はじめに
エンタープライズ向けのパーミッション型(許可型)ブロックチェーンとして、「Hyperledger」は多くの企業やプロジェクトに採用されています。Hyperledgerは単一のブロックチェーンではなく、複数のフレームワークやツールなどから構成されるプロジェクトです。
本記事では、Hyperledgerプロジェクトの概要と、その中でもっとも広く普及しているフレームワーク「Hyperledger Fabric」について解説していきます。
Hyperledgerプロジェクトの全体像とは?
まずは、Hyperledgerプロジェクト(以下、単にHyperledgerと表記)全体を概観していきましょう。
Hyperledgerは、2016年に発足したプロジェクトであり、非営利組織「The Linux Foundation」の協力プロジェクトのひとつとして位置付けられています。エンタープライズ向けの許可型ブロックチェーンを少ない工数で構築するためのフレームワークとツールセット、ライブラリが提供されており、260を超える組織が参画済みです。
2019年10月現在、Hyperledgerは、7種類のフレームワーク(うち1種類はサプライチェーンに特化)と4種類のライブラリ、3種類のツール、実験的なプロジェクトを立ち上げるためのラボ機能で構成されています。ただし、2019年10月現在、アクティブになっているフレームワークは、「Fabric」「Indy」「Iroha」「Sawtooth」の4種類のみです。
複数の企業や団体が協力してオープンソース・ソフトウェア(OSS)を開発するための仕組みやプロモーション、技術インフラなどを提供する非営利組織です。Hyperledger以外にも複数のOSSプロジェクトをサポートしています。
Hyperledgerは、モジュール型であり、セキュリティやインターオペラビリティ(相互運用性)を確保できるように設計されています。他の許可型ブロックチェーンと同様、ネットワーク上の仮想通貨は必須ではありません。
また、外部のアプリケーションやネットワークと通信するための様々なAPI(Application Programming Interface)が提供されています。
Hyperledgerを採用する主な利点としては、以下の点が挙げられます。
- 新規参入者が開発に関してキャッチアップするための環境(フォーラムやドキュメントなど)が整っており、プロダクト開発のスピードを加速させられる
- それぞれの分野で高い専門性を有するコミュニティメンバーとの協力(知識やノウハウの共有など)によって、生産性の向上が期待できる
- コラボレーションを優先するコミュニティであるため、車輪の再発明を回避できる
- オープンソースの理念の下、高いレベルのコード管理と継続的な改善を享受できる
- 「Apache 2.0ライセンス」および「Creative Commons Attribution 4.0 Internationalライセンス」に基づく知的財産管理を原則としているため、法的な問題がクリアされている 以上のような特徴・利点のあるため、Hyperledgerは金融や製造、サプライチェーン、IoTなど様々な分野で活用されています。
2018年10月には、エンタープライズ向けのイーサリアムを開発する「Enterprise Ethereum Alliance」(EEA)とHyperledgerの協業が発表されています。EEAは、エンタープライズ向けイーサリアムの標準化団体であり、許可型ブロックチェーン「Quorum」の開発を主導しています。
両プラットフォームの技術的互換性が進んでいくと予想され、これは利用者にとって大きなメリットになり得るでしょう。
参考:Enterprise Ethereum Alliance と Hyperledger が協力し、グローバル ブロックチェーン ビジネス エコシステムを推進
Hyperledger Fabricとは?
Hyperledger Fabricは、Hyperledgerの中でもっとも普及している代表的なフレームワークです。JavaやGo、Node.jsなどの汎用プログラミング言語によってスマートコントラクトを記述できるため、イーサリアムのように独自の言語を学ぶ必要はありません。
また、モジュール化されたアーキテクチャを備えており、ユーザーIDの発行や認証、スマートコントラクトの開発・実行などの機能が提供されています。
Hyperledger Fabricは、参加者への信頼を前提とした許可型ネットワークです。ネットワークを構成するノードの役割は、「Client」「Peer」「Orderer」に分かれており、Hyperledger Fabricにおいてトランザクションが格納されるブロックは、Orderer(Ordering Service)によって順序付けられ、一元的に作成されます。
トランザクションの承認フローの詳細は、以下のドキュメントが参考になります。
参考:Basic workflow of transaction endorsement
Hyperledger Fabricは、バージョンごとの変化が大きい点には注意が必要です。例えば、ver0.6ではビザンチン障害耐性を持つPBFT(Practical Byzantine Fault Tolerance)がコンセンサスアルゴリズムとして採用されていましたが、ver1.x系ではPBFTではなく、PeerとOrdererによる承認ポリシーに則ったバリデーション(承認)が基本となっています。なお、2019年10月1日時点ではver1.4.3が最新版です。
Hyperledger Fabricを用いたユースケースも増えており、医療データの安全な管理・共有システムの構築や、食料品サプライチェーンのトレーサビリティ向上などに役立てられています。
Hyperledger Fabricに対応しているBaaS
2019年10月現在、Hyperledger Fabricに対応したBaaS(Blockchain as a Service)を提供している主な企業は以下の通りです。
- IBM Blockchain Platform
- Amazon Web Services(AWS)
- Microsoft Azure
- Oracle Blockchain Cloud Service
- Accenture
- Alibaba Cloud
- HUAWEI
- Samsung SDS
上記リストを見ても分かる通り、主要なクラウドサービスプロバイダはHyperledger Fabricに対応しています。
Hyperledger Fabricは開発初期からIBMが主導的に関わっています。このような背景もあり、同社が提供するBaaS「IBM Blockchain Platform」では、Hyperledger Fabricをベースとした上で、プロトタイプの作成やテスト、迅速なアプリケーション開発をサポートするツールセット「Hyperledger Composer」を統合した開発ツールが提供されています。
さらに、開発に必要なスキルを習得するためのコンテンツやサービスが整備されているので、開発者の方はまず「開発者向けツール」を見ながら操作してみると良いかもしれません。
まとめ:オープンソースで事例も多いHyperledger Fabric
Hyperledgerおよび、Hyperledger Fabricは実績のあるオープンソース・ソフトウェアであり、ブロックチェーンプラットフォームです。特にHyperledger Fabricは多くの実証実験やプロダクトに採用されており、広く使われている分、事例やノウハウが多く蓄積されていきます。
さらに、Hyperledgerは、The Linux Foundationがサポートし、Enterprise Ethereum Allianceとの協業も行われているため、将来的な改善や他のプラットフォームとの互換性が期待できる点は大きなメリットだと言えるでしょう。
もちろん、実際に自社で利用する際には、CordaやQuorumなど他のプラットフォームとの性能比較を行い、目的に応じて選択する必要があります。
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