000ドルの場合、含み益は 1,699,048,060ドル(約2,500億円)
- BTC価格が80,00ドルの場合、含み益は 8,565,241,580ドル(約1.25兆円)
- BTC価格が120,000ドルの場合、含み益は15,431,435,100ドル(約2.26兆円)
含み益は、現在のビットコインの価格と平均購入価格との差を計算し、それを保有BTC量の掛け算によって算出できる。*含み益=(現在のBTC価格−平均購入価格)×保有BTC量
関連:マイクロストラテジーのビットコイン投資 7月以来の含み益に
23年10月現在のビットコインの市場価格が1BTCあたり34,000ドル(500万円)前後となっていることを考慮すると、マイクロストラテジーがこれまでに投じたビットコイン投資による未実現損益は大幅なプラスに転じている。2022年の第4四半期には約271億円(1億9,760万ドル)の減損損失を報告していた。
関連:米マイクロストラテジー、ビットコイン保有で250億円の減損計上 2022年第4四半期(10~12月)
マイクロストラテジーのBTC購入履歴
日付 | BTC購入量 | 購入金額(百万ドル) | BTC保有量 | Total Dollars(10億ドル) |
---|---|---|---|---|
8/11/20 | 21,454 | $250M | 21,454 | $0.250B |
9/14/20 | 16,796 | $175M | 38,250 | $0.425B |
12/4/20 | 2,574 | $50M | 40,824 | $0.475B |
12/21/20 | 29,646 | $650M | 70,470 | $1.125B |
1/22/21 | 314 | $10M | 70,784 | $1.135B |
2/2/21 | 295 | $10M | 71,079 | $1.145B |
2/24/21 | 19,452 | $1.026B | 90,531 | $2.171B |
3/1/21 | 328 | $15M | 90,859 | $2.186B |
3/5/21 | 205 | $10M | 91,064 | $2.196B |
3/12/21 | 262 | $15M | 91,326 | $2.211B |
4/5/21 | 253 | $15M | 91,579 | $2.226B |
5/13/21 | 271 | $15M | 91,850 | $2.241B |
5/18/21 | 229 | $10M | 92,079 | $2.251B |
6/21/21 | 13,005 | $249M | 105,085 | $2.740B |
9/13/21 | 8,957 | $419M | 114,042 | $3.159B |
11/28/21 | 7,002 | $414M | 121,044 | $3.573B |
11/29/21 – 12/8/2021 | 1,434 | $82.4M | 122,478 | $3.655B |
12/30/2021 | 1,914 | $94.2M | 124,391 | $3.750B |
1/1/2022 – 1/31/2022 | 660 | $25M | 125,051 | $3.775B |
2/15/2022 – 4/5/2022 | 4,167 | $190M | 129,218 | $3.965B |
6/28/2022 | 480 | $10M | 129,699 | $3.975B |
9/20/2022 | 301 | $6M | 130,000 | $3.981B |
11/01/2021 – 12/21/2022 | 2,395 | $42.8M | 132,395 | $4.024B |
12/22/2022 | -704 | ($11.8M) | 131,690 | $4.012B |
12/24/2022 | 810 | $13.65M | 132,500 | $4.027B |
03/27/2023 | 6,455 | $150.00M | 138,955 | $4.140B |
04/05/2023 | 1,045 | $29.30M | 140,000 | $4.170B |
04/29/2023 – 6/27/2023 | 12,333 | $347M | 152,333 | $4.517B |
07/01/2023 – 7/31/2023 | 467 | $14.4M | 152,800 | $4.53B |
09/24/2023 | 5,445 | $147.3M | 158,245 | $4.68B |
11/01/2023 | 155 | $5.3M | 158,400 | $4.69B |
11/30/2023 | 16,130 | $593.3M | 174,530 | $5.28B |
データ元:Buy Bitcoin Worldwide
BTC購入資金及び財務状況
マイクロストラテジーは、完全子会社であるマクロストラテジーを通じて直接および間接的にビットコインを購入・保有してきた。ビットコインの購入には、運転資金、借り入れ、社債の発行、そして株式市場における新規資金の調達、いわゆる「公募」が使用されている。
2023年第1四半期には、ビットコイン担保ローンの完済など、財務構造の改善に取り組んでいる。マイクロストラテジーの長期負債は23.78億ルから21.75億に減少した。
現在、マイクロストラテジーの主要な長期負債は以下の通り。
・2025年満期、金利:0.75%の転換社債:6.5億ドル(20年10月)
・2027年満期、金利:0%の転換社債:10.5億ドル(21年2月)
転換社債とは、一定の条件で株式に転換できる権利(転換オプション)が付与されている社債であり、MSTRは株式を希薄化することなく資本を調達することができ、その収益を使用してビットコイン購入に充てた。
マイケルストラテジーが抱える負債のうち転換社債は0~0.75%の低金利であり、NASDAQまたはNYSEの上場廃止にならない限り、早期の全額返済を求められる恐れがないためリスクから除外されている。
・2028年満期、年利6.125%の担保付きジャンクボンド(高利回り債):5億ドル(21年6月)
マイクロストラテジーは本融資の担保の一部として22年9月末時点に14,890BTCが預けており、その清算ラインはBTC価格約50万円(3,561ドル)。この清算ラインにはまだ余裕があり、マイクロストラテジーはビットコイン市場に対して直接的なリスクを抱えていない。
ただし、借入金の利息は年に2回発生し、マイクロストラテジーの業績に圧力をかける可能性がありる。2022年1月~9月までに、マイクロストラテジーはBTC関連の利息として約30億円(2,200万ドル)を支払っていた。同社の「現金および現金同等物」残高(2023年3月31日時点で9430万ドル)と比較してみても、小さな額ではない。
なお、2023年第1四半期に完全返済された担保付ローンは、2022年3月にシルバーゲート銀行と交わした2025年満期の担保付きローン。当時8億2,000万ドル(19,466BTC)を担保に2.05億ドルを借り入れていた。マイクロストラテジーは約1億6100万ドルを前払いして、この担保付き長期借入金を完全に返済した。
さらに、2023年第1四半期には、マイクロストラテジーが公開市場で自社の株式を売却し、純収入として約3億3900万ドルを得ました。そのうち約1億7,930万ドルがビットコインの購入に使われた。
一方、マイクロストラテジーの総資産は2023年第1四半期に30億2640万ドルとなり、前期の24億1027万ドルから増加した。この増加は主にデジタル資産の大幅な増加(18億4002万ドルから20億392万ドル)および繰延税金資産の大幅な増加(1億8815万ドルから6億5151万ドル)によるものだ。
マイケル・セイラー氏のビジョン
マイクロストラテジーの共同創設者のマイケル・セイラー氏は、ビットコイン投資戦略の主導者として知られている。セイラ―氏は2020年8月に、ビットコインがインフレ対策として他の投資より有利であり、更に高いリターンをもたらす可能性があると判断し、約2億5000万ドル相当のビットコインを資本配分戦略の一部として取得した。
セイラー氏は当時、「ビットコインへの投資は、株主価値の長期的な最大化を図るための新たな資本配分戦略の一環だ。最も広く採用されている仮想通貨であるビットコインは、現金保有よりも長期的な価値の上昇可能性があるという魅力的な投資資産であり、信頼できる価値の保存手段だ」と公言した。
そして、2022年以降ビットコイン市場が弱気相場に突入しても、マイクロストラテジーはビットコインの保有拡大戦略を継続しており、そのコミットメントは揺るがない。セイラー氏は批判を受けながらも、「当社はビットコインの保有量を増やし続け、売却するつもりはない」と明言している。
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さらに2022年8月8日、セイラー氏はマイクロストラテジーのCEOを退き、執行会長に就任した。同氏はこの決定により、マイクロストラテジーがビットコインに関連した取り組みに更に集中できると述べている。
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そして現在、セイラー氏は「規制が明確になることで、機関投資家の参入が容易になる。ビットコインを中心に業務を再構築すれば、その優位性は今後更に強化されるだろう」と強気の見解を示している。
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米国証券取引委員会(SEC)は大部分の仮想通貨(トークン)を未登録の有価証券とみなしているが、ビットコインに関しては商品として扱うことを比較的明確に示している。そして、CoinMarketCapのデータによると、ビットコインの市場支配率は、2023年2月末の43%から、7月現在では約49.9%へと上昇している。
近年、マイクロストラテジーは、ビットコインのレイヤー2スケーリングソリューション、いわゆる「ライトニングネットワーク」に関連する新しいプロダクトの開発に取り組むなど、ビットコイン採用に向けた取り組みを積極的に行っている。主な動向は以下の通り。
日付 | 内容 |
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マイクロストラテジーの機関株主
マイクロストラテジーが採用したビットコイン投資戦略により、主流の投資機関とビットコインとの間に接点が生まれている。
ビジネス・インテリジェンス(BI)業界の代表的企業であるマイクロストラテジーの主要株主の中には、当初から、運用資産総額が世界一のブラックロックや同世界第二位のバンガード・グループといった大手機関投資家が名を連ねてきた。
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2020年1月には、金融業界の大手モルガン・スタンレーがマイクロストラテジーの株式の11.9%を取得したと報じられた。さらに、2023年第一四半期には、運用資産が4.5兆ドルを超えるフィデリティの関連会社がマイクロストラテジーの株式を大量に増やしていることが明らかとなった。これにより、両社はマイクロストラテジーの機関投資家で上位10の株主に名を連ねることとなった。
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米国証券取引委員会(SEC)への四半期ごとの報告書である13F提出書類によれば、ブラックロックはマイクロストラテジーの株式の6%を保有しており、これは220億円以上に相当する。また、フィデリティは2023年第一四半期にマイクロストラテジーの株式を65万株増加させ、全株式の6.79%を保有している。
この動きは米国だけでなく、世界各地にも広がっている。カナダ第6位の銀行であるカナダ・ナショナル銀行は2023年第一四半期にマイクロストラテジーの株式を50万ドル以上購入し、持ち株を8.8%増加させた。
マイクロストラテジーの株式(MSTR株)を取得することは、ビットコインへのエクスポージャーを得るための手段として、特に米国の投資機関にとって非常に簡単な方法となっている。そのため、MSTR株が、事実上のビットコインETFとしての役割を果たしているとの見方も出ている。
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